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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

307 似つかぬ、あれの妹

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 カズの呼び掛けると、一人の人物が姿を現し建物に入って来る。

「流石だな。ワタシに気付いているとは」

 両手足を拘束された男の冒険者と、寒さで意識が朦朧もうろうとしてきている男女の冒険者は、入ってきた人物を見て驚いていた。

「ギ、ギルマス!」

「な、なんでここに!?」

「少し悪さが過ぎたようだから、お仕置きでもしてやろうかと思ったんだが、その必要はないらしい」

「おれ達は何にもしてねぇ。そこのちびエルフが」

「私達が先に何かしたっていうの? こんなバカは、体の芯まで氷漬けにして、バラバラに砕いてやればいい」

「止めとけ。アレナリア」

「ほら、そのちびエルフ強暴だろ」

「Cランク冒険者の言葉と、元サブ・ギルドマスターの言葉、どっちを信じると思う」

「このちびエルフが、元サブマスだと!」

「それに少し悪さが過ぎたと言ったろ。お前ら三人が街に寄ったランクの低い冒険者を、そうやって脅しているのを知らないとでも思ったか?」

「でも、今までは何も…」

「この街出身の数少ない冒険者だから、多少の事なら目をつぶってやってたんだが、今回はギルド内で因縁をつけたと聞いてね、何かやると思って尾行してきたんだ」

「お、おれはただ、街に来たばかりのカズそいつが、報酬のいい依頼を受けたから…その……」

「デザートクラブ討伐の依頼は、少し前から出ていた。お前らがそれを受けなかっただけだろ。まあ、受けたところで一体も倒せないだろう、お前らだけでは。違うか?」

「……」

「この街のギルドマスターをしているワタシの責任だ。すまない。後の事はワタシに任せてくれないか?」

 三人の冒険者が言い返せず黙ると、ギルドマスターはカズ達の方を向き謝罪をした。

「俺は構いませんが……」

 カズはアレナリアを見た。

「後程ワタシが改めて謝罪に行くので、今回はどうか。それに、そろそろ氷から出してやらないと、そこの二人が凍死しかねない」

「アレナリア」

 ギルドマスターの言葉と、カズの許してやろうとの視線を感じるアレナリア。

「分かったわよ」

 アレナリアは氷を砕き、二人を解放した。

「次にちびとか言ったら、瞬殺するから覚悟しなさい」

 三人を睨み付けるアレナリア。

「俺達は宿に戻らせてもらいます。さぁ行こう」

「後程改めて謝罪に行かせてもらうわ」

「分かりました」

 ギルドマスターと冒険者三人の居る建物を後にして、カズ達は宿屋へと戻った。
 道すがらどうしてあの場所に連れていかれたのかをアレナリアに尋ねると、口ごもり目が泳ぐ。
 変だと思い今度はビワに尋ねると、アレナリアとレラの隠れているバックに目をやり、少し言いづらそうにする。

「話してくれなくても、後でギルマスに聞けば分かる事なんだけど」

 隠すのは無理だと理解し、ビワは口を開いた。
 
「……ごめんなさいカズさん。実は──」


 宿屋の泊まっている部屋で夕食を済ませ暫くすると、宿屋の主人がギルドマスターをカズ達の居る部屋に案内して来た。
 アレナリアとビワはテーブルを挟んでギルドマスターの向かいの椅子に座り、カズはギルドマスターの横の椅子に座った。

「改めてうちのギルド所属の冒険者が迷惑をかけたわ。あの三人には処分が決まるまで、自宅で待機するよう言ってある」

「まあ被害も無いですから。それに欲しさに、不用意に付いて行ったこちらも少しは悪いですし。やった事については、そちらで罰を与えてくれれば、それで構いません」

 アレナリア達三人が街外れの石造りの倉庫に居たのは、この街所属の冒険者がデザートクラブの身を、直接売ってくれると聞いて付いて行ったからだった。

「私達のことは知ってるようだけど、まだ貴女の名前聞いてないわよ」

「ああ、そうだったわね。ワタシはこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしている『ハルチア』よ。あなた達のことは、第2ギルドのフローラさんから聞いている」

「それで知っていたのね」

「たぶん王都に戻ったルータさんから、こちらの道を通ると聞いて連絡をしてくれたんだろう」

「それと姉からも、カズの事は聞いているわ」

「お姉さんですか? 俺が知ってる方です…よね? (誰だ?)」

「姉の名はディル。王都の第6ギルドで、ギルドマスターをしている」

「……!」

 ディルの名を聞いたカズは、ぞわぞわッと鳥肌が立ち、座っていた椅子をずらしてハルチアから離れる。

「その反応からすると、姉に狙われたようね」

「会ったのは二度だけなんですが、あの人苦手です。あ、すいません」

「いいのいいの。姉の性格は理解してるから。ワタシはあそこまで酷くないから」

「あそこまでってことは、ハルチアさんもそっち系の趣味が?」

「まあ、少しだけ」

 カズはハルチアから更に離れる。

「大丈夫だって。姉みたいに見境なく狙ったりしないから」

 と言いつつ、じっくりと四人を見るハルチア。

「……」

「そうそうカズのランクだけど、明日Bランクに上げる手続きをするわ。デザートクラブを四体も討伐して、ギルドに卸してくれたから、それで十分よ」

「そうですか。ならあとはのんびりと疲れを癒して、明後日にでも出発します」

「悪いのだけど、一つ頼みがあるのよ」

「なんです?」

「五日程前から、サンドワームが近くにあらわれるようになって、それを討伐してきてくれないかしら? とどこおってる依頼があれば、カズに頼むようにって、フローラさんに言われてたのよね。この街でBランクに上げてから国を出るだろうから、ちょうどいいって」

「俺がBランクに戻ってないのに、トラちゃんが住む倉庫の改装をやらせたのは、それを見越しての事だったのか」

「それはワタシには分からないわ。そう、あと討伐には、あの三人を連れて行ってほしいの」

「なぜです?」

「三人には自分の実力がどれ程のものか、知るべきだと思ってね」

「あの三人はサンドワームを倒せる実力があるんですか?」

「三人が連携して戦えば、一体くらいは倒せる……と思うわ。ワタシが付いて行くより、自分達が侮っていたカズに付いて行ってもらった方がいいかと思って。ちゃんと報酬は出すから」

「う~ん……(絡んできたうえに、仲間を騙して連れて行った連中と行動するのはなぁ)

「いいんじゃないの。カズとの実力の差を見せつけてあげなさいよ」

「そうそう。カニが大量にあるって、あちし達を騙したんだから。次に騙したらどうなるか見せてやって」

 結局レラとアレナリアは、騙した三人の冒険者をまだ許してはいなかった。

「分かりました。最初は三人に戦ってもらいます。が、時間が掛かりそうだったら俺が」

「ええ。お願い」

「分かりました」

「じゃあ明日の朝ギルドで。今回の事は本当に悪かったわ」

 謝罪と話を終えたハルチアは、宿屋を出てギルドへと戻った。

「私はまだ許してないからね。ちびガキのクソバカエルフって言ったんだから」

「そこまでは言ってなかったはずだけど。それよりカニをなんでギルドに渡しちゃったの。あちし達のカニは?」

「一応一体はとってあるから。ってか、どんだけ食いたいんだよ」

「昼間の事思い出したら、何だか腹が立ってきた。カズ、麦シュワ」

「あちしも」

「ダメ! もうごはん食べただろ」

「少しくらい、いいじゃない」

「そうだそうだ」

「レラもアレナリアさんもあんなに食べたのに、今からお酒なんて飲んだら太るわよ」

「ビワの言うとおり。馬車移動で運動不足なんだから。これから少しは働かせるからな」

「私、暑いの苦手」

「あちしは小さいから、手伝えることないもん」

「ったく、この二人は。ここまでの旅で手伝ってくれたの、殆どビワだったじゃないか。少なくとも砂漠を抜けるまでの間は、二人にも自分のことはやってもらうからな」

「えぇー砂漠を抜けるのって」

「まだまだなんでしょ」

「返事は?」

「……分かった」

「レラは?」

「……は~い」

「ってことだから、ビワはこの二人を使っていいから。どうせ言わないと動かないから」

「あ…はい。でも……大丈夫です」

「俺は部屋に戻るから。おやすみ」

 レラとアレナリアに自分のことは自分でやるように約束させ、カズは隣の部屋に戻りこの日は寝た。


 ◇◆◇◆◇


「来たね」

「おはようございます」

「おはよ。面倒な事を頼んで悪いわね。ギルドカードを預かるわ。戻って来るまでには更新しておく」

 ギルドカードをハルチアに渡し、昨日の冒険者三人を探すカズ。

「ところで例の三人は?」

「装備を整えてもうすぐ来るはずよ。もう少し待ってて」

「そうですか」

「それと一つ謝っておくわ」

「何をです?」

「うちの受付の態度が悪かったでしょ」

「あぁ……」

「今から来る三人が、実力に見合わない依頼を受けて、それを放棄した事があってね。昨日依頼者に謝罪に行って、機嫌が悪かったのよ。言い訳になるけど」

「完全な八つ当たりですね」

「ええ」

「でも俺が依頼を終わらせて報告に来たら、コロッと態度が変わってましたけど」

「それはカズが王都で何をしたのかを、ワタシが教えたから。見た目とランクだけで判断した事を後悔したのよ。冒険者共々、重ね重ねうちの者が迷惑をかけたわ」

「そうですか。他の国に行けば余所者だと言われ、もっと対応の悪いギルドだってあるでしょうから。もうその事はいいですよ」

「そう言ってもらえるとこちらも気が休まるわ。おっと来たようね。アイツらのことを頼んだわ。サンドワームが現れる場所は三人に伝えてあるから。それとこれは三人分の回復薬。良い経験を積んだと思ったら、飲ませて戻って来て」

「分かりました。それじゃ行ってきます(この人、本当に変態ディルの妹? 全然じゃないか)」
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