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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

299 旅立つ前の駆け抜ける日々 4 旅の同行者

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  三人が部屋を出ると、マーガレットは以前カズに頼んだ事の返事を求めた。

「数日で返事をすると言いつつ、随分と日が経ってしまい、すいません」

「別に構わないわ。それでお願い出来るかしら?」

「それなんですが」

「駄目なの? ビワもその気になってるんだけど」

「え!?」

「カズさんなら承諾してくれると思って、ビワには伝えちゃったのよ」

「返事を聞く前に承諾って……」

「旅には目的があった方がいいでしょ」

「そうかも知れませんが(一応目的はあるんだけどな)」

 マーガレットがカズに頼んでいた事は、国を出て旅をするカズに、ビワを連れて行くという内容だった。
 行き先はビワをの生まれ故郷、オリーブ王国より遥か東にある国だとマーガレットは話した。
 生まれ故郷に連れていかなかったのは、場所が遠いことと、ビワがマーガレット達と出会う前の事を、殆ど覚えてないという理由があった。
 ビワが故郷のことを思い出すまで待っていたところ、今回あったマナの揺らぎ騒動が切っ掛けで、ビワは何かを思い出しそうになっているとマーガレットに話していた。
 それを聞いたマーガレットは夫のルータと相談して、ビワを故郷に連れて行ってもらうよう、カズに頼んだのだった。

「俺も国を出るのは初めてなので、危険が伴うと思います。なのでやはりビワを連れて行くのは」

「カズさんがこのお願いを聞いてくれると思ったから、代わりのメイドを雇ったのよ。もし駄目なら、ホップとエビネには……。ビワにも何て言えば……」

「ちょっとマーガレットさん。それはズルいですよ」

「ええ、私はズルい女よ。ビワは大事な家族だもの。その家族が自分の忘れてる過去を思い出したいって言ってるの。それを叶えてあげたいじゃない。だからお願い」

「俺がビワの故郷まで行って、後から迎えに来るっていうのは」

「ここから故郷に向かって旅をすれば、少しずつ忘れていた記憶が戻かも知れないの」

「ビワは自分から…」

「もうすぐ来るから、本人に直接聞いてみると良いわ」

 カズが悩んでいると、そこに呼ばれたビワがやって来た。
 カズは真剣な面持ちで、危険な旅になるとビワに話し、それでも行くのかと確認を取った。
 ビワはカズに会ってから色々な人達と関わりを持ち、忘れている自分の過去と向き合おうと決心をしたようだった。

「カズさんに迷惑を掛けることは分かってます。でも私は知りたいんです。どういう経緯で故郷を出て、遠くにあるこの国までやって来たのかを」

「今更だけど聞いていいかなぁ?」

「なんですか?」

「ビワはどこでマーガレットさんと出会ったの?」

「それは……」

「嫌なら別に…」

「無理して話さなくてもいいのよ。ビワ」

 少し悩み考えるビワの気持ちを汲み取り、マーガレットも声を掛けた。

「はい…でも…大丈夫です……」

 ビワをカズを暫くじっと見た後大きく息を吸い、落ち着くと口を開き覚えている事を話した。
 珍しい獣人の亜種とだ言われ、檻に閉じ込められてどこからか運ばれて来たのが、ビワだという。
 そして檻から出され強引に連れて行かれそうになったとき、意を決して逃げ出して近くにあった馬車に隠れると、そこにマーガレットが乗り込んで来たと。
 怯えて隠れるビワを匿い、そのまま屋敷に連れ帰り保護したと、思い出して涙ぐむビワに代わりに、マーガレットが途中から話した。
 ビワを檻に閉じ込めていた者達は、追っ手が掛からないように、国をまたいで種族売買をしていたる組織だったとマーガレットは言う。
 その時の者達は衛兵に拘束され、捕まっていた他の種族も解放されたが、組織そのものは各国にあるため潰す事は困難らしい。

 当時オリーブ王国内に関しては、駆逐できたと衛兵は発表していたが、表に出てない悪党がまだいるだろうと、冒険者ギルドは危惧していたらしい。
 衛兵も分かってはいたが、発表したのは国民を不安にさせない為だったと。
 そういった事もあり、マーガレットはメイド達を一人では街に行かせないようにしていたと。
 現在のように、メイド達が街に買い出しなど頻繁に出掛けるようになったのは、マーガレットが病に倒れてからだそうだ。(その頃は呪いからきた病だとは知らないかった)
 マーガレットの話を聞いたカズは、以前潜入した採石場を思い出した。
 多くの冒険者で捕らえた盗賊の者達も、国をまたいで種族売買をする組織の一端だったのかも知れない。

「少し話が脱線したわね。それでカズさん返事は?」

 カズが答えるのを黙って見るマーガレットとビワ。

「危険だと感じて守りきれない思ったら、すぐに連れて戻りますから。それで良いビワ?」

「はい!」

「ありがとうカズさん。良かったわねビワ」

「はい」

 空間転移魔法ゲートを知らないマーガレットは、カズの言ってるの意味がよく分かっていなかった。
 ビワはゲートを通った事があり、カズから貰った装飾品数珠にも付与してあるので、すぐに戻ると言った意味を理解していた。

「三日後の主人の仕事に途中まで同行するのよね」

「はい。そうです」

「ならビワは当日、こちらと一緒に行くといいわ。街でカズさんと合流すればいいでしょ」

「はい。そうさせていただきます奥様。ありがとうございます」

「じゃあそういうことだか、三日後にねカズさん」

「分かりました」

 結局はマーガレットに言いくるめられ、ビワを連れて行くことになった。
 他のメイド達とは、次いつ会えるか分からないので、しっかりと別れの挨拶をした。
 少しは寂しがってくれるかと思っていたカズだったが、以外と全員がさっぱりしていた。
 オリーブ・モチヅキ家の人達に別れを告げカズは、ルータからの依頼内容を報告をするため、屋敷を後にする。
 貴族区と街を隔てる門を通るとき、常駐する衛兵がカズを見る表情は、あれから一ヶ月が経ってもやはり渋いものだった。
 これでもう長い間この門を通る事はないだろうが、次に通る事がある時は少しはましになっていればと、カズは思い貴族区を出てギルドに戻りフローラに報告した。

「ご苦労様。残ってる依頼があるなら終わらせておいて」

「それは大丈夫です。今、受けてる依頼はないので」

「ならいいわね。それと明日、そうね……夕方くらいに家に行くわ」

「分かりました」

 旅の支度とトラちゃんの食料を買いながら、少し街をぶらついて家に戻ることにするカズ。
 ダイエットしているレラ用にも、果物を多く買っておいた。
 トラちゃんに食料を届けて、ルータからの仕事依頼を伝えに倉庫街へ戻る。
 街で売っているイノボアの肉と、野菜と果物を多めに運び、仕事のことを話した。
 トラちゃんは初仕事がもらえ、少し嬉しそうだった。
 カズに糸を売ったお金で食料の代金を払おうとしたが、これから必要になるからと言い、カズは受け取らなかった。
 このやり取りはこれでもう四度目、モンスターにしておくのは惜しいほど律儀だ。
 仕事内容を伝えて食料を届けたカズは、倉庫を出て家に戻る。
 といっても、トラちゃんが住む倉庫は、カズとレラが住んでる家の真裏、しかも特殊な家の効果範囲に入っている。
 元はその倉庫も特殊な家にした人物が使用していたと、最近思い出したと言っていたフローラからカズは聞いていた。
 長い間使用されてなく、今年になってからは、カズに色々と面倒事を持ち込まれ疲れていたので、すぐには思い出せなかったと、冗談半分にフローラは話した。
 家の持ち主であるカズが気付かない原因の一つは、倉庫街に古びて使用されてない倉庫は幾つもあったので、家の真裏にそんな倉庫があっても、カズは気にしていなかった。
 翌日そのフローラが、家の所有者を変更する為にやって来る。

「お腹すいたよぉ、カズ」

「一言目がそれか」

「お帰り~」

「今、飯作るから。少しは元の体型に戻ってきたみたいだし、食べる量を増やしたらどうだ」

「……少しだけでしょ。だったらいつもと同じでいい」

「いいから食べな。旅に出るんだから、無理して体調崩したら大変だろ」

「旅? 依頼でどっか行くの?」

「まだ言ってなかったっけ。三日後に王都を出るんだよ」

「へ? 聞いてないよ」

「ごめん。最近やる事多くて、言うの忘れてた。今になってだけど、レラはここに残る? この家はフローラさんが管理してくれるから、このまま今のように住んでも大丈夫だけど」

「行くわよ。それに忘れたの、あちしの故郷を探してくれるんでしょ」

「そうだったな」

 ダイエットを程々にして、今日はお腹いっぱい食べて満足げに寝るレラであった。
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