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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

326 下された処分

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 ツツエの悲しむ顔を見たくなかったゼゼイと、幼馴染みのザザウの温情により、処分はデュメリル村からの追放となった。
 以後ギギオ、デデイ、ボボウの三名は、デュメリル村のあるこの森に近付くのも禁止。
 もし森に入り、デュメリル村に近付くようであれば、敵とみなし対処すると告げた。
 例え罰を与えて村に残しても、同じ事を繰り返し、他の種族との交流を妨げることになりかねない。
 それを聞いたギギオは、声を荒らげ反論をした。

「オレ達のような考えの者がいなければ、また騙され利用され、辛い思いをするのはお前らなんだぞ! 人族なんて信用する値しないだ!」

「ギギオよ、お前の考えはわかる。だが、な、それをいつまでも引きずっていたら、いずれ村は廃れてしまう」

「だからって、薄ぎたねぇ人族なんかに」

「全ての人族が我々を騙した者と同じではない。ここに居るカズ殿は、わしとの約束を守ってくれた」

「約束だぁ?」

「もし村の者に襲われたとしても、決して殺さないでほしいと。多少の怪我くらいはと考えていたが、無傷で捕らえてくれるとは思ってなかった」

「人族なんかに、オレ達が殺られると思ってたのか」

「現にこうして、拘束されおるではないか」

「ッチ……」

「ギギオ、カズ殿は強い。お前が考えているよりも」

「こうなる事を、村長はわかってたのか」

「こんな事をする愚かな者がいなければ。と、わしは信じたかった。だがそれは、駄目だったようじゃ」

「オレ達の考えに賛同する連中がもっといれば、こんな無様な事には……」

「このバカ野郎が! 寝静まった深夜に、三人で忍び込んで返り討ちになった奴が何言ってやがる」

 ギギオの情けない言い訳を聞いたザザウが、怒りを露にする。

「話を聞いてなかったのか。村長の頼みがなければ、お前達は殺されても、おかしくなかったんだぞ」

「罰は受けるつもりでいた。だかコイツら二人はオレの指示に従っただけだ。追放ならオレ一人にしてくれ」

「そうはいかん。共犯なんじゃから」

「だったらオレと、そこの人族のカズと一対一さしの勝負をさせてくれ」

「ギギオお前、自分の立場をわかってるのか!」

「オレの最後の頼みだ。お互いに武器は使わない素手での勝負。オレが勝ったら、追放処分はオレ一人にしてくれ」

「待ってくれギギオ。処分を受ける覚悟は、おれ達にもある」

「実際に手を貸して、そこの人族を襲ったんだ」

 今まで黙っていた共犯のデデイとボボウが、自分達を庇おうとするギギオを止める。 

「いくら言おうと、決定は変わらん」

「……」

「村長。オレが森の外まで連れて行く」

「オレも付き合おう。森からは離れるか確認する者が必要だからな。いいだろ村長」

 ギギオ達を森の外まで追放する役目を、自分が負うとザザウが志願する。
 それを分かっていたのか、ゼゼイも同行すると手を上げた。
 暫し考え、村長のズズイは口を開く。

「わかった、いいじゃろう。すぐに支度を」

「なら俺達も一緒に付いて村を出ます」

「しかし、今回の詫びをせねば」

「ここでその拘束を外して、また縛り上げるのは面倒でしょう。俺達が一緒に行けば、その必要はなくなりますから」

「こんな事になって申し訳なかった」

「怪我もしてないですし、もう終わった事ですから。出発の準備をしたら、村の入口で待ってます」

 村長の家を出たカズは馬車へと戻り、レラ、アレナリア、ビワの三人に村を出ることを伝えた。
 三人の朝食は、ツツエが用意してくれたようで、既に食べ終えた後だった。
 なので特に準備するようなこともなく、カズはそのまま馬車を走らせ村の入口まで行き、ザザウ達が来るのを待った。

 三十分程するとザザウが装備を整え、拘束した三人を縄で繋げ、村の入口まで引っ張ってきた。
 その表情はとても重苦しい。
 背後にある建物の片隅では、悲しそうにして見送るツツエの姿があった。
 幼馴染みのツツエに気付いていたギギオだが、決して振り向くことはしなかった。
 覚悟していた事とはいえ、合わせる顔がない。

 少し遅れて、ゼゼイが養殖池の方からやって来た。
 村衛の仕事をしているので、武器を携えている格好は変わらない、ただ違うのは大きな樽を抱えていたことだ。
 村からのお詫びだと、養殖池から大量の川魚を入れて運んできた。
 村長からの言伝てで、是非受け取ってほしいと
 お詫びと言うのであれば、断るのも申し訳ないからと、カズはありがたく頂戴した。
 レラは一人、大いに喜んでいた。
 全員が揃ったところで、ザザウとゼゼイ案内のもと、デュメリル村を離れ川沿いの道を川下へと向い進む。

 村が離れ暫くすると、ザザウが独り言のような小さな声で、ギギオに話し掛けた。
 これが幼馴染みと話す、最後になるかも知れない。
 ザザウは子供の頃に、ツツエと三人で遊んだ話をする。
 ギギオは黙って聞きながら、ザザウの後ろを付いて行く。
 縄で繋がれてるとはいえ、無理に引っ張ってるわけではない。
 縄の縛りは緩く、外そうと思えば簡単に外せる。
 縄はあくまで、罪を犯した者を、村から連行する為の見せしめを兼ねて、それはギギオ、デデイ、ボボウも承諾してのこと。

 川沿いの道を進むこと数時間、木々が減り、森の終わりが見えてきた。
 いつの間にかザザウの話は、子供の頃の楽しい思い出から、外で暮らしていく為の助言に変わっていた。
 もうすぐ森を抜ける所で、不意にザザウがカズに不躾な願いをした。
 それはギギオが最後の頼みと言った、カズとの勝負。
 ザザウは何を言っているのかと、ギギオは目を見開き驚いた。
 ゼゼイはなんとなく悟った。

「今になって、どういう風の吹き回しですか?」

「ギギオが外で人族に絡まないよう、今ここで、人族のカズ殿の力を見せてもらいたく。不躾で勝手な願いなのはわかっている」

「オレからも頼むぜ」

 悩むカズに、レラとアレナリアが後押しをする。

「やってあげれば。どうせカズには勝てないんだから。もしカズが力を出して、そこの三人を対処してたら、どうなってたか見せてあげなさいよ」

「あちし達に魚をいっぱいくれたんだから、ちょっとくらい相手してあげてもいいんじゃない」

「他人事だと思って。ギギオあんたは、どうなんだ?」

「このモヤモヤを解消するには、お前を一発殴ってスッキリさせる他ねぇ」

「ヤル気満々か。分かった(とは言ったが、さてどうするか)」

 カズは馬車から降りる。

「カズ殿、感謝する」

「オレはザザウに感謝するぜ。コイツを殴れる機会を与えてくれて」

「その感謝は、勝ってから言うんだな。カズ殿、拘束を」

 カズはギギオ達三人の拘束している木を解除して外した。
 カズはギギオから少し距離をとり、ザザウ様子を見て開始の合図をする。

「いくぜ!」

 硬い鱗に覆われた、太い腕から伸びる大きな拳がカズに迫る。
 攻撃は全て大振り、拳が当たらないと次は尻尾も使い攻撃する。
 ギギオが何度も攻撃しようと、カズに一発も当たらない。
 次第にギギオは息を切らし、攻撃する回数が減る、しかし止めることない。

「ゼェ、ゼェ…どうした。なぜ攻撃してこない」

「どうしたら納得してくれるかと思って(実力はザザウさんと同等くらいか。だとすると、Cランク強の冒険者ってとこだな)」

「納得だぁ? オレをバカにするな! 男の勝負に、手加減なんか不要。あの時、村長が勝負を認めてくれていたら、追放はオレ一人ですんだんだ」

「村長が認めても、俺は受けなかった」

「なぜだ? 今は受けただろ」

「例え俺が負けて、そっちの二人の追放がなくなったとしても、村の皆が今までと同じ様に接してくれると思うか? どうしてもわだかまりは残る。悪ければ村八分だ」

「村八分?」

「村の者全員から無視されて、仲間外れにされてしまうこと」

「デュメリル村の連中は、そんなことしない!」

「だが問題を起こしたんだ、立場は悪いままだろ。それにだ、それを分かってながら、お前のやった事は村の皆を裏切った事になるんだぞ」

 ギギオは顔をしかめ、歯を食いしばる。

「ぅぐ……もういい。決着をつけようぜ」

「次は俺も攻撃するぞ」

「なめやがって、覚悟しやがれ」

 カズが構えると、ギギオは荒立った気持ちを落ち着かせて息を整え、右の拳に力を入れてカズの顔面に狙いを定める。
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