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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

283 騒がしくもほのぼのとする場所

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 朝食を済ませたあと部屋を変え、カズはマーガレットに昨夜からの出来事を話した。
 モンスターやトリモルガ家のこと、今回の元凶ルマンチーニに取り憑いていたパラサイトスペクターLv8のことなどを簡潔に。

「そう」

 マーガレットは一言そういうと、少し悲しそうな表情を浮かべた。
 同じ国の貴族であるルマンチーニが、今回の件に関わっていた事が事実だと知ったからだっだ。

「トリモルガ家のルマンチーニさんとは、夫が昔何かあったみたいで、あまり親しくはしてこなかったのよ。でも私の具合が悪くなってからは、それとなく心配していてくれてたと聞いたのだけど……それが……」

「話した通り洗脳されて取り憑かれていたんです。だから本心からマーガレットさんを……(なんで俺はルマンチーニを庇ってるんだ)」

「そうよね。ルマンチーニさんが本意でやった訳じゃないと信じるわ。話してくれてありがとう」

「とんでもない。俺のことを忘れていたのに、色々と手助けをしてくれたこと感謝してます」

「それを言うならビワにね。なぜかビワだけは、カズさんを覚えていたのだから」

「そうですね。改めてビワにもお礼をしないと」

「そうしてあげてビワも喜ぶわ」

「はい」

「それとエビネさんに関しては私に任せて。もし彼女が良ければ、ここで働いてもらうわ。もう貴族の所で働くのが嫌だと言わなければ」

「こちらならきっと大丈夫ですよ。皆さん優しいですから」

「うふふ。そう、ありがとう」

「あとフリートさんの第3ギルドに、ホップという獣人の女性がいると思いますので、確認してあげてください。エビネさんと同じトリモルガ家で働いていて、残されたエビネさんをスゴく心配していましたから」

「フリートに連絡して確認してみるわ」

「少し前まで一緒に居たので、まだギルドには」

「分かったわ」

「あとこれは別件なんですが、ルータさんに話がありまして」

 カズはダメ元でトラベルスパイダーの頼み事を話してみた。
 最初は驚いていたマーガレットだったが、少し興味が湧いたから夫のルータに伝えておくと言ってくれた。

「この後カズさんは、倉庫街にある家に戻って休むの?」

「もう長いこと戻ってないですし俺もそうしたいんですが、衛兵本部の牢から脱獄したので見つかるわけには」

「あらそうなの。でも記憶が戻ってるなら、冤罪だって事が分かるんじゃないの?」

「そうかも知れないですが、衛兵の人達にとって俺は脱獄犯なのは変わらないですから」

「すぐには表を歩けないのね」

「まあそういうことですね」

「なら我が家で休んでいきなさい。話を聞いた限りでは、一晩中動きっぱなしで寝てないんでしょ」

「一晩中で……まぁそうですね。全然寝てはないです」

「じゃあ決まり休んでいきなさい。前に使っていた部屋でいいわね」

「いやでも…」

「いいからそうしなさい」

「あ…はい。ありがとうございます」

「え~っと、アキレア居るかしら?」

 マーガレットが呼ぶと、部屋の外で待機していたアキレアが扉を開けて入ってくる。

「お呼びですか。奥様」

「カズさんを以前使っていた部屋まで案内して休ませてあげて」

「畏まりました」

 アキレアに付いて部屋を出たカズは、廊下を歩きながら話し掛ける。

「アキレアさんは、俺のこと」

「覚えてます…と言うより、思い出しました」

「そうですか。忘れてる間の事は?」

「覚えてます。カズさんには失礼な態度をとってしまい、申し訳ございません」

 前を歩いていたアキレアが足を止め、振り返りカズに頭を下げ謝罪する。

「頭を上げてください。アキレアさんだけじゃなく、皆さんもアイテムの影響を受けてただけなんですから」

「お心遣い感謝します」

 アキレアに案内され廊下を歩いていると、先にある部屋の扉から掃除道具を持ったキウイが出てくる。

「あ、カズにゃん。もう帰っちゃうのかにゃ?」

「いや、ちょっと…」

「こらキウイ、カズさんはお客様ですよ。お屋敷に居る間くらいは、言葉づかいを直しなさいと言ってるでしょ」

「俺はそっちの方が気兼ねなくていいので、そのままで構わないですから(にゃん……久々に聞いたな)」

「ほらカズにゃんはそう言ってるにゃ」

「まったく。他の方が居る場所ではダメですよ」

「分かってるにゃ。それよりどこ行くにゃ?」

「寝てないって言ったら、マーガレットさんに休んていくように言われてね。昼ぐらいまで寝かせてもらうことにしたんだ」

「そうなのかにゃ。だったらにゃちきが、添い寝してあげようかにゃ」

「こらキウイ!」

「冗談だにゃ」

キウイあなたはもういいから、早く掃除に戻りなさい」

「は~い」

「キウイは相変わらずか(元のキウイだ)」

「カズさんもハッキリと断らないと。起きたら隣に、なんて事になりますよ」

「そうですね。気を付けます(確かにキウイなら、仕事サボってやりそうだ)」

「はいここです。キウイはこちらに来させないようにするので、ゆっくりと休んでください」

「ありがとうございます。アキレアさん」

 カズを来客用の部屋に案内して、アキレアは仕事に戻っていった。

「せっかくだからベッド……は、ふかふか過ぎるからソファーの方にしよう。横になって寝るのは何日ぶりだろう。牢の中じゃ、座ったままだったからな」

 以前泊まった時のように、ソファーに横になり一眠りするカズ。
 小一時間程すると、カズが寝ている部屋の前にはキウイの姿があった。

「にゃはは。アキレアには気付かれてないしにゃ、皆はそれぞれ仕事してるにゃ。今にゃらカズにゃんの横でサボって一緒に寝れるにゃ。起きたらきっと驚くから楽しみにゃ」

 音を立てずにそっと部屋の扉を開けようとしたとき、突如として首根っこを捕まれるキウイ。

「ニャニャ!」

何してるの!」

「その~……この部屋を掃除しようかと思ってにゃ」

「ここはカズさんが寝てる部屋でしょ」

「そ、そうだったかにゃ~」

「誤魔化しても駄目! カズさんが寝てる部屋なら、誰も入って来ないからって、サボって昼寝するつもりだったでしょ」

「そ、そんなこと考えてないにゃ」

 アキレアの言ったことが図星で目が泳ぐキウイ。

「じゃあ何をしようとしてたの?」

「それはだにゃ……」

「ほらやっぱり」

「違うにゃ。にゃちきはただ、カズにゃんが起きたら添い寝で驚かそうと思っただ…け……にゃはは」

「笑って誤魔化さないの! もうそんなキウイは罰として、夕食のプリンは抜きです」

「そ、それはあんまりだにゃ」

「キウイがいけないんです」

「アキレアの意地悪! ケチ! そんなんじゃずっと独り身だにゃ」

「な、なんですってぇ! もうキウイにはプリンを出してあげません」

「ふにゃぁ~。アキレアそれはひどいにゃ~」

「泣いても駄目! キウイが悪いんだから」

「にゃちきはただ、カズにゃんのこと忘れて冷たくしたからにゃ、そのお詫びと思っただけにゃ。カズにゃんなら困った顔してても、笑って許してくれるにゃ」

「カズさんに甘えないの!」

「アキレアもカズにゃんにイタズラしてみればいいにゃ」

「しません」

「にゃはは~ん。恥ずかしいのかにゃ?」

「だまらっしゃい! このイタズラねこ娘ッ!」

 カズか寝ている部屋の前で騒いでいると、それを聞き付けたビワとレラがやって来た。

「二人で何を騒いでるの?」

「そこってカズが寝てる部屋でしょ? ははぁ~ん。もしかしてアキレアとキウイ二人で夜這よば…じゃなく昼這ひるばい?」

「ずっと独り身を決め込むアキレアと一緒に、それをするのもいいかもにゃ」

「ちょ、何言ってるの! 私は違うわよ」

「いい加減にしてッ! こんなに騒いだら、カズさんが寝れないわ!」

 珍しくビワが声を張り上げ怒った事に、アキレアとキウイは驚いて目を見開いた。

「ご、ごめんにゃ。けどビワの声が一番大きかったにゃ」

「ご…ごめんなさい。わ…私はただ…疲れてるカズさんを…ゆっくり寝かせてあげたい…と……」

「そうよねごめんなさいビワ。キウイはこのあと、私と一緒に仕事」

「え~」

「え~じゃありません。もう目を離しませんから」

「えぇ~」

「ほら来なさい」

「……は~いにゃ」

「ビワとレラは、お昼頃になったらカズさんをお越しに来てあげて」

「おまかせっ!」

「だったらにゃちきも」

「キウイはいいの」

「ビワもお願いね」

「はい」

 アキレアはキウイを連れて、カズか寝ている部屋の前から離れて行く。
 ビワとレラもカズを起こさないようにと、その場を静かに離れる。

「行ったみたいだな(眠りが浅くなった時にあれだけ騒げば目も覚める。でもまぁ、気を使ってくれてるんだから、昼までは寝よう)」

 今は面倒な事を忘れ、目を閉じて体の力を抜き、カズは意識を眠りの底へと落としゆく。
 こんな警戒をせず横になるのは、いつ以来だろうかと考えている内に深い眠りにつくカズ。
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