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四章 異世界旅行編 2 トカ国

339 キ町での最後の依頼

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「今になって……」

「大丈夫ですか?」

 冷や汗をかき目を覚ましたカズを心配するビワ。

「ビワ……?」

 荒れた息を整えて、カズは自分に毛布が掛かっているのに気付いた。

「ビワが掛けてくれたの?」

「あ…はい。汗をかいてるようですが、暑かったですか?」

「いや、毛布ありがとう(嫌な夢を見た。アレナリアにあんな話をしたからか……)」

「今朝は、夕食の余りですけど」

「俺はそれで構わないよ」

「カズさんが買い物に使うようにと、渡してくれたこの手提げ袋とても便利ですね」

「俺が使ってるスキル、アイテムボックスと同じ様な効果だから。使用制限もしてあるから、俺達四人以外が使おうとしても、ただの袋にしかならないからね」

「前に買った食材も傷まないので、気にせずお買い物ができます」

「買う量と使い方には気を付けて。何処で誰が見てるか分からないから」

「はい。たくさん買う時は、アレナリアさんと一緒の時にしてます」

「それはそれで、ちょっと不安だ」

「え?」

「一応買い物する時は、ビワが財布の紐を握っててよ。アレナリアとレラの欲しがる物を何でも買っちゃ駄目だから(昨日買った麦シュワの量を見たら……二樽は買い過ぎ。一斗缶二つ分36リットルはあったぞ)」

「か…がんばります」

「お酒が駄目ってわけじゃないけど……これからはもう少し夕食にお酒を出した方がいいのかなぁ? 我慢させ過ぎだと思う?」

「少しくらいはいいかと。守ってもらってる私が言うのもなんですが」

「そうか……そうしようかな。その時はビワも飲んでいいんだからね」

「私は…あんまり。お酒…強くないので」

「そう。まあ気が向いたら寝酒程度でも、さ」

「はい」

「そうだ。ビワの毛布俺の寝汗で湿っちゃったから、クリーンで」

「あ…大丈夫です。日が高くなったら、干しておくので」

「でもクリーンした方が早く…」

「皆の分も一緒に干しますから!」

「そ、そう(メイドとしての仕事をしてないから、身の回りのことは自分でやりたいのかな?)」

「はい(魔法を使われたらカズさんの匂いが……ってやだ、私ったら。レラに知られたら、変態さんて言われちゃう。でもカズさんの匂いって落ち着く……ってだから何考えてるのよ!)」

 アレナリアとレラを見てきたことにより、二人の思考に似てきてしまったビワは、赤くした顔を左右に振り、変な考えを振り払おうとする。

「どしたの?」

「い…いえ、なんでも……」

 隣の部屋でバタバタと音がし、目を覚ましたアレナリアが寝室を飛び出してきた。
 ついさっき(アレナリアにとっては)までカズと話していたはずなのに、気が付いたら一人で寝ていたと起きてきた。
 口の周りと襟元には、ハッキリと分かるよだれの後が見てとれた。
 ビワが涎のことをアレナリアに教えると、恥ずかしそうにレラが寝る寝室に着替えに入った。
 バタンと大きな扉の閉まる音でレラが目を覚まし、起こされたことを怒り二人は喧嘩になっていた。

「朝っぱらから……ちょっと注意してくる(騒がしいって、宿を追い出されたらどうするんだ)」

 朝から騒がしくする二人を注意をするためカズが部屋に入ると、着替えようとしたアレナリアと、なぜかレラまでが半裸になっていた。

「少しうるさ……あ、ごめ…」

「「キャー」」

 いつもなら自分から見せようとする二人なのに、急な状況で女性本来としての面が出たのか、キャーと叫けび持っていた服を投げてきた。
 カズを扉を閉めて部屋をすぐに出た。

「どゆこと?」

「恥ずかしかったんだと思いますよ」

「え!? 二人が?」

「急に見られたら、好きな人でも恥ずかしいです(私だったら恥ずかし過ぎて、声を出せないかも)」

「そ、そう。声を掛けずに入った俺が悪いか(二人の恥じらい……なんか新鮮だったな)」

「何を考えてるんですか?」

「えッ、い、いやなんにも。反省してただけだよ(珍しく恥ずかしがった顔見たら、少しかわいいと思ってしまった。本人には言えんな)」

「二人が投げた服はお洗濯しておきます」

 カズに投げつけられた服をビワに渡した。

「あ、はい」

 朝から一悶着起きたが、何事もないように振る舞いながら朝食を済ませ、この日もカズはギルドの溜まった依頼に奮闘する。
 昨夜の見た夢と、自分の考えを払拭するかのように。
 アレナリアはレラにせがまれ、イリュージョンを掛けてもらい、ビワと三人で町をぶらつく。
 ギルド職員のトリンタと親しくなり、ちょくちょく顔を出したりと穏やかな毎日を過ごしていた。
 ギルドの溜まってる依頼をこなすこと六日、いつものように受付のトリンタから追加の依頼書を受け取ろうと、昼頃ギルドに戻った。

「お疲れ様です」

「これは終わった依頼書です。残り三件で終わるので、他の依頼があれば回ってきますが」

 トリンタは少し悩んだ様子で、一枚の依頼書を出した。

「……一件だけ採取の依頼が……。町の外なんですが、大丈夫でしょうか……?」

「遠いですか?」

「歩いて一時間くらいの…場所なんですが……」

 やけに歯切れの悪い話し方をするトリンタ。

「その程度なら大丈夫です」

「そうですか! ありがとうござい…ます。これで町に居る冒険者の方々だけで、回せるくらいにはなりま……す」

「そうですか。じゃあ残りの依頼を終わらせてきます(これで町に滞在する理由もなくなる。明日からは、また馬車で寝泊まりだ)」

「あ、あの……カズさん……」

 トリンタは申し訳なさうに、ギルドを出ようとするカズを呼び止めた。

「はい? 何か忘れたことでも?」

「いえ、その……もし可能でしたら、ギルド長のお手伝いを……と」

「グリズさんの?」

「……はい。実は昨夜遅くに冒険者の方が慌てて町の外から戻って来たんですが、その方の話では、南西にある廃村にモンスターが住み着いていたのを発見したと。危険度が分からないので、ギルド長が今朝早く調査に向かったんです」

「一人でですか?」

 こくりとトリンタは頷いた。

「町に居る冒険者に行かせるのは、実力的に危険だからと。ギルド長なら大丈夫と思うんですが、心配なのでBランクのカズさんにお願いしようかと」

「サブマスのダッチさんはなんと?」

「副長はまだギルドに来てません。午前中は外で用事あり、それを済ませてからギルドに来ると昨日言っていたので」

「……まあ、いいですよ。今渡された依頼以外は、すぐに終わりそうなものですから。それでグリズさんの行った廃村とは、どこですか?」

 トリンタはキ町周辺の地図を見せて、町から廃村までの道を指でなぞって教えた。
 出来の良い地図ではないが、目的の廃村までの道を教えるのには、事欠かないくらいではあった。

「この辺りは……採取依頼の場所と同じ方面ですね」

「すみません!」

 トリンタは急に頭を下げて謝る。

「え?」

 突然の謝罪で、カズはあっけに取られた。

「実は、ギルド長からカズさんに渡すよう言われた依頼書に、この採取依頼は入ってなかったんです」

「どういうことですか?」

「お昼になってもギルド長が戻らないので、カズさんに行ってもらおうと。わたしの判断で勝手に……」

「だから依頼書を出す時に、少し躊躇ってたんですか」

「気付いてたんですか!」

「ええまあ」

 トリンタはカズに謝罪と、採取の依頼書を渡した理由を話した。
 グリズが向かった廃村の近くの依頼をカズに行ってもらえば、廃村に住み着くモンスターか、調査に向かったグリズに会うかも知れない。
 そう思ったトリンタだったが、騙して行かせることになるのが心苦しく、黙っていることができなかったと。
 正直に話したことに敬意を評しトリンタの謝罪を受け入れ、グリズと廃村の様子を見に行くことを改めてカズは承諾した。
 残りの依頼を早々と終わらせ、カズは町を出て南西へ向かった。

 キ町周辺はカズが初日の依頼で雑草を刈った事もあり、移動に問題なかった。
 廃村がある南西には、人の行き来がなくなっていたため、道は荒れて向かうのが大変だと思われた。
 が、意外にも二、三人が通れる程の道があった。
 そこは雑草は生えていたが、長くても膝下くらいの高さ、歩くのに支障はないほどだった。
 見る限りでは、少し前まで誰かが通っていたものだと分かる。
 そこには誰かが通った真新しい痕跡があった。
 カズはグリズのものだと思い、マップで確認をしながら、その真新しい痕跡をたどり走って廃村へと向かった。

 遠くに廃村らしき場所が見えてきた。
 その外にちらほらとモンスターの反応が、カズの近くにも反応があり確認をすると、ぷるぷるとしたスライムだった。

「スライムだ……今思えば、たまたま出現ポップしたレアスライムを踏んづけて倒した事で、レベルが上がって今の俺があるんだよなぁ(害もないみたいだから、スライムは構わないようにしよう)」

 カズはマップを拡大して、廃村内に居るモンスターの反応を確かめる。
 廃村内に多数、離れたところに人の反応が一つあるのを確認した。
 離れた所にある一つの反応はグリズだろうと《隠密》スキルを使って、カズはその場所へと静かに向かった。
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