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四章 異世界旅行編 2 トカ国

355 このまま……

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 もうアレナリアと一緒に居れなくなると思い、ヒューケラは動揺を隠せなかった。

「待ってほしい。護衛だが、この先も頼めないだろか?」

 ヒューケラの動揺ぷりを見て、父親のコーラルが護衛依頼の延長を申し出た。

「皆さんは方は帝国本土に向かっていると、ヒューケラから聞いたのですが」

「その予定です」

「でしたら方向は同じ。護衛をしつつ、もう少し娘と一緒に居てくれないだろうか?」

「わたくしからもお願いします」

 アレナリアは少し考え、その返事をカズに任せた。
 元はカズが受けてきた依頼なのだから、と。

「冒険者ギルドからの正式な依頼であれば受けても構いません」

 カズの返答を聞き、なんで断らないの!? と、レラは目で訴えていた。
 この数日で相当疲れたと見える。
 目は口ほどにものを言うとは、まさにこれだろう。

「ならば…」

「その前に肝心なことを一つ言っておきます」

 コーラルの言葉を遮りカズは話を続ける。

「なんです?」

「パーティーランク低い我々では、本来護衛の依頼を受けることは出来ません。今回は指名された事もありますが、知り合いの顔を立てる意味もあり受けました」

「では無理ということかね? なんならギルドを通さず個人的に雇うのはどうだろう? 報酬なら十二分に用意するが」

「我々にも旅の目的はあります。それに贅沢をするわけではないので、お金には困ってません。今まで通り、旅をしながら依頼を受けて稼げば十分ですから」

 遠回しに断ると言っているカズの言葉を聞いて、ヒューケラの目尻は赤くなり、うっすらと涙が……。

「カズ、私からいい?」

 涙目になるヒューケラを見て、アレナリアがカズの許可を得て話し出す。

「とりあえず護衛の依頼はここで終了になりますので、依頼書にサインを」

 カズから依頼書を預かり、コーラルに渡すアレナリア。

「……わかった」

 使用人にペンを持って来るように言い、コーラルは受け取った依頼書にサインをしてアレナリアに渡し返す。

「今までヒューケラのことを…」

「もし本当に私達の護衛を望むのなら、冒険者ギルドに指名依頼を出してみたらいいでしょう。通るかどうかは分かりませんが」

「そうだな。一応出してみよう。それで駄目なら諦めなさいヒューケラ」

「……はい…お父様」

「私達はこれからギルドに、依頼完了の報告に向かうわ。そちらは誰か行きますか? 伸びた護衛依頼の報告と、追加料金の支払いをしないでこのまま黙ってると、次から依頼を受理してもらいずらくなるわよ」

「それもそうだ。では…」

「お父様はまだ安静にして」

 ベッドから出ようとするコーラルを止めるヒューケラ。

「ヒューケラの言うように、貴方は怪我人なんだから、まだおとなしくしてた方がいい。このくらいなら使用人で事足りるでしょ」

「そうだな。そうしよう」

「なら準備させて。一緒に行くから」

 コーラルは新たな護衛の指名依頼の内容を書いた手紙と、これまでの護衛に支払う追加の料金を使用人に持たせ、カズ達と冒険者ギルドに向かわせた。

 ギルドで依頼完了の報告をして依頼書を渡し、予定より長くなった分の報酬をカズは受け取ったが、いつもより時間が掛かってしまった。
 原因はトンネル内で運搬業者を装った偽物を捕らえるのに、アコヤ街からの依頼でバタバタしていたからだった。
 当然ホタテ街の冒険者ギルドでも、同じようにバタバタとしている。
 現在トンネルの通行は制限され、両側の出入口での調べは厳しくされていると。
 トンネル中央の休憩場所に作られた、山脈の上に出る昇降機も止められているとのことだ。
 そのためコーラルからの護衛依頼は、手続きの関係上翌日に回されてしまった。

 ギルドを出たカズ達は、使用人を高級宿屋の前まで送り届けると、借りてもらった宿屋へと戻った。
 街に滞在する間は引き続き宿屋を使ってくれて構わないと、コーラルからの言われていたので、それに甘えることにした。
 カズは護衛依頼も終えたので断ろうとしたが、せめてそのくらいはさせてほしいと頭を下げられては、さすがに断れない。
 湖を渡る船の手配と、一応指名依頼の件があったので、もう少しアコヤこの街に滞在することにした。

 夕食を終えてあったかい麦茶を飲み、のんびりとくつろぎ話をする。
 この街に来てからヒューケラに優しく接するようになったのに、別れ際はキツく言っていたことをアレナリアに聞いた。

「同情……だったのかも知れないわ」

「何が、だったのかもよ。最初はあれだけ嫌そうだったのに、ヒューケラの母親が死んだって聞かされてから、随分と優しくなってたじゃない」

「そういうレラだって嫌な顔しつつも、ずっと相手をしてあげてたじゃない。一緒にお風呂まで入って」

「ど、どうせ高級な宿に居るんだから、その分を働いてやろうかなって、あちしは思っただけだもん」

レラが働く?」

 それを聞いたカズが、横から疑問を投げ掛ける。

カズそこうるさいわよ! あちしだってやる時はやるんだから」

「へぇーそうなんだ(この一連の流れ俺も言われた事あるなぁ。言ってる方は、こんな軽い気持ちなのか? レラに謝ったほ…)」

「そうよ! このぐーたらの美少女フェアリーのあちしが、わがままな子供の相手をしたんだから!」

 すねたかと思いレラを見ると、ふんぞり反って自分はがんばったんだからと威張る。

「自分で言うかよ(レラだって、わがままなのは負けてないだろ)」

「言う! あちしを誉めてもっと優しくして!」

「うわ! 久々にめんど(謝ろうなんて、思うんじゃなかった)」

「うるさいわよレラ。ちょっとカズと話すから向こう行ってて」

「はいはい、分かりましたよ~だ。あっちの部屋行こうビワ」

 すねるレラはビワと寝室に移動し、アレナリアはカズに向き直る。

「ずっと聞きたかったんだけど、トンネルで乗せた女の人誰だったの?」

「分からない」

「分からない? カズのことだから、分析で調べたのかと思ったわ」

「なんか隙がなくて。別れる前に少し話したら、俺の視線に気付いていた」

「気付かれてたなら、正面から調べてやればいいのに」

「俺もそうしようかと思ったら、次に会った時にしてくれって。その時は許可を取る必要ないからって」

「そう言われて、本当に調べなかったの?」

「ああ。次会うか分からないし。それにあまり良い予感はしなかったから、できれば会いたくないね」

「これはばったり会うなんてもんじゃないわね。向こうから見つけて寄ってくるわよ」

「やなフラグ立てるなよ(いや、立てたのは俺か)」

「フラッグ? そんなの立ててないわよ」

「なんでもない。気にしなくていいから。あ! そういえば、グリズさんのこと知ってるみたいだった」

「守護者なんて称号あるんだから、帝国では有名なんでしょ。でも、気を付けた方がいいわね」

「そうだな。それより、この先のことを考えないと。船に乗らないと帝国に行けないんだろ」

「湖を迂回すれば行けると思うけど、相当時間が掛かるわね。道も知らないし、船に乗って対岸まで行った方が迷わなくて安心でしょうね」

「馬車は乗せられるのかな? 運搬用の船は大丈夫みたいだけど」

「どうかしら? 明日ギルドで聞いてきたら。護衛依頼のこともあるんだから」

「そうするよ」

「ヒューケラには悪いけど、護衛依頼の話は無しになるでしょうね」

「残念か? 最後に伸びた依頼の助言をしてたけど、あれを言わなければ確実に護衛依頼は無くなってたと思うぞ。延長しても、すぐに報告をしなかったんだから」

「知ってて黙ってるのは、かわいそうでしょ。ただでさえ不幸続きなんだから」

「そだな。それにパーティーランクが低いわけだから、たぶん指名依頼だって来やしないだろ」

「ええ。たぶんね」

 可能性は低いが、あり得ない話じゃないとアレナリアは思っていた。

「そうそう、ビワにオーバーコート出してもらって、幾つか付与しといたから」

「どんな? ギルドで使ってたマントみたいな認識阻害は?」

「それは三人が揃ったら説明するから、レラとビワを呼んでくるよ」
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