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四章 異世界旅行編 2 トカ国

331 トカ国の西にある小さなキ町

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 オリーブ王国を離れて最初の国、帝国傘下の一つ『トカ国』その西に位置する『キ』という名の小さい町。
 それでも人口は五百と、それなりに多くの人達が暮らしている。
 大きな建物や賑わった商店がある街、というよりは、日々の暮らしを楽しみながら生活をしている町、といったところだろうか。
 オリーブ王国ではキッシュ達が暮らす、リアーデのといった感じだろう。
 国が変わっても、通貨は使用可能だった。
 ただ王国金貨と王国白金貨は、国同士のやり取りに使うような高額な貨幣の為、一般人や単なる冒険者が使える代物ではない。
 人口の半分が人族、半分弱は獣人族、あとの少数は奴隷。
 帝国領土では当然のように、奴隷があちこち居る。
 その事実を知るのは、カズ達が町の冒険者ギルドに行き、話を聞いてからであった。



 盗賊のリーダーブゲットと、アレナリアに気絶させられた一人以外は、カズの土魔法で足を拘束され動けなくなっていた。
 最初は動けないと騒ぎ、馬車を降りたアレナリアに罵声を浴びせていたが、特定の単語を言った盗賊から次々と気絶させられていき、最後には全員が意識を失わされた。
 アレナリアと変わり、馬車から降りたカズは、盗賊が持っていた縄を使い全員を縛り上げた。
 盗賊全員に水をかけて目を覚まさせたが、リーダーのブゲットだけは起きなかった。
 仕方がないので、ボコボコにされ気を失っている盗賊のリーダーを、レイジブルに乗せて町へ向かった。
 馬車の操作はアレナリアに任せて、カズは盗賊とレイジブルを縄で繋げて、引っ張って連行する。
 盗賊を連行したことにより移動速度は落ち、町に入る門が見えてきた頃には、既に夕方になっていた。

 カズは門を警備している、国の兵士に事情を説明して、盗賊を引き渡した。
 最初は疑われたもしたが、アレナリアが馬車から降り、冒険者だとギルドカードを提示したことで信じてもらえた。
 冒険者ならギルドに報告しておくから、報酬を受け取るといいと、兵士の一人に言われた。
 カズもギルドカードを提示し、ビワはルータが持たせたオリーブ・モチヅキ家の紋章が入った身分証を兵士に見せた。
 ギルドカードを提示したカズとアレナリアより時間は掛かったが、ビワも無事に町へ入ることができた。
 冒険者ギルドでの情報収集は翌日にして、伸び伸びと足が伸ばせる宿を探し、遅い夕食を済ませ、四人共この日は早く休んだ。


 ◇◆◇◆◇


 目を覚ましたビワとアレナリアは、カズが寝ている部屋へ。
 宿の泊まった部屋は寝室が二部屋あり、片方の部屋にはベッドが二台、もう一方の部屋にはベッドが一台。
 部屋割りはベッドが二台ある部屋にアレナリア、レラ、ビワの三人、ベッドが一台ある部屋にカズ。
 二部屋の間にテーブルと椅子が6脚ある八畳程部屋があり結構広い。
 長旅の疲れを癒す為に、今回は奮発して良い部屋に泊まった。
 カズがまだ寝てるかも知れないと、ビワは扉をノックして声を掛けようとする。
 アレナリアはビワの手を掴み止める。

「アレナリアさん?」

「しッ、静かにして。カズがまだ寝てれば……ムフフ」

 音を立てないように、そっと扉を開けるアレナリア。

「あれ?」

「何やってるんだ?」

「! べ、別になんにも。カズが起きてこないから、起こしに来ただけよ」

「ふ~ん……で、俺がまだ寝てれば、なんだって」

「なな、なんのことかしら、おほほほほ」

 カズは正面から、じっとアレナリアを見る。
 いつもなら喜びそうなアレナリアが、カズから目を背ける。

「……ごめんなさい」

「アレナリアが変な行動しとうとしたら、次からは止めて。頼むよビワ(用心して寝室が二部屋ある所を借りたけど、これならいつも同様、別々の部屋を借りればよかったかも)」

「あ…はい」

「そういえば、レラは?」

「起きないので、まだ寝かせてます」

「よく寝るなぁ。そろそろ起こして、朝ごはんにしよう」

「そうね。レラが起きるのを待ってたら、お昼になっちゃう」

 レラを起こして、四人は前日の夕食同様、部屋で遅い朝食を済ませる。
 宿屋の部屋も広く良さそうだったので、この町に滞在する数日間は、引き続きこの宿に泊まることにした。
 国や町の状態が分からなかったので、一先ずカズ一人で冒険者ギルドに向かいながら、町の様子を見ることにした。
 他の三人はカズが戻るまで、部屋で待機。
 アレナリアとビワは聞き入れたが、レラ一人だけ不満そうな顔をしていた。
 旅の間中、自重するようにと言い聞かせたかいがあり、渋々ながら宿で待機することを聞き入れた。
 カズは一人で宿を出て、町を散策しながら冒険者ギルドに向かった。

 町の住人を見る限り、オリーブ王国と大して変わりはない。
 ただ目立つのは様々な種族の奴隷、首と両腕もしくは両足にかせが付けられた姿。
 枷に鎖は繋がってはおらず、一見すると、冒険者が付ける装備品にしか見えなくもない。
 働いてはいるが、無理強いされているのではなさそう。
 奴隷の表情は疲れているようだが、苦しそうには見えない。
 中には主人と思わしき人と、楽しげに話をしている奴隷も。
 町にある数少ない商店の幾つかには、店番をしてる奴隷なんてのも居た。
 奴隷だからとさげすみ、酷い扱いをしているわけではないんだと、カズは少し安心した。

 カズは兎人とじん族の村の酒場の店主が言っていた、種族売買の事を思い出した。
 危険だから口には出すなと、しかし働いている奴隷の表情を見ると、売られて無理矢理来たという感じには見えない。
 種族売買が行われていなければ、多種多様の奴隷は、帝国領土内で罪を犯し奴隷となったものなのか、と。
 それとも帝国領土では、組織による種族売買が黙認されているのだろうか……?
 暗黙に認知されているから、売られた奴隷も辛い表情をしないのだろうか……?
 どちらにしても、確たる証拠もなくそんなことを考え、厄介事に巻き込まれてはたまらない。
 ビワの過去を思い出し故郷に連れて行くという目的、レラが住んでいた村を探しだす旅でもある。
 だから、ただの旅をする冒険者として、目立たず行動しようと、レラだけではなく自分にも言い聞かせ、カズは通りの先に見えてきた冒険者ギルドに向かう。

 小さな町だけに冒険者の数は少く、ギルドもそれほど大きくはない。
 中には冒険者が数人と、依頼者と思われる二人が受付で何やら話をしていた。
 受付に職員が二人しかいないため、カズは掲示板に貼ってある依頼を見て待つ。
 国が変わっても依頼は同じ様なもの、掃除から店の手伝いに薬草採取、町周辺に出没する獣やモンスターの討伐といったもの。
 その内の一枚に、依頼完了の文字が書かれていた。
 依頼が達成されたのなら、依頼書を剥がせばいいのにと思いながら、カズはその依頼内容を読んだ。

 なになに、キ町の周辺に現れる盗賊の討伐と確保。
 複数のパーティーで討伐ならC、ソロならBランク。
 盗賊はオークをリーダーとし、他に人とゴブリンが仲間にいる。
 以前に商人から奪い取った魔道具『騎獣の首輪』でレイジブルを使役し、移動手段に用いている。
 ……これは、昨日待ちに入る前に襲ってきた連中だよな。
 そういえば、門の兵士がギルドに報告しておくとか言ってたっけ。

 受付にいた依頼者らしき人がギルドを出たのに気付き、他の誰かが行かないか様子を見て、カズは空いた受付に移動した。
 空いた受付の女性職員の頭には、長いウサギ耳がある半獣人状態(人寄りではなく、獣寄りの姿)の兎人族。

「初めて見る方ですね。今日はどの様な用件で?」 

「昨日この町に着いたばかりで、周辺の地理や道などの情報を聞きたくて。あ、これギルドカードです」

 カズはギルドカードを女性職員に提示した。

「冒険者の方でしたか。ちょっと拝見……! 昨日の夕方馬車で来られた方ですね。お連れの方は?」

「別行動で、俺だけがギルドに来たんですが」

「そうですか……少々お待ちください」

 兎人族の女性職員は立ち上り、もう一人受付で接客をしている同じ兎人族の男性職員の元に行き、耳打ちをして判断を仰いでいた。
 指示を受けた女性職員は、足早にギルドの奥に入って行った。
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