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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

314 病気に有効な魔法は?

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 自分の気持ちとは裏腹に、ビワを気にかけてしまう。
 それはアレナリア自信も、人生の七割を一人で暮らしてきた経験があるため、心のどこかでその事が引っ掛かり、ビワを気にかけてしまったのだろう……か。
 この世界では子供の頃から、一人で孤独に生きる事など、平和とはいえども珍しくもない。
 しかし共に旅をして、同じカズを好きになった相手を無下にはできなかったのだろう。
 アレナリアはその事を分かっていたとしても、心のどこかで認めたくないのかも知れない。

「食べ終わった?」

「ちょっと話し込んじゃって、スープが冷めちゃっから、新しく温かいのもらえる」

「話し込んじゃうって、ビワ大丈夫?」

「大丈夫です。せっかく作ってもらったのに、ごめんなさい。半分くらしか食べてなくて」

「食べれる元気がでたなら別にいいんだけど、まだ熱があるんだから、話なら食べ終わってからにしたら」

「そうよね。ごめんなさいカズ」

「じゃあ、新しく持ってくるよ。他に何か食べたい物ある?」

「プリンがいいわ」

「アレナリアじゃなくて」

「なッ」

「ふふ。私もプリンが欲しいです」

「分かった。今持ってくるから、ビワは食べたら横になること。話なら横になってもできるんだから」

「はい」

「プリンは一個だからな、アレナリア」

「ありがとうカズ」

「レラも食べたから、二人にも出さないと」

「レラったら、自分だけ抜け駆けするとは」

「別にそういう訳じゃ……ないとは言えないか」

「ふふふ。元気になって、明日からは皆と食事ができるようになります」

「カズがプリンを出してくれるって言ったら、レラには気を付けないと。横から掠め取るかもしれないから」

「レラだけじゃなく、アレナリアにも言えるけどな」

「そんなことしないわよ。私はちゃんとお願いして貰うわ」

「自分の分で満足しないのは、レラと同じじゃないか」

「……」

「ふふ…ふふふ。やっぱり皆と一緒に居た方が楽しいです」

 明るく笑い楽しそうにするビワを見て、カズとアレナリアはホッとひと安心する。
 夕食を済ませたビワの顔色は良くなり、翌日からの旅に備えて眠りにつく。
 レラがアレナリアと代わり、ビワの様子を伺いながら、横で眠りについた。
 夕食の片付けを終えたカズの元に、アレナリアがやった来た。

「さっきはビワと何を話してたの?」

「女同士の秘密」

 にこりと笑い、カズの問いに返答するアレナリア。

「今日はビワを看病してくれて、ありがとうな」

「一緒に旅をする仲間なんだから、これくらい当たり前よ」

「オリーブ・モチヅキ家の皆に、ビワのことは任せてとか言っておきながら……駄目だな俺は」

「カズは全然駄目じゃないわよ。もしそう思うなら、もっと私達にも頼って」

「そうだよな……ごめん。これからもよろしく頼むよ」

 満面の笑みを浮かべるアレナリア。

「今日はもう少しカズと話していたいわ」

「そう、ならちょっと聞いていいかな?」

「どうぞ」

「ビワは俺のこと何か言ってた?」

「何かって?」

「えーと…なんだ、体調悪いのに我慢してたから、その…不満とか……」

 ビワが熱を出したのが自分にあると思い、責任を感じて反省するカズ。

「ビワはそんなこと言ってなかったわよ。むしろ……」

「むしろ?」

「と、とにかく熱を出したのは、ビワ自信が気分を悪くしたのを言わなかったのもあるんだから、カズ一人が気にすることないのよ」

「だが、俺がもっと早く気付いて、馬車を停めて休憩してれば」

「それを言うなら、側に居た私とレラにも責任はあるわ。それにもう体調は良くなってきるんだし、次から気を付ければいいの」

「そうかな?」

「そう! それにカズがそんな顔してたら、ビワが自分に責任があると思って、今以上に遠慮しちゃうわよ」

「そんな顔してたか?」

「ええ。さっき夕食を持って来てくれた時はしてなかったけど、話してる今は」

「……そうだな。ありがとうアレナリア」

「お、お礼を言われる程でも」

「アレナリアに慰められるとはな」

「私の方が年上なんだから、なんでも頼りなさい」

「それはちょっと」

「え、どういうこと?」

「これまでの旅を見てたら、というか、俺の知ってるアレナリアは、そんなに頼りになったのかと」

「ぅ……い、今まではでしょ。でもこれから……」

「そこで言葉が詰まるのかよ。でもまあ、今日は頼りになった。そうだ、久々にアレナリアと二人なんだから」

「二人っきりだからなに!? なに! がんばったから、御褒美ごほうびくれるの? キスでいいわよ」
 
 目を閉じて唇を突き出し、アレナリアはカズに近づく。
 どうせしてくれないと思い、アレナリアはそんな顔をした。

「いやそうじゃなくて(そういう顔する女性、初めて見た)」

「へ、ぁ……そう(ほらね。やっぱり)」

 ガックリと肩を落とすアレナリア。

「そんなあからさまに……アレナリア」

「なぁに?」

 アレナリアが顔を上げ、ゆっくとカズの方を向く……ちゅ。
 アレナリアの額に軽くキスをするカズ。

「ビワだけじゃなく、俺も元気づてけくれたから御褒美(こんなのレラとビワには、恥ずかしくてできん)」

 額に手を当てたアレナリアは、ポカ~ンと口を開けて、今されたキスことをじっくりと思い返す。

「ムフっ、ムフフフっ! ありがとうカズ。他に聞きたいこと、話したいことはある? なんでもいいわよ」

 御機嫌なアレナリアに、今回の事で改めて必要とされる魔法をカズは聞く。

「これから先のことも考えて、アレナリアに病気の治癒についての魔法を聞きたいんだけと」

「忘れたの? アヴァランチェに居た頃話したでしょ」

 カズはアヴァランチェに住んでた時に、ギルドの資料室で魔法のことを調べていた頃、病気を治す魔法についてアレナリアに尋ねていた。
 その時の返答と、今回の質問についての返答は、やはり前回と同じだった。

 病気を治す魔法はあることはある、ただし病気を治すにはそれ対する知識と、大量の魔力とイメージが必要。
 なので魔法で病気を治すのは効率が悪く、薬草などを調合して薬を服用した方が安全で確実性が高い。
 現今いまでは病気を治す魔法は殆どが使われてはおらず、知っている者も少ない、と。

「アレナリアは知らないのか?」

「ロウカスク達と会う前はずっと一人だったから、怪我や病気には気を付けてたから。それに病気になったとしても、自分に魔法は使わないわよ。身体が弱ってるのに、多くの魔力を消費する魔法なんて。効果があるとも限らないのに」

「じゃあロウカスクさん達とパーティーを組んでた頃は?」

「う~ん……あ! 一度だけあったわ。依頼で街からかなり離れたとき、ロウカスクが平気だとか言って、冬の川で水浴びして熱を出した事があってね。怪我を治す回復薬は持ってたけど、まさか病気になるとは思わなくて、誰も薬を持ってなったのよ。近くの村に行くにしても数日は掛かるから、魔法で治せるか試した事があったわ」

「それでそれで。どんな魔法なの?」

 話に食い付くカズを見て、アレナリアの機嫌は上昇する。

「ロウカスクの症状から、風邪だと見当がついたから。寒いなか濡れて熱を出せば、大抵の者が風邪だと思うでしょ」

「まあ、確かに(ロウカスクさんは、若いからって何やってんだか)」

「それまで戦闘もなかったから、魔力は十分。あとは風邪を治す事をイメージして、少しずつゆっくりと『キュア』かけ続けれるだけ」

「風邪に効く魔法ってキュアなの!?」

「正確にはキュアでも治せる、かしら。ただしさっきも少し言ったけど、病気それに対する知識と治す為の強いイメージ、あとは多くの魔力と繊細な魔力操作が必要。魔法が書かれてる本にも、こういったことは、そうそう載ってないわね」

「なるほど(病気に治す魔法が廃れるわけだ)」

「一応翌日にロウカスクは治ったんだけど、私の魔力の減りが激しくて、回復するまで一日休んだわ。結局予定より数日遅れで、討伐することになってしまったの。今思い出しても腹が立つ、ロウカスクの奴を殴りたくなってきたわ」

「まぁまぁ、落ち着いて。魔法で病気を治さない理由は分かった。話してくれてありがとう」

 にんまりとした笑顔を押さえられないアレナリアは、カズから顔を背ける。

「ま、まあ、カズに頼みだからね。じゃあ、私もそろそろ寝るわ」

「ああ、おやすみ」

 上機嫌で馬車に戻り、アレナリアも就寝した。
 カズは辺りの警戒をしつつ、仮眠をとった。
 もちろんアラームとバリア・フィールドは使用済み。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝最初に起きて馬車から降りて来たのはビワ、顔色はすっかり良くなり晴れやかな顔をしていた。

「おはよう。具合はどう?」

「もう大丈夫です。御心配掛けて申し訳ありませんでした。朝食の支度なら私が」

「俺がやるからいいよ」

「やらせてください。皆の役に立ちたいんです」

 正面から真っ直ぐにカズを見つめ、強い口調で頼んだ。

「分かった」

「ありがとうカズさん」

 ビワは自分に出来る仕事があると、とても嬉しそうにする。

「けど病み上がりなんだから、全快するまでは俺と一緒に作ること(急にやる気を出してどうしたんだ?)」

 昨夜アレナリアとビワが何を話したのかを、カズは知らない。

「あ! そうだ。ジルバさんから別れ際に、マーガレットさんからって手紙を渡されたんだ。朝食の後にでも読んで皆に聞かせるよ(さすがに変なことは、書いてないだろう)」

 この時のカズの考えは、間違っていた。
 ジルバはカズに渡したのだから、他の三人に聞かせるにしても、先に一人で読むべきであった、と。
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