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四章 異世界旅行編 2 トカ国
332 経営が厳しい、キ町の冒険者ギルド
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五分程すると兎人族の女性職員が、天井すれすれの大きな獣人を連れて戻った来た。
頭には見た目に反して、丸くて小さい耳があり、数日剃らなかったのか口回りには灰色の無精髭が。
どうやら熊の獣人らしい。
「お待たせしました」
「あんたがブゲット盗賊団を捕らえてきた冒険者か」
「ブゲット盗賊団?」
「なんだ知らねぇのか」
「この方は昨日町に着いたようなんです。ギルドカードは王国発行のようですので、ブゲット盗賊団のことは知らないかと。ギルド長」
「なんだ、帝国領土の冒険者じゃねぇのか」
「……ギルド長!?」
「おう。わいは、ここのギルドマスターをしてる『グリズ』ってもんだ」
「これがこの方、えっと…カズさんのギルドカードです」
グリズがカズのギルドカードを受付の女性から受け取り確認する。
「ほう、Bランクか。ならブゲット盗賊団を捕らえる事も出来るか。で、わざわざ王国からこんな所まで来たのは、まさか旅行だなんて言わないよな」
「目的があって、旅をしてる途中です。ここに来たのは、少し前に兎人族の村に寄った時に、一番近い街を聞いたら、ここだと言われて来たんです」
「『トリンタ』の村か」
「トリンタ? あの村トリンタって言うんですか?」
「違う違う。こいつの名前がトリンタ」
グリズは兎人族の女性職員の頭を撫でて、カズに名前を教える。
「もう、いつもいつも気安く頭をこねくり回さないでください!」
「ぐわっはは、わるいわるい。低いトリンタの頭が、ちょうど手の位置にあるんでな」
「わたしそんなに小さくありません。ギルド長が大きいんです」
「あのう、それでギルドマスターが俺に何か用でも? (何でどこのギルドに行っても、すぐにそこのトップと会う羽目になるんだ)」
「いやなに、ブゲット盗賊団を捕らえた冒険者を見ておきたくてな」
「それだけですか? (拘束して連れて来たのは俺だけど、倒したのはアレナリアなんだよね)」
「まあ、それだけって理由じゃないんだが。優秀な奴なら、この町に滞在して、溜まってる依頼を片付けてもらおうかと思ってな」
「え……」
「長い間残ってる依頼を受けてくれるなら、報酬に色を付けるぞ」
「町から離れて数日掛かるような依頼でなければ、別に構いませんが」
「馬車で一緒に来た連れのことか?」
「ええ、まあ」
「連れも冒険者だと聞いているが」
「一人はそうです」
「ならそいつに、留守を任せればいいじゃないか」
「まあそうなんですが、それでも俺が出ている間に、知らない土地で何かあったら大変ですから」
「心配性だな。お! だったら、パーティー登録をしたらどうだ。ギルドカードにパーティー名が表示されてなかったから、まだ組んでないんだろ」
「パーティーですか?」
「ああ。パーティー登録していれば、無理な引き抜きをしようとする奴や、絡んでくる連中がいれば、ギルドを通して、そういう連中のパーティーに圧をかける事も出来るぞ」
「へえ。それは、どこの国のギルドでもですか?」
「パーティーのランクや、ギルドの貢献度にもよるがな。少なくともソロで活動するよりは、評価が上がるぞ。人数が揃えば、出来ることも増えるからな」
「パーティーか……。暫くこの町に滞在する予定なので、仲間と相談して決めます」
「そうか。もしパーティー登録するようであれば、パーティー全員の名前と、代表となる者、あとはパーティーの名前が必要だから考えおくことだ」
「パーティーの代表と、パーティー名」
「ギルドカードは返しておく。今日一日話し合って決めたらいい。依頼を受けてくれるなら、それも明日からで構わない」
「分かりました。それじゃあ、今日はもう」
「おっと待った。忘れるとこだった」
「なんですか?」
「ブゲット盗賊団を捕らえた報酬だ。正式に依頼を受けたわけじゃないから、額は少ないが受け取ってくれ。トリンタ」
「はい。こちらです」
「いいんですか?」
「旅をするなら、金はいくらあっても困らんだろ」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
渡された布袋の中には、金貨が数十枚入っていた。
「こんなに、ちょっと多くないですか?」
「妥当だろ。実害が出ていた盗賊の一団を捕らえたんだ」
「これはどうも(臨時収入が入ったのは嬉しいんだけど、明らかに目立ったな。でもギルドに数人しかいないから、まあ大丈夫か)」
「明日来るのを待ってるからな」
軽く会釈をしてカズはギルドを出た。
「変わった人でしたね。報酬が多くて困るなんて。威圧されるような感じもしなかったですし、物腰の柔らかい人でしたね。本当にBランクの実力があるんでしょうか?」
「軟弱そうに見えたか? わいにはBランク以上の強さがあると感じたぞ」
「マスターの勘は、大して当たりませんからね。この前だって…」
「おいおい、その話はもういいだろ。わいだってたまに間違えることはある」
「たまにぃ~?」
グリズとトリンタがギルド中に聞こえるような声で話をしていると、接客の終わった兎人族の男性職員が、二人に注意をする。
「仕事中ですよ。私語は程々にしてください。それに声も大きいですよ」
「ご、ごめんなさい。副長」
「固いこと言うなよ『ダッチ』」
「そうしてほしければ、溜まってる依頼を片付けてから言ってください。自分は午後から、依頼の数を減らすた為に外出します」
「サブマス自らご苦労」
「ギルドマスター自身が動いてくれれば、溜まってる依頼はもっと減るんですがね!」
「その…なんだ、何かあった時の為に、わいはギルドの居ないとならんだろ」
「町中の依頼くらいは出来ると思いますが」
「わかったわかった。近所の依頼は済ませるからよぉ」
「まったく。それで、さっきの方は役に立ちそうなんですか? ただでさえトカ国の末端にある小さな町なんですから、旅の冒険者でも依頼を受けてくれるなら、ありがたいんですがね」
「その辺は言っといたから安心しろ。たぶん明日来て依頼を受けてくれる」
「ハァー。相変わらず楽観的な性格なのは変わりませんね」
「それがわいの良いとこだ」
胸を張りドンと叩くグリズ。
「では自分は出掛ける準備をします。少し早いですが、トリンタはギルドマスターと代わってもらい、お昼の休憩に入りなさい」
「はい……え!? ギルド長にですか?」
「任せろ。受付は笑顔で対応だろ」
「そ、そうです(こ、怖い。その笑顔じゃあ、皆入ってこないよ)」
グリズの笑顔は厳つく、それを見たトリンタはビクっとした。
「ん、なんだ? いい笑顔だろ」
「は、はい。いい笑顔……です(早くお昼食べて、戻って来ないと)」
トリンタが昼食を取りにギルドを出ると、グリズは自分専用の大きな椅子に座り、どんと受付で構え、ギルドに来る者を待つ。
大柄の獣人が受付で座ってるのを見て、ギルドに来た何人かは入口でUターンして、出て行ってしまう。
「……やっぱり(これだからギルド長に、受付の仕事は任せられないのよ)」
予想通りの事が起きていたので、トリンタは昼の休憩を早々に切り上げ、受付の仕事に戻った。
「ギルド長、受付の仕事をしてくれる女性職員増やしませんか? 今わたしを含めて、三人しかいないじゃないですか」
「どちらかといえば、職員よりも依頼を受けてくれる冒険者が必要なんだが」
「それは、わかりますが……」
「サブ・ギルドマスターの奴も時間が空いてる時は、受付をしてくれるんだ、今はなんとかそれで回してくれ」
「はあ……」
「うちのギルドは結構厳しいんだ。これ以上依頼が達成されないと、トリンタの給金も減ることになるんだぞ」
「それはダメです! 新しい人入れなくていいです。わたし頑張りますから、お給金下げないでください」
「わかってくれたか。まあ、今の人数ならなんとかやっていけるから大丈夫だ」
給金が下がらなくて、ホッと胸を撫で下ろし、いつも以上に笑顔を見せて受付の仕事につくトリンタだった。
頭には見た目に反して、丸くて小さい耳があり、数日剃らなかったのか口回りには灰色の無精髭が。
どうやら熊の獣人らしい。
「お待たせしました」
「あんたがブゲット盗賊団を捕らえてきた冒険者か」
「ブゲット盗賊団?」
「なんだ知らねぇのか」
「この方は昨日町に着いたようなんです。ギルドカードは王国発行のようですので、ブゲット盗賊団のことは知らないかと。ギルド長」
「なんだ、帝国領土の冒険者じゃねぇのか」
「……ギルド長!?」
「おう。わいは、ここのギルドマスターをしてる『グリズ』ってもんだ」
「これがこの方、えっと…カズさんのギルドカードです」
グリズがカズのギルドカードを受付の女性から受け取り確認する。
「ほう、Bランクか。ならブゲット盗賊団を捕らえる事も出来るか。で、わざわざ王国からこんな所まで来たのは、まさか旅行だなんて言わないよな」
「目的があって、旅をしてる途中です。ここに来たのは、少し前に兎人族の村に寄った時に、一番近い街を聞いたら、ここだと言われて来たんです」
「『トリンタ』の村か」
「トリンタ? あの村トリンタって言うんですか?」
「違う違う。こいつの名前がトリンタ」
グリズは兎人族の女性職員の頭を撫でて、カズに名前を教える。
「もう、いつもいつも気安く頭をこねくり回さないでください!」
「ぐわっはは、わるいわるい。低いトリンタの頭が、ちょうど手の位置にあるんでな」
「わたしそんなに小さくありません。ギルド長が大きいんです」
「あのう、それでギルドマスターが俺に何か用でも? (何でどこのギルドに行っても、すぐにそこのトップと会う羽目になるんだ)」
「いやなに、ブゲット盗賊団を捕らえた冒険者を見ておきたくてな」
「それだけですか? (拘束して連れて来たのは俺だけど、倒したのはアレナリアなんだよね)」
「まあ、それだけって理由じゃないんだが。優秀な奴なら、この町に滞在して、溜まってる依頼を片付けてもらおうかと思ってな」
「え……」
「長い間残ってる依頼を受けてくれるなら、報酬に色を付けるぞ」
「町から離れて数日掛かるような依頼でなければ、別に構いませんが」
「馬車で一緒に来た連れのことか?」
「ええ、まあ」
「連れも冒険者だと聞いているが」
「一人はそうです」
「ならそいつに、留守を任せればいいじゃないか」
「まあそうなんですが、それでも俺が出ている間に、知らない土地で何かあったら大変ですから」
「心配性だな。お! だったら、パーティー登録をしたらどうだ。ギルドカードにパーティー名が表示されてなかったから、まだ組んでないんだろ」
「パーティーですか?」
「ああ。パーティー登録していれば、無理な引き抜きをしようとする奴や、絡んでくる連中がいれば、ギルドを通して、そういう連中のパーティーに圧をかける事も出来るぞ」
「へえ。それは、どこの国のギルドでもですか?」
「パーティーのランクや、ギルドの貢献度にもよるがな。少なくともソロで活動するよりは、評価が上がるぞ。人数が揃えば、出来ることも増えるからな」
「パーティーか……。暫くこの町に滞在する予定なので、仲間と相談して決めます」
「そうか。もしパーティー登録するようであれば、パーティー全員の名前と、代表となる者、あとはパーティーの名前が必要だから考えおくことだ」
「パーティーの代表と、パーティー名」
「ギルドカードは返しておく。今日一日話し合って決めたらいい。依頼を受けてくれるなら、それも明日からで構わない」
「分かりました。それじゃあ、今日はもう」
「おっと待った。忘れるとこだった」
「なんですか?」
「ブゲット盗賊団を捕らえた報酬だ。正式に依頼を受けたわけじゃないから、額は少ないが受け取ってくれ。トリンタ」
「はい。こちらです」
「いいんですか?」
「旅をするなら、金はいくらあっても困らんだろ」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
渡された布袋の中には、金貨が数十枚入っていた。
「こんなに、ちょっと多くないですか?」
「妥当だろ。実害が出ていた盗賊の一団を捕らえたんだ」
「これはどうも(臨時収入が入ったのは嬉しいんだけど、明らかに目立ったな。でもギルドに数人しかいないから、まあ大丈夫か)」
「明日来るのを待ってるからな」
軽く会釈をしてカズはギルドを出た。
「変わった人でしたね。報酬が多くて困るなんて。威圧されるような感じもしなかったですし、物腰の柔らかい人でしたね。本当にBランクの実力があるんでしょうか?」
「軟弱そうに見えたか? わいにはBランク以上の強さがあると感じたぞ」
「マスターの勘は、大して当たりませんからね。この前だって…」
「おいおい、その話はもういいだろ。わいだってたまに間違えることはある」
「たまにぃ~?」
グリズとトリンタがギルド中に聞こえるような声で話をしていると、接客の終わった兎人族の男性職員が、二人に注意をする。
「仕事中ですよ。私語は程々にしてください。それに声も大きいですよ」
「ご、ごめんなさい。副長」
「固いこと言うなよ『ダッチ』」
「そうしてほしければ、溜まってる依頼を片付けてから言ってください。自分は午後から、依頼の数を減らすた為に外出します」
「サブマス自らご苦労」
「ギルドマスター自身が動いてくれれば、溜まってる依頼はもっと減るんですがね!」
「その…なんだ、何かあった時の為に、わいはギルドの居ないとならんだろ」
「町中の依頼くらいは出来ると思いますが」
「わかったわかった。近所の依頼は済ませるからよぉ」
「まったく。それで、さっきの方は役に立ちそうなんですか? ただでさえトカ国の末端にある小さな町なんですから、旅の冒険者でも依頼を受けてくれるなら、ありがたいんですがね」
「その辺は言っといたから安心しろ。たぶん明日来て依頼を受けてくれる」
「ハァー。相変わらず楽観的な性格なのは変わりませんね」
「それがわいの良いとこだ」
胸を張りドンと叩くグリズ。
「では自分は出掛ける準備をします。少し早いですが、トリンタはギルドマスターと代わってもらい、お昼の休憩に入りなさい」
「はい……え!? ギルド長にですか?」
「任せろ。受付は笑顔で対応だろ」
「そ、そうです(こ、怖い。その笑顔じゃあ、皆入ってこないよ)」
グリズの笑顔は厳つく、それを見たトリンタはビクっとした。
「ん、なんだ? いい笑顔だろ」
「は、はい。いい笑顔……です(早くお昼食べて、戻って来ないと)」
トリンタが昼食を取りにギルドを出ると、グリズは自分専用の大きな椅子に座り、どんと受付で構え、ギルドに来る者を待つ。
大柄の獣人が受付で座ってるのを見て、ギルドに来た何人かは入口でUターンして、出て行ってしまう。
「……やっぱり(これだからギルド長に、受付の仕事は任せられないのよ)」
予想通りの事が起きていたので、トリンタは昼の休憩を早々に切り上げ、受付の仕事に戻った。
「ギルド長、受付の仕事をしてくれる女性職員増やしませんか? 今わたしを含めて、三人しかいないじゃないですか」
「どちらかといえば、職員よりも依頼を受けてくれる冒険者が必要なんだが」
「それは、わかりますが……」
「サブ・ギルドマスターの奴も時間が空いてる時は、受付をしてくれるんだ、今はなんとかそれで回してくれ」
「はあ……」
「うちのギルドは結構厳しいんだ。これ以上依頼が達成されないと、トリンタの給金も減ることになるんだぞ」
「それはダメです! 新しい人入れなくていいです。わたし頑張りますから、お給金下げないでください」
「わかってくれたか。まあ、今の人数ならなんとかやっていけるから大丈夫だ」
給金が下がらなくて、ホッと胸を撫で下ろし、いつも以上に笑顔を見せて受付の仕事につくトリンタだった。
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