上 下
291 / 794
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

280 巨大ゴーレムとの決戦 4 元凶の消滅 と 終結

しおりを挟む
「あれがアソートエンジンか(なんかただの四角い箱みたいだ)」

「どうするのだカズ」

「う~ん……どうしよう」

 離れた場所に避難してその様子を伺っていたロイヤルガードの者達は、獣形ゴーレムが崩れた事で倒したと思い安堵していた。
 しかしフローラだけは違った。
 ジークとフリートは固い表情のフローラを見て、まだ終わりではないと気付く。
 獣形ゴーレムが崩れ、中から黒い靄がまとわりついたアソートエンジンアーティファクトが出てきたことで、その理由が分かった。
 見えているアソートエンジンアーティファクトの一点にマナが集中しているのをフローラは感じた。

「集めたマナを暴走させようとしてる。このままだと、大爆発が起きるわ」

「なにッ! カズは失敗したのか」

「ここからだと分からない。私が確認に行きますから、皆はお城の中に避難を」

「ボクが行きます。フローラさんが皆と避難を」

「ここに居る人の中で、お城に入る許可がないのは私だけです。それに避難は念の為ですから」

「よし、皆は城に入れ。オレは隊長として、奴の最後を見る責任がある」

「隊長……だったらおれも」

「おれも隊長と残ります」

「我々だって」

 ロイヤルガードの誰一人として、城内へ避難しようとはしなかった。

「ボクも兄さんと一緒に居るよ。これでも冒険者第3ギルドのマスターだから」

「言うようになったなフリート」

「呆れた人達ね」

「イキシアさんは守りますから、フローラさんはカズさんの所に」

「そうだな。イキシアは重要な参考人だ、死なす訳にはいかない」

「参考人……そうよね。洗脳されていたとはいえ、そういう事をやったのだから」

 少し声を落とし返事をしたフローラは、一人カズの所に向かって走って行った。

「少しは考えて話してよ。兄さん」

「オレが何か悪いことでも言ったか? 洗脳されたと言っていたが、それでもイキシアは城に潜入して宝玉を盗み、元凶の手先として動いていたんだぞ」

「それはそうだけど……例えばボクが同じ様な目にあっても、ロイヤルガードとして今みたいな判断をするの?」

「確かにロイヤルガードの隊長をしてるオレとしては、同じ判断を下すだろう。しかしフリートはオレの家族で大事な弟だ。国に逆らっても、大切な弟の味方になるに決まってるだろ」

「ボクは嬉しいよ兄さん。それを踏まえてイキシアさんは、フローラさんにとって大切な人なんだよ。例え家族じゃなくても」

「それがエルフの考え方なのか」

「ボクにもそれは分からないけど、フローラさんの態度を見てれば、イキシアさんを心配してるのが分かるよ」

「それが荒くれ者が多い冒険者を諫める、ギルドマスターをする者の言葉か」

「そんは大袈裟おおげさなことじゃ」

「フリートに正されるとは。オレも冒険者にでもなって、鍛え直した方がいいのかもな。その時はよろしく頼むぞ

「やめてよ。兄さんの欠点は、女性の気持ちを考えないそういうところ。だから未だに独身なんだよ」

「そういうフリートだって独りだろ。早く相手を見つけろよ」

「兄さんには言われたくないよ」

「アハハは」

 まだ爆発の危険があるのいうのにも関わらず、笑うジークとフリートを見て、ロイヤルガード達に張っていた緊張の糸がほぐれる。
 カズと白真の所に向かったフローラは、あらわになったアソートエンジンアーティファクトを見て状況をカズに聞いた。

「あれが機密保管所から持ち出されたアーティファクトよね。溜めていたマナを暴走させてるみたいだけど」

「我らもろとも自爆しようとしてるのだ」

「やっぱり……白真さんは随分と冷静ね」

「カズがるからな。なんとかするだろ」

「キサマラニ逃ゲル場所ナドナイ。コノママ道連レダ。グゲガガガッ」

「そう言ってるわよ。どうするのカズさん」

「爆発バクハツ。道連レミチヅレ。グゲガガグゲガガ」

「仕方がないか(あれが無くなるのは痛いが)」

 カズは【アイテムボックス】から2枚のトレカを取り出し、内1枚の『隔離された秘密部屋トレカ』を使用する。
 すると何もない場所に一枚の扉が現れた。

「本当ならジークさんにでもパラサイトスペクターLv8お前を倒してもらいたかったが、これ以上被害を広げるわけにはいかないから」

 実体化させた鍵を使用して、現れた扉を開け中に崩れ落ちた獣形ゴーレムの石の一部を放り込んだ。
 その行動を不思議そう見るフローラ。
 カズは今にも爆発しそうなアソートエンジンアーティファクトに近付いて行く。

「ナニヲスルキダ? 衝撃ヲアタエレバ爆発スルゾ」

「衝撃を与えなくても、結局は爆発するんだろ(さて、うまくいってくれよ)」

「何ヲスルカ知ランガ無駄ムダ」

パラサイトスペクターLv8お前が服従の刻印に、どうやって寄生していたのか調べたがったが諦めるよ」

「ソウカ、キサマ自信デ起爆サセル事ヲ選─」

 カズは取り出したもう1枚の『不平等な交換』トレカを使った。

「─ランダ……カ!?」

 現れた扉の中に移動したパラサイトスペクターLv8は、起こった出来事をすぐには理解できなかった。
 目の前で爆発寸前のアソートエンジンアーティファクトが突如として消えると、変わりに石が現れた。
 それを見てフローラは驚き、周りを見渡した。

「あれを見よ」

 白真に言われてフローラは現れた扉の中を見ると、今まで目の前にあったアソートエンジンアーティファクトが扉の中へと移動しているのを確認した。

「さっき扉の中に入れた石と入れ替わったの?」

「そういうことです。あとは」

 カズは扉を閉めて、手に持っている鍵をへし折った。
 二つに折れた鍵はカズの手から消滅すると、現れていた扉が徐々に薄くなり消え始める。
 『隔離された秘密部屋』のトレカで出現した扉の中に移動したパラサイトスペクターLv8は、今まで目の前に居たカズとフロストドラゴンが急に居なくなった事で、一瞬何が起こったか分からなかった。
 すぐに周りを見渡すと、現れた扉の中に居ることに気付いた。
 しかしその時には既に扉は閉まり、唯一の出入口は薄くなり消え去ろうとしていた。

「オノレェェェェェェ!」

 パラサイトスペクターLv8の叫びとともに、臨界に達したアソートエンジンが大爆発を起こした。
 消え行く扉から大きな爆発音と衝撃波が漏れだす。
 だがそれも一瞬の出来事、扉が完全に消えると音も衝撃も何も残りはしなかった。

「終わった……の?」

「アーティファクトもろとも爆発して木端微塵でしょう」

「倒せてない、なんてことはないわよね」

「例えあれで倒せてなくても、鍵を壊した事で出入口が無くなって、空間そのものが消滅しましたから」

「それなら良かった。……ねぇカズさん」

「なんですか?」

「さっきのことなんだけど、なんでジークに倒してほしいって言ったの?」

「そこはジークさんじゃなくても、フリートさんでもフローラさんでも良かったんですよ」

「どういうこと?」

「ジークさんはロイヤルガードの隊長で、フリートさんとフローラさんはギルドマスター。実力があると知られてる人が、王様の危機を救っても不思議ではないでしょ」

「そうかも知れないけど」

「それに俺が倒したとしても誰も信じませんし、それこそ自作自演で、国や貴族に恩を売るとか言われかねませんし」

「皆が見てたんだから、いくらなんでもそんな事はないと思うわよ」

「それに今の俺は、脱獄した犯罪者ですから」

「今回の事が明らかになれば、カズさんが冤罪だって証明されるわよ」

「だと良いんですけど」

「ふぅ……疲れたわね」

 フローラは大きく息を吐き肩の力を抜くと、疲れがどっと押し寄せた。

「お疲れ様でした。と言いたいんですが、フローラさんにはこの後の説明をお願いしたいんですよ。あちらの人達に」

 王城の近くに避難しているジークや、ロイヤルガードの方を指さすカズ。

「なんで私が?」

「ギルドマスターですし」

「ギルドマスターなら、あそこにフリートも居るでしょ」

「フローラさんはマナの揺らぎがあったのにも気付いてたじゃないですか。それに今までの事も報告してたんですから、誰よりも説明出来るでしょ」

「カズさん自身が説明すればいいでしょ。当事者なんだから」

「俺は手配犯で脱獄者ですし、それにほら」

 白真を見るカズ。

「なら尚更よ。白真さんが王都に現れた理由を説明しないと。私にまか…」

「あ、そうだ! 俺まだやることがあったの忘れるとこだった。ということで、あとはお願いしま~す」

「え? ちょっと……」

 カズはダッシュで走り去り、振り返りもしなかった。

「もうッ!」

「カズは王都ここでは、いつもああ感じなのか?」

「貴族とか身分の高い人達が関わると、なんだかんだと理由をつけてね。冒険者のランクを今より上げないのも、そういった人達と関わるのが堅苦しくて嫌だからって。なんで私に押し付けるのよ!」

「不快な魔力も消えた。もうここに用はない。日が昇り明るくなる前に我には去ろう。これ以上ると、カズがまた怒るゆえ
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...