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四章 異世界旅行編 2 トカ国
335 トカ国のお茶
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アレナリアとレラは寝ていた寝室から隣の部屋に移動したが、そこにビワの姿は見当たらず、テーブルの上に料理も無かった。
朝食の用意をした形跡も見当たらない。
不思議に思った二人は、椅子が1脚無いことに気付いた。
「ここに椅子あったわよね?」
「一、二、三……一つ足りないね。カズが持ってったのかな?」
アレナリアとレラの視線は、カズが寝るもう一つの寝室の扉へと移る。
「まさかと思うけど……あのビワだからまさか、よね」
「でも、ビワも女だよ。ここまで連れて来てくれたお礼とか、これから先も私を守ってとか言って」
「いや、いやいやいや、そんな……あのビワだよ。昨日だって町で働く奴隷を見て、目を伏せてた」
「もし、怖くて眠れないってカズに言ってたら?」
そう、まさにレラが言ったことが的中していた。
「……は! カズなら寝るまで一緒に……行くわよレラ!」
「アレナリアならそう言うと思った。もし間違ってたら、怒られるのアレナリアだけにしてよ。あちしは関係ないから」
「そんな言い訳はいいから、ほら入るわよ!」
昨日こそこそと扉を開けようとしたのとは違い、バンッと勢いよく扉を開けるアレナリア。
その音で目が覚め、部屋に入って来たアレナリアとレラを見るカズ。
「……あれ、二人が先に起きてるって事は、もう昼か?」
「毎回そんなに寝ないじゃないも~ん」
「ぁぁ……」
カズの冗談が耳に入らず、目の前の光景に口をポカンと開けて固まるアレナリア。
「どうしたアレナリア?」
「それ……」
アレナリアはビワが寝ているベッドを指差す。
「にっちっち。その様子を見ると、昨夜はさぞかし楽しんだのかなぁ?」
「楽しむ? 何言ってんだレラ」
レラの言葉に反応したアレナリアの額には、血管が浮かび上がり、カズを睨み付ける。
「お、おい。何怒ってるんだ?」
「なんでビワがここで寝てるのよ! やったの? とうとうビワに手を出したの!」
「な、何を! 俺はなんにもしてないからな。昨夜遅くにビワ眠れないって来て、俺が寝るまで側に居ただけだから」
「何もって言うけど、それを見たらねぇ」
「それ? あ……」
自分の左手をビワが握ったままになっているのに、カズは今気付いた。
カズは手を離そうとするが、ビワが両手でしっかりと握っていたため、中々離れない。
レラとアレナリアの騒がしい声と、カズが離そうと動かした手での振動で、ビワは目を覚ました。
「ビワ起きたぁ~?」
「レラ……おはよう」
「うん、おはよ」
「今日は早起きね」
「違うよ~ん。今日はビワが一番遅いんだよ」
「え」
パチッと寝ぼけ眼を見開き、ベッドから起きて周りの状況を確かめる。
「起きたなら、カズから手を離したら?」
アレナリアの言葉を聞いて、ビワは自分の手元を見た。
すると両手でガッチリとカズの左手を掴んでいるのが目に入り、慌てて手を離す。
「一人で抜け駆けとはやるわビワ。これで正妻の座はビワが一歩リード。にっちっち」
「おい、また余計なことを」
アレナリアがベッドに飛び乗り、ビワの顔を近づけ正面から見る。
「負けないわよビワ」
「え…あ…私…そんなつもりじゃ」
「はい、そこまでだアレナリア。さっき言っただろ。昨夜不安になってビワが来たって」
「同じ部屋なんだから、だったら私かレラに言えば」
「酔って爆睡して起きなかったろ」
「爆睡なんて……」
夕食のことを思い返すアレナリア。
「してなかったか?」
「してた」
「分かったろ。だったらビワを責めるな」
「やっぱりビワにばっかり優しくする」
「ハァー、だったら何してほしいんだ?」
「! じゃあじゃあ、今夜は私がここでカズと寝る」
「別にビワと一緒に寝てないぞ。見て分かるだろ。俺は椅子で寝てたんだから」
「手を握ってたじゃない。手を手を手を!」
「分かった分かった。今夜寝る時に、アレナリアの手を握ってればいいんだろ(ビワの身体を拭いたのは言えないな。言えばアレナリアのことだ、素っ裸になってくるに決まってる)」
ふてくさって不機嫌な顔をしていたアレナリアが、にやけ顔に変わった。
「……あほくさ。起きたのなら、朝ごはん作ってよビワ」
「あ、うん。カズさん」
「材料ね。今出すから用意頼むよ(寝起きから疲れる)」
「はい」
ビワに食事の用意を任せて、機嫌の直ったアレナリアに、ビワが町で働く奴隷を見て不安になっていた事を話した。
町に出る際には、できるだけビワを気に掛けるようにすると、アレナリアも理解してくれた。
パーティー登録のことに関しては、とりあえずはギルドマスターのグリズと会って、その人柄を見てから判断するとのことだった。
野菜たっぷりの朝食を食べ終え、皆で冒険者ギルドに向かい出掛けた。
宿屋から冒険者ギルドまでは歩いて十数分、それまで町中で働く奴隷の姿をビワに見せないようにした。
ビワは大丈夫だと言っていたが、昨日の事もあり、心配したカズは念の為にと、宿屋を出る前に、ビワには自分かアレナリアを見てるように言っておいた。
カズを見てるのは恥ずかしいと、ビワは麦わら帽子を深く被り、前を歩くアレナリアの後頭部を見ながらギルドに向かう。
ギルドまであと少しといった所で、カズはキョロキョロと辺りを見渡す。
「どうしたの?」
アレナリアが周りを気にするカズに聞いた。
「お決まりだと、そろそろ絡まれるかなって」
「あぁ。どういうわけか、カズってよく絡まれるのよね」
「本当だよ。目立たずにいようと思ってると、何処からともなく…」
「おう。来たか」
少し離れた所から、カズを見て声を掛ける者が居た。
「ほら、まただよ。俺、別に大したことないので、あなたに何かしようとも思いませんのでお構いなく」
適当にやり過ごそうと、カズは声のする方を向きながら下手に出た。
「何を言ってるんだ?」
話し掛けてきた者を見ると、頭にはその大きな見た目に反して丸く可愛らしい耳が。
「あ、ギルドマスターのグリズさん」
「誰だと思ったんだ?」
「誰…と言うわけではないんですが、初めての街やギルドに行くと、よく絡まれるもので。またそれかと」
「だから、あんな変な言い方をしたのか」
「すいません」
「まあいい。そっちの二人が一緒に旅をしてる連れだな」
「はい」
「わいの用事もちょうど終わったとこだ。中に入って話を聞こう」
グリズに続いて、カズ達もギルドに入る。
相変わらず冒険者は二、三人程度しか居らず、ギルド職員も前日と同じで二人だけだった。
「ギルド長、お疲れ様です。屋根の修理終りましたか?」
「おう、バッチリだ。それと、あそこの倒壊した空き家を片付けて来た。資材を回収できるから、建材屋に連絡しておいてくれ」
「ならそれは自分が行きましょう。ちょうど出る用事もありますし、通り道になるので。渡す書類も自分が用意しておきます」
「じゃあ頼む。ダッチ」
「わいは汚れを落としてくるから、トリンタはこっちの三人を、二階の部屋に案内してくれ」
「は~い、わかりました。確か、カズさんでしたね。お連れの方もこちらへどうぞ」
カズ達はトリンタに案内されて、二階の一室に向かう。
昨日トリンタは自分はそれほど小さくないとグリズに言っていたが、すぐ後ろを歩くアレナリアと比べると、少し大きい程度だった。
伸ばした耳の先まで含めると170㎝くらいはあるが、そういうことだろうか?
通された十畳程の部屋の中央には、足の長いテーブルがあり、それを囲むように10脚の椅子が置いてあった。
会議室のような部屋だろうか。
「飲み物をお持ちしますから、座ってお待ちください」
上座下座の概念があるかは分からないが、パーティーを登録するなら、代表をアレナリアにするつもりなので、部屋の入口(下座)からビワ、カズ、アレナリアの順で座りギルドマスターが来るのを待った。
「ねぇ、あちし出ていい?」
「これからここのギルドマスターと話すから、もう少し我慢してなさい。ロウカスクより度量が広ければ、出してあげるから」
「ロウカスク?」
「私が居たギルドのマスター」
仕事をちょくちょくサボっていたロウカスクを基準にしていいのかと、カズは疑問に思った。
「アレナリアが居た所のギルドマスターを基準に言われても、あちし知らないもん」
「出ても大丈夫なら合図すらから、もう暫く肩掛け鞄で静かにしててくれ。そろそろトリンタが飲み物を持って来るから」
「分かってるもん」
部屋の扉が静かに開き、トリンタが飲み物を運んできた。
三人の前に置かれたカップには、茶色の液体が注がれている。
「麦シュワ?」
「見た目は似てますが、お酒ではありません。原料は同じ麦です。冷してあるので、どうぞお飲みください」
カップを手に取るが、口に運ぶのを少し戸惑う二人を見て、カズが先に口を付ける。
「麦茶ですね。冷たくて美味しいです(懐かしい。暑い夏にはこれだよな。暑くはないけど)」
「はい。麦シュワはお酒で子供は飲めませんので、同じ麦から作ったこのお茶がトカ国ではよく飲まれるんです」
カズが飲んだのを見て、アレナリアとビワも一口飲む。
「美味しいわね」
「麦の香りとほのかな苦味が、とても美味しいです」
「口に合って良かったです。トカ国ならどこでも手に入る茶葉ですよ。もちろんこの町にも売ってます」
「いいわね。あとで買いに行きましょう」
「そうしよう(疲れた時は、冷たい麦茶に砂糖もありだ。これは買いだ)」
三人の感想を聞いて、ビワの横に置いてある肩掛け鞄からトンと叩く音、ほぼ同時に部屋の扉がバンと勢いよく開き、ビワはとっさに鞄を膝の上に移した。
幸いなことに、扉が開く音にかき消され、レラが出した音にトリンタは気付いてなかった。
「待たせた」
「もう少し静かに入って来てください」
「麦茶か。わいの分は?」
「ギルド長の分はそちらにありますから、自分で入れてください。わたしは仕事に戻ります。いつまでも副長一人に任せるのは申し訳ないですから」
トリンタは部屋を出て、自分の仕事に戻った。
朝食の用意をした形跡も見当たらない。
不思議に思った二人は、椅子が1脚無いことに気付いた。
「ここに椅子あったわよね?」
「一、二、三……一つ足りないね。カズが持ってったのかな?」
アレナリアとレラの視線は、カズが寝るもう一つの寝室の扉へと移る。
「まさかと思うけど……あのビワだからまさか、よね」
「でも、ビワも女だよ。ここまで連れて来てくれたお礼とか、これから先も私を守ってとか言って」
「いや、いやいやいや、そんな……あのビワだよ。昨日だって町で働く奴隷を見て、目を伏せてた」
「もし、怖くて眠れないってカズに言ってたら?」
そう、まさにレラが言ったことが的中していた。
「……は! カズなら寝るまで一緒に……行くわよレラ!」
「アレナリアならそう言うと思った。もし間違ってたら、怒られるのアレナリアだけにしてよ。あちしは関係ないから」
「そんな言い訳はいいから、ほら入るわよ!」
昨日こそこそと扉を開けようとしたのとは違い、バンッと勢いよく扉を開けるアレナリア。
その音で目が覚め、部屋に入って来たアレナリアとレラを見るカズ。
「……あれ、二人が先に起きてるって事は、もう昼か?」
「毎回そんなに寝ないじゃないも~ん」
「ぁぁ……」
カズの冗談が耳に入らず、目の前の光景に口をポカンと開けて固まるアレナリア。
「どうしたアレナリア?」
「それ……」
アレナリアはビワが寝ているベッドを指差す。
「にっちっち。その様子を見ると、昨夜はさぞかし楽しんだのかなぁ?」
「楽しむ? 何言ってんだレラ」
レラの言葉に反応したアレナリアの額には、血管が浮かび上がり、カズを睨み付ける。
「お、おい。何怒ってるんだ?」
「なんでビワがここで寝てるのよ! やったの? とうとうビワに手を出したの!」
「な、何を! 俺はなんにもしてないからな。昨夜遅くにビワ眠れないって来て、俺が寝るまで側に居ただけだから」
「何もって言うけど、それを見たらねぇ」
「それ? あ……」
自分の左手をビワが握ったままになっているのに、カズは今気付いた。
カズは手を離そうとするが、ビワが両手でしっかりと握っていたため、中々離れない。
レラとアレナリアの騒がしい声と、カズが離そうと動かした手での振動で、ビワは目を覚ました。
「ビワ起きたぁ~?」
「レラ……おはよう」
「うん、おはよ」
「今日は早起きね」
「違うよ~ん。今日はビワが一番遅いんだよ」
「え」
パチッと寝ぼけ眼を見開き、ベッドから起きて周りの状況を確かめる。
「起きたなら、カズから手を離したら?」
アレナリアの言葉を聞いて、ビワは自分の手元を見た。
すると両手でガッチリとカズの左手を掴んでいるのが目に入り、慌てて手を離す。
「一人で抜け駆けとはやるわビワ。これで正妻の座はビワが一歩リード。にっちっち」
「おい、また余計なことを」
アレナリアがベッドに飛び乗り、ビワの顔を近づけ正面から見る。
「負けないわよビワ」
「え…あ…私…そんなつもりじゃ」
「はい、そこまでだアレナリア。さっき言っただろ。昨夜不安になってビワが来たって」
「同じ部屋なんだから、だったら私かレラに言えば」
「酔って爆睡して起きなかったろ」
「爆睡なんて……」
夕食のことを思い返すアレナリア。
「してなかったか?」
「してた」
「分かったろ。だったらビワを責めるな」
「やっぱりビワにばっかり優しくする」
「ハァー、だったら何してほしいんだ?」
「! じゃあじゃあ、今夜は私がここでカズと寝る」
「別にビワと一緒に寝てないぞ。見て分かるだろ。俺は椅子で寝てたんだから」
「手を握ってたじゃない。手を手を手を!」
「分かった分かった。今夜寝る時に、アレナリアの手を握ってればいいんだろ(ビワの身体を拭いたのは言えないな。言えばアレナリアのことだ、素っ裸になってくるに決まってる)」
ふてくさって不機嫌な顔をしていたアレナリアが、にやけ顔に変わった。
「……あほくさ。起きたのなら、朝ごはん作ってよビワ」
「あ、うん。カズさん」
「材料ね。今出すから用意頼むよ(寝起きから疲れる)」
「はい」
ビワに食事の用意を任せて、機嫌の直ったアレナリアに、ビワが町で働く奴隷を見て不安になっていた事を話した。
町に出る際には、できるだけビワを気に掛けるようにすると、アレナリアも理解してくれた。
パーティー登録のことに関しては、とりあえずはギルドマスターのグリズと会って、その人柄を見てから判断するとのことだった。
野菜たっぷりの朝食を食べ終え、皆で冒険者ギルドに向かい出掛けた。
宿屋から冒険者ギルドまでは歩いて十数分、それまで町中で働く奴隷の姿をビワに見せないようにした。
ビワは大丈夫だと言っていたが、昨日の事もあり、心配したカズは念の為にと、宿屋を出る前に、ビワには自分かアレナリアを見てるように言っておいた。
カズを見てるのは恥ずかしいと、ビワは麦わら帽子を深く被り、前を歩くアレナリアの後頭部を見ながらギルドに向かう。
ギルドまであと少しといった所で、カズはキョロキョロと辺りを見渡す。
「どうしたの?」
アレナリアが周りを気にするカズに聞いた。
「お決まりだと、そろそろ絡まれるかなって」
「あぁ。どういうわけか、カズってよく絡まれるのよね」
「本当だよ。目立たずにいようと思ってると、何処からともなく…」
「おう。来たか」
少し離れた所から、カズを見て声を掛ける者が居た。
「ほら、まただよ。俺、別に大したことないので、あなたに何かしようとも思いませんのでお構いなく」
適当にやり過ごそうと、カズは声のする方を向きながら下手に出た。
「何を言ってるんだ?」
話し掛けてきた者を見ると、頭にはその大きな見た目に反して丸く可愛らしい耳が。
「あ、ギルドマスターのグリズさん」
「誰だと思ったんだ?」
「誰…と言うわけではないんですが、初めての街やギルドに行くと、よく絡まれるもので。またそれかと」
「だから、あんな変な言い方をしたのか」
「すいません」
「まあいい。そっちの二人が一緒に旅をしてる連れだな」
「はい」
「わいの用事もちょうど終わったとこだ。中に入って話を聞こう」
グリズに続いて、カズ達もギルドに入る。
相変わらず冒険者は二、三人程度しか居らず、ギルド職員も前日と同じで二人だけだった。
「ギルド長、お疲れ様です。屋根の修理終りましたか?」
「おう、バッチリだ。それと、あそこの倒壊した空き家を片付けて来た。資材を回収できるから、建材屋に連絡しておいてくれ」
「ならそれは自分が行きましょう。ちょうど出る用事もありますし、通り道になるので。渡す書類も自分が用意しておきます」
「じゃあ頼む。ダッチ」
「わいは汚れを落としてくるから、トリンタはこっちの三人を、二階の部屋に案内してくれ」
「は~い、わかりました。確か、カズさんでしたね。お連れの方もこちらへどうぞ」
カズ達はトリンタに案内されて、二階の一室に向かう。
昨日トリンタは自分はそれほど小さくないとグリズに言っていたが、すぐ後ろを歩くアレナリアと比べると、少し大きい程度だった。
伸ばした耳の先まで含めると170㎝くらいはあるが、そういうことだろうか?
通された十畳程の部屋の中央には、足の長いテーブルがあり、それを囲むように10脚の椅子が置いてあった。
会議室のような部屋だろうか。
「飲み物をお持ちしますから、座ってお待ちください」
上座下座の概念があるかは分からないが、パーティーを登録するなら、代表をアレナリアにするつもりなので、部屋の入口(下座)からビワ、カズ、アレナリアの順で座りギルドマスターが来るのを待った。
「ねぇ、あちし出ていい?」
「これからここのギルドマスターと話すから、もう少し我慢してなさい。ロウカスクより度量が広ければ、出してあげるから」
「ロウカスク?」
「私が居たギルドのマスター」
仕事をちょくちょくサボっていたロウカスクを基準にしていいのかと、カズは疑問に思った。
「アレナリアが居た所のギルドマスターを基準に言われても、あちし知らないもん」
「出ても大丈夫なら合図すらから、もう暫く肩掛け鞄で静かにしててくれ。そろそろトリンタが飲み物を持って来るから」
「分かってるもん」
部屋の扉が静かに開き、トリンタが飲み物を運んできた。
三人の前に置かれたカップには、茶色の液体が注がれている。
「麦シュワ?」
「見た目は似てますが、お酒ではありません。原料は同じ麦です。冷してあるので、どうぞお飲みください」
カップを手に取るが、口に運ぶのを少し戸惑う二人を見て、カズが先に口を付ける。
「麦茶ですね。冷たくて美味しいです(懐かしい。暑い夏にはこれだよな。暑くはないけど)」
「はい。麦シュワはお酒で子供は飲めませんので、同じ麦から作ったこのお茶がトカ国ではよく飲まれるんです」
カズが飲んだのを見て、アレナリアとビワも一口飲む。
「美味しいわね」
「麦の香りとほのかな苦味が、とても美味しいです」
「口に合って良かったです。トカ国ならどこでも手に入る茶葉ですよ。もちろんこの町にも売ってます」
「いいわね。あとで買いに行きましょう」
「そうしよう(疲れた時は、冷たい麦茶に砂糖もありだ。これは買いだ)」
三人の感想を聞いて、ビワの横に置いてある肩掛け鞄からトンと叩く音、ほぼ同時に部屋の扉がバンと勢いよく開き、ビワはとっさに鞄を膝の上に移した。
幸いなことに、扉が開く音にかき消され、レラが出した音にトリンタは気付いてなかった。
「待たせた」
「もう少し静かに入って来てください」
「麦茶か。わいの分は?」
「ギルド長の分はそちらにありますから、自分で入れてください。わたしは仕事に戻ります。いつまでも副長一人に任せるのは申し訳ないですから」
トリンタは部屋を出て、自分の仕事に戻った。
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