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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

328 優しくする理由 と 騙した商人の噂

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 夕食は大量に貰った川魚を使い、残った川魚も全て活き〆にして【アイテムボックス】にしまった。
 残念なことに、既に宿屋は閉まっいたので、馬車を村の端に停めて、そこで一晩過ごすことにした。
 地面は湿っていたので、カズは馬車の前、手綱を持って操作する所で横になり寝ることにした。
 アレナリアとレラは、いつものように馬車の中で就寝。
 ビワだけは、まだ眠らずにいた。
 思い返せばデュメリル村にいた二日程の間、ビワは以前のように人見知りをして、ツツエともあまり話してる様子もなかった。
 どうしたのかと、カズはビワに尋ねた。

「リザードマンの印象は、苦手だった?」

「最初はそうでしたけど、今はそんなことはないです。ツツエさんは優しかったですし。私、何か変ですか?」

「結局デュメリル村でも、馬車で寝る事になっちゃったから、疲れてるのかなって」

「そう…ですね、それもあります」

「他に何かある? 遠慮なく言って」

「私の気のせいなら……カズさんが」

「俺?」

「今朝、村長さんのお宅から戻って来てから、なんだか少し……」

「俺、不機嫌だった? 自分ではそんなつもりなかったんだけど」

「不機嫌というか、何か思い詰めているような」

「思い詰めて、か……(ギギオの行動を見てたら、少し嫌だった昔の自分を……)」

「カズさん、大丈夫…ですか?」

「ん? ああ、なんでもない。心配かけてごめん。俺は大丈夫だから」

「そうですか。良かった」

「明日この村で、リザードマン達を騙した人族について聞いてみようと思う。交流の少ない他の村でも、同じ事をしてるかも知れないから。どんな人物だったか分かれば、この先気を付けられるし、立ち寄った小さな村で注意もできるしね」

「そうですね。それは良い考えだと思います」

「とりあえず、次の村か街までの道を聞いて、足を伸ばして寝れる広い宿があったら、そこで数日はのんびりとしようと思う。ここまでの旅の疲れを取らないと」

「はい」

「でもまだ暫くは馬車で寝泊まりだから、夜更かししないで早く寝よう」

「はい。あ、あの……」

「ん?」

「カズさんはどうして私に、そんな親切にしてくれるんですか?」

「う~ん、俺も帰る所が分からないっていうか、帰り方が分からないんだよ。ビワと境遇が似てるから、かな」

「え!? そうなんですか? 初めて聞きました」

「そうだっけか。まあ別に話したところで、どうなるもんでもないんだけど(砂漠で夜空を二人で見上げた時に、話してなかったか)」

「アレナリアさんとレラは、その事を知ってるんですか?」

「レラには話してなかっ……いや、どうだったかな。でも確か知ってると思う。俺が話したか、フローラさんに聞いたかのどっちかで。あと付け加えて言うなら、俺この世界の住人じゃなんだ」

「住人じゃ……え!?」

「なんて言ったっけかな。えーっと、アイアさんが……あ、迷い人だ」

「迷い人……カズさんが?」

「まあ、そうなるのかな。俺自身も迷い人って言葉を知ったのは、フローラさんの祖母アイアさんからで、それも王都を出る少し前なんだ」

「それって、軽はずみに言っていいんですか?」

「駄目だろうね。でもビワに話しても別にいいかなって。旅をする仲間だし、どうせその内に分かるだろうから」

「でも…私が、もし誰かに……」

「例えビワが誰かに捕まって、この事を話さなければ、更に危険な状態になるというなら、話してくれて全然構わない。俺のことよりビワの方が大事だから。それにビワをそんな危険な目に合わせないよう、守る為に俺は居るんだから」

「あ……はい」

 自分を守るというカズの言葉を聞いて、頬を赤くするビワ。

「俺が迷い人だってのは、ただの戯れ言だと思ってくれればいいよ。その方が気が楽でしょ」

「戯れ言って……無理ですよ」

「そう。ちなみにレラの場合は、簡単に言うと迷子。アレナリアは……おそらく故郷には帰りたがらないと思う。色々とあったみたいだから」

「皆にも事情があるのに、私だけ故郷を目指してもいいんでしょうか?」

「いいのいいの。アレナリアもレラも承知してるんだから」

「はぁ……」

「重たい話は終わり。寝て忘れちゃおう。今日も疲れたでしょ」

「そんな重要なこと、簡単には忘れられません」

「あはは、そうかごめん。とりあえず今夜はもう寝よう。デュメリル村を出てからも色々あって、俺も久しぶりに疲れた」

 手綱を退かして、座っていたクッションを枕にして横になるカズ。

「……そこだと寝づらくないですか? こっちで寝ても、誰も嫌がりませんよ」

「気遣いありがとう。でも大丈夫だから、ビワはそっちでゆっくり休んで」

 ビワは毛布を手に取り、ボソッと独り言。

「いつも気遣ってるの、カズさんの方じゃない」

「ん、何か言った?」

「なんでもないです。おやすみなさい」

「あ、ああ。おやすみ(俺、なんか怒らせた?)」


 ◇◆◇◆◇


 天気は快晴、朝食がてら村で食事をできる店を探して情報収集をする。
 すれ違う村人は殆どがうさぎの獣人、兎人とじん族だった。
 特徴はやはりその長い耳、ピンと立っている耳もあれば、だらりと垂れ下がった耳の兎人もいた。
 レラはビワが持つ肩掛け鞄の中、アレナリアはマントを羽織るだけで、フードを被らずにいた。
 多くの人前で姿を見せるのも、少しは慣れてきたようだ。
 手頃な食堂を見つけ、中に入り朝食にする。
 ここでの主食もパンのようだ。
 他には川魚の燻製や干物がある。
 デュメリル村から川魚を買っていると聞いていたので、予想はしていた。
 加工した川魚を人族に売っているとも聞いたので、それとなく店の者に尋ねる。
 少し困るような表情をしたが、そっと銀貨一枚(1,000GL)を差し出すと、それを他の者に見つからぬよう手に取ると話し出した。

 デュメリル村のリザードマンを騙し、川魚を多く手に入れた人族の商人のこと、この村の誰もが知っているらしい。
 村の宿や酒場で、金を払う客だからと悪態をつき、酔うと口が軽くなり、騙される奴が悪いとリザードマンのことを話していたそうだ。

 その話を聞いていた隣の席にいた常連の客が、更にこんな事もあったと話し出した。

 酒場で働いていた若い娘を隣に座らせて、あれやこれやと自慢話。
 酒が進むと、尻や胸を触りはじめたってたから質が悪い。
 酒場の店主も我慢しきれず、注意したが聞く耳をもたず、力ずくで追い出そうとしたが、一緒に居た護衛の冒険者に返り討ち。
 その後、嫌がるその若い娘を、無理矢理宿に連れていって……かわいい一人娘だったのによ。

「もういいわ。せっかくの朝食が不味くなる」

 アレナリアは常連の客の話を遮り、その表情は不快感であふれていた。

「おっと、これはわりぃ。朝から子供に聞かせる話じゃねぇな」

 アレナリアの眉はピクリと上がり、子供という言葉が引っ掛かった。
 常連の客を、今にも怒鳴り付けそうだと感じたカズは、朝食の代金を払い、早々に店を出る。
 一応、問題が起きた酒場の場所をカズは聞いていた。
 このまま機嫌の悪いままのアレナリアを連れて行くと、また何かを言いそうなので、一旦馬車へと戻った。
 ビワも嫌な事を聞いたと思ってそうだったので、三人には馬車で待ってもらうことにした。
 ここまで特に怪しげな視線や気配は感じないので、レラとビワの守りはアレナリアに任せれば安心だと、カズは一人で例の酒場に向かう。
 酒場に着くと開いてはいるが、朝から酒を飲むような者は居らず、客は誰一人としていなかった。
 カズは店に入り、店主にこの村から行ける街があるか聞いた。
 店主は無愛想に、酒のビンを見せて答えた。

「ここは酒場だ。客なら先ず酒を頼め。話が聞きたければその後だ」

「確かに、それは悪かった。一杯もらおう」

 カズはカウンターに銀貨を起き、出された酒を一口飲む。
 すると店主が小高い丘を越えた先にある街のことを話した。
 帝国の端にあるため、そこまでは大きくない。

「帝国!?」

 店主の言葉に、カズは聞き返した。

「なんだ知らないのか」

 酒場の店主は話した。
 次の街からは魔法技術が発展し、様々な『マジックツール』やアイテムが作られている『テクサイス帝国』その統治下にある『トカ国』だ、と。
 出回ってる魔法道具の大半が、テクサイス帝国で作られたもの。
 生活道具から、冒険者が使う武器なんかもあったりと便利だが、偽物パチモンを掴まされると、魔道具に込められた魔力が暴発して、手が吹っ飛ぶなんて事もある。
 だからその辺の露店や、安く売ってる店で買うのはやめた方がいい。
 大抵怪我をするのは、金の無い連中や新人の冒険者なんかだ。
 掘り出し物を見つけ転売するか、武器ならそれを使ってレベル上げか、欲しがる冒険者に高値で売り付けるかだ。
 そんな連中が後を絶たないから、そういった店も無くなりはしない。
 余程の目利きか鑑定のスキルがなければ、最悪の結果は死。
 魔道具を買うなら気を付けることだ。

 テクサイス帝国はオリーブ王国に比べて大きく、危険が多い国だと話だけでも分かった。
 カズは今まで以上に気を付けることにした。
 大きな街なら人混みに紛れて、なんて事にならないよう尚更注意だ。
 これから進む先の情報は聞けた、次にカズは例の事について店主に聞く。
 すると店主の表情は険しくなり、口ごもり黙ってしまった。
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