人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

262 深夜の気分転換

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「フリート……フリートッ!」

「はい! なんです?」

「……少し時間はあるのか?」

「大丈夫ですが……?」

「だったら少し付き合え。書類仕事ばかりで、剣の腕が鈍ってないか見てやる」

「剣の稽古ですか? ボクは…」

「体を動かした方が、少しは良い考えが浮かぶかもしれんぞ。何か悩みがあるなら聞いてやる。ロイヤルガードとギルドマスターとしてではなく、兄弟としてな」

「ジーク兄さん」

 フリートとジークは中庭に移動すると、互いの腰に下げる剣を抜き稽古を始めた。
 剣を交えること二十分、フリートの表情があまり変わらないのを見て、ジークは剣を鞘に収めた。

「体を動かしたくらいでは、考えはまとまらないか」

「すいませんジーク兄さん。せっかくの稽古が」

「話してみろ。協力できるかは分からないが」

 フリートは現在抱えてる問題を簡潔に話した。
 投獄されているカズのこと、衛兵司令のこと、疑わしき貴族に関することなど。
 フリートから話を聞いたジークは、黙って暫く考えたのち口を開いた。

「ルマンチーニ卿が……信じられん。が、弟の話すことを頭ごなしに否定するのも」

「カズさんから話を聞いて最初はボクも疑ってました。けど、色々と調べてく内に」

「しかしだなフリート、そのカズが言ってることが真実だとは限らないだろ」

「以前に王が乗る馬車が襲われ、その犯人がカズさんということになってますが、その時警護をしていたロイヤルガードは襲ってきた者の顔を見てないと」

「よく知っているな。確かにあの時襲ってきた者の顔を誰も見てはいない。しかし疑いを掛けられたカズとかいう者が、その後衛兵と冒険者に怪我を負わせ、人質を取り王都を離れたと聞いたぞ」

「ジーク兄さんは、人質が誰か聞いていましたか?」

「貴族の使用人とだけは聞いたが、どこの誰かまでは。今日フリートから話を聞いて知った」

「弟の頼みと思って、一度だけ調べてもらえませんか?」

「これが間違いだったら、グレシード家の名を汚すことになるんだぞ。それにルマンチーニ卿のトリモルガ家は、過去発見された遺物アーティファクトを保存し管理する責務をおってるんだ。先ず始めに疑われる立場に居る者が、そんな事をするとは思えん」

「ボクもそう思ってましたが、助言されてたこともあって、一応機密保管所へ入ってアーティファクトを調べることにしたんです」

「それで持ち出された形跡のある物はあったのか?」

「形跡ではなく、実際にアーティファクトは無くなっていました。しかしボクはアーティファクトのことは詳しくないので、フローラさんにその物がどういった効果があるかを調べてもらおうと。あ、フローラさんというのは、第2ギルドのマスターです。ボクよりはアイテム等に詳しいので」

「……それで持ち出されたアーティファクトが、どんな効果があるか分かったのか?」

「それはまだ。何せ機密保管所に入る手続きを再度しているのですが、二度目以降はなかなか許可が下りず」

「分かった。オレも少し調べてみよう」

「ありがとう。ジーク兄さん」

「まあ待て。いくらフリートの言うことでも、今の話を全て信用するのは難しい。だからオレなりに調べて、聞いた話と噛み合うような事があったら、少しは信じることにしよう」

「それで良いです。でもあまり時間がないと思うので、調べるなら急いだ方が」

「時間がない? それはどういうことだ?」

「確信がある訳ではないんですが、もしかしたらカズさん自ら動いてしまう可能性が」

「カズがか? 衛兵本部に投獄されているんだろ」

「枷を幾つも嵌められて、鎖に繋がれた状態で投獄されてます」

「容易く脱走できる実力があるのか?」

「Aランクの冒険者数人と渡り合ったそうですから」

「よく大人しくしてるじゃないか。それほどの実力があるなら、衛兵の連中など相手にならないだろ」

「大人しくしているのは、ボクがこうして動いているからだと思います。それに本人は揉め事を好まないようですし」

「そうか。聞いたことが本当なら、捕らえた罪人の対応も確かにおかしい。先ずはルマンチーニ卿が衛兵司令と繋がってるか探ってみよう。何か気になることがあったら連絡する」

「感謝します」

「弟の頼みだ。それに王や国に危険が及ぶ可能性があるなら、調べるのはロイヤルガードとして当然だ。例えグレシード家の名を惜しめたとしても」

「その時はボクが責任を追い、ギルドマスターを辞めて国から追放されることで、グレシード家に罪が及ばないよう王に嘆願します」

「貴族の付き合いは面倒だと街に下りて、冒険者として生きていたお前一人の追放で済まされると思うのか?」

「それは……」

「その時はオレも付き合ってやる」

「そんなッ。ジーク兄さんはグレシード家を継ぐ為に」

「落ち着けフリート。これはあくまでの話だ。オレとてそうならないように動くつもりだ」

「そ、そうですよね……ジーク兄さんやっぱり…」

「もう話を聞いたんだ。今さらやめるつもりはないぞ」

「あ……はい」

「さぁそろそろオレは王宮に戻る。フリートもギルドに戻れ。調べることは多いんだろ」

「分かりました。そうします」

「話したことを後悔したなんて思うな。オレは頼られて嬉しいぞ。子供の頃みたいでな」

「小さい頃の話はやめてください」

「オレ達二人だけなんだから気にするな」

「に、兄さん……」

 フリートが実家に戻り兄とあった日の深夜、いつものように夕食を済ませ屋敷の皆が寝静まった頃に、こっそりと窓から外へと出たレラは貴族区内を気晴らしに飛び回っていた。

「結構寒くなってきたわね。マーガレット達の屋敷が広いからって、外に出れないのはカズと出会う前みたいで、なんか窮屈なのよね。屋敷の中を好き勝手に飛んでると、ベロニカとアキレアが怒るんだもん。たまには外に出ないと」

 街中とは違い貴族区内は暗らく、街灯では各屋敷の敷地の奥まで照らすことはできない。
 そのため日が暮れると、貴族区内を歩く者は殆ど居ない。
 せいぜい巡回する特等兵がくらいだ。
 例え貴族が夜出掛けたとしても、大抵は馬車を使っての移動だ。
 それを知っていたために夜が更けると、レラは一人で屋敷を抜け出し、自由気ままに外を飛び回り気分転換をしていた。
 小さなフェアリーが暗い中を飛んでいても、馬車移動している貴族に見つかるのはないに等しいからだった。
 そんな中レラは気になる存在を見つけていた。
 深夜に道を歩く人影らしきものが一つ、街灯があるとはいえ辺りは暗い、にも関わらずフードとマントで身を隠している存在。

「あれは……今度こそ行く先を突き止めてやるわ。こんな時間にあんな格好でここ貴族区を歩いているなんて」

 レラは何度もオリーブ・モチヅキ家の人達から目を盗み屋敷抜け出してる内に、深夜の暗い夜道をフードとマントで身を隠し歩く怪しげな人影を何度となく見ていた。

「もしかしたらカズに濡れ衣を着せた……なんてまさか。フリートが来て昼間あんな話を盗み聞きしたからね。でもやっぱり気になる、今日こそは行く先を突き止めてやる。この美少女探偵レラが……」

 誰もツッコンでくれなく状況に少し寂しさを感じながら、レラは地上から数十m上空と飛び、ギリギリ見つからないと思う距離から尾行する。
 すると後を付けていた人影は辺りを警戒しながらある屋敷に入った。

「ここがあの怪しい奴の住む所……? それにしてはこそこそとしてるわね」

 レラは離れた場所から時間にして三十分程様子を見ていた、しかし屋敷に入った人影は出てくることはなかった。

「ふぁ~……眠い。怪しいと思ったんだけど、あちしの気のせいだったかしら。美少女探偵レラ失敗ね」

 好奇心よりも眠気がましてきたレラは、まぶたを擦りあくびをする。

「カズを助ける役に立つ思ったんだけど、そんなにうまくいかないわね。ふぁ~……広間の掃除やらされたもんで、スゴく眠い……もうダメ今日はここまでにして、早く戻って寝よ」

 眠気に勝てなくなってきたレラは、オリーブ・モチヅキ家の屋敷に戻ることにした。
 レラがオリーブ・モチヅキ家に戻ってから約一時間、フードとマントで姿を隠した人物は入った屋敷から出てきた。

「ここ数回付けられてたはずなんだけど……もう居ないわね。そろそろ対処しないと」

 とある屋敷から出てきた人物は、暗い夜道を歩いてどこかへ行ってしまった。
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