人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

295 移り変わる心

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 ウールと別れたカズとビワは中央広場を抜けて、路地を入った目的の場所へと向かった。
 目的のココット宿屋に着き、カズは扉を開けて中に入る。
 ビワは外で待っているとのことだ。

「いらっしゃい。おや、カズじゃないかい」

「お久しぶりです(どうやら記憶の方は大丈夫の様だ)」

 挨拶をした人物は、この宿の女将ココットだ。

「今日はどうしたんだ。この街に戻って来たのかい?」

「いえ、リアーデには用があって来たんです。なので顔を出しておこうかと」

「そうかい。カズも元気そうで何よりだよ」

「ところでキッシュは?」

「あの娘ならギルドに行ってるよ。クリスパとロレーヌに、自分で作った昼食を届けにね」

「ロレーヌ?」

「クリスパが鍛えてる冒険者のことさ。キッシュが戻るまで待つかい?」

「でしたらギルドの方に行ってみます」

「そうかい」

 ココット亭を出たカズは、外で待っていたビワと共に、この街のギルドへと向かった。
 朝の混雑はとうに過ぎており、ギルドの中の人は少ない。
 カズは受付でクリスパのことを尋ねた。
 するとギルドの裏にある庭で、ロレーヌという冒険者を訓練しているとの事だった。
 カズ達は許可をもらい、ギルドの中を通り裏にある庭へと行く。
 裏庭に続く扉に近付くと、男性と女性二人の声が聞こえてきた。
 扉を開けて裏庭に出ると、三人が一斉にギルドから出てきたカズを見た。

「カズさん!」

「カズ兄だ!」

「やぁ(戻ってた)」

 先程会ったココットが、自分のことを思い出していたので大丈夫だとは思っていたが、やはり会うまでは少し不安だった。
 しかし自分の名前を呼ばれたことで、その不安は払拭された。

「ロレーヌ、少し休憩にします」

「は、はい」

「カズ兄どうしたの? この街に戻って来たの」

「用事があってね。来たついでに会っておこうと思って。色々あったから」

「今朝ギルドマスター師匠のところに連絡があったわ。なんか大変だったみたいね。ほんの数日前まで、カズさんのことを完全に忘れていたわ」

「思い出してくれただけで良かったです」

「あのクリスパさん。そちらが王都に行ったという、冒険者の方ですか?」

「ええ。何度か話してあげたでしょ。カズさんに紹介しておくわね。冒険者なったばかりのロレーヌ」

「初めまして。ぼく、ロレーヌです。Eランクの冒険者です。今はクリスパさんにこうやって訓練してもらってます。話はキッシュからも聞いてました」

「初めましてカズです。因みに俺は今、Dランクなんだ(あの時、衛兵からキッシュを守ってた彼か)」

「……え! なんでカズ兄が? Bランクだったはずじゃないの?」

 急にキッシュが大声を上げて、ランクが下がっているカズに驚いた。

「まぁ色々とね」

「大丈夫よキッシュ。カズさんならすぐにランクを上げて、元に戻るわよ。それより後ろの方はどなた?」

 カズの後に立つビワを見て、クリスパが尋ねる。

「彼女はビワ。王都に住んでる貴族のところで働いてるメイ…使用人。今回はリアーデに用事があって、一緒に来たんだ」

「は…初めま…して。ビワと…申します」

「私はクリスパです。このギルドのサブ・ギルドマスターをしています」

「私はキッシュです。よろしくお願いしま~す!」

 もじもじとするビワに、元気よく自己紹介をするキッシュ。

「二人の顔も見れたし、俺達…」

「待った待った。あちしのこと忘れてない?」

 肩掛けの鞄から飛び出すレラ。

「あ! レラちゃん」

「久しぶりキッシュ」

「うわぁ、フェアリーだ!」

「私も初めて見たわ。何度かキッシュから話しは聞いてたけど」

 姿を現したレラを見て、クリスパとロレーヌは驚いていた。

「ねぇねぇキッシュ。そっちのロレーヌとは、どういう関係? 仲が良さそうだけど、彼氏とか?」

「え、えへへ。まだ彼氏ってわけじゃないんだけど……」

 キッシュがチラリとカズを見て、両手を合わせ、ごめんなさいと声に出さずに口を動かした。
 その様子を見たレラが、カズの肩に手を置いて一言。

「カズ……フラれたね」

「……ロレーヌ君だったね」

「はい」

「もっと強くなれよ。でないとキッシュ好きな人を守れないぞ。街にモンスターがいないからって、安心はできないんだから。質の悪い連中だっているんだからな」

「わ、分かってます。ぼくだってすぐに強くなってみせます。クリスパさんやカズあなたよりも」

「ロレーヌが私よりも強くねぇ。ならこれからは、もっと訓練をキツくしないとね」

「えッ!?」

 クリスパの名を出したことを、後悔するロレーヌだった。

「訓練の邪魔をしたら悪いから、もう行くよ」

「ええ、もう」

「まだ用事があるから。そうだ、クリスパに訓練してもらってるなら、すぐ強くなるだろうから、ロレーヌ君にこれを」

 カズは【アイテムボックス】からスノーウルフの毛皮で作った装備品を取り出し、ロレーヌに渡した。

「うわぁ! な、なんですかこれ?」

「俺が使ってた『スノーウルフの装備品一式』今は殆ど使ってないから君にあげるよ」

「こんな良い装備品貰えませんよ。第一ぼくにはまだ使えません」

「だったらギルドで…クリスパに預かってもらえばいいさ」

「でも、こんな高価なもの」

「貰っておきなさい。それが使えるようになるまで、ギルドで預かっててあげるわ」

「あ、ありがとうございます」

「二人とも行こうか」

「じゃあねキッシュ」

 キッシュとクリスパとロレーヌに別れを告げて、カズはビワとレラを連れてギルドを後にした。

「さあロレーヌ。カズさんに勝ちたければ、私の剣を受けて反撃してみなさい」

「え、急に。ま、待ってクリスパさん」

「頑張ってロレーヌ。怪我したら私が治してあげるから」

「行くわよ」

「ま、待って待って!」

「ほらどうしたの。貰った装備を使えるようになるんでしょ。それに、を簡単に越えるんだったら、この程度の訓練じゃ全然足りないわよ」

「ご、ごめんなさい。調子にのりました。だからいつもの訓練に戻してください」

 このあとロレーヌがクリスパにしごかれて、動けなくなったことは言うまでもない。
 ギルドを出たカズはゲートを使うため、ビワと肩掛けの鞄に入れたレラと共に人気のない路地裏に入って行く。
 アレナリアにも記憶が戻ったか確認をとりたかったので、先にアヴァランチェのアレナリアの家へと向かった。
 しかしアレナリアは出掛けていて、会うことはできなかった。
 ギルドにも行ってみたが、出掛けているらしくやはり会うことはできなかった。
 なので今回アレナリアに会うのは諦め、カズは王都のオリーブ・モチヅキ家にゲートを繋げて、ビワを送り届けてからレラと共に倉庫街にある家へと戻った。
 やっと自分の家に戻ってこれたと、レラは喜んでいた。

「どれくらいぶりかしら。やっと自分の部屋で寝れるわ」

「じゃあ今日はぐっすりだな。いや、いつもか」

「それよりもさぁ、キッシュはよかったの?」

「何がだ?」

「だってキッシュはカズのことが好きだったんでしょ。それなのに、あんな弱っちい男に任せなんかして。装備をあげてたけど、カズは二人の仲を認めたってことなの?」

「前にレラも見てただろ。キッシュを衛兵から必死に庇ってたところを」

「守りきれずに、キッシュが叩かれてたじゃない」

「結果はそうだけど、自分より強い相手に向かって行ったんだから、見所はあるんじゃないか。クリスパだって期待してるから、訓練をしてあげるんだろうし」

「そんなもんなの?」

「キッシュが幸せになれば良いじゃないか」

「キッシュとアレナリアは、カズの恋人じゃなかったの?」

「キッシュは妹って感じなんだよな。(実際に妹はいないんだけど)それに俺よりは、同じ世界の人と幸せになった方が良いしね」

「フラれた負け惜しみ」

「そんなんじゃないんだけど……。とりあえずレラは、一言多いぞ」

「安心しなよ。あちしはカズと居てあげる。食事も洗濯も掃除も、全部カズにやらせてあげるから」

「……ぐうたらの太っちょレラ」

「どこが太っ…」

「さぞかし美味しい物を、いっぱい食べさせてもらったんだろ。体型が横に膨らんでるぞ」

「や、痩せるもん」

「ふ~ん。じゃあ自分のことは自分でやるようにな。そうすれば少しは元に戻るんじゃないか」

「やってやるもん。見てなさい。前以上に可愛くなってやるんだから」

「なら期間は一ヶ月にしよう(それまでにやる事を終わらせて、旅の支度をしないとな)」

「30日もあれば余裕だもん」

「楽しみだ(あとは、レラにいつ国を出ることを言うか、か)」

 挑発にうまくレラが乗っかり、しめしめと思ったカズだった。
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