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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

282 それぞれの動き と 戻りだす記憶

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 トラベルスパイダーは上空に向けて糸を飛ばし広げ、風魔法を糸に当てて飛び去っていった。

「本当にしっかりしてる蜘蛛だ(転生してこの世界に来た同世界の現代人ひとだったりして……まさかな)」

  トラベルスパイダーと別れたカズは、オリーブ・モチヅキ家へと向かい歩いてゆく。


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 場所は変わりここは衛兵本部。
 多くのモンスターが倒された後ようやく衛兵本部に情報が入った。
 そのため現在の衛兵本部は混乱して慌ただしくなっていた。
 その原因の一つが、カズの脱獄でもあった。
 モンスターからカズに助けられ特等兵が騎士団に連絡をしたあと、解き放たれたモンスターを討伐されるのを待ち衛兵本部に戻ったため、衛兵司令の元に情報が届くのが遅れたのだった。
 この時の特等兵は、脱獄したカズに助けられたのだと気付いてはいなかった。
 衛兵司令は自らその目で確かめるため、急ぎ貴族区に向かい動いた。
 脱獄したカズの事など二の次三の次と、どうでもよくなっていた。


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 冒険者ギルドはというと、フリートが夜勤のギルド職員に、王都にある各冒険者ギルドへの連絡を頼んでいた。
 ギルドマスター達を一ヶ所に集め、分かっている事を説明するようにと。
 もちろんこんな回りくどいやり方をしたのは、大騒ぎになる前に全て終わらせる為の時間稼ぎをしたかったからだ。
 第2第3ギルドはギルドマスターが不在のため、第1ギルドに各ギルドマスターが集合することになった。
 これは第1ギルドマスターのバルフートを一人で行動させて、カズと鉢合わせにでもなったら面倒になるからであった。
 本当ならギルドマスターを集結させて巨大ゴーレムと戦えば、もっと早く倒せたのは確かだろう。
 が、一つ間違えれば集まったギルドマスターが洗脳され、更に危険な状況になっていた可能性もあった。
 どちらにしても遅かれ早かれ、貴族区でモンスターが暴れ巨大ゴーレムが出現したら、王国内屈指の実力者である王都のギルドマスターは、その討伐に駆け付ける事になっていたであろう。
 今回は結果的にフリートの采配が項を奏し、ギルドスターが集結しての大乱戦にならずにすんだのだった。
 そして全てが片付いた頃第1ギルドに伝令が入り、ギルドマスター達は夜明けと共に王城へ向けて出発した。


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 日が昇り明るくなると、その生々しい戦いの傷跡がハッキリと目視できるようになった。
 崩れた建物にえぐれた地面、討伐されたモンスターのしかばねがあちらこちらに。
 一部のモンスターが騎士団によって王城方向へと運ばれているとき、カズはオリーブ・モチヅキ家の近くでレラに念話を繋げていた。

「『レラ起きてる?』」

「『……』」

「『レラ(やっぱりまだ寝てるか)』」

「『……』」

 レラに念話が繋がらなかったので、今度はビワに念話を繋げる。

「『ビワ起きてる?』」

「『……はい』」

「『朝早くからごめん』」

「『カズ…さん?』」

「『そう。一応、朝を待ってから連絡したんだけど、起こしちゃった?』」

「『いえ…大丈夫です。少し前に…起きてましたから』」

「『改めておはようビワ。レラは爆睡中?』」

「『あ…はい。おはようございます。レラはエビネと一緒寝てます』」

「『エビネ……ああ! 助けた獣人の。昨夜は急に頼んでごめん。マーガレットさんはなんて?』」

「『レラが奥様に話したら、優しく介抱してあげるようにと』」

「『そうか。今近くに居るんだけど、皆が起きたら教えて。色々と話すこともあるし、記憶が戻ったかも確かめたいから。それにお礼も』」

「『記憶……そういえば、カズさんの方はどうなったんですか?』」

「『終わったよ。元凶も倒して、記憶を操作していたアイテムも壊した』」

「『良かった。私…皆に聞いてきます』」

「『今すぐ確かめなくてもいいよビワ』」

「『……』」

「『あれ? ビワ……(念話切れちゃった)』」

 カズの記憶が戻ったか早く確かめようとビワは念話を切り、マーガレットや他のメイド達が起きているか確かめにいってしまった。
 ビワとの念話が切れてから三十分程すると、オリーブ・モチヅキ家の屋敷からビワが出てきて辺りを見回す。
 カズは姿を現しビワの方へと歩いてゆく。

「カズさん…話の途中だったのに…ごめんなさい」

「別にいいよ」

「奥様に御伺いしたら、カズさんも朝食を御一緒にと」

「それは嬉しい」

「では中にどうぞ」

「ありがとうビワ」

「朝食まではまだ少し時間がありますので、先にエビネに会ってあげてください」

「そうだねそうしよう」

「ではエビネの居るお部屋まで、ご案内します」

「ねぇビワ」

「なんでしょうか?」

「リアーデに居た頃みたいに、気楽に接してくれた方が」

「そう…ですね。仕事着メイド服を着るとつい」

「そうか、仕事中だもんな」

「堅苦しくて…ごめんなさい」

「そういう真面目なとこも、ビワの良いところ」

「あ…ありがとう……」

 久し振りにカズから褒められて、少し顔を赤らめるビワ、それを見てさっきまでの出来事が無かったかのように和むカズ。
 ビワに案内された部屋に入ると、そこには眠そうにしているレラと、メイド服を着ているエビネの姿があった。

「……カズ!」

 眠そうにしていた目を見開き、開いた扉から入ってきたカズに飛び付くレラ。

「眠そうだなレラ」

「大丈夫なの? 怪我はしてない? イキシアは? モンスターは? あの気持ち悪い黒い靄は?」

「レラ落ち着いて。そんなに一遍に聞いても、カズさん答えられないわ」

「そ、そうか。ごめんカズ」

「皆に心配かけて少しは凹んでると思ったけど、いつものレラで安心した」

「あ、あの……」

 モジモジと恥ずかしそうしながら、カズに話し掛けるエビネ。

「怪我の方はもう大丈夫?」

「あ、はい。治してくれたなんて気付かずに、お礼もしっかりとは言えなくて。あの、助けてくださってありがとうございました」

 深々と頭を下げるエビネ。

「どういたしまして。そうそう、ホップさんがとても心配してたよ」

「レラさんに聞きました」

「そうか。ホップさんは、第3ギルドに居ると思う」

「第3ギルドですか?」

「ギルドマスターのフリートさんの所に向かったから、事が少し落ち着いたらホップさんと会えるようにしよう」

「はい。ビワさんにも色々とお世話になってしまって、それに服までお借りして」

「大丈夫ですよ。奥様にお話はしてありますから、気になさらないで」

「ねぇねぇカズ。あそこに居たモンスターはどうなったの?」

「ロイヤルガードと騎士団の人達が倒したから、外に出て襲われる事はないよ。今は明るくなったから、倒しモンスターの後片付けをしてる頃じゃないかな」

「あの気持ちの悪い黒い靄も?」

「倒したというか、最終的にアーティファクトと共に自爆した」

「自爆!? でも爆発した音なんて」

「そこは別空間に閉じこ……まあ全部終わったから、もう大丈夫。またレラが勝手にふらふらと出て、面倒事に巻き込まれなければの話だけど」

「あ、あちしそんなに巻き込まれないもん」

「ならいいけど」 

「失礼します。カズさんレラさんと、エビネさんを奥様がお呼びですので、御一緒に来てください」

「分かりました」

「は、はい」

 マーガレットに言われて、メイド長のベロニカが三人を呼びにやって来た。

「ビワは朝食の支度を」

「はい」

 ベロニカの後に付いて、マーガレットの居る部屋へといく三人。
 部屋の入室許可を得たベロニカが、扉を開けて三人を部屋の中に通した。

「おはよう。エビネさん、昨夜はよく眠れた?」

「は、ははい。わたくしのようなじゅ、獣人をおや、お屋敷に入れてか、介抱していて、いただきまことにある、ありがとうございます。ご、ご挨拶がおく、遅れて申し訳なく、ありません」

「そう緊張しなくてもいいわよ。事情はレラから聞いてるから。カズさんもお久し振り」

「お久し振りです。エビネさんを連れて来て、ビワに頼んだのは俺です。勝手な事をしてすいません」

「頭をあげて。カズさんが悪い人を連れてくるわけないわ。私の命の恩人なんだから」

「! 俺のこと思い出したんですか?」

「まだ全部じゃないんだけど。子供達のお願いを聞いて、私を助けてくれた事は思い出したわ」

「そうですか(あの洗脳服従の刻印アイテムを壊したことで、記憶が戻り足したのか)」

「さあ顔も会わせたし、朝食にしましょう。詳しい話はその後で」

 顔合わせを済ませると、皆で朝食の支度が整った部屋に移動し食事をする。
 エビネだけは食事の際も、ずっと緊張しっぱなしだった。
 貴族と同じ食卓に付くなど、今まででは考えられない出来事だったからだ。
 マーガレットに『客人として扱うから、遠慮しないで』と言われていたエビネだったが、余計に緊張して食事が喉を通っていかなかった。
 ただ朝食のデザートに出されたプリンを食べた時は、その美味しさに目をぱちくりさせていたのは、その場に居る全員が気付いた。
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