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四章 異世界旅行編 2 トカ国

336 グリズの称号

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 トリンタは受付の仕事へ戻り、入ってきたグリズは置いてあるカップに麦茶を注ぐと、ぐいっと一気に飲み干す。

「やっぱり冷えた麦茶は最高だ。まだまだあるから、三人も遠慮せず飲め」

 麦茶の入ったポットをテーブルの中央に置き、グリズはカズの正面に座った。

「他の連中も連れて来たってことは、パーティー登録をすることにしたか」

「それなんですが、その前に色々と話を聞きたいと思いまして」

「ほお、慎重だな。で、何を聞きたいんだ? 分かることなら答えるぞ」

 パーティー登録について、カズとアレナリアがあれこれとグリズに質問をぶつけた。

 ・どの程度までパーティーの情報を公開しなければならないか?
 ・トカ国のギルドは、パーティーの個人情報を、帝国に漏洩させることはないのか?
 ・絡んできた質の悪い冒険者を、本当にギルドが圧力を掛け抑制してくれるのか? など。

 アレナリアは遠回しに聞こうとはせず、大柄なグリズに臆することなくズバズバと失礼な質問もする。
 ギルドマスター相手に話をするのは、ロウカスクで慣れているからだろう。
 旅に出てようやく役に立つ事ができたと、アレナリアは内心で嬉しく思っているのか、生き生きとしているように見える。
 カズもアレナリアのやり取りを見て、元サブ・ギルドマスターは伊達じゃないと、珍しく感心した。

「なるほど。結論から言うと、帝国のお偉いさんが圧力を掛けてくれば、情報を公開することになる。特にここトカ国とフギ国は、セテロン国の更に下に位置してるから、立場的には弱い」

「『フギ国』に『セテロン国』? アレナリア知ってる?」

 カズは新たな国の名前を聞き、アレナリアに尋ねた。

「変わっていなければ、テクサイス帝国の下がセテロン国、その下がトカ国とフギ国だったはずよ」

「そうなんですか?」

「ああ。帝国傘下の下っ端だからな。上からの圧力には逆らえんのさ」

「だったらパーティーの登録しても、個人情報は筒抜けってことになるわね。やめておきましょう」

「それがいいか」

「待て待て。今言ったのは、余程の事がない限りあり得ん。単なる一パーティーを、帝国の連中が気に掛けたりなんかしないさ」

「話を聞く限りでは、パーティー登録をしても、メリットよりデメリットの方が大きいわ」

「お前ら三人を見ても、目をつけられるとは思えんが。まあ無理強いはせん。が、出来ることなら、ここでパーティー登録をしてほしかったんだが」

「こう言ってはなんですが、冒険者登録をしてるのは俺とアレナリアだけですし、ビワにいたっては戦うことはできません。そんなバランスの悪い俺達を、どうしてそこまでパーティー登録させたいんですか?」

「一つはパーティーが活躍すれば、登録したギルドも注目され、冒険者が増えるからだ」

「このギルドの利益のためね」

「早い話がそうだ。見てわかる通り、小さな国の更に端にある町だから、経営が厳しくてな。それでも依頼は入ってくるんだが、それを受ける冒険者が少なくてよぉ。殆どの連中がデカイ街に移っちまったんだ」

「拠点登録をするギルドは、冒険者の自由だからね。先行き不安な小さなギルドから、大きな街のギルドに移るのは当然。引き留めたければ、それに見合うだけの価値を示すべき」

「確かにそうだが……アレナリアと言ったな。色々と詳しいじゃないか」

「ええ。これでもオリーブ王国のアヴァランチェという都市の冒険者ギルドで、サブマスをしてたから」

「なに! なら尚更ここでパーティーの登録を」

「登録ねぇ……。だったら貴方は何をしてくれるのかしら? キ町の冒険者ギルドマスターの

「国は違えど、冒険者ギルドでサブマスをしていたなら、この辛さが分かるだろ」

「そうね。私が居たギルドのギルマスは、ちょくちょく仕事をサボって、私がやる羽目になってのよ。ちょっとここのサブマスに来てもらって、その辺の話を聞いてみましょうか?」

「ダ、ダッチの奴をか」

 口元をひくつかせ、サブマスの名を上げるグリズ。

「ダッチ? 受付に居たもう一人の兎人族がサブマスなの。なら私が一人で行って、話を聞いてきましょうか。ギルマスの仕事っぷりを」

「やめてくれ。ここんとこダッチの奴が、溜まってる依頼を片付けろとうるさいんだ」

「男のギルマスって、なんでこうサボりたがるのかしら」

「と、とりあえずだ、パーティーの登録情報は最低限にする。個人情報の提示を強制されても、下位の国の端にあるギルドと分かれば、細かい情報が登録されてなくても怪しまれずにすむはずだ」

「あのう、それだと俺達のパーティーの評価が例え上がったとしても、ここのギルドの評価は上がらないんじゃ?」

「そうよね」

「最低限の中には、登録したギルドが分かるようにする。だから登録して、依頼をこなしてってくれ」

 なぜか必死になるグリズを見て、アレナリアが脅してるような気がすると、カズは思ってしまった。

「どうする、アレナリア?」

 アレナリアが手招きをして、カズにごにょごにょと耳打ち。

「……分かった」

「それと一つ、この国もしくは帝国領土内で、フェアリーを見たことはある?」

「フェアリー? 急になんだ」

「見たことあるの? ないの? 居るの? 居ないの?」

「人口の多い街、例えば帝国に行けば、数は少ないが居るぞ。この国では滅多に見ない。保護でもされてなければ、捕まって種族売買されかねん」

「そう分かったわ、ありがとう。少し相談したいから、私達だけにしてもらっていいかしら。十分くらいで構わないから」

「了解だ。いい返事を期待してる」

 グリズが席を立ち、部屋を出て行った。

「カズ、盗聴と盗視はされてない?」

「大丈夫そう」

「それでどうだった」

 先程耳打ちをした時に、アレナリアはグリズのステータスを確認するのと、盗聴と盗視がされてないかを、カズに調べるよう言っていた。

「グリズさんは信用できると思う。俺が見たステータスを、見えるように表示するよ」

 カズはグリズのステータスを、半透明のアクリル板のような物に表示させ、アレナリアに見せた。


 名前 : グリズ
 称号 : 帝国の守護者
 年齢 : 66
 性別 : 男(オス)
 種族 : 熊羆ゆうひ
 職業 : キ町の冒険者ギルドマスター
 ランク: SS
 レベル: 109
 力  : 2616
 魔力 : 1308
 敏捷 : 1514
 運  : 34
 性格 : 楽観的
 容姿 : 灰色の毛をした295㎝ある熊の獣人
 補足 : 元々は帝国の冒険者ギルドに居たが、今は小さな町のギルドで、気ままな生活を送っている。
 ・ギルドの経営はサブマスのダッチに任せきりで頭が上がらなく、最近では受付のトリンタにも押され気味。


「こんな片田舎の町には、似つかわしくないステータスね。戦い方によっては、フローラ様にも勝てる強さよ。それに元々帝国のギルドに居たみたいね」

「そうだな」

「しかしカズの分析スキルってどうなってるの? 本来ステータスを確認しても、補足や性格に容姿なんて情報表示されないわよ」

「あッ、そうなの。そこは俺にもよく分からない。それより気になるのは『帝国の守護者』って称号」

「ええ。これから長い間、帝国の領土を通るなら、ハッキリとさせておいた方がいいわね。いざとなったら全部カズ頼りだから」

「さらっと言うなよ。最悪の場合は、手配されるかもしれないんだぞ」

「旅には危険な橋を渡る事も必要よ。帝国の守護者なんて称号を持ってるギルマスが信用できる存在で味方につけば、この先の旅が優位になるかも知れないでしょ」

「あ、うん。それはあるけど……(今日のアレナリアはどうしたんだ? ものスゴく頼りになる)」

「勢いは私にあるわ。このまま押し通して、私達の優位な条件で登録させてみせる」

「あれ!? パーティー登録するの? まだレラのことだってあるのに」

「フェアリーは帝国にも居るって言ってたじゃない。うまくすれば目的の一つ、レラの故郷が分かるかも知れないわよ」

 ビワの膝の上にある肩掛け鞄がごそごそと動き、ゆっくりと顔を出すレラ。

「この国に同族フェアリーが居るの?」

「正確には帝国ね。このトカ国が従属してる国よ。会えたとしても、まだまだ先の話……って、なんで顔だしてるの!」

「話は聞こえてたもん。だから、今なら大丈夫と思ったの」

「今は私達だけだからいいど、気を付けなさいよ」

「分かってるもん。それよりあちしも喉乾いた。その麦茶ってのちょうだい」

「後にしない。そろそろギルマスが戻って来る頃だから」

「ぶうぅ~」

「私ので良ければ」

 ビワが自分のカップをレラの前に運ぶと、麦茶をゴクゴクと飲む。

「できれば冷たいのが飲みたかった」

「茶葉は後で買うから、もう暫く隠れれてくれ」

「はいはい。分かってますよ~だ」

 身体をよじったり首を捻ったり、凝りをほぐして鞄の中に再度入り隠れるレラ。
 相談して結果、カズはグリズとの交渉をアレナリアに任すことにした。
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