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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

318 草原での石風呂

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 ホースと他愛ない会話をしながら、カズが操作する馬車は、のんびりと草原の中を進む。
 目的の丘にたどり着くと、馬車を停めて小休止。
 ハーブティーとおやつの匂いに誘われ、レラが馬車へと戻る。
 森を抜けたら、との約束だったので、残り少ないプリンを三人出す。
 プリンを頬張るレラに、上空から見た周囲の状況をカズは聞いた。

「ふっほ…ずっと草だったと思う」

 口の中身を飲み込み、カズの質問に答えるレラ。

「道とか建物とか、何か見えなかった?」

 現在休憩している丘の上からでは、更に先にある丘で、その先の様子を見ることができなかった。

「もぐもぐ……思いっきし飛んだ後のプリンうまッ」

「もぐもぐなんて言ってないで」

「う~ん……あ!」

「何かあったのか?」

「う~ん……」

「今の、あ、はなんだったんだよ」

「森を抜けたんだから、夕食はカニをよろ~」

 カズはレラから、半分程残っているプリンの器を取り上げる。

「あちしのプ~リ~ン~」

「どうなのレラ」

「そういえば、遠くの方にキラキラしたのが見えたような」

「キラキラ?」

「プリン返して」

 カズからプリンを奪い返し、隠すようにして食べるレラ。

「たぶん、あっちの丘に行けば見えるよ」

「そうか(あの丘まで二時間…は、かからないかな。とりあえずそこまで行って、先の様子を見て考えよう)」

 おやつを食べ終えると、四人は馬車に乗り込み、先の丘に向けて移動する。
 相変わらず、草で道が分かりずらいので、ホースに任せて馬車を進める。
 プリンを食べて満足気な顔をしたレラは、ごろごろ横になり馬車に揺られて一眠り。
 暖かい陽気の中を、馬車はゆっくりと進む。

 先に見えていた小高い丘に着くと、カズは馬車を停めて、先の状況を確認する。
 ずっと先を見ると、レラが言っていたキラキラと光る場所は確かにあった。
 まだ遠くでハッキリとは見えないが、水に光が反射しているようだった。
 この先に川か池があることは、確かなようだ。

「日暮れまではまだあるけど、今日はここまでにしよう。夜になると冷えるだろうから、三人とも今のうちに、身体を拭くといい。すぐにお湯を用意するから」

「そうね。あの、じめじめした森を抜けたんですもの。汗を拭ってサッパリしたいわ。ビワもそうでしょ」

「身体はそれでもいいんですか、一度尻尾を洗いたいです」

「アレナリアもビワも大変ね。そのてんあちしは、少し大きめの容器があれば全身入れるから、お得」

「なら土系統の魔法で風呂でも作ってみようか。本当のところ、砂漠を越えて集落に着かなければ、一度作ろうかと思ってたんだ。でも入った森があんな状態だったからさ」

「お風呂作るって、大変じゃない?」

「風呂と言っても、石で浴槽を作るだけなんだけど。まあ一度作ってみれば、大変かどうか分かるさ。入り終わったら崩せばいいんだし、ちゃんと周りには目隠し用の壁も作るから」

「ここなら夜になれば、星が見えて良いわね」

「なら決まりだな。この辺の草を刈ったら風呂を用意して、夕食の準備だ」

「では夕食は、私が作ります」

「そう、なら頼むよビワ」

「はい」

「忘れてないでしょうねカズ。森を抜けたんだから、カニよ、カニ!」

「そう、カニ!」

「分かってるって(しょっちゅう食ってんだから、そろそろ飽きたらどうだよ。もう二体分は消費してるぞ)」

 呆れるカズを尻目に、夕食のデザートクラブカニの話をするレラとアレナリア。
 そんな二人を放っておき、周囲の草を刈ったカズは、風呂作りに取り掛かった。
 〈ストーンウォール〉を使用し、2m四方の高さが80㎝程の石を台を出現させ、カズは大きな台に触れて魔力を流し《加工》のスキルで石を変形させて浴槽を作った。
 次に3m程の目隠し用の壁を作りだした。

 こんなもんかな。
 あとは水を入れて沸かせば、石風呂の出来上がりだ。
 即興で作ったにしは……まあ、こんなもんか。 
 こんな事なら王都で、でっかいタライでも探しておくんだった。
 いや、錬金と加工スキルで、自作すればよかったかも!
 とか今言ってもな、それは次の機会にしよう。

 独り言を言い終わると、カズは〈ウォーターボール〉使い、大きな水の塊を作り出し、即席の石風呂に放り入れ〈ファイヤーボール〉を使用して水を沸かした。

 この量だと魔力変換で水を出すより、こっちの方が早いからな。
 あ! 壁に出入口を作るの忘れた。
 えっと、こっちが馬車のある方だから、壁の一部をコの字形に作れば、出入口から中を見えなくできるな。
 お湯は少し熱いが、入る頃にはちょうどよくなるだろ。

 風呂の用意をしたカズは、次に夕食の支度に取り掛かる。
 といっても、夕食はビワが作ると言っていたので、カズはアイテムボックスから食材と道具を出しただけで、料理はビワに任せていた。
 ビワはレラとアレナリア御所望のカニを使い、サボテンと卵を使ったサッパリパスタのソースを作っていた。
 日が暮れて辺りが暗くなり始めたので、カズは夕食作りをビワから引き継ぐことにした。

「あとはパスタを茹でるのと、カニの殻焼きだけ?」

「はい、そうです」

「ならあとは俺がやろう。ビワはアレナリアとレラを連れて、風呂に入ってくるといい。少し熱めに沸かしたから、そろそろいい湯加減だと思うよ」

「でも」

「いいから、いいから。三人でゆっくり入ってくるといいよ。アレナリア、レラ、もう風呂に入れるから、夕食前に三人で入ってくれば」

「は~い」

「ビワも着替え持って入ってきな。目隠し用の壁は、中が見えない程度の高さにしかしてなきから、星はよく見えるはずだよ」

「はい。お先に入らせてもらいます」

「ごゆっくり」

 着替えを用意をした三人は、石風呂を囲む壁の一角から中へと入っていく。
 アレナリアは〈ライト〉を使い、小さな光の玉を出現させた。
 そのアレナリアが忘れ物をしてのかと、ひょっこりと顔を出す。

「カズ」

「ん?」

「一緒に入る?」

「あちしはいいよ」

「バカ言ってないで、早く入れ!」

 恥じらいもなしに、男のカズを誘うアレナリアとレラ。

「ざ~んねん」

「アレナリアさんもレラも、何を言ってるんですかッ」

「ビワは嫌だった?」

「は…恥ずかしくて、そんなことできません」

 何を想像したのか、顔を赤くするビワだった。

「んじゃ、カズとは今度にして、お風呂入るよ~ん」

 ビワの恥じらいをさらっと流し、レラは服を脱ぎ散らし石風呂へと向かう。
 アレナリアはビワに、風呂の入り方をレクチャーする。

「いいことビワ。お風呂に入るには、先ずは外で身体を洗ってから、お湯に浸かるのよ。タオルは外して、お湯には浸けないこと。折り畳んで頭に乗ってもいいわ。のぼせ防止になるから」

「それがお風呂に入る作法ですか?」

「どうせカズに聞いたんでしょ」

「そうよ。カズからの受け売り。分かったらレラも身体を洗ってから入るのよ」

「えぇ~」

「洗ってあげるから、こっち来てレラ」

「自分の身体くらい自分で洗いなさい」

「アレナリアも一緒に洗ってもらえば」

「……」

 アレナリアはタオルで隠されたビワの一点を見て黙る。

「なんですか?」

「べ、別に。そーだ、ビワの尻尾洗ってもいい?」

「え……!?」

「砂漠の時は砂でごわごわだったんでしょ。森では体調崩して、身体を拭いただけだったから。私が洗ってあげようかと思って」

「とか言って、アレナリア本音は?」

「ビワの尻尾がふわふわして気持ち良いって、カズとレラから聞いた事あったから、一度じっくり……って、何言わせるのよ」

「! 本当に言うと思わなかった」

「い、一緒に旅をしてる仲なんだからいいでしょ。駄目かなビワ?」

「し…尻尾ですか……?」

 引き気味で答えるビワ。

「でもさあアレナリア。洗ったら濡れるから、ふわふわじゃなくなるんだよ」

「あ、それもそうね。だったらじっくり触るのは、次の機会しようかしら」

「次…ですか……」

 少しホッとするビワだが、気持ち的には受け入れがたかった。

「でも洗うのは手伝うわよ」

「あ、あの…洗うのは自分で……」

「みんなで洗いっこだー!」

 ビワの話を聞かず、レラがアレナリアの身体を洗い出す。

「ちょ、急に何んのよレラ! そっちがその気なら」

 くすぐったいと、レラにやり返すアレナリア。
 二人の注意がそれている内に、ビワはこっそりと尻尾を先に洗いだす。
 しかしそれを見逃すレラじゃなかった。

「隅っこでこそこそと、何をしてるのかなぁ? うりゃ!」

「ひゃッ! いつもごはんを作ってくれてるんだから、お礼にあちしが洗ってあげるよ」

「ちょ…いいから。自分で…でき……!! 付け根は…だめ…ん…んん……」

「そのくらいにしなさいよレラ。じゃないと、さすがのビワも怒るわよ」

 アレナリアが注意する頃には、ビワの全身はすっかりレラに洗われてしまった。

「作業完了。気持ち良かった!」

「……いいって…言ったのに」

 満足げにするレラに怒って、ビワはそっぽを向き一人で湯に浸かった。

「ほら見なさい」

「優しく洗ったんだけどなぁ。フローラよりは小さいけど、アレナリアに比べたら」

 ちらりとアレナリアの胸を見るレラ。

「てやぁ!」

 石風呂のへりに座っていたレラを掴み、湯に投げ入れるアレナリア。
 一方壁の向こうでは……。

 何やってんだあの二人は……それだけ大きな声で喋れば、こっちまで十分聞こえてくるっての。
 フローラさんと三人で風呂に入った時といい、なんでこうレラとアレナリア……三人で入るように勧めたの俺だから、ビワには後で謝らないと。
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