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四章 異世界旅行編 2 トカ国

337 守護者の一人

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 レラが再度肩掛け鞄に隠れ、ビワはテーブルに置かれたポットから、カップに麦茶を注ぎ入れて三人は喉を潤した。
 麦茶を飲み一息入れていると、グリズが部屋に戻ってきた。
 グリズが椅子に座ると、先制とばかりにアレナリアが口を開く。
 何かあってもカズに丸投げすると言ったからなのか、アレナリアがこれからする話の内容で、一行の行く末が決まる。

「最初に謝っておくはわ。ごめんなさい」

「急に何だ?」

「信用できるかどうか、貴方のステータスを見させてもらったわ」

「!! 小さな町のギルドマスターでも、それなりの誇りはあるんだぞ。こっちとて完全にとはいかないが、それなりに信用して話を聞いたんだが、それが王国の冒険者ギルドの元サブマスのやり方か?」

「後から知られて不快に思われるならと、先に謝罪して話したのだけど(カズならきっとこうするから)」

「確かに後になって、ステータスを覗き見されたと知るよりはいいが、パーティー登録の情報を制限して、出来る限りのことはすると言ったわいに、この仕打ちか」

「もう私達を信用できないと言うなら、別にそれで構わないわ。パーティー登録の話も白紙に戻しましょう。お詫びとして、無償で依頼を受けて数を減らすわ」

「おい、その依頼やるのって俺だろ」

「うん。お願いねカズ」

「……勝手な」

 急な展開に、アレナリアを見て呆れるカズ。

「それを言うってことは、覚悟があってのことだな」

「ええ」

「……いいだろ。自らしたことを話したのは、それが必要だったからだろ。一応、わいのステータスを言ってみろ。合っていれば、信用して話を続けよう」

「分かったわ。カズ、お願い」

「あ、ああ(結局は俺かよ。アレナリアにもステータス見せたじゃん)」

 力強い目線でカズを睨むグリズに、分析して見たステータスの数値と称号を話す。
 すると口の両端を上げ、一本一本大きく白い歯を見せてにやりとグリズは笑った。

「半分はハッタリだと思ったが、本当に見たとは。冒険者ならそこを踏まえて警戒するべきだが、油断したわいが悪い。ステータスを覗き見したのは許そう。わいの見立ては、間違いじゃなかったようだ」

「見立て?」

「昨日カズが一人でここに来た時、素人のように隙だらけにもかかわらず、相手をするのはヤバいと直感してな。相当な実力を隠していると、わいは見た」

「それはどうも……」

「本題に戻りましょう。グリズさん、貴方の称号について教えてもらえるかしら?」 

「いいだろ。ただし」

「分かってるわ。軽々しく口にしないよう約束する」

  グリズは自身が持つ称号について話す。
 『帝国の守護者』とは、そのまんまの意味、国を守護する役割とその力を持つ者に与えられる称号、グリズ自分はその一人に数えられる。
 有事の際には皇帝の側に付き、勅命を受けて国を守らねばならない。
 皇帝が認めした者にだけ授ける称号。

 説明を聞き引っ掛かる部分があったアレナリアは、その事をグリズに尋ねた。

「有事の際に皇帝を守る守護者が、どうして他のトカ国、更には西端にある小さな町の冒険者ギルドでギルドマスターなんかをしているの?」

 グリズは黙って暫し考え込み、部屋の中に重苦しい空気が広がる。

「たった一度……招集に応じなかった」

「それだけ?」

「帝国の守護者の称号を持つ連中は、皇帝を第一に考え、身命をとしても皇帝を守り、帝国を害する者を悪として。ってな考えだ」

「寿命の短い人族の考えは、大戦から二百年以上経つと、結局そういう方向に戻るのね。皇帝は人族なんでしょ。権力ある人族は、傲慢で嫌いになるわ」

おおかけに言えんが、その考えにはわいも同感だ」

 隣で聞いていたカズは、一応俺も人族なんだけど、とアレナリアにツッコミを入れてやりたく……後でツッコンでやると決めた。
 その後もグリズは話を続け、帝国の守護者の称号を持つ他の者達と反が合わず、帝国領土外からの来る実力者を警戒するという名目で、帝国本土のギルドからキ町のギルドマスターに自ら志願して移動した、と。
 嘘を付いてるとは思えなく、真実を話したと感じたアレナリアは、グリズを信じることにして、パーティー登録をすることを決め、レラを呼びグリズに紹介した。
 初めは驚いていたが、アレナリアがフェアリーについてグリズに尋ねていたため、なんとなくは理解した様子だった。

 グリズは一旦部屋を出ると、パーティー登録とする書類を持ってきた。
 代表者の名をアレナリアにしようとすると、グリズから待ったがかかり、カズにすることを進められた。
 理由はアレナリアがオリーブ王国で、サブ・ギルドマスターをしていたからだと。
 帝国領土内の冒険者ギルドなら問題はないが、他の国でギルドマスターやサブ・ギルドマスターをしていたと知られると、後々面倒になりうる可能性がある、と。
 今回はグリズの忠告を聞き入れ、カズがパーティーの代表者になった。
 四人の名前を書き入れ、書類をグリズに渡した。
 パーティー名はまだ決まってないとグリズに言うと、キ町を出発するまでに決めてくれればいいと、考える時間をくれた。

「早速だが、カズには依頼を受けていってもらうぞ」

「分かってます。約束ですから」

「他の三人は、わいが町を案内しよう。ギルドマスターのわいと親しいと知れ渡れば、ちょっかいを出す馬鹿はいないだろ」

「そうね。そうしてもらえれば、こちらとしてもありがたいわ。もしそれでも何かしてくるようなら、町中でも構わずやってしまってもいいわよね」

「程々になら構わん。おっと、念の為に町を出歩く時は、肩掛け鞄そこにフェアリーを隠していた方がいい。捕まるのを覚悟の上で、狙ってくる連中が居ないとも限らん」

「結局あちしは、そうなるのね。分かってたもん」

「ごめんねレラ」

 拗ねるレラに、優しく声を掛けるビワ。

「レラだったな。お前さんがBランクもしくは、Bランクに近いCランクの強さがあるならば、この町で出てても大丈夫なんだが」

「はいはい。あちしはおとなしく中に居ますよ。あ! 町を回るなら、麦茶買っておいてよ。あちしちょっとしか飲んでないんだから」

 そう言うとレラは、ビワの膝の上にある肩掛け鞄の中に入った。
 グリズが席を立つと、続いてカズ、アレナリア、ビワが席を立ち一階の受付に移動した。
 パーティー登録の書類をしまうと、グリズは数枚の依頼書をカズに渡した。

「今日はとりあえず、これをやって来てくれ」

「け、結構ありますね(七、八枚はあるな)」

「まだまだ、もっと溜まってるんだ。小さな町とはいえ、道を覚えにゃならんだろ。だから今日はそれだけだ。明日は倍以上頼むから、しっかり道を覚えてくれ」

「ば、倍以上……(そんなにやらせるのか)」

「無理にとは言わんが、登録情報を秘密にするのは、これがまた手間でなぁ」

「ぅ……痛いところを。分かってます。町に滞在する間、依頼を受け続けて数を減らします(登録やめればよかったかなぁ)」

「そうかそうか、頼むぞ。ちゃんと報酬払うからな」

「じゃあ行ってきますから、三人のことはお願いします」

「任されたぞ」

 買い物をするお金として、アレナリアにはブゲット盗賊を捕まえた報酬をそのまま渡し、耳元でビワを気に掛けるように頼み、カズはギルドを出て依頼に向かった。

「後は頼んだぞ、トリンタ。わいはこの三人に町を案内してくる」

「都合がいいサボりですね」

「そう言うな。ダッチはもうすぐ建材所から戻るだろ」

「そのはずです」

「麦茶を買いに行くんだが、ギルドうちのも少なかったよな?」

「ギルド長がガブガブ飲みますから」

「買ってくるから、ダッチにはうまく言っておいてくれ」

「いいですよ。その代わり、麦茶代はギルド長が出してください。経費では落としませんからね」

「それは…」

「殆ど、ギルド長が一人で飲んでるんですから」

「……わかった」

 受付のトリンタに言い込められ、しゅんと背中を丸めたまま女性三人を引き連れて、先ずは麦茶葉を買いにギルドを出た。

「そんなんで大丈夫なの? シャキッとしないと、ギルドマスターとしての権威が感じられないわよ」

「そ、そうだな」

 アレナリアに注意されたグリズは、背筋を伸ばし胸を張り、通常営業状態に戻った。

「麦茶葉を買ったら、お昼頃になるわよね。何か食べる物を買いましょう。すぐに食べれる物を売ってる所、どこかないかしら」

「ならこの先にある店で──」

 アレナリア、レラ、ビワの三人がグリズに案内されキ町を見て回っていた頃、カズは町の外壁の外に生える雑草を、風魔法を使い刈り終えるところだった。

 ギルド近所の掃除に、壊れた家の扉の修理に、不必要になった荷車を廃棄所に運んで、その後は草刈り。
 それがもうすぐ終わるから、次は町の周りを囲む壁を修復するためのレンガ運びをして、明日がその修復作業か。
 細々した依頼が多いな。
 この町って、そこまで冒険者が居ないのか? 確かにギルドに来てる冒険者は少なかったけど。

 少々不満を漏らしながら、この日頼まれた依頼を終えて、カズはギルドに戻った。
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