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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

270 従順な洗脳者

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 カズは懐から小さな水晶を取り出した。

「この建物はジャミングをかけて、マナを乱してるのよ。転移できると思ってるのかしら?」

「だから念話が届かなかったのね」

「念話? 通信系のアイテムかスキルでも持ってたのかしら。だったら今度は素っ裸にして、体の隅々まで調べてあげるわ。ムフフっ、レラの小さな肉体を好きにできるのなんて、とっても楽しみ!」

「ヒィぃぃ! イキシアあんたキモい」

 イキシアの視界から外れようと、カズの後ろに隠れるレラ。

「トっととヤツラをトラえロ。アソートエンジンの燃りょウにすルマデは、フェアリーはスキにさせテやる」

「よろんでッ!」

 イキシアが動き出す前に、カズが水晶を足下に叩きつけた。

「今だ行け!」

 カズの合図で空間の歪み目掛けて四人は飛び込む。

「にげラレたカ」

「その様です。もう少しであの小さく可愛いレラを……カズ許せん」

「やはりコノ国の衛兵は、ヤツが逃げダシた事もキヅかない役タたずのヨウだ。ナらばやつラヲこれからオキルしゅ謀さニしたあゲる。全テノもんスターを解放シる準備をしろイキシあ」

「はい」

 背後から出ていた黒い靄は、ルマンチーニの内へと戻っていく。

「ロイヤルガードだろうと冒険者ギルドだろうが関係ない。服従の刻印をアソートエンジンの効果で最大にすれば、最終的に国中の者を全てを支配できる。そうすれば何の問題もない」

「アソートエンジンの燃料はどうしましょう?」

「解き放ったモンスターが暴れてる間に王城へ入り、玉座にある宝玉を持って来い。あれを使えば探していたミスリスの代わりになるだろ。ロイヤルガードが邪魔に入ったら、渡してある指輪とカードを使い足止めしろ。お前が死んでも宝玉だけは届けろ。いいな従順なイキシアよ」

「仰せのままに」

 イキシアは装備を整えて、モンスターを解放する準備に取りかかる。
 トリモルガ家から転移して脱出した四人は、街の薄暗い路地裏に移動していた。

「ここは?」

「第3ギルドの近くです」

「街に転移したのか!?」

「ええ」

「ドセトナ様。エビネは……エビネを助けてください。あのままではエビネがモンスターに」

「分かっている。しかしどうやって」

「ドセトナさんとホップさんは、第3ギルドに行ってギルドマスターのフリートさんに事情を。留守のようであれば、ギルド職員に話して呼び出してもらってください」

「フリート……ジーク隊長の弟か!」

「俺とレラは第2ギルドに行きますから」

「分かった。誰だかは知らんが感謝する」

 四人は二手に別れ、カズとレラは第2ギルドのフローラの所へ、ドセトナとポップは第3ギルドのフリートの所に向かった。
 近くだけあって、すぐ第3ギルドに着いたドセトナとホップの二人は、ギルドマスターフリートへの面会をギルド職員に伝えた。
 ドセトナが身分を証すと、すんなりと許可が出た。
 しかしフリートはギルドに居らず、少し前に衛兵本部へ向かったと聞かされた。
 それはカズが身代わりとして出したドッペルゲンガーが、少し前に効果が切れて姿を消していたため、カズが脱獄した事がバレてしまったからであった。
 衛兵本部は冒険者ギルドにカズ脱獄の連絡をし、第1ギルドマスターのバルフートと第3ギルドマスターのフリートを、事実確認のため呼び出していたのだった。
 少しすればフリートは戻ると聞かされたドセトナは、それまでカズという男のことをギルド職員に尋ねた。
 二人が第3ギルドに来てから十数分程たった頃、フリートが衛兵本部から戻ってきた。
 居るはずのないドセトナを見て驚きを隠せなかったフリートは、二人をギルドマスターと部屋に案内した。
 そこでフリートは、ドセトナとホップから今までの話を聞いたのだった。
 話を聞き終わるとフリートは装備を整えて、ドセトナと共に貴族区へと急ぎ向うことにした。
 ドセトナとホップと別れたすぐあと、カズはレラと共にゲートでフローラの使う資料室に移動していた。

「カズさんかしら!?」

「よく分かりましたね」

「さっき連絡が来たの。衛兵本部からカズさんが脱獄したって」

「朝までは無理だったか」

「どうして出てきたの。私やフリート達が貴方の為に動いてるの知ってたでしょ。居なくなったレラだってすぐに見つけ…」

「あちしならここ。カズに助けてもらったから大丈夫」

「レラ!? どこに居たのよ! フリートから居なくなったって聞かされて、どれだけ心配したか」

「ごめんなさい」

「どういう経緯でカズさんの耳に入ったか知らないけ…ど……念話!?」

「そうなんですけど、とりあえず今は俺の脱獄はどうでもいいので」

「いいわけないでしょ! もうこれは言い逃れできないわ。私達の苦労も水の泡ね」

「待ってフローラ。それどころじゃないの! イキシアがモンスターと気持ち悪い黒い靄が」

「レラ落ち着いて順番に聞かせてくれ。俺も詳しくは知らないんだから」

「そうだった。あちしが見てきた事を話すから、カズを攻めないで」

 レラはトリモルガ家であった出来事を全て話した。
 信じられない様子のフローラだったが、実際にイキシアが変わりだした頃と、レラから聞いた話が一致していたので信じるしかなかった。
 レラが自分に嘘をつく理由もないとフローラは思っていたが、サブ・ギルドマスターとして長く自分を支えてくれたイキシアを、簡単に疑うこともできなかった。

「フローラ聞いてるの」

「え、ええ。聞いてるわ」

「しっかりしてよ。それで分かったの?」

「なんだったかしら?」

「アーティファクトよ」

「アーティファクト……ああ、機密保管所から持ち出されてたアーティファクトね。そう、やっと調べが付いたの。私が機密保管所に入れれば、もっと早く分かったんだけど」

「それでどういった物なんですか?」

「アーティファクトの名前は『アソートエンジン』用途はアイテムや魔法の効果を増幅。ただしアソートエンジンを動かすには、マナ魔素を多く溜め込んだ水晶や魔鉱石、またはモンスターの魔核が燃料として必要。マナストーンとは古い言い方でそれらの総称」

「あちしを燃料にするとか言ってたのは?」

「それは私にも分からないわ。でもおそらくは、濃い魔力を持つ生き物から強制的に魔力を抽出して、それを燃料として使用するんじゃないかしら」

「もしあちしがあのまま捕まってたら」

「魔力を全て抽出されて、命は無かったでしょうね」

 今になって更に恐ろしくなり、青ざめて震えるレラ。

「カズさんに助け出されて良かったわね」

「うんうんうん。ありがとうカズありがとうカズ」

 泣きながらカズにしがみつくレラ。

「これでカズさんは、完全に国から追われる身になったけど」

「ごめんカズごめんカズ。あちしがどこまでも一緒に付いてってあげるから。寂しくないから」

「分かったから。泣き止んで落ち着けレラ(鼻水ついてるし)」

「……うん」

「俺はレラをオリーブ・モチヅキ家に連れて行ってから、もう一度レンガ造りの建物に戻ります。服従の刻印とかいうアイテムをなんとかしないと。それにあの黒い靄が今回の元凶なら」

「ええ。私も後から向かうわ。そのレンガ造りの建物に何体のモンスターが居るか、それがいつ解き放たれるか……。それに(イキシアもそこに)」

 話を終えるとカズはレラと共に〈ゲート〉でオリーブ・モチヅキ家の庭へと移動た。

「レラはビワの所に。もう勝手に一人で行動するなよ。皆が心配してたんだから」

「……分かった。ごめんなさい」

「ほら、早く戻る」

 何度かチラチラとカズの方を振り向きながら、レラは屋敷へと入ってゆく。

「さてと、脱獄したのもバレたんじゃ、もうこそこそしてもしょうがな……おい、もうかよ!」

 トリモルガ家に向かい走っていると、建物が崩れる音と、モンスターの鳴き声が聞こえた。
 カズは【マップ】に目を向けると、数十体のモンスターがレンガ造りの建物から出て来ているのが分かった。
 隣の貴族が住む屋敷にまでは距離があり、それぞれの屋敷には柵があるのですぐに襲われる心配はないと思われる。
 それでもせいぜい、十数分が限度であった。
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