人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

294 確認をしにリアーデの街へ

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 ◇◆◇◆◇


 念の為に使用していたアラームが鳴ることもなく、カズは朝までぐっすりと寝ることができた。
 軽い朝食を済ませ、カズは第2ギルドへと向かった。
 相変わらず朝のギルドは混んでいた。
 特に依頼書が貼ってある場所と、受付には大勢の冒険者が居た。
 カズはそれを横目に、人々の間をすり抜けて階段を上がり、ギルドマスターの部屋に向かった。
 扉をノックして中に入るが、そこにギルドマスターであるフローラの姿はなかった。
 部屋の奥にある資料室を見るが、やはりその姿はなかった。
 出掛けて留守なのかもと思ったが、一応仮眠室を見に行くことにした。
 仮眠室の扉を静かに開けると、そこには寝息をたてたフローラが、簡易ベッドに横になっていた。

「そういえば以前に、ナツメとグレープとここに寝かせてもらった事あったな。起こしちゃわるいから、またにする…」

「ん……おばあ…ちゃん?」

 カズの独り言が聞こえたのか、フローラはゆっくりと目を開けてカズを見る。

「起こしちゃいましたか」

「カズ…さん……」

「おはようござ…」

「……!!」

 目を見開いて勢いよく起き上がったフローラは、かけていた毛布で身を隠し、部屋の隅に移動してカズから離れた。

「いくらおばあちゃんが良いって言ったからって、本当に夜這いに来るなんて最低よ! 無防備な私に何をしたの! 見損なったわ!」

「へ?」

「何もしてませんよ! 朝になって来たら、部屋に居なかったので、ここに居るか見に来ただけです。起こすのを悪いと思って出て行こうとしたら、フローラさんがちょうど起きたんです」

「……本当でしょうね」

「本当ですって」

 フローラは毛布をめくり、自分の服が乱れてないかを確かめた。

「どうやら本当のようね」

「信じてくれたようで、良かっ…」

「……出てって」

「わざとじゃないんです。謝りますから」

「着替えるから出て行きなさいっていうの!」

「あ、はい。ごめんなさい」

「すぐ行くから、ギルドマスターの部屋で待ってなさい」

「あの……はい」

 仮眠室を出たカズは、ギルドマスターの部屋に移動し待機する。
 少しすると、いつもの服装に着替えたフローラがやって来た。
 定位置にフローラが座るのを待ってから、カズは深く頭を下げて謝った。

「すいません。ごめんなさい」

「それで今日は何の用なの?」

 強目の口調でカズに話すフローラ。

「ルータさんの依頼を遂行する方向性が決まったら、本人に連絡しようかと」

「そんなすぐに決まらないわよ」

「分かってます。分かってますが、いつ決まるか分からないので、一応毎日フローラさんの所に、顔を出そうかと」

「決まったら私の所に来るよう、受付に言っておくわよ」

「今は人が多い所は、どうも」

「まあ仕方がないわね。騒動がすんだばかりだものね。あ、だから気配を消して来たの!」

「ええ。朝から大勢の視線を受けるのも嫌だったので『隠密』スキルを使って」

「上の階に来たなら、スキルを解除しなさい」

「すいません」

「無防備な寝顔を見られるなんて。私としたことが……」

 ぶつぶつと小声で文句を言うフローラ。

「なんですか?」

「なんでもない。他に用事はあるの」

「いえ、特には。ただこの後、リアーデに様子を見に行くつもりでして」

「記憶の事?」

「はい。戻ってるとは思うんですけど、確めに」

「確認しに行くのね。まあ良いんじゃないの。ああ、そうだわ。ギルドカード貸して」

「ギルドカードですか? 分かりました」

 カズは【アイテムボックス】からギルドカードを取り出してフローラに渡した。

「言い忘れてたけど、カズさんDランクに降格してるのよ。本当は登録を抹消するはずだったんだけど、降格させて冒険者としての活動停止ということで、なんとか留めておいたの」

「そうな……それもそうか」

「悪いけど一度落としたランクを、私の権限で元のランクには戻せないの。これはギルドとしての決まりだから」

「別に構いません。一応目的は果たしましたから」

「元の世界に戻る方法が、国が所有するアーティファクトにあるか確めるため、だったかしら」

「ええ。それも先日、アイアさんから聞けましたので」

「旅に出るのは、まだ少し先でしょ。なら依頼を受けて、ランクを上げておきなさい。今回の降格は間違いから起きた事だから、ギルドとしての評価は下がらないわ」

「別にDのままでも、俺は」

「Dランクの時には、絡まれることもあったでしょ」

「確かに」

「ギルドマスターの権限で簡単にランクを上げたりしたら、ギルドの信用に関わるのは分かるわよね。だから地道に依頼を受けて、ランクを上げてちょうだい。今回ランクが下がった事情が事情だけに、上がりやすいようにはなってるから」

「そうなんですか。でも他の冒険者がそれを知ったら」

「大丈夫よ。この話は他のギルドマスター達も承知してるから、何か言われる心配はないわ。バカな冒険者が絡んできたら、殺さない程度にしてくれれば。だから早く元のBランクに戻っておきなさい」

「それなら以前通りに、他の冒険者が選らばずに残った依頼でやります」

「そうしてもらえれば、ギルドとしても依頼達成率が上がって助かるわ」

「それじゃあ俺は、レラとビワを迎えに行くので〈ゲート〉」

「最近、その空間転移の魔法を多用し過ぎよ。どこで誰が見てるか分からないんだから、少しは自重しなさい」

「もう結構な人に知られたので、この国で気を付けて使うならいいかと」

「それでもよ。簡単に転移出来ると知られたら、誰に妬まれるか分からないんだから」

「気を付けます。とりあえず今日はリアーデに行くので、それが済んだら控えます」

 フローラの忠告を聞いたカズは、使用したゲートを通って、レラとビワを迎えにオリーブ・モチヅキ家へと移動した。
 ルータは書斎で仕事中だったので会うのをやめ、マーガレットには挨拶をして、ビワを連れて行くことをカズからも話した。
 マーガレットの快諾を得たカズは、ビワとレラを連れてゲートでリアーデに移動して。
 転移先は、一時的に住んでいた借家近くの、人通りが殆どない路地裏にした。
 誰に見られることもなくリアーデへとやって来た三人は、以前世話になった大屋のウールが住む家に向かった。
 レラはカズが持つ、肩から下げた鞄に入れられていた。
 目的の建物に着き扉を叩くと、ずんぐりむっくりしたドワーフの女性が出てきた。

「こんにちは大家さん。ビワです。覚えてますか?」

「忘れるもんかい。急に出て行ってしまったから心配してたんだよ」

 挨拶もできず急に別れてしまったので、ビワの元気な姿を見たウールはとても喜んでいた。
 まるで遠くに住んで長年会っていなかった娘が、突然帰ってきたかのように。

「ところで旦那はどうしたんだい? それにこっちの人は……?」

 ビワと一緒に来たカズを見て、少し困惑してたようだったが、街の広場に貼り出されてたものを思い出し、なんとなく感づいてた。
 以前リアーデでに隠れ住んでいた頃は、メタモルフォーゼで変装していたので、ウールへの挨拶は初めましてと言う方が正しいのかもしれない。
 カズは事情を説明して、ウールに謝罪をした。

「そうかい。理由は違えど、訳ありなのは同じだったんだね」

「騙してしまい、すいません」

「ごめんなさい。ウールさん」

「なぁに事情が事情だからね。仕方ないさ。ビワが元気そうで良かった」

「信じて…もらえるんですか?」

「ビワを見れば分かるよ。あんたは素直な良い娘だよ。裁縫も真面目に覚えて、旦那を支えてたんだからね」

「あの…私とカズさんは…本当の夫婦じゃ…ないんです。ごめんなさい」

「そうかい通りで……」

「通りでとは…何ですか?」

「ぎこちないと思ったよ。駆け落ち来てきたってのに、毎晩静かみたいだったからね」

「夜は静かに寝るものですよ?」

「好いた者同士が夜になると、やることは決まってるだろ」

「は……」

 ウールの言いたいことが分かり、赤面するビワ。

「お、俺が無理に頼んで、協力してもらっていたんです。騙しててすいません」

「なぁに構わないよ。これでも良し悪しは分かってるつもりさ。とまぁ、広場の掲示板でカズあんたの事が書かれたのを、今朝見たんだよ。手配は間違いだったとか」

「そうですか。なんにせよ、大家さんに迷惑が掛からなくて良かったです」

 これでリアーデに居ても衛兵に追われる事はないんだと、少し安心するカズ。

「その程度で迷惑なんて思わないよ。この場所は色々な種族が暮らす所だからね。何かしら揉め事は起こるもんさ。だからあんたらが掛けた迷惑なんて、小さいものさね」

「俺達が住んでた借家は、衛兵に調べられたりはしませんでしたか? 何か壊れたりしたようなら…」

「壊されてなんかないよ。それどこか二人が暮らすのに直してくれてたお陰で、今、貸してる家族には喜んでもらってるよ」

「それなら良かったです」

 カズ達は次の場所に向かうため、ウールに別れを告げた。

「そうかい、もう行くのか。近くに来たらいつでも寄りなよ」

「はい。ありがとうウールさん」

「じゃあ行こうかビワ」

「はい」

 ウールはビワに駆け寄り、ぼそぼそとビワだけに聞こえるように話をした。

「次に来るときは、本当の夫婦になって、子供を連れて来ることを期待してるよ」

 ビワは少し離れた所に居るカズを見て、視線があうと恥ずかしそうにして、顔を背けた。
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