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四章 異世界旅行編 2 トカ国

356 どこぞの国宝ですか? 

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 オーバーコートに付与した効果を説明するため、カズは寝室に移動したレラとビワを呼んだ。

「試したら表と裏で別々に付与出来たんだ」

 カズは三人のオーバーコートに付与し終えると《鑑定》した結果を話す。


 【オーバーコート・リバーシブル(各専用)】『特級・限定品』

 『表面』
 ・ 任意で冷暖房が使用可能。
 ・ 各種耐性弱(洗脳・毒・麻痺)
 ・ 魔力の記録

 『裏面』
 ・ 《隠蔽》『2』
 ・ 《隠密》
 ・ 《肉体強化》
 ・ 《暗視》


「何にしようか迷って付与したのがこれ。ちなみに、表に付与した効果は裏返して着ても使用可能になってる」

 オーバーコートに付与された数に、アレナリアは驚き開いた口が塞がらない。

「な……」

「これだけじゃ足りなかった? やっぱもしもの時の為に、三人にあった攻撃用の魔法とか、守りを強化するようにバリア・フィールドとか付与した方がよかった? それとも姿を変えるメタモルフォーゼの方が……? でもそれだと魔力の消費が……いや、その前にそれらの効果が付与出来るか分から…」

「ちょ、ちょぉーーっと待って!」

「どうしたアレナリア? 急に大きな声だして」

「どうしたのって? 何よその付与した数は?」

「任せろと自分から言っておきながら、二つや三つ程度の付与じゃ少ないかと思ってさ(俺もここまで出来るとは思わなかったけど)」

「いやいや多いから。それどこの国宝よ!」

「さすがにそこまではいかないよ。特級って出たから」

「どう考えたって、高い位のある人物が持ってるような代物じゃないの!」

 アレナリアは大声で否定する。

「鑑定したんだから本当だって。特級なら貴族が持ってるくらいでしょ」

「確かに特級なら、Aランクの冒険者や貴族が持っててもおかしくないけど……本当に特級なの?」

「本当だって」

「本当に本当?」

「本当に本当だってば(限定品とかついてるけど)」

「……分かった」

 口では言うが、信じられないという目でカズを見るアレナリア。

「ちょっと気合い入れ過ぎたか。ダメなら減らそうか?」

「せっかく付与してくれたんだから、そのままでいいわよ。カズが私達のことを考えて付与してくれたんでしょ」

「ん、まあ(そう言われると照れるな)」

「じゃあ使い方と効果を説明して」

「ああ、そうだな」

 カズはオーバーコートに付与した効果の説明を始めた。

 先ずは表面の効果ね。
 冷暖房はそのままの効果、魔力を流すとコートの内側が暖かくなるか涼しくなる。
 ただし一度に多くの魔力を使うと、冷え冷えか熱々になるので注意。

 〈プロテクション〉各種耐性は毒と麻痺、それと洗脳に対しての耐性。
 耐性の種類を増やしたから、弱の効果しか付与出来なかった。
 洗脳はオリーブ王国での一件があったから、優先的に選んでみたんだ。
 着てれば常時発動してるから魔力は消費するけど、三人が既に付けてる装飾アイテムには、少しだけど魔力が回復する効果があるから大丈夫。

 魔力の記録はアイテムポケットを付与した手提げ袋と同じ、記録した人しか使えないようにする使用者制限。
 これでもし盗られても、他の人にはただのオーバーコートだから。

 さっきも言ったけど、表面に付与したけど、裏返して着ても同様だから。

 続いて裏面だけど、黒いのは夜用で何かあった時に使用するためだってビワから聞いたから、それに使えそうなスキルを選んで付与してみた。
 《肉体強化》は分かるだろうから、説明は省くよ。

 《隠密》は認識阻害みたいなものと思ってくれればいいかな。
 自身が発する音も減少させるから、暗い場所なら気付かれることは少ないはずだ。

 《隠蔽》は気配や魔力にステータス情報などを隠せる効果。
 『2』ってのは5段階で下から二番目だからそれほではないけど《隠密》も付与してあるから、ギルドで使ってた認識阻害より効果は良いはずだ。
 ただし絶対ではないから、油断しないように。
 ギルドマスタークラスには効果が薄いと思ってほしい。
 そんなのとは、敵対したくないけどね。

 あとは《暗視》だけど、これは真っ暗でも、昼間と同じように見えるスキル。
 三人がどの程度見れるか分からないから、夜になったら部屋を真っ暗にして実際に試してみてよ。 

「うんうん、よぉ~く分かったわ。今度私達が使う物に付与する時は、必ず同席するわね(やっぱり国宝級の代物じゃないの)」

「なんで? 見てても特に面白いものでもないよ」

「誰かに鑑定されたらどうするのよ。強欲な貴族とかに知られたら、絶対狙われるわ」

「そうか……表面にも《隠蔽》の効果が出るように、調整してみるか」

「そうじゃなくて! 私やカズならまだいいのよ。冒険者としてもBランクなんだから。レラとビワが特級のアイテムなんて持ってたら。分かるでしょ」

「そうだけど、狙われる時は珍しいアイテムを持ってなくても狙われるよ。だからそういう連中から守れるようにしたくて、これだけ付与したんだけど」

「その気持ちは分かるわよ」

「だからこれからも、必ず俺かアレナリアの二人がどちらかには付いてるようにするつもりでいる。それでも危険な事はあるだろうから」

「そうね。そうなんだけど……ああぁぁもういいわよ。これはありがたく使わせてもらうわ」

 これ以上話しても、更に強力な効果を付与されかねないと思い、アレナリアは三人のオーバーコートを受け取り、レラとビワに渡した。

「あの……なんかごめん(おかしいのは分かってる。でもここに来て帝国の守護者なんて称号持ちのグリズさんと知り合ったり、そのグリズさんと知り合いだというレオラなんて、厄介事を持って来そうじゃないか。口に出して言うと、本当になりそうだから言わないけど)」

「私達のためにしてくれたんだから謝らないで。逆にお礼を言わないとね。ありがとう」

「ど、どういたしまして」

 アレナリアの言葉を聞いて、カズはほっとした。

「明日は朝からギルドに行くんでしょ?」

「別に昼過ぎでもいいかな」

「船の日程をギルドで聞けなかったら、他で聞くしかないんだから、早く行った方がいいわよ。私とレラはまだ疲れが残ってるから、ビワと三人でのんびりさせてもらうわ」

「それはいいけど、疲れたからってビワにあれこれやらせるなよ」

「レラじゃないんだから」

「なんだって!」

「私なら大丈夫です。働いてないの、私だけなんですから」

「ビワはこう言ってくれてるけど、ほどほどにな」

「ええ。だから今夜もこっちの寝室は、私達が使うわね。カズはもう一つの方を使って」

「そうさせてもらう」

 相当疲れていてのか、夕食を済ませたアレナリアとレラは、すぐに寝室のベッドに移動して、ぐうすかと寝てしまった。

 アレナリアがこんなこと言うなんて、今回の一件で俺の今までの苦労を分かってくれたか?

 カズの考えは当たらずも遠からずだった。
 ここ数日、高級な宿屋でヒューケラの相手をしていたアレナリアとレラは、自分達がどれだけカズに甘えて、どれだけ苦労させていたかを身に染みた。
 と同時に、ヒューケラ子供の相手をしたんだから、今まで以上カズに甘えてやろうとレラは思っていた。
 アレナリアも若干そういう気持ちはあったが、そこは大人として耐えていた。


 ◇◆◇◆◇


 護衛依頼が終わりアレナリア達と別れた翌日のこと、トンネルで助けてくれた運搬業者にお礼を言うため向かったのは、港近くにある倉庫の一つ。
 怪我が治ったとはいえ、万全ではない父親を心配するヒューケラは、一緒に付いてきていた。

 馬車が倉庫の前で停まり、コーラルとヒューケラは馬車から降り、倉庫で働く人達を見る。

「……あ」

 そこで記憶の片隅に残っていた人物を見つけヒューケラは血の気が引き、とっさに馬車の陰に隠れた。
 それもそのはず、そこに居たのはトンネル中間の休憩場所でヒューケラが怒らせ、レオラとカズにのされた内の一人だった。

「どうしよう(まずいマズイ不味いわ。あの人に顔を見られたら、まさかお父様を助けてくれた人達と同じ運搬業者だったなんて。せめてお父様を助けてくれたは、他の人でありますように)」

 ヒューケラは必死に考えを巡らせ、違う人であることを祈った。

「そんな所でどうしたんだい?」

「な、なんでもないです。お父様」

「ほら、あそこに居る男の人のお陰で、馬車を走らせることができたんだよ」

 コーラルが指す先の人物は、まさにヒューケラがあの時怒らせた男衆をまとめていた男性。
 ヒューケラにとっては、知りたくなかった最悪の報告になった。

「お待たせしました。現在代表者の方は出掛けており留守のようでした。それであちら方が対応してくれると」

「ふむ。それはちょうどいい。ではお礼を言いに」

「旦那様がそう仰ると思い、先に挨拶をしてきました。あちらの事務所にどうぞとのことです」

「それはご苦労。行こうかヒューケラ」

「は、はい。お父様……」

 使用人の言葉を聞き、ヒューケラはもう誤魔化せないと諦め、事務所に行く前に自分がしたことを包み隠さず父親に話した。
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