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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

322 デュメリル村のリザードマン

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 ◇◆◇◆◇


「リザードマンの村の場所が分かった!?」

「ああ」

 リザードマンが深夜に姿を現した事を、三人に話した。

「寝たのを確かめてから現れるなんて、そいつら大丈夫の?」

「一応話して済ませることができたけど、納得してないリザードマンもいたな」

「その村に行くんですか?」

 多少不安になるビワとレラ。

「他の種族と交流をしていれば、この先の情報が入るかも知れないわ」

「アレナリアの言う通り。友好的かも知れないが、念の為に別行動はしないようにしよう。特にレラ」

「捕まって食べられるかも知らないから、村に入ったら、前みたいにカズの懐に隠れてる」

「そこまでしなくても、いつもの鞄に隠れて、ビワに持っててもらえばいい」

「大丈夫?」

「今回はやけに弱気だな」

「前に通った森がだったから。引ったくられたりしないでよ、ビワ」

「私では……カズさんに持っていてもらった方が」

「村では一緒にいるから大丈夫だよ。一応アレナリアだっているんだから」

「任せて。警戒は怠らないようにしておくわ。って一応はないでしょ」

「ねぇねぇ、あちしの心配もしてよ?」

「静かに鞄の中に隠れていれば、見つかる事はないだろ(おとなしくしてればだけど)」

「そっか。ならあちしは、中から村の様子を見ておくよ」

「ああ、そうしてくれ。危険だと感じたら、馬車に飛び乗って全力で走らせるからさ(ホースに強化魔法をかければ、十分逃げ切れるだろう)」

 朝食を済ませた四人は、リザードマンの村に向けて出発した。
 川沿いの道を進むこと十数分、馬車は小さな池のある場所に出た。
 池の中には多くの魚が泳いでおり、川との境には網が張られ、池の魚が逃げないようにしてあった。
 池の周りにはリザードマンの姿がちらほらと、池の魚に餌を投げ入れる者や、武器を携え周囲を警戒する者も居た。
 ひとりのリザードマンが馬車に気付き、近寄って来る。

「あんたらのことは『ザザウ』から聞いている。村はこの川を少し下った先にある。入口に居る奴に話して、村長の所へ案内してもらえ」

「分かった。ありがとう(昨日ステータスを見たリザードマンが、確かザザウだったな)」

 昨夜のリザードマンから話は通っていたようで、馬車はすんなりと村へと通してくれた。
 言われた通り川沿いを更に下ると、森の中に開けた場所が現れ、幾つもの建物が見えた。
 リザードマンの家と思われる建物は、大小様々あれど、どれもログハウスのような作りになっていた。
 床も高く上げてあり、洪水対策もしてあるようだ。
 馬車が村の入口に到着すると、メス女性と思われるリザードマンが近づき話し掛けてきた。
 池の所で村の場所を教えてきたリザードマンが言ったように、話し掛けてきたメス女性のリザードマンが、村長の所へ案内すると。
 馬車を村の入口付近に停めたカズは、アレナリアとビワを連れて村の中を歩いて行く。
 今朝決めていた通り、レラはビワが持つ肩掛け鞄の中に隠れている。
 他の種族と交流をしてると思っていたが、村の中にはリザードマン以外の種族は居なかった。
 かといって村に入ったカズ達を、訝しげな視線を向けるようなリザードマンは誰も居なかった。
 村長宅に案内されると、三人は家の中へと通された。
 部屋の中には、二人のリザードマンが座っていた。
 皮膚の鱗が所々茶色くなった一人のリザードマンを見て、この村のおさだとカズは気付く。

「昨日は夜更けに失礼した」

 村長横に居るリザードマンが、カズを見るなり謝罪をする。
 カズはそのリザードマンに見覚えがあった。
 昨深夜に現れたリザードマンの内の一人、村の場所を教えたリザードマンだった。

「自己紹介をさせてもらう。こちらは村の長『ズズイ・デュメリル』そしてオレは『ザザウ』」

「ズズイですじゃ。昨夜は夜遅くに、村のもんが失礼をした。これも村を守る為、理解してほしい」

「この村に来て、皆さんに敵意がないので理解しました。俺はカズ、こちらがアレナリアとビワです」

「村に入って気付いてくれたと思うが、我々は種族差別をしないよにしている。争いも好まない。その為、敵意を持って村に来なければ、戦うような事はしない」

「俺達も事を荒立てるつもりはありません。昨夜話した通り、東に向かって旅をしている途中です。できればこの森を抜けた先のことを教えてもらいたい。街や国のことなど」

「東か……」

「悪い方々ではないようだ。ザザウ、話してやりなさい」

「わかった。昨夜の詫びもあることだ。ただオレ達はこの森から殆ど出ることはない。話せることは、村に川魚を買いに来る者達から聞いたことになるが」

「それで構いません。先に進むのに、少しでも情報があった方がいいので」

 少し戸惑いがあったものの、村長に言われたこともあり、ザザウは森を抜けた先のことを話した。
 カズ達が通って来た川沿いの道を半日程行くと、森を抜け湿地帯に出る、と。
 そこから先に見える小高い丘の麓に『デュメリル村』で養殖している川魚を加工して、人族に売っている村がある、と。

「デュメリル村とは、この村のことですか?」

「そうだ。この村の名はデュメリル。かつてこの森に村を作ったリザードマンの代表だった者の名だ」

「村長の名前もデュメリルと」

「デュメリルという名は、村の代表が受け継ぐ事になっている」

「なるほど。他に聞いても?」

 ザザウが村長の判断を仰ぐと、ズズイは頷いた。

「話せることなら答えよう」

 カズはザザウの話を聞いて、気になる事を話した。
 それは草原から森に入る道で、履き物の足跡を見たこと。

「それがなんだと?」

「話を聞いた限りでは、人族ではない種族と交流があると聞こえたんですが、俺達が見た履き物の足跡は、人族が履いている靴のようでしたが」

「……」

 暫し黙り考え込むズズイとザザウ。

「悪いことを聞いたようだ」

「いや、別に隠すようなことではないんだが、気を悪くされたらと」

「無理に聞こうとは思っていません。話すかどうかは、そちらに任せます」

 黙り暫し考えるザザウに、村長ズズイが口を開く。

「ザザウ、話してやりなさい」

「……わかった。あんたらが見た履き物の足跡は、確かに人族のものだ。ただし数ヶ月程前の」

「数ヶ月前? それにしては、くっきりと残ってましたが」

「あの辺りは雨が降っても、森の木に遮られて、ぬかるみになる事は殆どない。それに川の上流には、森と養殖池の管理をする者が、たまに行くくらいだ。だから古い足跡も消えず、そのまま残ったままになる」

「では今では、人族は来ていないと?」

「そうだ。以前は人族とも付き合いがあった。しかし半年程前に来た人族の商人が、我々の養殖した魚を良いものだから販売するよう広めると、大量に持っていったんだ」

「その商人は?」

「戻っては来なかった」

「騙されたと?」

「そうだ。金は置いていったが、その商人が提示した金額は、遥かに低いものだった」

「どうして分かったんですか?」

「森を抜けた先の小高い丘、その麓に村があると話したろ。そこから魚を買い付けに来る者から聞いたんだ。その人族の商人が、大量の魚を端金はしたがねで手に入ったと。それに……」

 ギリギリと歯を食い縛るザザウ。

辺鄙へんぴな森に住むような、少数の馬鹿な種族を騙すのは気持ちが良いと……クソが!」

 ドンと床を殴り付けるザザウ。
 ビクッとしてアレナリアの袖を掴むビワ。

「嫌な事を聞いてしまって申し訳ない」

「別にあんたらが悪いわけではない。だがそれ以来、人族をよく思わない村の者も出てきてしまっている」

「大戦から二百年以上経って、種族間の争いがなくなったと思っていたのだが」

 村長のズズイが口を開き、とても残念そうに答える。

「昨夜一緒に居た一人が、やたらと喧嘩腰だったのは、もしかして」

「アイツも人族を嫌う一人だ。暴走しないように、森を見回る役目の際には、オレが動向するようにしている」

「……どうやらこれ以上居るのは迷惑のようね。カズ、もう行きましょう」

 アレナリアが村を出ようと言い出す。

「そんなつもりでザザウに話させたのではなかったのですが、やはり不快に思ってしまわれましたか」

 村長ズズイが申し訳なさそうにする。

「オレの話し方が悪かった。思い出したら怒りが込み上げてしまい、つい気を荒立てた。すまん」

 ザザウも口調が荒くなったと反省する。

「人族がこの村の方を騙したなら、俺がこれ以上ここに居ると、不満を爆発させる者も出てくるでしょう。なので俺は早くこの村から去った方がいいかと思います」

「それはわかるりますが、できることなら村に泊まっていってはくれませんかのぉ? 一日だけでいいので」

「オレからも頼む。人族全てがあんなのではないと、村の者達に理解してほしい。話していて、あんたならと」

 アレナリアとビワを見て考え込むカズ。
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