人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

327 勝敗 と 別れ と 幼馴染みと笑い話

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 ギギオは渾身の力を込め、カズの顔面目掛け拳を振るう。
 カズが左腕でギギオの拳を受け止めた。

「なッ!」

 腕が折れるどころか、少しも後退することもなく、軽々と止められたその事実に、驚きを隠せないギギオ。
 カズは受け止めたギギオの拳を、そのまま左腕を上げて払い除け、右足を一歩前に出すと同時に、ギギオの腹部目掛けて右の拳を突き立てた。

「おご…がぁ……」

 ドスッと重い音と共に、カズの拳がギギオの腹部へと沈む。
 嘔吐おうとしそうになったギギオの意識は飛び、白目を向いて倒れ気絶した。
 その場に居た他のリザードマン四人は、目の前の光景に唖然として固まる。

「やばッ、力入れ過ぎた〈ヒーリング〉」

 カズは倒れたギギオに触れ、回復魔法ヒーリングを使い、ギギオの怪我をすぐに治した。

「骨は折ってないが、一応、回復はしておいた。俺達はもう行かせてもらうよ。ギギオが目を覚まして俺が居たら、面倒になるかも知れないから」

「腹に鱗はないとはいえ、人族が素手でここまでの威力を出せるものなのか?」

「人とリザードマンで、素手の勝負なんて平等じゃないと思うが。最初っからそれを分かって勝負させたんじゃないの」

「カズ殿なら、なんらかの強化をして、戦う事が出来るとふんでた。何も言ってこなかったから、カズ殿もそのつもりだと」

「魔法かスキルで強化して攻撃したんだろ。素手の勝負と言ったが、魔法やスキルは使うなとは言ってないからな。ギギオはそれに気付かないから、そうなるんだ」

 人族だと侮り、勝負の方法を確かめないギギオが負けると、端から分かっていたような口振りをするゼゼイ。
 カズが強化魔法かスキルを使って、ギギオを攻撃したとザザウとゼゼイは考えていた。
 しかしカズの返答に、二人は更に驚くのだった。

「いや、俺は何も強化してない」

「そうだろ、やっぱり強化……なにッ! 強化してないだぁ? なら素手だけで、オレ達リザードマンの肉体にダメージを与えたってのか!」

 ザザウとゼゼイはカズに目を向け、平然とするその姿に、背筋の鱗がブルッと震え、ゾクッと寒気を感じた。
 勝負がついたのを見て、アレナリアとレラが自慢するように話だす。

「人族にも強い者は居るってこと。ただカズみたいに優しい人なんて、そうそういないわよ」

「いいこと、ギギオってのが目を覚ましたら言っておきなさい。今度あちし達にちょっかい出したら、この程度じゃすまないって。次は容赦しないわよ! もうボッコボコにするから! カズが」

「って俺かよ!」

「テヘヘ」

 片目を閉じてベロを少し出し、左手で自分の頭を小突き、可愛いから許して、と言わんばかりにするレラ。

「……まあなんだ、アレナリアの言ったように、見た目や種族で判断しないように、ギギオに言っておいて。元々それがデュメリル村の方針だったんでしょ。これから森の外で生きていくなら、尚更そうした方がいい」

「追放になってから言うのもなんだが、改めて三人には、よく言い聞かせておく」

「あと、レラが言ったことは、忘れてくれてくれ。口が悪くて申し訳ない」

「えぇー、なんであちしだけ」

「レラの言い方は、喧嘩を売ってるようにしか聞こえないの(まったく、ボッコボコとか言っておきながら、よくそんな態度をとれたもんだ)」

「売ってきたのは、ギギオってリザードマンじゃない」

「ほら、いいから馬車に乗った乗った。もう出発するぞ」

「フンッ、分かったもん!」

「それじゃお世話になりました。昨夜の夕食は楽しく、魚料理も美味しかったです」

「世話になったのはこちらの方だ。最後まで迷惑をかけて申し訳ない。皆さんならいつでも歓迎する。近くに来たら必ず寄ってくれ」

「ええ」

「また来いよお前ら。ツツエも待ってるからよぉ。次来た時は、腹が裂けるくらい魚を食わしてやるからよぉ」

「あちしは絶対来る! だからツツエに他の料理を作れるように言っておいてよ。 ぜぇ~ったい、食べに来るから」

「待ってるぜ、フェアリー」

「レラだっての」

 ザザウとゼゼイに別れを告げ、カズ達一行が乗る馬車は森を出で湿地帯へと入る。
 森から少し離れると、深夜に降った雨の影響で、湿地帯に作られた道はぬかるんでぐちゃぐちゃになっていた。
 馬車が通れる程の道幅はあるが、気を付けて進まなければ、車輪がぬかるみにはまってしまいそうだ。
 もし道から外れてしまうと、馬車が泥に捕まり、完全に立ち往生する羽目になる。
 カズはそれを回避するため、馬車に〈アンチグラヴィティ〉をかけて馬車を軽くし、馬車を引くホースに〈身体強化〉を使用した。
 これによりぬかるみに車輪が取られる可能性は格段に低くなり、更にはホースの負担が減って、馬車の進む速度が上がる。
 この分であれば今日中には、デュメリル村と交流をしている、小高い丘の麓にある村に着ける。
 ただ心配なのは、食事をできる店や宿屋が開いているかどうかだと、カズは考えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃、カズ達と別れたリザードマン達は、まだその場所に留まっていた。
 ギギオの目が覚めるのが、思っていたよりも遅かったからだった。
 追放された三人が森から出て行くのを確認してから村に戻ると、深夜になってしまうため、ザザウとゼゼイはこの場所で一晩を過ごして、翌朝村へ戻ることにしていた。
 夜の湿地帯は危険だからと、ギギオ達も森を出るのは翌日にしろとザザウは告げた。
 カズに一撃でのされたギギオは、悪態をつく元気もなく、ザザウ達と最後の夜を過ごすことにした。
 携帯用の燻製した魚を食べ終えると、ザザウを誘い焚き火から離れて二人になるギギオ。

「オレが気を失った後、アイツらは」

「自分が居ると、ギギオの機嫌が悪くなると思ったんだろ。勝負の後、すぐに馬車を出した」 

「殺そうとしたオレに気を使いやがって、最後まで気にくわねぇ奴だ」

「これから先どうする気だ?」

「ボボウとデデイの二人を連れて、住める場所探す。オレが巻き込んだんだ。面倒は見るつもりだ」

 焚き火の側でゼゼイに監視されながら寝ている、二人のリザードマンをギギオは見る。

「ツツエ…」

「ザザウつがいになればいい。ゼゼイだってそう思ってる。ツツエはオレじゃなく、お前に気があった」

「な、なにをッ!」

「気付いていなかったのは、お前だけたザザウ。オレだけじゃなく、ゼゼイだってわかっていた。これ以上ザザウが鈍感で気付かなければ、オレが強引に言い寄ってつがいになっていたかも知れんが。今となっては、何を言っても」

「ギギオ、お前だってツツエのことを」

「子供の頃の話だ。オレはもうデュメリル村のリザードマンじゃない。ツツエを幸せにしてやれ。たらたらしてると、他のオスに落とされるぞ」

「何を勝手な事を……」

「悪かったな。今度はお前達が村に来る者を疑うようにしろ。もう二度と、オレのような者は出すな」

「お前に言われなくても……わかってる」

「ザザウは昔から頭が固いんだ。もう少し柔軟な考えをもて」

ギギオおまえが言うんじゃねぇ」

「ギャハッは。ザザウと話してたら、子供ガキの頃みたいで、気分が落ち着いたぜ」

「遅せぇんだよ! この、バカが!」

「ギャハッは、確かにな」

「何年か外の世界を見たら戻って来い」

「なに寝惚けたこと言ってやがる。オレ達は追放になったんだぞ」

「すぐには無理だが、村の皆からわだかまりを解いて、向かい入れるようにしてみる」

「そんなこと…」

「今すぐにとは言ってねぇんだ。気長に旅して考えろ」

 笑い声に誘われ、様子を見に来たゼゼイが二人の話に加わった。

「オレも説得しといてやる」

「ゼゼイ……」

「ただし戻って来ても、改心してなかったら意味ねぇぞ」

「まだ戻って来るとは」

「ツツエに殴られる覚悟しておけよ」

「ギャハッは。そいつはぇや」

「……必ず戻って来いよ」

「他に居心地の良い場所が見つからなければな。ザザウもツツエと子供ガキを作っとけ」

「ギギオてめぇ」

「そいつぁ、いいこった」

「そいういゼゼイは、つがい相手はどうなんだ」

「オレは……まあ、いつか」

 三人の話はまだまだ続き、夜は更けていった。
 ギギオと一緒に追放になったボボウとデデイは、焚き火の近くで大口を開け眠ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 子供の頃のように話し合えるようになったザザウとギギオに、ゼゼイが加わりツツエの話をしていた頃、湿地帯に作られた道を進んで来たカズ達一行の馬車は、小高い丘の麓にある村に着いていた。
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