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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

298 旅立つ前の駆け抜ける日々 3 貴重な糸の需要 と 適応する人々 と 新しいメイド

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 王都に住める事にはなったが、金銭に関しては手持ちがなく、仕事ができ収入が入るまでは、以前村に居た時のように、自分の糸を素材として販売してほしいとカズに相談するトラベルスパイダー。
 当分の間は自由に行動するのが難しく、トラベルスパイダーの食料はカズが出立した後は、誰かに運んでもらう必要があった。
 モルトが同行すれば、買い出しなどに行けるが、ギルドの仕事があるので、そうしょっちゅうは無理だ。
 王都の外に行けば自ら食料を確保できるが、馴染むまでは極力王都を出ないようにしたいらしい。
 カズは特に金銭を要求してないが、他の者に関わった際には必要になるから、その為に糸を売って少しでも手持ちのお金を確保したいと。
 あと出来れば、親しみやすい呼び名を付けてほしいとも頼まれた。
 その日カズは少量の糸を持ってギルドに行き、フローラにトラベルスパイダーのむねを伝えた。
 毎日決まった量を納められるのであれば、第2ギルドが買い取るとのことだったが、この話は依頼主にも伝えられ、半分はルータが買い取るということになった。
 第2ギルトもトラベルスパイダーを管理するというリスクを負っている事を知っているので、新たに入手できる素材をルータは独占せず、半分はギルトに卸すことを承諾した。

 カズが王都を離れるまであと三日という頃には、トラベルスパイダーは住居の倉庫と、第2ギルトの行き来ができるようになっていた。
 ただし誰かが同行する必要はまだあるが、これは予想外に良い結果だ。
 顔を引きつらせる者も多少はいるが、第2ギルト周辺の住民はトラベルスパイダーの存在に慣れてきていた。
 思いも寄らなかったのは、興味を抱いた近所の子供達が、トラベルスパイダーに駆け寄り話し掛けた事だった。
 最初は子供の親達が近付けさせないようにしていたが、流暢りゅうちょうな共通語を話して挨拶をするトラベルスパイダーに、警戒心が和らいだようであった。
 次第に子供達が、トラベルスパイダーを『トラちゃん』と呼ぶようになっていた。
 それを聞いてカズは思った、蜘蛛なのにトラとは、これいかに。
 をしていたならふうてん、だったらトラちゃんでも良いか、とカズはトラベルスパイダーの呼び名を『トラちゃん』に決めたのだった。
 既に子供達からは、親しみを込めて呼ばれているのだから、わざわざ変える必要はない。
 トラベルスパイダートラちゃん自身も、少しは気に入ってるようだから。
 王都の住民は案外適応能力が高いとカズが感心していると、道の端で井戸端会議をしていた女性達の話が耳には入ってきた。

「以前にはとても大きな鳥のモンスターが、倉庫街によく現れていたのを考えれば」

「そうよね。に比べれば、小さいわよね」

「見た目が蜘蛛だけど、慣れればどうってことないわよ」

「夜に会ったりでもしたら、わたし駄目だわ」

「でも話し方は、丁寧だったわよ」

「奥さん話したの!」

「凄いわね!」

「少しだけね。ギルトの人も見張りに付いてたから。何でも買い物をする練習をしてたんですって」

「モンスターが買い物……?」

「お金なんて持ってるのかしら?」

「それなんだけど、最近丈夫で光沢のある糸が売られてるの知ってる?」

「ええ、知ってるわ」

「一度だけその糸で織られた生地を触らせてもらったのだけど、サラサラして手触りが良く、これまでにない素晴らしい物だったわよ」

「そんなに凄いの!」

「噂だとその糸は、あの蜘蛛のモンスターが作り出してるんですって」

「あの蜘蛛のモンスターが!」

「だからその糸を売ったお金で、買い物をする練習をしてるみたいなの」

「親しくなれば、あの糸で作った物を安く回してくれるかも知れないわよ」

「それは……良いわね。あの糸で作られたドレスなんて着たら、きっと貴族様の舞踏会に呼ばれるわよ」

「そうねぇ。きっと多くの男性から声を掛けられるわ」

「皆さん妄想のし過ぎよ」

「あら奥さんは考えないの?」

「そりゃ……」

「ほーら」

「あはははっ」

「夫には聞かせられないわね」

 どこの世界でも、女性の井戸端会議は同じだとカズは思った。
 しかし住民が今、気に掛けてる情報を得るには、噂話に耳を傾けるのは大いに有効だ。
 話をしていた女性達が、トラベルスパイダーのトラちゃんの大きさに驚かないのは、以前にライジングホークのマイヒメを見て、それと比べたからだろう。
 出回ってるトラベルスパイダートラちゃんの糸も、需要が増え明るい兆しが見えて、カズは少し安心した。
 やはり共通語が話せるという利点は大きい。
 周囲の話に耳を傾けながらギルトにやって来たカズは、フローラから呼び出され、ギルドマスターの部屋に向かった。
 用件はトラちゃんの仕事に関することだった。
 ルータからギルドを通じ、依頼というかたちで話がきた。
 詳しくは屋敷で話すので、来てほしいとのことだった。
 モルトが用事で不在のため、今回はカズが一人でオリーブ・モチヅキ家に話を聞きに行くことになった。
 そして貴族区に入り、オリーブ・モチヅキ家の屋敷に着くた。
 すると入口にはキウイが壁に寄り掛かり、うとうととしていたのが目に入った。

「またサボりか? キウイ」

「カズにゃんを案内するのに待っていたにゃ。さあ旦那様の所に行く……にゃぁ~」

 大きくあくびをするキウイ。

「ああ、よろしく(キウイには昼寝時か)」

「それと旦那様の用事が終わったら、奥様が話があると言ってたにゃ」

「マーガレットさんが……? (あの事か! まだ返事をしてなった)」

 キウイに案内され、ルータの居る部屋へと行くカズ。
 ルータと軽い挨拶を交わし、早速用件を聞いた。
 仕事内容は、王都から東南に馬車で数日走った村で、トラベルスパイダーの糸を使った織物を製造を始め、そこへ視察に向かうという。
 その村へ行くのに、糸を作り出しているトラベルスパイダーを連れて行きたいと。
 トラベルスパイダーには、護衛を兼ねての仕事だと伝えてほしいとのことだ。
 出発日は三日後、途中までカズにも同行してほしいと言われた。
 どうもカズが王都を離れる日を知り、それに合わせたようだ。
 急ぐ旅でもなかったので、カズは二つ返事で承諾した。
 するとマナキ王からカズ宛の伝言を預かっているとルータから聞かされた。

「マナキ様から?」

「ええ。カズさんが出立した日に、話を衛兵司令に伝えることになっていると。気を使わせて申し訳ない、感謝する。そう伝えてくれと言われました」

「そうですか。分かりました。ありがとうございます」

「本当に良かったんですか? カズさんが国外追放なんて」

「俺から言い出した事ですから。これで衛兵の面目も立つでしょう。わざわざ旅立つ時に合わせてくれたみたいですし」

「マナキ様はカズさんに、本当に感謝していましたよ」

「この地を離れる俺に出来るのは、これくらいしかないですから」

 以前オリーブ・モチヅキ家でマナキ王と話したとき、カズは自らが国外追放になれば、衛兵の面目を保てるようなると話してあった。
 脱獄したとはいえ、カズは冤罪により捕らえられていた、なのでマナキ王はカズの意見をその時は却下していた。
 しかし王城に戻り検討した結果、カズの意見を受け入れることにしたのだった。(その場にアイアが居て口を出した事は、その場に居た者しか知らない)
 これにより衛兵の体裁は、一時的には保たれるはずである。
 これからはどうなるかは、国が行う改革次第だろう。
 ルータの用件を終え、マナキ王からの伝言を聞いたカズは部屋を出る。
 するとそこには、メイドのミカンが待機していた。

「お話終わったみたいね。じゃあ次は奥様の所に案内するよ」

「あ、うん」

「そうそう。新しいメイドさんが入ったんだよ。ミカンにも後輩が出来たんだ。歳はミカンより上なんだけどね」

「へぇ。新しい人が」

「奥様が紹介するって言ってたよ」

「そうなんだ(それ先に言ってよかったのかミカン? )」

 ミカンに付いて行き、マーガレットの居る部屋へと案内されたカズ。
 部屋に入るとマーガレットの他に、見覚えのある二人の獣人女性がメイド服を着て佇んでいた。
 ミカンの言っていた、二人の新しいメイドだ。
 マーガレットは二人のメイド、ホップとエビネをカズに紹介をした。
 二人とも元はトリモルガ家で使用人をしていたが、取り憑かれた当主のルマンチーニによって命の危機に見舞われ、偶然にもカズに救われると、マーガレットの計らいでオリーブ・モチヅキ家のメイド使用人として雇われることになったのだ。
 当初二人が相談した時は、トリモルガ家貴族の屋敷で差別されていたのもあり、ホップが使用人として働くのを躊躇ためらっていた。
 が、自分達を助けてくれたカズが親しくしている人達だからと、エビネが説得をしていた。
 その後、第3ギルドマスターフリートの後押しもあり、二人はメイド使用人として働くことを決めたのだった。
 二人には知らせれてはないが、トリモルガ家のドセトナも、フリートに二人のことを頼んでいた。

 ホップとエビネの紹介を終えると、二人をミカンに連れて行かせ、代わりにビワを呼ぶように告げたマーガレット。
 ホップとエビネは部屋を出るまで、何度もカズに頭を下げ感謝していた。
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