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四章 異世界旅行編 2 トカ国

353 同行者との別れ

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 ビワは静かに動き、寝ているレオラの横にある手提げ袋(アイテムポケットが付与された)から、自分のオーバーコートを取り出し着る。
 カズは『特色な風』のトレカを使用し、アーティファクトの書に表記された魔法の効果を一つ、ビワのオーバーコートに付与した。

「魔力をそのコートに流すと、暖かくなるはずだからやってみて。あ、少しだけね」

「魔力をですか?」

 ビワが少しだけ魔力を流しすと、オーバーコートの内側が少し暖かくなる。

「ポカポカしてきました!」

「あまり多く魔力を流すと、暑くなるかもしれないから気を付けて(うまくいったみたいだ)」

 カズとビワの話し声で、レオラは浅い眠りから目を覚ます。

「アタシが寝た後も、仲ようやってるみたいだな」

 目を覚ましたレオラは、カズとビワの話しに割り込んだ。

「起きられたんですか」

「仮眠させてもらったぜ」

「それはよかったです」

「ところでだ。今、そのコートに何かしなかったか?」

「何か…とは? (付与したのに気付かれたか!?)」

「……いや、なんでもない。寝ぼけてたみたいだ」

 日暮れで混み合う道をゆっくりと進み、馬車の手綱を持ち操作するカズの後ろ姿を黙って見るレオラ。
 カズは背中に視線を感じ、レオラに顔を向けた。
 胡座あぐらをかき、右の肘を膝に乗せ、あごをその手の平に上に、そしてじっとカズの見る。
 ゆっくりと振り向いたカズと目が合い、レオラは口角を大きく上げて白い歯を見せ、にかりと笑う。
 寒気を感じたカズは、軽く微笑み正面を向き直した。
 レオラのことを調べようと、何度か分析を試みようとしたが、男衆と戦ってる時も、ビワの枕と毛布を使い横になってる時も、視線に気付いてるようで調べることが出来なかった。

 それからも背中に視線を感じたまま馬車は進む。
 一行の馬車が停まったのは港近くの大きな宿屋。
 ジョキーは少し前に港にある倉庫に、運んできた荷物を預けに向かった。
 馬車から降りたヒューケラは、アレナリアと共に宿屋へと入った。
 少しして二人が宿屋から出て来る。

「お姉さまとレラさんは、お父様が来るまで私しと同じ部屋で過ごしてもらいますわ」

「休憩場所からここまで来る間話を聞いたら、どうやら護衛はここで終わりじゃないらしいのよ」

「ここまでじゃない?」

「ええ。少なくともヒューケラの父親、依頼主が仕事を終えて来るまで、ってことみたい。たぶんギルドに話は通ってないわ。二日後に運搬用の船が出るみたいなんだけど、ジョキーはそれで荷物と一緒に出発するんだって」

「つまり俺達が引き続き護衛をしなければならないと」

「そういうこと。面倒な依頼よね。やっぱり断ればよかったかも知れないわ」

「そんなこと言わないでください、私しを見捨てるんですか?」

「しないわよ。受けたんだから、ちゃんと護衛するって馬車の中で話したでしょ」

「嬉しいです!」

 笑顔でアレナリアの腕に抱き付くヒューケラ。
 毎回のことなのでアレナリアはもう慣れた様子、ただ精神的に疲れているのは見て取れる。
 カズ達が泊まる宿屋は、ヒューケラの計らい? で、確保したとのことだった。
 そこは今居る高級宿屋の系列店で、歩いて十分程の所だと。
 ヒューケラが毎回泊まる高級宿屋とは違う、一般庶民向けの宿屋とのことだ。
 ついでだからと、レオラの分も部屋を取ったとのことだった。
 街に出歩く際はカズも護衛をするので、呼び出しがあったらすぐに来るようにだと。
 アレナリアがどう話したかは知らないが、最初に比べてヒューケラがカズに対する物腰は少し柔らかくなっていた。
 引き続きヒューケラの護衛はアレナリアとおまけのレラに任せ、カズは教えられた宿屋に向い馬車を進ませる。
 もちろん緊急時には念話で知らせるようアレナリアに言ってある。

 カズ達が泊まる宿屋は一般庶民向けと聞いていたが、どう待ても高そうな宿屋だった。
 確かに先程の高級宿屋から見れば、一般庶民が泊まれなくもないだろうが、一泊金貨二枚(20,000GL)は高い。
 宿代は依頼主が払うからいいものの、豪商の感覚はどうなってるのやらと、カズは思っていた。
 部屋はカズとビワで一部屋、レオラで一部屋取ってあった。
 中を見てビワと二人っきり同室で困るということはなかった。
 泊まるのは四人部屋のため、寝室が二ヶ所あった。
 一部屋一部屋も広く、二人では持て余してしまう。
 食事は宿屋の従業員に頼めば用意してくれるとのことだったが、部屋に備え付けのキッチンでビワが作り、カズはビワと二人で夕食を済ませてこの日は早目に就寝した。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝レオラがカズ達の部屋にやって来た。
 昨日とは違い、薄汚れていた衣服もきれいになり、ぼさぼさだった赤い髪も後ろで一つに纏められていた。

「おはようさん」

「おはようレオラさん。朝からどうしました?」

「いや、ちょっと話をとな」

「はあ。まあ、どうぞ」

 レオラを部屋に入れるカズ。

「朝飯は食ったのか?」

「これからですが」

「ならアタシもいいか?」

「ええ。今、ビワが作ってくれているので」

「仲睦まじいねぇ。昨夜はやったのか」

「やってないです。そんなことを聞きに来たですか? (すぐそっち系の話をするんだから。自分が欲求不満なんじゃないか?)」

「ちょっとした挨拶だ。話は飯の後にしよう」

 レオラの話も気になったが、とりあえずは朝食を取ることにした。
 食後気を利かせたビワは、一人寝室に移動した。
 ビワが淹れた麦茶を飲みながら、カズはレオラが話し出すのを待った。

「タマゴサンドだったか、中々旨かったぞ。アタシは肉の方がもっと良かったがな」

「それで話とはなんですか? 呼び出しがあれば、護衛に向かわなくてはならないので、手短に」

「なら単刀直入に聞く。パーティー名だが」

「パーティー名が何か?」

 昨日宿屋に着いたとき「〝ユウヒの片腕〟のお二人ですか」と宿屋の人に聞かれ、レオラはそれでカズ達のパーティー名を知った。

「ん~……グリズっておっさんか?」

「そうですが、知り合いですか?」

「ちょっとな。そうか……」

「?」

 レオラの反応が気になるカズ。

「……でだ、目的は帝国本土か?」

「一応は(グリズさんの知り合いの冒険者か? 腕も立ちそうだけど。やっぱりステータスを調べた方が)」

「そうか、邪魔したな。ここまで乗せてもらってありがとよ。明日にはアタシもここを立つつもりだ。次に会った時には、今回の礼はさせてもらう」

「別にいいですよ。大したことしてないので」

「ほう、アタシの礼を断るのか。二度と会いたくないということだな!」

「そうは言ってないです」

「なら礼は受け取れよ」

「重たいものでなければ……」

「そうか。重い物は運ぶに大変だからな。よしわかった」

「そうじゃ……」

「ん?」

「いえ、その時はありがたくいただきます。レオラさん」

「さん、はよせ。レオラでいいレオラで」

「そうですか。分かりました(女性でこういう人は珍しい。今までは男ばかりだったからな)」

「その話し方もだ。でないと、次に会ったときに一発入れるぞ」

 レオラは左の拳をカズの目の前に突き出す。

「分かり…分かったから、会ったそうそう殴らないでくれ」

「アタシの言ったことを忘れてなければな」

「お、覚えておくよ(忘れてそう)」

「アタシはそろそろ行くとする。用事があるもんでよ。朝から旨い飯にありつけて満足だ」

「そう言ってもらえれば、ビワも喜ぶ(次に会う前に、やっぱり調べておくか。今なら気付かれても怒りはしないだろ)」

「なんだまたか? ここまで来る道中、何度かその視線を感じたが、まさかアタシに惚れたか?」

「は?」

「ビワみたいな物静かな女が好みかと思ったが、アタシのようながさつな女もいけるか」

「いや、それはない(何を言い出すんだ!)」

「こいつ、即答しやがった。ならアタシの情報でも見ようとしてたか?」

「ぅ……」

「図星みたいだな。まあ、警戒するのは当然だ。それでアタシの情報を見ることは出来たか?」

「まだ何もしてない。ってか、こっそり見ようと思ったが、気付かれてるような気がしたから出来なかった」

「見れるなら見て構わんぞ。カズのスキルでどこまで情報を引き出せるしらんが」

「本人の許可が出たなら遠慮な…」

「ただし、今はダメだ。見たければ次に会った時だ」

「なんで?」

「その視線をアタシに気付かれないように出来てるかを知るためだ」

「試すのか。分かった。次に会った時は、許可を求めないからな(いい予感はしないから、できることなら出会いたくはないな)」

「当然。次に会う時が楽しみだ」

 レオラは大きく口を開いて笑みを浮かべると、軽い足取りで部屋を出ていった。
 これ以降この街でレオラを見ることはなかった。
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