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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

264 トリモルガ家の役割

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 イキシアと別れモルトは第3ギルドへ着き、ギルド職員にギルドマスターのフリートの部屋に案内された。

「失礼致します。お仕事中申し訳ございません」

「構いませんよ。モルトさん」

「フリート様。儂のことはモルトとお呼びください。ここのギルド職員に聞かれたら、不遜と思われてしまいます」

「これは失礼。モルトさ…モルトは第2ギルド、フローラさんの元で働く方ですから」

「それでも儂は単なるギルド職員に過ぎませんから。ギルドマスターのフリート様と対等に話をしていたら、ここのギルド職員の方々が儂より格下と思うかも知れません」

「そこまでは思わないと思うけど、ないとも言いきれないか。しかしうちのギルド職員とモルトは同じではないかと思うけど。モルトは王都に来る前に、アヴァランチェでギルドマスターをしていたと聞いるから。ここにそういった経歴の職員は居ないからね」

「今は一介の職員に過ぎません。ただ他の方々よりも、少し経験があるだけです」

「そんな謙遜しなくても。ボクの仕事を手伝ってくれるのなら、是非ともここ第3ギルドに来てくれても」

「お誘いはありがたいのですが」

「そうですか。気が変わったらいつでも来てください」

「お心遣い感謝します。ですが先程話に出たアヴァランチェを任せている者から連絡も来ますし、儂はフローラ様の元でこれからも働かせていただきます」

「そうですか。それで今日の用事は例の」

「はい。こちらがそうです」

「御苦労様」

「フリート様に御聞きしたいことがあるのですが、宜しいですか」

「なんですか?」

「ここに向かっている間に、第2ギルドでサブ・ギルドマスターをしているイキシアと会いまして」

「はぁ。それが何か?」

「フェアリーのレラさんが、オリーブ・モチヅキ家でお世話になっている事を知ってました。フリート様が話されたのですか?」

「ボクは話してません。その前に第2ギルドのサブマスとは面識が殆どないので、どういった方なのかはよく知らないんですよ」

「そうですか。ではどこかで情報を得たのか、あるいは実際に貴族区に入り見たか」

「前者の可能性は低いですね。あるとしたら後者。実際にレラさんを見たとしか……」

 話を聞いて考えるフリートは、一旦モルトから受け取った手紙に目を通すことにした。

「長居しても迷惑になりますので、儂は失礼致します」

「少し待ってください。フローラさん宛に手紙を書きますから」

「分かりました」

 フリートは即座に書き上げた手紙を封書にして、モルトに渡した。

「そちらのサブマスはイキシアさんと言いましたね。その方にこのやり取りは、これ以上感づかれないようにしてください。それとイキシアさんに会ったことは、一応フローラさんにも話してください」

「畏まりました」

 イキシアの発言が腑に落ちなかったと感じていたモルトは、フリートの言うことを聞き入れて第2ギルドへと戻る。
 第3ギルドを出たモルトは、フローラの元へと直ぐ様戻りフリートから預かった手紙を渡し、イキシアに会った事を伝えた。

「そう……分かったわ。もし次にイキシアに会って聞かれたとしても、言われた通り私には話してないと言って」

「はい」

「それと手紙ありがとう。モルトがオリーブ・モチヅキ家に行くことができるように、バルフートさんに聞いておくわ。衛兵本部の許可も出れば、今まで通り入れるようになるでしょう。今日は御苦労様。たまにはゆっくり休んで」

「ではお言葉に甘えて。失礼させていただきます」

 ギルドマスターの部屋を出たモルトは、路地面にある行きつけの店へと向かいギルドを出る。
 
「ハァ……『イキシアが今回の事に関わってる可能性がある』フリートの手紙にはそう書いてあるけど、どうしてそう思ったのかしら。確かに以前はカズさんのことを少し嫌っていたようだけど、今年になってからは、イキシアの方から話をしてたようだし……休みを取らせた時に、何かあったのかしら?」

 フリートの手紙を読み、イキシアのことが心配になるフローラ。
 カズが手配された頃から第2ギルドにあまり姿を見せていなかったのは、モルトに話したように第2ギルドの評判が落ちないように、駆けずり回っていたからだと思いフローラは感謝した。
 しかし次には相反するように、今回の事に関わっる可能性があるとフリートからの手紙に書いてあったため、フローラは頭を抱えてしまった。

「貴女今どこに居るの。なぜギルドに戻ってこないの……イキシア」

 疲れが溜まっていたフローラは、両腕を枕にしてそのまま机で寝てしまった。



 三日後の昼過ぎ、グレシード家の一室に兄ジークと弟のフリートの姿があった。

「呼び立てて悪い」

「大丈夫です。ジーク兄さんがボクを呼んだと言うことは、何か分かったと」

「あぁ。とりあえず座れ。この前フリートが言ったように、ルマンチーニ卿とトリモルガ家のことを少し調べた」

「それでどうでした」

「結論から言うと、ルマンチーニ卿はアーティファクトを持ち出してはない。正確には、今年に入ってから一度も機密保管所にも入ってはないようだ」

「そうでしたか。ではボク達の勘違いだったと(カズさんが衛兵本部で見つけた資料は、関係ないということか)」

「まぁまてフリート。話はまだ終わってない」

「他にもまだ何か?」

「当主のルマンチーニ卿は入ってはいなかったが、その息子でかつてロイヤルガードに居たドセトナが、機密保管所に入っていたことが分かった」

「息子のドセトナがですか」

「ああ」

「かつて……ジーク兄さん、なぜドセトナはロイヤルガードを抜けたんですか?」

「トリモルガ家が遺物(アーティファクト)を保管し管理する責務を、父ルマンチーニ卿に代わりに息子のドセトナがすることになったと聞いた。それでもすぐにではなく、一年は保管や管理など必要なことを学ぶと。それでロイヤルガードを脱退したんだ」

「名誉あるロイヤルガードを辞めてまで」

「国の重役をする家柄の出なら、なくはない話さ。ロイヤルガードに居たという経歴があれば、家の名にも博がつくだろうからな」

「ならドセトナがアーティファクトを持ち出した? だとしたら……でもなんで……」

 ぶつぶつと考えてることが声に出るフリート。

「ただ当日警備をしていた者が、気になる事を言っていた」

「気になる事……?」

「ロイヤルガードを辞めてから初めて機密保管所に訪れた時に、警備をしていた者から身分証明を求められると、激怒して立ち去ったらしい」

「怒った?」

「ああ。まだ機密保管所の管理をルマンチーニ卿からドセトナに、正式に代わったわけではないからな。すんなりと入れるとでも思ったのか」

「ドセトナはそれを知らなかった……?」

「さぁな。たまたま忘れていただけかも知れんが」

「機密保管所の警備は、確かロイヤルガードに入るため訓練をしている者達がしているんですよね」

「騎士団と呼ばれてる者達が交代で警備をしている。今の騎士団は全て貴族の家柄だ」

「だとしたら、その事は警備をしていた者達は、ロイヤルガードだったドセトナを知らないというのは」

「ドセトナはロイヤルガードに居たんだ。辞めてから大して月日は経ってないから、警備をしていた者も知ってはいたさ。ロイヤルガードはそんなに多くないからな」

「だったらドセトナだって騎士団上がりなら、警備をしているのが騎士団の者だと知っていたはず。身分証明を求められるのも」

「フリートの言いたいことは分かる。当日警備をしていた騎士団の者も怪しんで、親しかったロイヤルガードの一人に相談してトリモルガ家に連絡を取ったそうだが、本人に間違いないと言われたらしい」

「相談したというロイヤルガードの人に話は?」

「もちろん聞いた。しかし騎士団の者から聞いた話と同じだった」

「ではなんでドセトナは、その時怒ったのでしょう?」

「それはオレにも分からない」

「その後ドセトナは、どうやって機密保管所に入ったんですか?」

「二度目はからは何事もなかったかのように、身分証明を提示して中へ入ったそうだ。ただ一度目と違うのは、二人だったと聞いた」

「二人ですか……?」

「ああ。トリモルガ家の使用人らしいとのことだ。当主のルマンチーニ卿署名の証明書を持っていたから、間違いないそうだ」

「行き詰まり…か」

「大丈夫かフリート?」

「……え、はい。ありがとうジーク兄さん。ギルドに戻って一人で少し考えます」

「何かあったら遠慮せず連絡してこい。今回は空振りだったかも知れんが、次は何か手掛かりが掴めるさ」

「そう…ですね」

 少し疲れた様子で兄ジークと別れたフリートは実家のグレシード家を出る。
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