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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

266 囚われたレラ

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 ◇◆◇◆◇


 一夜が経ち外が明るくなってきた頃、気絶していたレラが目を覚ましす。

「ッ! ここは……早く戻らないと」

 暗い部屋の中で起きたレラは、立ち上り飛び立とうとする。
 ゴンッと硬い何かにぶつかる。

「痛っ……何よもう」

 レラは目を凝らしてよく見ると、それは鉄格子だと分かった。

「え? え?? なんで……そうだ、イキシアに掴まれて、あちしそのまま気を失……」

 レラは鉄格子を掴み、押したり引いたりと動かないかを試みる。
 しかし小人用の鉄格子はレラにとっては大きく、何度叩こうがびくともしない。
 鉄格子の隙間も狭く、小さなレラでも抜け出すことはできない。
 だんだんと目が暗さに慣れてきたレラは、鉄格子の隙間から部屋の中を見渡した。
 そこには大小様々な檻があり、殆どの檻にはモンスターが入れられていた。
 幾つかの檻には人のような姿が見えていた。
 中には傷を負い、怯えた状態で閉じ込められている女性も居た。
 レラは近くの檻に居る、その女性に話し掛けた。

「ねぇ、そこのあなた」

「……」

「あなたよ、あなた!」

「わ、わたし…」

「そうあなた。この状況説明できる?」

「ど、どこに…居るんです? 姿が……」

「あちしは、ここ」

 レラは鉄格子を叩いて、自分の居る所に目を向けさせる。

「小人族…にしては小さいけど……フェアリー?」

「あちしのことはいいから。あなたこの状況説明できるの? どうなの?」

「く…詳しくは」

「何でもいいから教えて」

「は…はい。わたしはここトリモルガ家で使用人をしてました。深夜おかしな音がするこの部屋が気になり、中を見てしまったらこの様な事に」

「ちょっとした興味本位がこうなったのね(あちしも人のこと言えないけどね)」

「はい」

「他の人達もそう?」

「今閉じ込められてるのは使用人ですが、前には冒険者らしき人も居たとか」

「そいつらはどこに行ったの?」

「他の場所に連れて行かれました『用済みの最後は、モンスターの糧になることだ』と。う…うぅ……わ、わたしは嫌です。モンスターに食べられるなんて!」

「ちょ、泣かないで声が大きいわよ。落ち着きなさい。この檻を出る方法は知らない? どうやって開けるか分かる? あちし入れられる時は、気を失ってたから」

「ぅ…ぅ……よ…横の方に鍵穴があると思います。カギはエルフの女性が持ってと思います」

「イキシアね。なんなのよアイツ。カズを嫌ってるからって、ここまです……違う、昨日気を失う前に洗脳とかなんとか。ねぇあなた、イキシ…エルフの女性はいつ頃から来てたのか分かる?」

「ドセトナ様がロイヤルガードをお辞めになって、地下で新しい遺物を発見したとか聞いた少し後ですから……たぶん半年以上前。今年になってから少し経った頃かと」

「そんなに前から! あちしじゃ分からない。早くカズかフローラかフリートに知らせないと」

「フリート……グレシード家の方ですか?」

「う~ん……たぶんそう」

「グレシード家の方と連絡が取れるのですか?」

「ここを出れればの話なだけど。なんかやけに、疲れるんだけど」

「エルフの女性が、フェアリーさんが入ってる檻は特製で、なんでも閉じ込めてる人の魔力を使用して、檻を強化するとか言ってました。だから格子には触らない方が」

「な、早く言ってよね(カズが作ってくれたベルトがなければ、魔力切れで動けなくなってたかも)」

 鉄格子から離れて座りこむレラ。

「ごめんなさい。だ、大丈夫ですか?」

「なんとか。あなたの方は落ち着いたみたいね」

「あ、はい。フェアリーさんと話してたら、気が少し楽になりました」

「そう。それは良かったわね」

「あのう、本当に大丈夫ですか?」

「ええ大丈夫。さっきまで鉄格子に触ってたから、たぶんその影響よ(カズがベルトに付与してくれたゲートを使えば、たぶん逃げられる。でも魔力不足で……このベルトがあっても、回復には少し時間が掛かりそう)」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃オリーブ・モチヅキ家では、戻ってないレラを心配したビワが、マーガレットにその旨を伝えていた。
 マーガレットは屋敷の者全員を集めた。

「レラが朝まで戻って来ないことは、以前にもあった?」

「いいえ。私の知る限りでは、長くても三時間程度で戻ってきてました。やっぱり私が…昨夜レラ止めてれば」

「ビワが一人責任を感じることはないのよ。私達も知っててレラの行動を見逃してたんだから。深夜なら外に殆ど人も居ないから、見つからないと思って好きにさせ過ぎたようね。誰かレラが行きそうな場所に心当たりはない?」

「捕まってるあの人の所では?」

 マーガレットの問い掛けに、アキレアが最初に声を上げた。

「深夜とはいえ貴族区を出ると、それなりに人は居るから、それはないと思うわ」

「ではフリート様が調べている方を、レラさん御自身でもと」

 ベロニカの意見を聞いて、少し考えるマーガレット。

「その可能性はありそうだけど、誰を調べてるかをレラには話してないから。それにどこに住んでるかも知らないはずよ」

「あ」

 マーガレットの話を聞いて、ミカンがふと何かを思い出した。

「どうしたのミカン?」

「昨日奥様のお部屋に頼まれた本を取りに行ったときなんですが、フリート様からと思われる手紙が机の上に広げてあったので、ミカンがしまっておいたんですが」

「それは変ね。読んだ後、手紙はいつものように引き出しに入れておいたのよ」

「まさかレラがそれを読んで……危ないことはしないって約束したのに」

「落ち着きなさいビワ。まだそうと決まったわけじゃないから」

 ビワの考えた通り、現在のレラは捕まり檻の中に入れられている。
 しかしそれを知る者は、誰一人として居なかった。
 マーガレットはすぐにフリートと連絡を取るため、アキレアを第3ギルドに向かわせた。
 レラが捕まったと仮定すると、ビワが狙われる可能性があったからだ。
 今回の事をした者が、例えビワが無害だと知っても、カズと共に行動していたことを考えれば、危険と判断して狙いに来るのは確実だと思ったからだ。
 今回の素早い行動は、フリートとマーガレットの話し合いで、もしもの時の対処として考えられていた結果だった。
 レラかビワの二人の内どちらかが姿を消した場合、すぐにフリートへ連絡をすると。
 なぜならレラかビワの行方が知れなくなったのをカズが知ったら、衛兵本部から脱獄して探しに行くと分かっていたからだ。
 これ以上大事にならないようにするため、考えられたことであった。

 アキレアは平静かつ足早に貴族区から出て、第3ギルドへと向かっていた。
 メイド服を着た若い女性が通りを歩いていると、チャラチャラとした男達や、自分の実力を過大評価したランクの低い冒険者が、見え見えの下心で声をかけてくる。
 いわゆるナンパだ。
 急いでいるこんな時に限って邪魔は入るものだと思い、アキレアは少しイラついていた。
 下手に構って相手をすると何かしらと面倒なので、アキレアは全て無視した。
 中にはしつこく後を付けてくる者もいたが、第3ギルドに入ると諦めて去って行った。
 オリーブ・モチヅキ家から使用人が来ているとギルド職員から連絡を受けたフリートは、アキレアをすぐにギルドマスターの部屋に通し話を聞いた。 
 フリートはアキレアの話を聞くと、共に第3ギルドを出てオリーブ・モチヅキ家へと急ぎ向かった。
 ただフリートは失念していた、今回の対処方法をフローラに話していなかったことを。
 そして今まさにカズが脱獄しようとしているのを、たった一人を除き知られてはいなかった。
 マーガレットの判断で行動に移してから約二時間、アキレアはフリートと共にオリーブ・モチヅキ家へと戻った。
 マーガレットはもう一度使用人のメイド達を一部屋に集めた。

「御待たせしました」

「急に呼び立ててごめんなさい」

「大丈夫です。それでレラさんが戻っていないと」

「ええ。昨日の深夜に出てから。どうもフリートから来た手紙を読んでしまったようなの」

「申し訳御座いません。ミカンが奥様に聞かずに、出してあった手紙をしまって」

「ミカンは悪くないわ。私の頼んだことを聞いて、忘れたものを取りに戻ってくれただけなんだから。それに片付けるのはメイドの仕事なのだから、そんなに気にしなくていいわ」

「ではもしかして、レラさんはトリモルガ家に!?」

「それは分からないわ。でもレラはトリモルガ家の場所は知らないはずだから」

「ではどこへ……」

 その場に居た者が悩んでいると、フリートの周りに居るメイド達を見て、あることに気付いた。
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