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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
303 余談 見習い冒険者と宿屋の娘
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王都でマナの揺らぎが発生し、カズが手配されてから数十日が経ったある日、このはリアーデという街の中央広場へ向かう道。
「あ、ロレーヌ。今帰り?」
「今日もクリスパさんに訓練してもらってたんだ」
「少しは強くなった?」
「ぼく、上達が遅くて。クリスパさんには、近くに出るジャンピングラビットを狩る依頼を受けて、実戦経験を積むよう言われたんだ。何度も訓練をするより、実戦を経験した方が成長するって」
「クリ姉ならそう言いそうだね」
「ぼくならイノボアを狩る事も出来るって言われたんだけど、中々踏ん切りがつかなくて」
「クリ姉が言うなら大丈夫だよ。ロレーヌはやれば出来るって、私信じてるよ。だからイノボアを狩ってきたら、そのお肉うちに持ってきてね」
「クリスパさんが言うように、キッシュは食いしん坊だなぁ」
「ち、違うよ。うちの宿で買い取るってこと。そうすればお客さんに安く提供できるでしょ」
「なんだそういうことか。キッシュが食べたいだけかと思った」
「もちろん私が食べたいのもあるよ」
「あははッ。やっぱり食いしん坊じゃないか」
「いいじゃないの別に。あ~あ、前に来てたお客さんは、お肉やお魚をよくくれたっけなぁ。ジュースを買ってもらったりもしたっけ」
「またその人の話か。でも名前とか覚えてないんでしょ」
「うん。優しい人だったんだけど、思い出せないんだよねぇ。なんでかなぁ?」
「そういえば、クリスパさんも同じ様なこと言ってた。実力はあるのに物腰の低い、とてもいい人だったんだけど、思い出せないって」
「おかしいよね。なんでだろう?」
「ぼくに言われても分からないよ」
キッシュは首から下げているネックレスを手に取り見る。
「それって、その人から貰ったものなんだよね?」
「うん。ネックレスじゃないけど、クリ姉も貰ったんだよ」
「へぇ」
「そういえば少し前に来たお客さんが、このネックレスを誉めてくれたんだ。その時は満室だったから泊めてあげられなかったけど、食事だけはしてってくれたんだ」
「そうなんだ……ぼくだってキッシュにプレゼントするくらいは」
ポロッと自分の気持ちが声に出るロレーヌ。
「え、な~に?」
「な、なんでもない。それよりココット亭に早く戻ろう。ぼくお腹空いちゃった」
「訓練ばかりして依頼を受けないと、宿代払えないよ。うちだって大きな宿屋じゃないんだから、つけでは泊まれないからね」
「分かってるよ。明日から暫くは、依頼を受けて宿代を稼ぐようにする」
「ちゃんとしてよ。冒険者になって日が浅いんだから。あ~あ、荷物重いなぁ」
「ぼくが持ってあげる」
「遅~い。言われなくても気付いて持ってよ」
「ご、ごめん。次からすぐ気付くようにするから」
「そうそう。そういう注意深く回りを見て、状況を判断することが大事だよ。な~んて、これクリ姉の受け売りだけど」
買い物を終えたキッシュと、ココット亭に泊まっているロレーヌは、一緒に宿屋ココット亭に戻った。
カズを忘れたキッシュは、同年代のロレーヌに少し気持ちを引かれていた。
キッシュとロレーヌがココット亭に戻ると、食堂から心配そうな顔をして女将のココットが出て来る。
「どうしたのお母さん?」
「さっき衛兵が来て、手配された人のことを聞かれたんだよ」
「またぁ。この前来たばっかりなのに」
「覚えてないって言ってるんだけどねぇ」
「とんでもない人ですね。もし今度その人来たら、ぼくが一発殴ってやりますよ」
「イノボアを怖がってるロレーヌが何を言ってるのよ」
「こ、怖くなんてないさ。今度ギルドに依頼が出てたら、イノボアを倒してその肉を持って来てやるよ」
「ふ~ん。期待しないけどね」
「言ったなキッシュ」
「ええ、言いました」
「ぼくがイノボアを倒したら」
「いいわよ。ロレーヌのお願いなんでも聞いてあげる。ただし明日から三日以内だからね」
「いいとも。約束したから、忘れるなよキッシュ」
「こらこら、何を口喧嘩してるんだね。キッシュは向こうで料理だよ。ロレーヌは部屋で休んでな。夕食出来たら呼んでやるから」
先程まで仲の良く話してたのに、変な意地の張り合いでつんけんする二人だった。
「そう都合よく依頼が出てるか分からないのに、ロレーヌは自分で言っといて忘れたのかねぇ。まるで息子が出来たみたいだ」
翌日、翌々日とギルドの掲示板に貼り出されてる依頼書を見るが、イノボアに関係する依頼は一つも出ていない。
いつもより熱心に掲示板の依頼書を見ているロレーヌに、気になったクリスパが声を掛け話を聞いた。
事情を知ったクリスパが、街の近くに最近たまに現れるイノボアのことをロレーヌに話した。
まだ討伐依頼を出す程ではなかったが、やる気になったロレーヌを見て、クリスパが出現場所の情報を教えると、ロレーヌは話を最後まで聞かずにギルドを飛び出して行った。
街を出てクリスパに教えられた場所に来たロレーヌは、辺りの長い雑草を掻き分け、イノボアの通った後を探した。
しかしいくら探しても一向に見つからず、気が付けば日は暮れて来ていた。
この日の探索を諦めたロレーヌは、気を落としギルドへと戻った。
ギルドに戻ってきた元気のないロレーヌをクリスパが活を入れ、イノボアが早朝に出現するいう情報を与えた。
翌朝早くに行けば、キッシュとの約束に間に合うと喜んでいたが、話を最後まで聞かないでギルドを飛び出したロレーヌを、クリスパは怒った。
疲れているところに、三十分以上の説教を聞かされたのだっだ。
この日ココット亭に戻ったロレーヌは、夕食も取らずに寝てしまった。
◇◆◇◆◇
日が昇る前に空腹で目が覚めたロレーヌは、部屋にある椅子に手紙と軽食が置いてあるのに気付いた。
手紙はキッシュが書いたもので、前日夕食も取らずに寝てしまったロレーヌを心配して、朝昼と二食分の軽食を用意してくれてあった。
なぜ二食分かというと、前日クリスパがココット亭に寄り、翌朝早くにロレーヌがイノボアを狩りに行くと、キッシュが聞かされたからであった。
手紙の最後には、怪我をしないで無事に戻って来ること、と短く書かれていた。
ロレーヌは一食分の軽食を食べ終わると、もう一食分を布袋に入れ、キッシュの手紙はポケットにしまうと、静かにココット亭を出て街の外へと向かった。
だんだんと明るくなって来た頃に、前日探した場所に着くロレーヌ。
耳をすませて、イノボアが動く音を探る。
離れた所からロレーヌの方に向かって、足音が近付く。
長い雑草から飛び出して来たのは、紛れもなくイノボアだった。
ただしロレーヌが見たことあるイノボアよりも、大きな個体だった。
通常は60㎝程だが、この個体は1mはあった。
想像していたよりも大きなイノボアに、足がすくむロレーヌ。
突進してくるイノボアを、ギリギリのところで横に倒れこみ避ける。
ポケットから目の前に手紙が飛び出し、それを見たロレーヌはキッシュの顔を思い浮かべた。
手紙を拾いポケットにしまうと、短剣を抜き向かってくるイノボア立ち向かう。
突進するイノボアをスレスレでかわしながら、短剣で斬りつける。
無様とも思える戦い方だが、ロレーヌは同じ様に何度もイノボアに攻撃を与える。
しかし攻撃は浅く、致命傷を与えるまでにはいたらない。
初めての討伐戦で緊張し、余計な所に力が入り疲れるのが早い。
するとイノボアの突進を避けられず、正面から受けて飛ばされてしまった。
外傷は無いものの、衝撃からすぐに立ち上がれない。
地面を転がり、なんとかイノボアの突進を避けて立ち上がる。
ロレーヌの息は荒く、イノボアも疲れと傷から戦意が薄れていく。
鼻をヒクヒクと大きく動かしたイノボアは、前足で地面を蹴り、土煙を上げてロレーヌに突進する。
ロレーヌはギリギリでかわすが、下げていた布袋にイノボアの鼻に当たり弾き上げられる。
布袋から飛び出した物に、イノボアがロレーヌを無視して向かって行く。
ロレーヌはそれがキッシュが作ってくれた軽食だと気付いた。
包み紙を食い破り、中の軽食を貪り食うイノボア。
ロレーヌはここぞとばかりに、イノボアの背後から短剣を深く刺した。
痛さから暴れるイノボアに飛ばされたロレーヌは、短剣を放してしまう。
刺さったままの短剣は、イノボアが暴れることで内部の傷が大きく広がり、暫くするとイノボアは血を多く流し倒れた。
キッシュが作った軽食と、イノボア自らが暴れた事で、偶然ではあるがロレーヌはイノボアの討伐を成功させたのだった。
休憩をして体力を回復させたロレーヌは、近くを通り掛かった知り合いの冒険者に頼み、イノボアをギルドまで運ぶのを手伝ってもらった。
ロレーヌは知らない事だが、知り合いの冒険者がたまたま通り掛かった訳ではなく、クリスパに頼まれて様子を見に来ていたのだった。
心身とも疲れていたロレーヌだったが、偶然とはいえ大きな個体のイノボアを倒せたことで、気持ちは高ぶっていた。
ギルドでイノボアを解体してもらってる間に、ロレーヌは一度ココット亭へと戻ることにしたのだった。
ロレーヌが街の中央広場に差し掛かると、キッシュが三人の衛兵と言い争ってるのが聞こえた。
ロレーヌが声のする方へ近付いて行くと、人だかりになってる隙間から、一人の衛兵がキッシュの腕を掴むのが見えた。
ロレーヌは人を掻き分けて近づき、衛兵の手を払いキッシュと衛兵の間に立ちはだかった。
この様な事は何度かあり、衛兵はロレーヌの顔を知っていた。
もちろん冒険者ギルドの、サブ・ギルドマスターのクリスパと知り合いだということも。
一人の衛兵が仲間を呼びにその場から離れ、残った二人の衛兵はキッシュとロレーヌが逃げないよう見張り、あわよくば拘束しようとしていた。
曲がりなりにも冒険者のロレーヌを、二人の衛兵は警戒していた。
暫くすると先程の衛兵が、仲間を連れて戻って来た。
八人となった衛兵相手では勝ち目がないと、ロレーヌはキッシュを庇いながらも、大人しくすることにした。
この騒動の事を誰かが冒険者ギルドに報告に行っていれば、キッシュの身を案じてクリスパが来るだろうと、ロレーヌは考えていた。
しかし助けは来ず、ロレーヌは拘束される。
キッシュは大事なネックレスを取られそうになり抵抗すると、ロレーヌが大声を上げて衛兵のする事を止めさせようとする。
「やめろッ! それでも住民を守る衛兵か!」
それに激怒した衛兵は、ロレーヌを何度も殴り付ける。
「分かった、分かりました。渡すからやめてッ」
キッシュは衛兵の言うことを聞き、ネックレスを渡してロレーヌを殴る事を止めてもらう。
すると一人の衛兵が、ココット亭に行きココットも連行すると言った。
キッシュは衛兵を睨み付け反論すると、衛兵がキッシュを黙らせるため平手打ちをする。
「痛ッ」
キッシュが叩かれた次の瞬間、キッシュを叩いた衛兵の後頭部に衝撃が走り、前のめりに倒れた。
「あちしの友達に何してのよッ!」
声のする方を見ると、そこには滅多に見ることのできないフェアリーの姿があった。
情報で手配犯と行動を共にしているフェアリーだと気付いた衛兵は、すぐに周囲を警戒した。
するとマントとフードで姿を隠した怪しげな人物が、衛兵達の前に現れた。
衛兵が質問を投げ掛けるが、現れた人物は一切喋らなかった。
カズだと確信した衛兵は剣を抜き、現れた人物を捕らえようとする。
顔を殴られ少し朦朧とするロレーヌは、何が起きたか分からなかった。
意識がハッキリとしてきた時には、自分とキッシュを取り囲んでいた衛兵が、全員気絶して倒れていたからであった。
フードとマントで姿を隠した人物が、倒れた衛兵からネックレス取り返し、それを持ってキッシュへと近付いてゆく。
助けてくれたが本当に手配されてる人物なら危険だと、ロレーヌはキッシュの前に立ち、現れた人物を近付けさせないようにした。
フードとマントで姿を隠した人物はただ一言「すまない」と言い、ネックレスをロレーヌに渡した。
キッシュが話し掛けたが答えることはなく、走り去ってしまった。
入れ違いにクリスパが二人の元へと駆け付け、現状を見て驚いていた。
二人に話しを聞こうとしたが、それよりも先に、安全なギルドへ連れて行くことにしたのだった。
そしてギルドに着くと、クリスパは広場で何があったかを二人に聞いた。
キッシュの叩かれ赤くなった頬は、ネックレスを付けることで徐々に治っていった。
ロレーヌの怪我は、ネックレスに付与されたヒーリングを使いキッシュが治した。
少しすると連絡を聞いたココットが、キッシュとロレーヌを心配してギルドにやって来た。
クリスパが宿を暫く閉めるように言うが、ココットはそれを聞き入れなかった。
クリスパはサブ・ギルドマスターとしての仕事があり、常にココット亭に居ることが出来ない、そこでロレーヌが二人を守ると買って出た。
少なくとも、クリスパが駆け付けるまでの時間稼ぎはすると。
あまりにも頼りなかったが、クリスパはロレーヌの気持ちを尊重して、二人のことを頼んだ。
クリスパはもちろん、今回の事を衛兵に強く抗議するつもりでいた。
まだ元気のでないキッシュを見て、ロレーヌが一人でイノボアを狩ってきた事をクリスパは話した。
キッシュは驚いて、ロレーヌと共に解体されたイノボアを引き取りに行き、その肉の大きさを見て更に驚いた。
解体費用はクリスパの計らいで、今回は無料にしてくれた。
「これで約束は果たした。ぼくだってやればできるんだ」
「そうだね。なら私に何がしてほしいの?」
「え?」
「三日以内にイノボアを倒したんだから、お願い聞いてあげるって言ったでしょ」
「お願いかぁ……」
ロレーヌの顔を覗き込むキッシュ。
「な、何にも考えてなかったなぁ」
近くにあるキッシュの顔を見て、赤くなるロレーヌ。
「そうだなぁ。じゃあ今度どこかに行くとき、ロレーヌに付き合ってあげる。それで良いでしょ」
「結局キッシュが決めちゃうの」
「だってロレーヌ考えてなかったんだもん。それとも私じゃ嫌なの?」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ決まりね」
「う、うん」
キッシュから顔を背け、壁を見つめるロレーヌ。
キッシュに気付かれないように、ロレーヌに呟くクリスパ。
「キッシュとデートの約束が出来て良かったわね」
「ク、クリスパさん! デートだなんて」
「いいじゃない。キッシュを守る為に、頑張ったんだから。ココットだって、二人で出掛けるくらいの時間を作ってくれるわよ」
クリスパに言われて、ロレーヌの胸は激しく高まった。
「さあロレーヌのイノボアの肉を持って、ココット亭に戻りましょう。今日はずっと私が一緒に居るから大丈夫よ」
四人はロレーヌが狩ったイノボアの肉を持って、ココット亭へと戻って行った。
この日からキッシュとロレーヌの距離は縮まり、ココットも二人の仲を口には出さなかったが認めていた。
後日自信をつけたロレーヌは、北の村からの依頼を見つけ、それを受けていた。
依頼内容は毎年多く発生しているイノボアの討伐、かつて冒険者になったばかりのカズも受けた依頼。
キッシュは二人で出掛けるという約束をまもり、ロレーヌの依頼に付いて行くことにした。
母親のココットには、イノボアの肉を仕入れてくるから、ロレーヌに付いっていいかと話した。
ココットはクリスパに相談をすると、半日もあれば北の村までは行け、他の冒険者も同じ依頼を受けるから、危険はそれほどないから大丈夫だと話した。
クリスパの話しを聞いたココットは、キッシュがロレーヌに付いて北の村に行くことを許可した。
二人で北の村へ出掛け行き、ロレーヌはその日に八匹のイノボアを狩った。
三匹分の肉を持ち帰る為に、村で解体を頼んだ。
イノボアの肉が受け取れるのは翌日ということもあり、ロレーヌはキッシュと話し合い北の村で一泊してすることにした。
そしてこの夜、引かれあっていた二人は、お互いの気持ちを確かめると、キッシュは肌身離さず付けていたネックレスを外し、ロレーヌと体を重ねた。
初めてを捧げた相手のことを思い出せないまま、経験のあるキッシュが初めてのロレーヌをリードするかたちで、二人の心と肉体は繋がりひとつとなった。
◇◆◇◆◇
翌日の二人は照れて恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに手を繋いで宿を出た。
そのまま頼んでいたイノボアの肉を受け取り、二人はリアーデへと戻って行った。
キッシュはロレーヌと繋がったあの日から、ネックレスをくれた人のことを考えるのが少なくなっていた。
忘れているその人物が、現在王都の衛兵本部で投獄されている事など、まったく知るよしもない。
そして投獄されているカズも、キッシュの想いが移り変わっている事も。
≪ それから数十日後 ≫
この日ギルドでクリスパがロレーヌを鍛えているのを、キッシュが見に来ていた。
そこへビワを連れたカズは訪れた。
カズはキッシュがロレーヌに向ける視線がそれであることを察して、自分は身を引き二人の仲を認めた。
ロレーヌに成長と期待を込めて、自分が使っていた装備品を託して行ってしまった。
この時クリスパは、去り際のカズの背中が、少しだけ寂しそうに見えていた。
ロレーヌには聞こえないようにして、クリスパはキッシュに小声で話した。
「いいの、カズさんのこと?」
「う…うん。でもやっぱりカズ兄は、お兄ちゃんて感じなんだ。久しぶりに会って改めてそう思ったの」
「カズさんたら、いつの間にかフラれてたのね」
「フッたなん……そうだね。忘れてたからって、ロレーヌを好きになってカズ兄を……私、酷いよね。考えると胸が痛い」
「そうね。でもその痛みは、キッシュが一つ大人になったってことよ。それにカズさんは二人のことを認めてくれたから、ロレーヌに装備品を託していったんじゃないかしら。キッシュを守れるようになれ! ってね」
「そうかなぁ?」
「そうよ」
「うん、そうだね。カズ兄にはまだアレナリアさんだって居るんだし、さっき一緒に来た獣人の女の人だって」
「彼女とは言ってなかったわよ。用事で一緒にいたとしか。でも……カズさんなら以外とあり得るわね」
「でしょ。だからカズ兄は大丈夫だよ」
この時のキッシュの言葉は、自分の罪悪感を誤魔化す為に言っているようにも聞こえた。
「心配なのはクリ姉だよ。早く恋人見つけなよ」
「余計なおせわよ! この街には、ろくな男がいないんだもん。サブマスやってるから他の街は行けないし……私だって早く……」
この後二人が恋人とし長続きしたかは、ロレーヌの努力次第と、キッシュがロレーヌに寄せる思いが一時的なものでなければ……だ。
クリスパに生涯のパートナーが現れるかは、まだあと数年は先になるかも知れない。
「あ、ロレーヌ。今帰り?」
「今日もクリスパさんに訓練してもらってたんだ」
「少しは強くなった?」
「ぼく、上達が遅くて。クリスパさんには、近くに出るジャンピングラビットを狩る依頼を受けて、実戦経験を積むよう言われたんだ。何度も訓練をするより、実戦を経験した方が成長するって」
「クリ姉ならそう言いそうだね」
「ぼくならイノボアを狩る事も出来るって言われたんだけど、中々踏ん切りがつかなくて」
「クリ姉が言うなら大丈夫だよ。ロレーヌはやれば出来るって、私信じてるよ。だからイノボアを狩ってきたら、そのお肉うちに持ってきてね」
「クリスパさんが言うように、キッシュは食いしん坊だなぁ」
「ち、違うよ。うちの宿で買い取るってこと。そうすればお客さんに安く提供できるでしょ」
「なんだそういうことか。キッシュが食べたいだけかと思った」
「もちろん私が食べたいのもあるよ」
「あははッ。やっぱり食いしん坊じゃないか」
「いいじゃないの別に。あ~あ、前に来てたお客さんは、お肉やお魚をよくくれたっけなぁ。ジュースを買ってもらったりもしたっけ」
「またその人の話か。でも名前とか覚えてないんでしょ」
「うん。優しい人だったんだけど、思い出せないんだよねぇ。なんでかなぁ?」
「そういえば、クリスパさんも同じ様なこと言ってた。実力はあるのに物腰の低い、とてもいい人だったんだけど、思い出せないって」
「おかしいよね。なんでだろう?」
「ぼくに言われても分からないよ」
キッシュは首から下げているネックレスを手に取り見る。
「それって、その人から貰ったものなんだよね?」
「うん。ネックレスじゃないけど、クリ姉も貰ったんだよ」
「へぇ」
「そういえば少し前に来たお客さんが、このネックレスを誉めてくれたんだ。その時は満室だったから泊めてあげられなかったけど、食事だけはしてってくれたんだ」
「そうなんだ……ぼくだってキッシュにプレゼントするくらいは」
ポロッと自分の気持ちが声に出るロレーヌ。
「え、な~に?」
「な、なんでもない。それよりココット亭に早く戻ろう。ぼくお腹空いちゃった」
「訓練ばかりして依頼を受けないと、宿代払えないよ。うちだって大きな宿屋じゃないんだから、つけでは泊まれないからね」
「分かってるよ。明日から暫くは、依頼を受けて宿代を稼ぐようにする」
「ちゃんとしてよ。冒険者になって日が浅いんだから。あ~あ、荷物重いなぁ」
「ぼくが持ってあげる」
「遅~い。言われなくても気付いて持ってよ」
「ご、ごめん。次からすぐ気付くようにするから」
「そうそう。そういう注意深く回りを見て、状況を判断することが大事だよ。な~んて、これクリ姉の受け売りだけど」
買い物を終えたキッシュと、ココット亭に泊まっているロレーヌは、一緒に宿屋ココット亭に戻った。
カズを忘れたキッシュは、同年代のロレーヌに少し気持ちを引かれていた。
キッシュとロレーヌがココット亭に戻ると、食堂から心配そうな顔をして女将のココットが出て来る。
「どうしたのお母さん?」
「さっき衛兵が来て、手配された人のことを聞かれたんだよ」
「またぁ。この前来たばっかりなのに」
「覚えてないって言ってるんだけどねぇ」
「とんでもない人ですね。もし今度その人来たら、ぼくが一発殴ってやりますよ」
「イノボアを怖がってるロレーヌが何を言ってるのよ」
「こ、怖くなんてないさ。今度ギルドに依頼が出てたら、イノボアを倒してその肉を持って来てやるよ」
「ふ~ん。期待しないけどね」
「言ったなキッシュ」
「ええ、言いました」
「ぼくがイノボアを倒したら」
「いいわよ。ロレーヌのお願いなんでも聞いてあげる。ただし明日から三日以内だからね」
「いいとも。約束したから、忘れるなよキッシュ」
「こらこら、何を口喧嘩してるんだね。キッシュは向こうで料理だよ。ロレーヌは部屋で休んでな。夕食出来たら呼んでやるから」
先程まで仲の良く話してたのに、変な意地の張り合いでつんけんする二人だった。
「そう都合よく依頼が出てるか分からないのに、ロレーヌは自分で言っといて忘れたのかねぇ。まるで息子が出来たみたいだ」
翌日、翌々日とギルドの掲示板に貼り出されてる依頼書を見るが、イノボアに関係する依頼は一つも出ていない。
いつもより熱心に掲示板の依頼書を見ているロレーヌに、気になったクリスパが声を掛け話を聞いた。
事情を知ったクリスパが、街の近くに最近たまに現れるイノボアのことをロレーヌに話した。
まだ討伐依頼を出す程ではなかったが、やる気になったロレーヌを見て、クリスパが出現場所の情報を教えると、ロレーヌは話を最後まで聞かずにギルドを飛び出して行った。
街を出てクリスパに教えられた場所に来たロレーヌは、辺りの長い雑草を掻き分け、イノボアの通った後を探した。
しかしいくら探しても一向に見つからず、気が付けば日は暮れて来ていた。
この日の探索を諦めたロレーヌは、気を落としギルドへと戻った。
ギルドに戻ってきた元気のないロレーヌをクリスパが活を入れ、イノボアが早朝に出現するいう情報を与えた。
翌朝早くに行けば、キッシュとの約束に間に合うと喜んでいたが、話を最後まで聞かないでギルドを飛び出したロレーヌを、クリスパは怒った。
疲れているところに、三十分以上の説教を聞かされたのだっだ。
この日ココット亭に戻ったロレーヌは、夕食も取らずに寝てしまった。
◇◆◇◆◇
日が昇る前に空腹で目が覚めたロレーヌは、部屋にある椅子に手紙と軽食が置いてあるのに気付いた。
手紙はキッシュが書いたもので、前日夕食も取らずに寝てしまったロレーヌを心配して、朝昼と二食分の軽食を用意してくれてあった。
なぜ二食分かというと、前日クリスパがココット亭に寄り、翌朝早くにロレーヌがイノボアを狩りに行くと、キッシュが聞かされたからであった。
手紙の最後には、怪我をしないで無事に戻って来ること、と短く書かれていた。
ロレーヌは一食分の軽食を食べ終わると、もう一食分を布袋に入れ、キッシュの手紙はポケットにしまうと、静かにココット亭を出て街の外へと向かった。
だんだんと明るくなって来た頃に、前日探した場所に着くロレーヌ。
耳をすませて、イノボアが動く音を探る。
離れた所からロレーヌの方に向かって、足音が近付く。
長い雑草から飛び出して来たのは、紛れもなくイノボアだった。
ただしロレーヌが見たことあるイノボアよりも、大きな個体だった。
通常は60㎝程だが、この個体は1mはあった。
想像していたよりも大きなイノボアに、足がすくむロレーヌ。
突進してくるイノボアを、ギリギリのところで横に倒れこみ避ける。
ポケットから目の前に手紙が飛び出し、それを見たロレーヌはキッシュの顔を思い浮かべた。
手紙を拾いポケットにしまうと、短剣を抜き向かってくるイノボア立ち向かう。
突進するイノボアをスレスレでかわしながら、短剣で斬りつける。
無様とも思える戦い方だが、ロレーヌは同じ様に何度もイノボアに攻撃を与える。
しかし攻撃は浅く、致命傷を与えるまでにはいたらない。
初めての討伐戦で緊張し、余計な所に力が入り疲れるのが早い。
するとイノボアの突進を避けられず、正面から受けて飛ばされてしまった。
外傷は無いものの、衝撃からすぐに立ち上がれない。
地面を転がり、なんとかイノボアの突進を避けて立ち上がる。
ロレーヌの息は荒く、イノボアも疲れと傷から戦意が薄れていく。
鼻をヒクヒクと大きく動かしたイノボアは、前足で地面を蹴り、土煙を上げてロレーヌに突進する。
ロレーヌはギリギリでかわすが、下げていた布袋にイノボアの鼻に当たり弾き上げられる。
布袋から飛び出した物に、イノボアがロレーヌを無視して向かって行く。
ロレーヌはそれがキッシュが作ってくれた軽食だと気付いた。
包み紙を食い破り、中の軽食を貪り食うイノボア。
ロレーヌはここぞとばかりに、イノボアの背後から短剣を深く刺した。
痛さから暴れるイノボアに飛ばされたロレーヌは、短剣を放してしまう。
刺さったままの短剣は、イノボアが暴れることで内部の傷が大きく広がり、暫くするとイノボアは血を多く流し倒れた。
キッシュが作った軽食と、イノボア自らが暴れた事で、偶然ではあるがロレーヌはイノボアの討伐を成功させたのだった。
休憩をして体力を回復させたロレーヌは、近くを通り掛かった知り合いの冒険者に頼み、イノボアをギルドまで運ぶのを手伝ってもらった。
ロレーヌは知らない事だが、知り合いの冒険者がたまたま通り掛かった訳ではなく、クリスパに頼まれて様子を見に来ていたのだった。
心身とも疲れていたロレーヌだったが、偶然とはいえ大きな個体のイノボアを倒せたことで、気持ちは高ぶっていた。
ギルドでイノボアを解体してもらってる間に、ロレーヌは一度ココット亭へと戻ることにしたのだった。
ロレーヌが街の中央広場に差し掛かると、キッシュが三人の衛兵と言い争ってるのが聞こえた。
ロレーヌが声のする方へ近付いて行くと、人だかりになってる隙間から、一人の衛兵がキッシュの腕を掴むのが見えた。
ロレーヌは人を掻き分けて近づき、衛兵の手を払いキッシュと衛兵の間に立ちはだかった。
この様な事は何度かあり、衛兵はロレーヌの顔を知っていた。
もちろん冒険者ギルドの、サブ・ギルドマスターのクリスパと知り合いだということも。
一人の衛兵が仲間を呼びにその場から離れ、残った二人の衛兵はキッシュとロレーヌが逃げないよう見張り、あわよくば拘束しようとしていた。
曲がりなりにも冒険者のロレーヌを、二人の衛兵は警戒していた。
暫くすると先程の衛兵が、仲間を連れて戻って来た。
八人となった衛兵相手では勝ち目がないと、ロレーヌはキッシュを庇いながらも、大人しくすることにした。
この騒動の事を誰かが冒険者ギルドに報告に行っていれば、キッシュの身を案じてクリスパが来るだろうと、ロレーヌは考えていた。
しかし助けは来ず、ロレーヌは拘束される。
キッシュは大事なネックレスを取られそうになり抵抗すると、ロレーヌが大声を上げて衛兵のする事を止めさせようとする。
「やめろッ! それでも住民を守る衛兵か!」
それに激怒した衛兵は、ロレーヌを何度も殴り付ける。
「分かった、分かりました。渡すからやめてッ」
キッシュは衛兵の言うことを聞き、ネックレスを渡してロレーヌを殴る事を止めてもらう。
すると一人の衛兵が、ココット亭に行きココットも連行すると言った。
キッシュは衛兵を睨み付け反論すると、衛兵がキッシュを黙らせるため平手打ちをする。
「痛ッ」
キッシュが叩かれた次の瞬間、キッシュを叩いた衛兵の後頭部に衝撃が走り、前のめりに倒れた。
「あちしの友達に何してのよッ!」
声のする方を見ると、そこには滅多に見ることのできないフェアリーの姿があった。
情報で手配犯と行動を共にしているフェアリーだと気付いた衛兵は、すぐに周囲を警戒した。
するとマントとフードで姿を隠した怪しげな人物が、衛兵達の前に現れた。
衛兵が質問を投げ掛けるが、現れた人物は一切喋らなかった。
カズだと確信した衛兵は剣を抜き、現れた人物を捕らえようとする。
顔を殴られ少し朦朧とするロレーヌは、何が起きたか分からなかった。
意識がハッキリとしてきた時には、自分とキッシュを取り囲んでいた衛兵が、全員気絶して倒れていたからであった。
フードとマントで姿を隠した人物が、倒れた衛兵からネックレス取り返し、それを持ってキッシュへと近付いてゆく。
助けてくれたが本当に手配されてる人物なら危険だと、ロレーヌはキッシュの前に立ち、現れた人物を近付けさせないようにした。
フードとマントで姿を隠した人物はただ一言「すまない」と言い、ネックレスをロレーヌに渡した。
キッシュが話し掛けたが答えることはなく、走り去ってしまった。
入れ違いにクリスパが二人の元へと駆け付け、現状を見て驚いていた。
二人に話しを聞こうとしたが、それよりも先に、安全なギルドへ連れて行くことにしたのだった。
そしてギルドに着くと、クリスパは広場で何があったかを二人に聞いた。
キッシュの叩かれ赤くなった頬は、ネックレスを付けることで徐々に治っていった。
ロレーヌの怪我は、ネックレスに付与されたヒーリングを使いキッシュが治した。
少しすると連絡を聞いたココットが、キッシュとロレーヌを心配してギルドにやって来た。
クリスパが宿を暫く閉めるように言うが、ココットはそれを聞き入れなかった。
クリスパはサブ・ギルドマスターとしての仕事があり、常にココット亭に居ることが出来ない、そこでロレーヌが二人を守ると買って出た。
少なくとも、クリスパが駆け付けるまでの時間稼ぎはすると。
あまりにも頼りなかったが、クリスパはロレーヌの気持ちを尊重して、二人のことを頼んだ。
クリスパはもちろん、今回の事を衛兵に強く抗議するつもりでいた。
まだ元気のでないキッシュを見て、ロレーヌが一人でイノボアを狩ってきた事をクリスパは話した。
キッシュは驚いて、ロレーヌと共に解体されたイノボアを引き取りに行き、その肉の大きさを見て更に驚いた。
解体費用はクリスパの計らいで、今回は無料にしてくれた。
「これで約束は果たした。ぼくだってやればできるんだ」
「そうだね。なら私に何がしてほしいの?」
「え?」
「三日以内にイノボアを倒したんだから、お願い聞いてあげるって言ったでしょ」
「お願いかぁ……」
ロレーヌの顔を覗き込むキッシュ。
「な、何にも考えてなかったなぁ」
近くにあるキッシュの顔を見て、赤くなるロレーヌ。
「そうだなぁ。じゃあ今度どこかに行くとき、ロレーヌに付き合ってあげる。それで良いでしょ」
「結局キッシュが決めちゃうの」
「だってロレーヌ考えてなかったんだもん。それとも私じゃ嫌なの?」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ決まりね」
「う、うん」
キッシュから顔を背け、壁を見つめるロレーヌ。
キッシュに気付かれないように、ロレーヌに呟くクリスパ。
「キッシュとデートの約束が出来て良かったわね」
「ク、クリスパさん! デートだなんて」
「いいじゃない。キッシュを守る為に、頑張ったんだから。ココットだって、二人で出掛けるくらいの時間を作ってくれるわよ」
クリスパに言われて、ロレーヌの胸は激しく高まった。
「さあロレーヌのイノボアの肉を持って、ココット亭に戻りましょう。今日はずっと私が一緒に居るから大丈夫よ」
四人はロレーヌが狩ったイノボアの肉を持って、ココット亭へと戻って行った。
この日からキッシュとロレーヌの距離は縮まり、ココットも二人の仲を口には出さなかったが認めていた。
後日自信をつけたロレーヌは、北の村からの依頼を見つけ、それを受けていた。
依頼内容は毎年多く発生しているイノボアの討伐、かつて冒険者になったばかりのカズも受けた依頼。
キッシュは二人で出掛けるという約束をまもり、ロレーヌの依頼に付いて行くことにした。
母親のココットには、イノボアの肉を仕入れてくるから、ロレーヌに付いっていいかと話した。
ココットはクリスパに相談をすると、半日もあれば北の村までは行け、他の冒険者も同じ依頼を受けるから、危険はそれほどないから大丈夫だと話した。
クリスパの話しを聞いたココットは、キッシュがロレーヌに付いて北の村に行くことを許可した。
二人で北の村へ出掛け行き、ロレーヌはその日に八匹のイノボアを狩った。
三匹分の肉を持ち帰る為に、村で解体を頼んだ。
イノボアの肉が受け取れるのは翌日ということもあり、ロレーヌはキッシュと話し合い北の村で一泊してすることにした。
そしてこの夜、引かれあっていた二人は、お互いの気持ちを確かめると、キッシュは肌身離さず付けていたネックレスを外し、ロレーヌと体を重ねた。
初めてを捧げた相手のことを思い出せないまま、経験のあるキッシュが初めてのロレーヌをリードするかたちで、二人の心と肉体は繋がりひとつとなった。
◇◆◇◆◇
翌日の二人は照れて恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに手を繋いで宿を出た。
そのまま頼んでいたイノボアの肉を受け取り、二人はリアーデへと戻って行った。
キッシュはロレーヌと繋がったあの日から、ネックレスをくれた人のことを考えるのが少なくなっていた。
忘れているその人物が、現在王都の衛兵本部で投獄されている事など、まったく知るよしもない。
そして投獄されているカズも、キッシュの想いが移り変わっている事も。
≪ それから数十日後 ≫
この日ギルドでクリスパがロレーヌを鍛えているのを、キッシュが見に来ていた。
そこへビワを連れたカズは訪れた。
カズはキッシュがロレーヌに向ける視線がそれであることを察して、自分は身を引き二人の仲を認めた。
ロレーヌに成長と期待を込めて、自分が使っていた装備品を託して行ってしまった。
この時クリスパは、去り際のカズの背中が、少しだけ寂しそうに見えていた。
ロレーヌには聞こえないようにして、クリスパはキッシュに小声で話した。
「いいの、カズさんのこと?」
「う…うん。でもやっぱりカズ兄は、お兄ちゃんて感じなんだ。久しぶりに会って改めてそう思ったの」
「カズさんたら、いつの間にかフラれてたのね」
「フッたなん……そうだね。忘れてたからって、ロレーヌを好きになってカズ兄を……私、酷いよね。考えると胸が痛い」
「そうね。でもその痛みは、キッシュが一つ大人になったってことよ。それにカズさんは二人のことを認めてくれたから、ロレーヌに装備品を託していったんじゃないかしら。キッシュを守れるようになれ! ってね」
「そうかなぁ?」
「そうよ」
「うん、そうだね。カズ兄にはまだアレナリアさんだって居るんだし、さっき一緒に来た獣人の女の人だって」
「彼女とは言ってなかったわよ。用事で一緒にいたとしか。でも……カズさんなら以外とあり得るわね」
「でしょ。だからカズ兄は大丈夫だよ」
この時のキッシュの言葉は、自分の罪悪感を誤魔化す為に言っているようにも聞こえた。
「心配なのはクリ姉だよ。早く恋人見つけなよ」
「余計なおせわよ! この街には、ろくな男がいないんだもん。サブマスやってるから他の街は行けないし……私だって早く……」
この後二人が恋人とし長続きしたかは、ロレーヌの努力次第と、キッシュがロレーヌに寄せる思いが一時的なものでなければ……だ。
クリスパに生涯のパートナーが現れるかは、まだあと数年は先になるかも知れない。
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