上 下
337 / 712
四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

323 デュメリル村で一泊

しおりを挟む
 村長ズズイの言葉に、躊躇いを見せるカズ。

「オレからも頼む。村の者が危害を加えたりはしない。だからどうか……」

 カズは隣に座るアレナリアとビワを見る。

「こんだけ頼んでるんだし、いいんじゃないの」

「私も…いいと思います」

「分かりました。一日お世話になります」

「嫌いなのは人族なんでしょ。だったらあちしが出てもいいよね」

 ビワの持つ肩掛けの鞄から声がし、驚いて目を移すズズイとザザウ。

「いやー。久々に入った鞄の中は狭かった」

 肩掛け鞄から勝手に飛び出すレラ。
 ズズイとザザウは、飛び出したレラを見て目を疑った。

「フェアリー!?」

「これはまた……珍しいのぉ」

「レラ、勝手に出るなって言って」

「いいじゃん、いいじゃん。ねぇねぇ、リザードマンって、あちしを食べたりしないよね?」

「我々は主に魚や、森にあるの実を食べている。たまに森を荒らす獣などを狩り食べる事もあるが、希少なフェアリーを食べたりはしない。もちろん捕まえたりも」

「心配していた事とはいえ、初対面で失礼よレラ」

「アレナリアの言う通りだぞ」

 カズとアレナリアはレラに注意する。

「人族にエルフに獣人、それにフェアリー……いったいどういう組み合わせなんだ?」

「まあ、色々ありまして、この四人で旅をしてるんです。レラが鞄に隠れていたのは」

「事情はだいたいわかる。フェアリーは珍しいことで有名だ。捕まえて売買しようとする者も、少なくないだろう」

「分かってもらえたなら助かります」

「楽しそうに自由に飛び回るフェアリーを見れば、カズ殿が悪い者でないとわかる。初見では種族売買する者かとも疑ったが、そうでないようだ」

「えっと、ザザウだっけ」

「そうだが」

「リザードマンから見たカズって、種族売買をしてそうな悪人に見えたの?」

「それは……」

 目線をカズに向けるザザウ。
 穏やかな表情をしつつ、レラを心の中で睨み付けるカズ。

「大丈夫です。気にしてませんから(昨日あれだけ心配していたのに、レラの奴べらべらとよく喋る)」

「理由か……。人族の商人の事があったからだと言ったら、オレ達のした事を許してもらえるだろうか」

「今の話を聞いて、人族に好意を持てないことは分かります。レラが不躾ぶしつけなことを言って申し訳ない」

「いや、当然のことだ。今晩の食事は、我々自慢の川魚を用意しよう」

「マジー! 魚なんて食べたの何時ぶりかなぁ」

「フェアリーとは、こんなに親しげな種族なのか」

「レラが特殊だと思います。なので皆さんが知っているフェアリーと、一緒にしない方がいいかと」

「ちょっとそれひどくない~。あちしだって、れっきとした美少女フェアリーなんだから」

「それは確かにのぉ。この目でフェアリーを見れたことは、とても幸運なことじゃ」

「これは吉兆かもしれません」

「そう。あちしは幸運を呼ぶフェアリー!」

「おお!」

「えッ(簡単に騙された理由が、なんとなく分かった気がした)」

 ザザウと村長のズズイは、レラの言うことを真に受けてしまい、今まで暗い表情を浮かべていたのが、晴れやかな気持ちへと移り変わっていた。
 どや顔をするレラを見て、呆れた顔をするアレナリアとビワ。
 レラは幸運などころか、面倒事を招き込む疫病者の間違いだと、ズズイとザザウに訂正をしたかったカズだが、喜んでる二人に水を差してしまうのが悪く、言うことができなかった。

「夕食には、村自慢の川魚を用意させますじゃ。もしよければ、先程の者に村を案内させましょう。といいましても、見るような場所は、養殖池くらいしかないのですが」

「そんなこ…そうですか。ならせっかくですので、村長さんの好意に甘えて」

「『ツツエ』を呼んで、この方々の案内をするように」

「わかりました。村長」

 ザザウがカズ達を村長宅に案内した、ツツエといつメスのリザードマンを呼びに出ていった。
 ザザウが村長宅を出ると、ズズイはカズ達に向き直り話し出した。

「わしから一つ訂正させてもらいますじゃ」

「訂正とは?」

「皆さんを村に泊めることに異論はないのですが、村の者が危害を加えないかというと……」

「俺達を襲ってくるとでも?」

「そうならないようにはしますが、村の若い者が言うことを聞くかどうか」

「あんた村長なんでしょ。偉いんだったら、あちし達を危険にさらすんじゃないわよ」

「フェアリー殿に言われましても、わしが村の長というのは、所詮ただの肩書きに過ぎませんからのぉ。わしの発言などたかがしれてますじゃ」

「じゃあなに、あちし達が襲われても、仕方ないってこと? ふざけるんじゃないわよ!」

「返す言葉も……。しかしそうならいように、ザザウに見張らせるつもりですじゃ」

「分かりました。一応、用心はしておきます」

「いいの? 一番狙われるのは、カズなんだよ」

「人族が迷惑をかけたんだから、そのお詫びと思って、村長さんの頼みを聞くだけだ」

「感謝しますじゃ」

「俺だけならもとかく、連れの三人に危害を加えようとしたなら」

「わかっております。村の者が怪我をしたとしても、責めたりはいたしません。村の者が起こした罪は、村で罰を与えますので、命までは取らないでもらいたいですじゃ」

「そこまでするつもりはありません。このことは、ザザウさんにも」

「わかっております。伝えておきますじゃ」

 村長ズズイと話を済ませ暫くすると、村長宅までカズ達を案内をしてきたメスのリザードマンが、ザザウに呼ばれてやって来た。

「ツツエ来たか。お前に頼みがある」

「ザザウから聞いたわ。デュメリル村を、こちらの方々に案内すればいいんでしょ」

「急にわるいんじゃが」

「大丈夫。ワタシの仕事は、いつでも出来るから」

 ツツエは村長からカズ達に向き直り、軽く会釈をする。

「改めまして。ワタシはツツエと言います」

「あちしレラ! こっちがアレナリアで、あっちがビワ。そんでもってカズ」

「ザザウから聞いていたけど、本当にフェアリーが居たのね」

「あちしレラだから。フェアリーじゃなくて、レラって呼んでよ。ツツエだって、リザードマンて呼ばれたくないしょ」

「ふふっ、そうね。よろしくレラ。それでは皆さん、せっかくデュメリル村に来たのですから、自慢の養殖池を見に行きましょう」

「よろしくお願いします」

 カズ達は村長宅を後にし、ツツエに付いて村から養殖池へと歩いて行く。
 カズを見る村のリザードマンからは、特に嫌な表情を浮かべる者はいなかった。
 誰もが穏やかで明るく、気さくに話し掛けてきた。
 本当に人族を嫌っているリザードマンが居るのかと思うほどだ。
 案内をしてくれているツツエも、レラと楽しそうに話をし、気まずくないように、人族のカズにも話を振ってくれたりもする、気が利く優しいリザードマンだ。
 レラはこれまでの旅の話を、いつものように誇張して話をする。
 あまりにも度が過ぎると、アレナリアがツッコミを入れて訂正させたりと、女性同士楽しそうに会話が弾む。
 デュメリル村へ向かう途中で通り過ぎた養殖池にたどり着くと、馬車を操作していたカズに話し掛けてきたリザードマンが近寄ってきた。

「ツツエどうしたんだ?」

「村長に言われて、こちらのお客さんを連れて案内してるの。こちらがカズさんで、レラとアレナリアさん、それにビワさんよ」

「そうか。オレは『ゼゼイ』だ。この池から上流を見回って、村を守っている一人だ」

「先程はどうも」

「おう。村長に言われて来たってことは、客人に村自慢の魚を振る舞うってことか」

「ええ。だから夕方戻って来る時に、持って来てちょうだい」

「だったら今日は、久しぶりの酒が出るんだな。あれから人族の客が来なくなったから、酒が村に入るのが少なくなったからなぁ」

 お酒のことを考えて、よだれを垂らしそうになるゼゼイ。

「お客さんの前で、今からお酒のことなんか考えないでよ兄さん。みっともないんだから」

「ええ! ツツエのお兄さんなの?」

「そうよレラ。兄さんは村を守る村衛そんえいなの。ただ聞いててわかったと思うけど、お酒好きなのが玉に瑕なのよねぇ」

「うるせい。五日に一度の休みくらいは、呑んでもいいじゃないか」

「今、お酒はあんまり村に入ってこないんだがら、五日に一度なんて言わないで、一月ひとつきに一度にしたらどう」

「おいおい、オレの楽しみを取るのかよ。ひどい妹だぜ」

「仲が良い兄妹だね」

「生意気な妹……うぉ! フェアリーじゃねぇか」

「今、あちしに気付いたのかよッ! さっきから見てたでしょ」

「多く雨が降ると、たまに出てくる虫が同じくらいの大きさだから、ついな」

「こ、このあちしが、むし…虫ですって」

「あんまりしつこく周りを飛び回るようだったら、取っ捕まえて魚のエサにしてやろうかと思ってたぜ」

「そんなんだから兄さんは、結婚相手つがいが見つからないのよ」

「余計なお世話だ! そういうツツエはどうなんだ。ザザウかギギオのどちらかに決めているのか?」

「へぇ。ツツエには、二人も選べる相手がいるんだ」

「ちょ、ちょっと兄さん! お客さんの前で、なんてこと話すのよ!」

「ガッハッハっ!」

「にっちっち。これは掘りがいがある話を聞いたわ」

 ニヤリと悪い顔をするレラ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

無知少女とラブラブえちえちする短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:36

短編集『朝のお茶会』

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

俺の犬

BL / 連載中 24h.ポイント:525pt お気に入り:298

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,675pt お気に入り:527

悪魔に囁く愛言葉

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:11

黒騎士物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

王命なんて・・・・くそくらえですわ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:3,080

処理中です...