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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

286 一時的な休息

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 何度かカズに念話で呼び掛けたが、全く反応しなかった。
 城の外に出たフローラは寝ている白真を起こし、カズを呼ぶように頼んだ。

フローラお主も念話が使えると、先程言っていたではないか」

「カズさんに呼び掛けたんだけど応答がないのよ。本当に繋がってるか分からなくて。だから」

「我にカズ呼び出せというのか」

「お願い」

 めんどくさそうな顔をしながら、白真はカズに念話で話し掛けた。
 しかしフローラ同様、カズからの返事はない。

「繋がらん」

「白真さんでも……いったいどうしちゃったのかしら?」

「カズと同行していた、あのフェアリーに念話を繋げてみたらどうだ?」

「そうね。レラを呼んでみるわ『レラ、レラ聞こえる?』」

「『……フローラ?』」

「レラと繋がったわ『そう私よ。レラはカズさんがどこに居るか知らない? カズさんに話し掛けても返事がなくて、念話が繋がってるか分からないの』」

「『ああ、それなら…』」

「『知ってるの? だったら教えて。急ぎの用事で探してるのよ』」

「『知ってるもなにも、カズならこのお屋敷で寝てるわよ。疲れが溜まってたから、少し呼んだだけじゃ起きなかったんじゃないの。あ、お屋敷ってのはマーガレットの家ね』」

「『マーガ…オリーブ・モチヅキ家に居るのね』」

「『そうだよ』」

「『カズさんを起こして、すぐお城に来るように言って』」

「『お城に?』」

「『ええ。お願いねレラ』」

「『カズが寝たから、まだ二時間も経ってないのに起こすの』」

「『急用なの!』」

「『分かったわよ』」

「『お城の入口で待ってるからって伝えて』」

 レラにカズを起こしてもらい、城に来るよう頼んで念話を切るフローラ。

「久しぶりに話したと思ったら頼み事だなんて、なんなのよフローラは」

「どうしたのレラ?」

「ビワも一緒に来て。カズを起こすから」

「お昼にはまだ早いわよ」

「よく分からないけど、お城の人がカズを呼んでるんだって」

「え!? カズさんがお城から呼び出し……それって国王様から?」

「王様? そこまで聞いてないから、あちし知らな~い。ただフローラが急いでるって言ってたのよ。だからしょうがなくカズを起こしにいくの」

「でも…カズさんとても疲れてる。ゆっくり寝かせてあげたい」

「ビワの言う通り、あちしだってそう思うよ。でもフローラに頼まれし、お城に行くかどうかは分からないけど、カズには伝えないと」

「そうよね。ただ…寝ているカズさんを起こすのは……かわいそう」

「そんなの、あちしだって分かってるもん」

「ごめんなさい。別にレラが悪いとは言ってないのよ」

「……ねぇビワ」

「なぁに?」

「ビワって結局、カズとどおしたいの?」

「……! ど…どどおって」

「見てて好きなのは分かるよ」

「す…好き……」

「まあこのお屋敷で男っけがない暮らしをしてたみたいだから、親しくなった男のカズに好意を寄せるのは分かるけど。その先のこととか考えてたりする?」

「その先って……?」

「このままの関係でいくの? これからもずっと一緒に居たいの? カズの子供が欲しいとか」

「こッ…子供! そ、あ、い、あのわ、私とカズさんの……いえ……だ…そんな……あなたったら……」

 ビワは顔をまっ真かにすると目を回し、ふらふらと揺れて何を喋っているか分からなくなっていた。

「一ヶ月も一緒に暮らしてたんだから慣れたかと思ったけど、ビワにはまだちょっと刺激が強かったかぁ。まあでもこれで、ビワの気持ちはよく分かった。カズはあちし一人で起こしにいくね(これがカズが言ってた、箱入り娘ってことなのかしら……あれ、違ったっけ?)」

「ま…待ってレラ」

「あれ、この手のからかわれ方に慣れたのか、正気に戻るのが早くなってるわね」

「お屋敷に戻ってからレラが皆に話したもんだから、キウイやミカンだけじゃなく、奥様まで私をからかってきたのよ。もうこのくらい平気……よ」

「ふ~ん。平気って言ってる割りには、顔が赤いままだよ~」

「そ…そんなことない……」

「にっちっち、かぁ~わいぃ~。これだからビワを、からかいたくなっちゃうんだよねぇ」

「もうッ」

「ごめんごめん。ほら早くカズを起こしに行こう」

「カズさんの前では、からかわないでよ」

「カズの前じゃなければいいんだ」

「そんなこと言ってないよ!」

 カズに連絡が取れずイラ立つフローラの気持ちを露知らず、レラとビワはカズが寝ている部屋へと向かう。
 疲れて寝ているカズを起こすのは申し訳ないと思い、部屋に入るのを躊躇ちゅうちょするビワの背中を押し、部屋の扉を開けさせるレラ。

「ほら早く開けてビワ」

「わ…分かって……失礼し…ます」

 ビワがそ~っと扉を開けると、少し開いた隙間からレラが先に部屋の中に入った。

「カズったら、ベッドじゃなくてソファーで寝てるよ。なんで……?」

「以前にカズさんがお屋敷に泊まっていた時も、ソファーで寝てたみたいなのよ」

「へぇ~。カズは高価な物を受け付けないのかなぁ? あちしと一緒に住んでる時も、カズが寝るベッドは安物だったしね」

「それよりカズさんを起こさないとでしょ」

「そうだった。カズお~き~ろ~」

「カズさん…カズさん……」

 レラがカズの正面で声を張りが起きない。
 ビワはカズを揺すって起こそうとする。

「カズさん…起きないわ」

「カズがこんなに起きないの珍しいわね。ビワもっと揺すって」

「え…あ……うん。カズさん……カズさん起きて」

「カズ、フローラが急用だって!」

「……ん…あぁ……もう少しだけ。お昼になったら、大家さんの所に一緒に行くか…ら……」

「大家さん?」

「カズさんリアーデの街で暮らしてた頃の夢でも見てるのかしら?」

「ふ~ん……だったらビワは、あの時ようにって言って起こさないと」

「こ…ここはお屋敷だから」

「でも~、カズはビワと夫婦だった頃の夢を見てるみたいなんだから、そのつもりで起こしてあげれば、気持ち良くおきれるんじゃないのかなぁ? (にっちっち。カズがどう起きるか楽しみ)」

「レラがカズさんの反応を見たいだけでしょ」

「いいからいいから、早くカズを起こして。フローラから連絡がきてから、もう二十分以上経っちゃってる」

「私に任せてばかりで、レラが頼まれたんだでしょ」

 ビワはカズを更に大きく揺すって起こす。

「ん…ん……」

「お、カズやっと起きた?」

 うっすらと目を開けたカズの前に飛んでくるレラ。

「なんだレラか」

「なかなか起きないから、ビワの機嫌があまりよくないよ」

「……ああそうだ。今日はビワとウール大家さん所に、お鍋を返しに行くんだった」

「大家さん……カズさんまだ寝てます?」

「ごめんビワ、今起きるか…ら……。大家さんの前では、いつもみたいに呼んで……嫌かもしれないけど……俺のせいで…ごめん」

「カズまた寝ちゃった」

「疲れているのよ。やっぱり起こすのはかわいそう」

「あちしもそう思う…」

「『レラ。カズさんはもうお屋敷を出たの?』」

「あちゃ~」

「どうしたのレラ?」

「フローラから催促の連絡がきちゃった」

「『聞こえてるのレラ?』」

「『聞こえてるよ。今カズを起こしてるから、もう少し待ってて』」

「『お願いだから早く来させて』(でないとおばあちゃんに何を言われるか分からないのよ)」

 フローラの催促を受けて、カズを起こす方法を黙って考えるレラ。
 カズを揺すり起こす手を止めて、じっと静かに寝顔を見るビワ。
 その様子を見たレラが、ニヤリと笑い何かを思い付いた。

「ちょっとそこのベッドに倒れ込んでくれるビワ」

「ベッドに倒れ込む?」

「いいからベッドにうつ伏せになって。カズを起こす為だから」

「え…あ…うん……」

 今さっきからかわれたばかりなのに、レラの意味不明な言葉を聞いてしまったビワ。
 それがあんな事になるとは知らず。

「こ…こう?」

「はい、そのまま目を閉じて動かないで」

 ビワをベッドに倒れ込ませたあと、レラはカズの耳元に移動して大声で叫んだ。
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