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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

305 デザートクラブの魅力

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 ◇◆◇◆◇


 宿屋で軽い朝食を済ませた四人は、昼まで二手に別れて行動する事にした。
 カズは一人でギルドに行き、レラ、ビワ、アレナリアの三人には、食料の買い出しへと向かった。

「それじゃあ、お昼頃に宿屋で合流しよう。レラとビワを頼むぞアレナリア」

「ええ」

「何かあったら、念話で呼んでくれ。すぐに駆け付けるから」

「なんとしても昨日のカニを探して買うのだ!」

「そうね。それが一番重要」

「おい、俺の話し聞いてるか?」

 余程昨日の夕食に出たデザートクラブが気に入ったのか、何としても手に入れようとするレラとアレナリア。

「この二人は……レラとアレナリアが無駄遣いしないように、お金はビワに預けるから、買い出しお願い」

「はい」

 ビワに買い出し用の財布が入った肩掛けの鞄と、アイテムポケットを付与した布袋を渡して、カズはギルドに向かった。
 国境の街だと聞いたから、それなりのギルドがあると思っていたカズだったが、昨夜食事をした店と大差ない、一軒家程度の建物だった。
 朝だから混んでいる訳でもなく、ギルドの職員は数人、依頼書を見る冒険者もまばら。
 カズは受付の職員にギルドカードを提示して、国境の越え方と東への道を尋ねた。
 無愛想な男性職員は、ギルドカードを見ると、溜め息をついて面倒臭さそうにしながらも淡々と話した。

 国境といっても検問所がある訳でもなく、ただ街の出入りに衛兵が居るだけだと。
 実際に国の境は、東へ少し行った所らしく、場所は大体だと言う。
 舗装された大きな街道なら検問所はあるらしいが、東へ行くこの道には来る者も少ないので、検問所は無いとのことだ。
 確かに国は陸続きではあるから、全ての場所を監視するのは無理だろうが、それで大丈夫なのだろうかと、カズは思った。
 東への道については行けば分かる、砂漠を抜ければ村なり街なりあるから、そこで聞けと言われた。
 ちょっとイラついたカズは、話し終えた受付の職員から離れ、依頼書が貼られた掲示板を見に行った。
 たまに街の近くに現れ、通行する馬車や人を襲うデザートクラブの討伐依頼があったので、カズはそれを受けることにした。
 依頼書を掲示板から剥がし受付に持って行くと、先程の無愛想な職員が受け取り、小バカにした笑いを浮かべながら口を開いた。

「BランクのモンスターをCランクのお前が? 慢心したお前のような奴が、そうやってすぐ死ぬんだ。まあどうでもいいがな。ほれ」

 汚い字で受理したと書いた依頼書をカズに渡すと、とっとと行けと言わんばかりに手をひらひら振る受付の男性職員。
 イラッとしながらも顔には出さず、ギルドを出たカズは気分転換に街を見物してから宿屋に戻った。

 宿屋の前には既に買い出しを終えた三人が戻って来ていた。
 幾つかの料理を買ってきたとの事で、昼食は宿屋の部屋で食べることにした。
 布袋から出された料理は、どれもデザートクラブの身が使われていた。

「見事にカニだな。どう考えてもレラとアレナリアの要望だろう」

「確かにあちしとアレナリアだけど、選ぶ時はビワも一緒になったんだよ」

「そうなの?」

「あの…はい。私も、もう一度食べたくて」

「そうか。なら良いよ」

「カズはビワに甘い! 私とレラにも買い出しを任せてよ」

「二人に財布渡すと、何でもかんでも買いそうだからなぁ」

「そ、そんなことないもん。今回あちしは、カニだけ買うつもりだっだもん」

「私だって」

「……カニだけって、それじゃ駄目じゃん。他にも野菜とか買わないと」

「さぁ食事にしましょう」

「そうそう、早く食べよ。あちしお腹ペコペコ」

「……やっぱり。これからも俺が一緒に行けない時は、ビワに頼むよ」

「はい。あ…でも昼食をカニこれにしたのは─」

 ビワが言うには、お目当てのデザートクラブが売って無かったから、仕方なくそれが入った料理を昼食に選んだと。

「それもあってなのかな?」

「なにくぁ?」

「レラ、口に入れたまま喋らない」

「なんなのカズ?」

「ギルドで一つ依頼を受けたんだけど」

「明日には出発するんでしょ。依頼なんて受けて大丈夫?」

「これ食べたら行って終わらせてくるから」

「何の依頼」

「街のすぐ近くに出るデザートクラブの討伐」

「へはーほふははぁ!」

 口に食べ物を入れたまま喋り、レラが何を言っているか聞き取れない。

「それはギルドに卸さないで、全部持ってきて」

「それはギルドの職員しだいかな」

「どういうこと?」

 カズはギルドで態度の悪い職員の話しをした。

「オリーブ王国でも辺境に来ると、そういった職員は居るものよ。これからの事を考えると、そういった連中に慣れてた方がいいわ」

「そうかもな。今まであった人達が良かったってことか」

「そういうことね。それよりなんでカズはCランクなの?」

「降格した理由を話してなかったっけ?」

「そうじゃなくて、旅立つギリギリまで依頼を受けてたんでしょ。ランクを戻すように」

「トラちゃんの住む倉庫の改装とかやってたら、Bランクに戻るまでの依頼を受けられなかったんだ。だからこれから寄る街のギルドで、少しずつ依頼を受けて地道に戻すさ」

「他の国のギルドだと、昇格する基準が違うと思うから大変よ。あと一、二回依頼を受ければBランクに戻るんでしょ?」

「う~ん……そうだと思う」

「だったら、この街のギルドで依頼を受けて、Bランクなってから先へ進みましょう。二日もあれば十分でしょ」

「アレナリアがBランクなんだから、俺は別にCでも構わないんだけど」

「フローラ様に言われなかった? ランクが低いと絡まれやすいって」

「確かに言われたけど……じゃあ、あと二日ここに滞在しよう。その間にランクを上げるようにする。二人もそれでもいいかな?」

「あちしは良いよ! その間に、このカニ食べまくるから」

「……レラに聞くんじゃなかった。ビワは大丈夫?」

「はい大丈夫です。慣れない馬車で少し疲れてしまって、ゆっくり休みたいと思ってました」

「そうだよね。気が利かなくてごめん。二日で足りなかった、出発を延ばすから言って」

「ほらッ、ビワに甘い」

「レラは飛べるから馬車の揺れは平気たろ。アレナリアに比べてビワはか弱いんだからさ」

「私だってほら……ビワより全然小さいんだから、か弱いわよ!」

 アレナリアが椅子から立ち上り、自分の背の低さを強調する。

「あちしの方がちっちゃくてか弱い女の子よ。だ・か・ら、もっと甘やかしてほしいなぁ。あ、そこのカニあちしが食べるから」

「この二人は……。さてと、ごはんも食べたから、俺は受けた依頼を終わらせてくるか。俺が戻って来るまで、このワガママな二人を頼むよビワ」

「あ…はい」

 昼食を済ませたカズは一人街を出て、近くに現れるというデザートクラブを探しに行った。
 カズに優しくしてもらってないと思ったレラとアレナリアは、出されたデザートクラブの身にかぶり付き食べまくっていた。
 そんな二人を見て、ビワは少し羨ましさを感じていた。

 街を出たカズは【マップ】を見て、モンスターの反応がある場所に向かった。
 砂の中に隠れているらしく、モンスターの姿は見あたらない。
 カズは反応のある場所に向けて〈エアーバースト〉を放ち、砂の一部を吹き飛ばした。
 砂の中に隠れていた目的のデザートクラブが姿を現し、視界に入ったカズに襲い掛かった。
 カズは《肉体強化》と《筋力強化》を使用して蹴り飛ばすと、デザートクラブは翻筋斗もんどり打ってひっくり返った。
 ふらつきながら起き上がりったデザートクラブは、大きなハサミをガチガチと鳴らした。

「ん、なんだ? モンスターがこっちに向かって来てる」 

 視界の端に映るマップを見ると、離れた所に居たモンスターが高速で近付いて来るのが確認できた。
 しかし近付くモンスターの姿はなく、砂の中を移動して来ているのが分かった。
 ふらつき起き上がったていデザートクラブは、いつの間にかカズから間合いを取って警戒していた。
 ドドドドドと地響きが大きくなり砂が盛り上がると、四体のデザートクラブが姿を現した。
 先程デザートクラブがハサミをガチガチと鳴らしたのは、仲間を呼ぶ合図だったようだ。

「仕留めなかったから仲間を呼ばれたか。討伐は一体でよかったんだが……まっいいか」

 新たに現れた四体のデザートクラブが加わり、五体のデザートクラブがカズを一斉に攻撃する。
 火や電撃の高威力魔法は、デザートクラブの身を焦がしてしまうので、二種の魔法を使用して倒す事にした。
 迫るハサミを避けたカズは、五体のデザートクラブに向けて巨大な〈ウォーターボール〉を放ち、デザートクラブを水の中に閉じ込めた。
 水中で身動きがとれず鈍くなった五体のデザートクラブに、適度に威力を抑えた〈ライトニングショット〉を放ち感電させた。

「いい感じに手加減して倒せたかな」

 四体のデザートクラブは2m程だっため、身を焦がすことない弱い威力の電撃で倒す事が出来た。
 が、最初に発見した3mを越える一体は、流石に程度では倒せず怒り狂い、他の倒された四体を切り刻もうと暴れだした。
 せっかく身に傷をつけないように倒した四体のデザートクラブを、バラバラにさせる訳にはいかないと、カズは〈ライトニングボルト〉を暴れる個体に放った。
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