人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

263 口の軽い衛兵

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 ◇◆◇◆◇


 翌朝カズの元に少量の水とパンの欠片が衛兵から差し出された。
 フリートの意見が通り、食事が与えられることになった。

「ほれ、飯だぞ」

「ぅ……(食事が出された? フリートさんが昨日衛兵達に話したからか。でもこれは……濁った水に、カチコチのパンて)」

「グレシード家のギルドマスターに感謝するんだな。そうでなければ、あと数日で死んでいたぞ」

「ぅ…ぅ……(パンはともかく、水は口にしたくない。魔法で汚れを取り除いて浄化をすれば飲めるように……いやアイテムボックスに入れてあるパンと水に入れ替えよう)」

 見張りの衛兵に気付かれないように、水とパンを入れ替えから、カズはパンにがっつく。

「おお。これは獣だ」

「確かにそうだが言ってやるな。十日以上飲まず食わずなら、こうなるだろ」

「そりゃそうか。おれはそこまで空腹になったことないから、分からないな」

「はむ…がむふむ……(手の中に収まる程度のパンだと、やっぱり物足りない。こそこそ食べなくてもいいだけましだけど、取り替えたパンを見られるわけにはいかないからな。見張りの衛兵は……気付いてなさそうだ)」

「さっきの話し聞いてたか、おい。グレシード家のギルドマスター感謝しろよ」

「そうだぞ。お前のような奴に食べ物を与えるように、特等に言ってくれたんだからな」

「……」

「なんとか言えよ!」

「もうほっとけ。食い物に夢中なんだ」

「そろそろ交代が来る頃だろ。おれ達は最近人気の、黄色に赤いソースをかけたやつでも食いに行こうぜ。安くて旨いからよ」

「それも良いが、おれはやっぱりタマゴサンドが定番だ」

「好きだなそれ。昨日も一昨日もそうだったじゃないか」

「いいだろ。おれはあれが好きなんだ!」

 人気の黄色に赤のソース……オムレツのことかな? トマトケチャップが広がってきてるのか、俺も食いに行きたい。
 タマゴサンドはもう定番になってるのか、シャルヴネさんは王都での商売が上手くいってるみたいだな。
 それにひきかえ俺は牢の中……か。


 次に交代で来た衛兵が、急に何かを思い出したように話し出した。
 カズはその内容が気になり耳を傾ける。

「おれまた見たぞ」

「何がだ?」

「司令が例の女と会ってるとこ」

「あのマントで姿を隠して来る奴のことか? よく女だって分かるな」

「チラッと顔が見えたんだよ。それに話し声も聞こえてさ、あれは女だった」

 司令と一緒に牢の中の俺を見に来たのが女? 

「何を話してたんだ?」

 それは俺も聞きたい。 

「小声だったから、よくは分からなかった。それにだ、すぐ司令に気付かれちまったから」

「なんだ」

「ただ……」

「ただ?」

「あ、いや」

「そこまでは話しておいて、黙るのかよ」

 そうだ話せ、よく言ったぞもう一人の衛兵。

「ここだけの話だぞ。耳貸せ」

 ぼそぼそと同僚に耳打ちをする。

「は!?」

 聞こえないじゃないか、なんでそこだけ耳打ちして話すんだよ!

「マジかよ。コイツに枷を増やしたり、食事を与えなかったのは、その女の言うことを司令が聞いて、おれ達に命令してたって事かよ」

「ばッ、声がデカイ。誰かが聞いてたらどうするんだ!」

 そっちの衛兵ナイスだ! 聞かせてもらった。

「お前さ、気付かれたって言ってたが、よく無事だったな。司令に何か言われなかったのか」

「……降格したくなければ、分かるな。って」

「それって、見たことを誰かに話したら、三等に降格させられて、昇格はもうないってことじゃないのか。なんでそんなのを、おれに話したんだ!」

「だってよ。一人で抱え込むには……ここでお前一人に話せば、大丈夫だと思ったんだけど」

「そりゃ聞いてるのなんて、牢に入ってる奴だけだから。なぁ、もしおれもその話を聞いた事が上に気付かれたら、おれも降格確定じゃねぇか」

「長く一緒に居たよしみだろ。それに上の連中の耳に入らなければ大丈夫さ」

「耳に入って四等以下に降格したら、衛兵辞めて他の仕事探すしかないってことじゃないか。ここまで来たのに」

「すまない」

「この話は墓まで持ってくぞ」

「もちろんだ!」

 自分勝手に話して同僚を巻き込んでおきながら、何故か二人の絆が深まることになった。
 そんな二人の衛兵をよそにして、話に出た司令と話す女のことをカズは考えていた。


 司令に命令ができるのは、王からの命令を受けたロイヤルガードか、権威のある貴族くらいのはず。
 ロイヤルガードがこそこそとするのはおかしい、だとすると正体を隠してる女は貴族か? だけど貴族がなんで俺を……分からん。
 この情報もフリートさんに教えないと。
 以前に司令と一緒に俺を見に来た人物が、女であり貴族と繋がりがある可能性があるってことを。
 これはあくまで衛兵が話してた内容を、俺なりに考えたことだとも手紙に書いておかないと、不確定な情報だからな。
 見張りの衛兵はまだ話してるようだし、今の内に手紙を書いてフローラさんが使う資料室に。
 フリートさんが動いてるのが分かってるから、俺は問題を起こさないように大人しくしておかないとな。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「レラ」

「な~にビワ?」

「昨日の夜はどこまで行ってたの?」

「なんのこと? あちし寝てたけど」

「誤魔化さなくても知ってるわ。皆が寝静まった深夜に、レラがお屋敷を抜け出してるのを」

「知ってるのはビワだけ?」

「奥様や皆も知ってるわよ。深夜ならレラが見つかることもないだろうって、好きにさせてくれてるのよ」

「そうなんだ。なら次からは、気にすることなく出掛けられる」

「たまになら良いのよ。毎日はダメ。レラに何かあったら、カズさんに会わせる顔がないって奥様が」

「じゃあ一日置きに…」

「ダーメ」

「だったら二日置き…」

「多くても五日置きにして」

「えぇぇ。それだと運動不足で太っちゃうよ」

「なら私達メイドのお仕事を手伝って」

「昨日広間の掃除して疲れたから遠慮する。あッそうだ。あちしマーガレットと子供達の相手をするから。じゃあねビワ」

 レラは逃げるようにして、ビワから飛んで離れてゆく。

「もう掃除なんて懲りごり。それに五日も外に出ないなんて、あちしにはもう無理。抜け出してるのを知られても、外へ出る時に気付かれなければいいんだもん。そうすれば止められることはないもん」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「カズさんからまた手紙のようね。……衛兵の司令が誰かから指示を受けて……なるほど。貴族を調べるには、やはりフリートが不可欠ね。これをまたモルトに届けてもらわないと。しかしカズさんも投獄されて動けないとはいえ、結構人使いが荒いわね。頼りにされてるのは嬉しいのだけど」

 部屋にモルトを呼んで、フリートへの手紙を渡すフローラ。

「それじゃあ、お願い」

「承りました」

「いつも悪いわね」

「とんでもございません。これも仕事ですから」

 第2ギルドを出たモルトは、第3ギルドへと向かって行く。

「モルト」

 突如としてモルトに声を掛けてきたのは、第2ギルドのサブ・ギルドマスターのイキシアだった。

「最近見かけないと思ってましたら、遠出でもなされてたんですか?」

「それもあるわ。でも一番は第2ギルドから手配されるような罪人を出した事で、評価が落ちるの食い止めるため。その為にワタシは方々に顔をだしてたの」

「そうだったのですか。それはお疲れ様です。その事はフローラ様は御存知で?」

「フローラにこれ以上心配させるわけにはいかないから、ワタシが単独で動いていたの。事が落ち着いたら話すわ。それでモルトは何処へ行くの?」

「第3ギルドまで。まだ貴族区に入るのを許可されてないので」

「そうなのね。手配犯カズが捕まったのだから、貴族区に入るのを許可されてもいいのに」

「もう少ししたら、以前のように入る許可がおりましょう。そうでなければ困ります。これ以上フリート様に、儂の代わりをしてもらうのは申し訳ないですから」

「それならワタシが第3ギルドへ行きましょうか? サブマスとしてお礼を言った方が良いでしょう」

「それには及びません。毎回フリート様に会う度に、フローラ様が感謝していたと伝えております。それにフローラ様もギルドからの謹慎が解かれれば、直接お礼すると申しておりますから」

「そう……分かったわ。ワタシはまだ行く所があるから。ここで話したことはフローラに黙ってて。心配かけるといけないから。それと第3ギルドマスターに、ワタシからも謝罪と感謝しておいて。うちに居た冒険者がした事で迷惑をかけたということと、貴族のモチヅキ家でフェアリーを匿ってもらってる事も」

「分かりました。伝えておきます」

「よろしく」
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