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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

261 兄弟

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 フリートが部屋の扉に向かって話し掛けると、ゆっくりと扉が開いた。

「な~んだ。バレてたなら最初から部屋に入ればよかった」

「し…失礼します……」

「二人共、何をしてるの」

「申し訳ありません奥様。アキレアもごめんなさい」

「カズさんを心配してのことでしょ。いいわよいいわよ」

「ダメですよ奥様。お客様との話を使用人が盗み聞きするなて。罰としてビワには広間の掃除をしてもらいます。もちろんレラも」

「あちしも! でもあちし、お客さんじゃ?」

「違います。今は居候です」

「えぇぇ。マーガレットあちし友達でしょ」

「うんそうね。お掃除頑張ってねレラ」

「そんな~」

「私達が悪いんだから。一緒にお掃除」

「分かったわよ」

「レラと一緒に……ふふ」

「罰で掃除するのよ。なのになんでビワは笑ってるのよ」

「リアーデに居た頃を思い出して」

「あそこは狭かったからまだいいけど、ここはどこもだだっ広いのよ」

「頑張りましょう」

「……ハァ(まぁいいわよ。クリーンの魔法でちょちょいと)」

「レラ」

「な、なにアキレア」

「言っておきますが、魔法を使って掃除をしてはダメですよ。これは罰なんですから」

「ぅ……見透かされてる」

「レラもたまには体を動かさないと。ごろごろしてばかりじゃ太るわよ。カズさんが見たらなんて言うかしら?」

「中々言うようになったじゃないのビワ。だったらカズの本妻にふさわしいか、あちしか確かめてあげるわよ」

「ほ…本妻って……わ…私はそんな……何言ってるのよレラ」

 レラの本妻発言にアワアワおどおどして、顔を真っ赤にするビワ。
 それを聞いていたマーガレットが、楽しそうに話しに割り込んでくる。

「カズさんの本妻ってなに!? その話し私にも詳しく聞かせてよ。前の話ではお芝居って聞いたけど、違うのかしら?」

「マーガレットはいいの。これは罰として掃除をするついでに、あちしがビワの本気度を確かめるんだもん」

「いいじゃないの。そんな面白そうな話を私抜きでするなんて。ビワは家族、私は親同然なんだから」

「だったらマーガレットも広間の掃除にくれば?」

「私もなの!? 掃除はあれだけど、話が聞けるのなら」

「ちょっとレラ! 奥様にそんなことをさせられるわけないでしょ。奥様も」

「ほら、だから……そう! 雇い主の私としては、メイドの仕事を一緒に体験して、その大変さを学ぼうと」

「何を言ってるんですか奥様ッ! 今までの話を私も聞いてるんです。奥様がレラとビワの話を聞きたいだけと分かってるんですから!」

「だってマーガレット。この話はまた今度聞かせてあげるから。にっちっち」

「くぅ~。今日だけはメイドになってもいいのに」

「お、奥様……」

 呆れて言葉に詰まるアキレア。

「今のことは、メイド長のに報告させてもらいます」

「え! ちょっと待ってアキレア。ベロニカに今のことが伝わったら、私が叱られてしまうわ」

「奥様お忘れですか。お客様がまだいらっしゃるのに、この様なお話をしている現状を」

 フリートがまだ居るにも関わらず、いつものような一連の流れを見せてしまったことをアキレアに言われ、我にかえるマーガレット。

「あらやだ、ごめんなさい。変なところを見せてしまって」

「いえいえ。使用人の方といつも楽しそうにして、とても羨ましいです。皆さんを見ていると、ボクにも一緒に暮らす人がほしくなります」

「そういえばフリートってまだ独り身だったわね。私が好い人を紹介しましょうか!」

 新しい目標を見定めたマーガレットの目は、一段とキラキラしていた。

「あ、いえ、その……」

「どうかしら?」

「か、考えておきます。それではボクはそろそろ(今回の事がどうなるかはわかりませんが、片付く頃には忘れていてくれませんかね。今の話し)」

「あらそう。それじゃあ、レラとビワに外まで送らせるわ」

「あちしもなの?」

「これも罰と思って」

「行きましょうレラ」

「仕方ないわね」

「それではフリート様を外までお送りてきます」

 ビワと渋々な感じのレラは、マーガレットに言われてフリートを屋敷に外まで送ることになった。
 マーガレットの居た部屋を出て、屋敷の通路を歩いていると、前をゆく二人にフリートが話し掛ける。

「マーガレット様が気を使ってくださったんです。ボクに何か聞きたいことがありますか?」

「マーガレットが?」

「奥様は…フリート様を御屋敷の外まで…お送りするまでの間に、私達に話をする機会を……与えてくれたの」

「ビワさんは気付いていたようですね」

「あ、あちしだって分かってたもん」

「……」

「……」

 レラの発言に二人が黙る。

「二人で黙らないでよ。ハイハイ分かりました。あちしは気付きませんでしたよ」

「プッ。フェアリーとはもっとこう、水辺で歌い飛ぶ幻想的な存在かと思ってましたが、レラさんを見てると」

「何よ!」

「レラは…変り者」

「ビワがそれを言うかね。最初の頃はおどおどしてるし、今だって相手が初対の男だと、言葉に詰まって変な喋り方するじゃないの」

「今はもう…だいぶ話せるようになった」

「まぁまぁ、吹き出したボクが悪かったですから」

「そうよ! フリートはフェアリーをなんだと思ってるの。そんな夢物語な存在じゃないよ」

「これは失礼。でもフェアリーがレラさんの様であれば、親しみがもてて良いですね」

「レラは変り者だからって…カズさんも言ってた」

「おのれカズ。戻ってきたらお仕置きしてやる」

「それよりボクに何も聞かなくていいんですか? 無駄話をしてると屋敷を出てしまいますよ」

「カ…カズさんが、食事を取ってないってさっき……」

「正確には食事を与えられてないです。でも大丈夫、自分で持ってる食べた物を、気付かれないように口にしているようですから」

「拷問とか言ってたわよね。吊るされてとか」

「それはマーガレット様の勝手な思い込みです。牢に入れられているだけで、拷問等は受けていません」

 ホッと安心した様子のビワとレラ。

「とある貴族がどうとかって、それ誰なの? 教えなさいよフリート」

「それはダメです。もし今回の事が、その貴族がやったことであったなら、こちらの方々にも危険が及びますから。それにお二人は、今も目を付けられてるかも知れないんです。ここでレラさんが貴族を調べ回ったりしたら、二人の安全を確保しようとしたカズさんやマーガレット様の行動が無駄になります」

「ぅ……」

「レラ……気持ちは分かるけど、私達がどうにかできる事じゃ」

「ビワだって本当は……ごめん。なんでもない」

「もうすぐ外ですね。残念ですが話はここまでのようです」

「あの……お話…ありがとう…ございました」

「カズのこと何か分かったら、すぐあちしに連絡しなさいよ。いいわねフリート」

「今までの通りマーガレット様に聞いてください(レラさんは勢いで動くとカズさんから聞いてるから、詳しく状況は伝えられないんだ)」

「……分かった」

 ビワと少し頬を膨らませたレラに見送られ、オリーブ・モチヅキ家を後したフリートは実家のグレシード家へと足を進めた。
 代々王族を守護する任に負うグレシード家は、ロイヤルガードの中でも王からの信頼は大きかった。

「こっちに来るとは珍しいなフリート」

「ジーク兄さんこそ王宮に居なくて宜しいんですか?」

「手配犯を冒険者らが捕らえたと、衛兵本部から報告が来ていたからな。フリートが人質を救出したから、被害を出さずに捕らえることができたとも聞いてる。ギルドマスターとしての責務を果たしてるようだな」

「ええまぁ……(ジーク兄さんにが戻ってるとは思わなかった。ちょうど良いから話して協力し……てくれるだろうか)」

「どうした。ギルドマスターを辞めて、ロイヤルガードに入る気にでもなったのか?」

「いえ、そうではなく」

「何か言いたいことでもあるのか?」

「ジーク兄さんに頼みたいことがあって」

「それはギルドマスターとしてか? それだと聞くことはできないぞ。王に仕えるロイヤルガードの一人として。衛兵本部を通じて正式な手続きを踏み、司令から書類が上がってくれば話は別だが」

「それは分かってます(真面目なジーク兄さんに話してもやはり無理……他の手段を考えないとダメか)」

 考えあぐねる黙るフリートを見て、ジークが声を掛ける。
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