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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

260 地下牢への訪問

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 手紙を届けたカズは地下牢へと戻って、ドッペルゲンガーと入れ替わり三日は様子を見ることにした。
 しかし一日二日と過ぎ三日が経ったが、依然としてカズの元に来るのは見張りの衛兵だけだった。
 カズはフローラやフリートと連絡がとれなかったのかと、少し不安になり始めていた。


 フリートさんに手紙が届いてないのか? フローラさんが気付かなかったのか、それとも動いてる最中で、まだ時間が掛かる……それたも、もう味方じゃなくなったなんて……。


 不安になりながらも、一人になった時のことを考え、この後どう目的の人物を探るか悩む。
 しかしぐぅぐぅ~と、お腹のなる音がして考えが進まなかった。
 それもそのはずだ、ここ三日牢から抜け出さずにいたため、カズは食べ物を口にしないようにしてからだ。
 それでも衛兵に見つからないように、水を少量は飲んでいた。

「ぐぅぐぅと腹の音ばかり鳴らしやがって」

「生きてる証拠だ」

「そうなんだが、耳障りでしかたねぇ」

「ここに連れて来てから十日以上だろ」

「そうらしい」

「それから何も食べ物を与えてないんだろ。よく生きてるな」

「Bランクの冒険者だったなら、十日くらい何も食べなくても平気なんだろ」

「冒険者って、そういうものか?」

「……そいつが生きてるから、そういうもんだろ」


 っんな訳あるか! 冒険者だからって、十日以上飲まず食わずで平気なことあるか。


 見張りの衛兵二人がする話しを聞いたカズは、思わず声に出して突っ込みそうになった。

「何を無駄話しをしているんだ」

「いえ、囚人が生きているか確かめていただけです」

 突如として地下に下りてきたのは、特等兵ともう一人。

「特等、何故ここに?」

「客人を案内してきた」

「こんな所へですか?」

「それで、そちらの方は?」

「第3ギルドのフリート・グレシード様だ。貴族でありながら唯一ギルドマスターをしている御方だ」

「失礼しました(グレシード家!)」

「失礼しました(ギルドマスター!)」

「堅苦しい挨拶は不要。今日はそこに居る者に用があってね」

「この囚人にですか?」

「いったいどのような?」

「お前ら二等が気安く聞いていいことではない」

 疑問を投げかける見張りの二等兵に、特等兵が注意をする。

「失礼しました」

「申し訳ありません」

「構わないさ。ボクはただ王族に危害をあたえようとした者を、一目見ておこうと来ただけだ。忙しいとこ悪いね」

「とでもないです」

「どうぞ。弱ってますので、危険はありません」

「弱ってる? 動かないけど生きてるのかい?」

「お待ちを。二等」

「はい。おい、起きろ」

「ぅ…ぅ……」

 フリートの質問に特等兵が応え、二等兵にカズが生きていることを示すよう促す。
 二等兵が牢を叩くと、カズは唸るように声を出して応えた。

「このように弱ってはいるものの、生きてはいます」

「何故ここまで弱ってるんです」

「一切食事を与えてないので」

「ここに連れて来られてから?」

「はい。司令の命令で。冒険者の方々が、この者を捕らえるのを苦労したとのことなので、弱らせておきませんと危険だと判断したようです」

「なるほど。ところで司令どのは、彼に手を貸していたと思われる貴族のことを、何か言ってたかい?」

「貴族が……いえ。そのような話し我々には」

「そうか……」

 フリートからの問い掛けに、特等兵が少し動揺した様子を見せる。
 二人の二等兵は互いの顔を見合って、自分達が聞いていい話しなのかと思いチラリと特等兵を見るが、見られた特等兵も同じことを思っていた。
 三人の衛兵は、なんで自分達に話すのだろうと思っていた。
 それは司令や準司令に、ギルドマスターのフリートが直接話す内容ではないのかと。

「何はともあれ、一日パン一欠片と水一杯は与えてもらいたいね。手を貸していたと思われる貴族を調べているところなので、それまで彼に死なれては困るんだよ」

「と言われましても、上からの命令ですので」

 フリートの質問に答えた二等兵が、特等兵を見る。

「君の判断で食事を与えることは出来るかい?」

 フリートが特等兵に尋ねる。

「いえ。重罪人ですので、上の指示を仰ぎませんと」

「そうか……いやすまなかった。目的も果たしたから、ボク失礼するよ。邪魔をしたね」

「とんでもありません。外までお送りします。二等はそのまま見張りを続けるように」

「はい」

「了解です」

 特等兵に送られて衛兵本部を後にするフリート。

「どうする。コイツに水でもやるか?」

「やめとけ。特等が上に話すだろうから、おれ達は今まで通り見張りだけしてればいいさ」

「そうだな。しかしさっきの話、どう思うよ」

「貴族が手を貸してたって、あれか?」

「ああ。もしそれが本当なら、そっちが主犯じゃないのか?」

「ならコイツは、指示を受けて動いただけってことになるんじゃ?」

「おい、お前ら」

 フリートを外まで見送ってきた特等兵が、地下に戻ってきた。

「特等!」

「今聞いた事は、くれぐれも他の者に話さないように」

「分かりました」

「了解です」

 フリートさんに無事連絡できたようだな。
 あとは抜き取られた資料に書いてあった貴族を調べて、手掛かりを掴んでくれれば、俺が牢からこそこそ抜け出す必要もなくなるぞ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 衛兵本部を出たフリートは、その足で貴族区へと向かった。

「半月ぶりかしら」

「そのくらいになりますか」

「連絡は手紙だけで、内容も簡易的でしたからね。そろそろ直接お話を聞きたいと思っていたのよ」

「そうでしたか。それはちょうどよかったかも知れません」

「あら、そうなの?」

「こちらに来る前に衛兵本部で、彼に会ってきたとこなんです」

「カズさんに? 今、投獄されてるんでしょ。大丈夫なの?」

「あの状態を見て大丈夫かと聞かれたら……」

「まさか全裸で吊るされて、拷問でもされていたの!?」

「いえ、そういった事は…」

「それはいけな……は! フリートが衛兵本部からカズさんを連れ去って、国を追われた二人は人里離れ場所で暮らすのね」

「はい? あの、マーガレット様……」

「今はもう使ってない小屋を見つけ、二人はそこで暮らすの。夜は隙間風が入り、寒さに震えた二人は、お互いの肌と肌を重ね合わせ……ああダメよそんなの不純よ。でもでも……いいわ」

「奥様、奥様!」

「……はッ!」

「戻られましたか。失礼しましたフリート様。最近奥様はその……男性同士が逃避行する内容の本を読んでまして」

「あら私ったらつい、ごめんなさいフリート。街では今、この手の話が人気みたいなのよ」

「そ、そうでしたか(ボクとカズさんが……世間ではそういった内容の本が流行ってるんですかね?)」

 フリートは少し、顔が引き吊っていた。
 部屋の外では扉に耳をつけて、マーガレットとフリートの会話を盗み聞こうとしてる二つとの影があった。

「え、なに? よく聞こえないわね。もう少し大きな声で話しなさいよ」

「だ…ダメよ。盗み聞きなんてしちゃ」

「だったら一人で仕事に戻りなさいよ。あちし一人で聞くから」

「わ…私も……」

「ごめんなさいフリート。それでカズさんはどういう状態だったの?」

「特殊な枷を嵌められて、鎖に繋がれた状態です。それと投獄されてから、一切食事を与えられてないようでした」

「もう十日以上よね。一切何も口にしてないの?」

「衛兵から与えられてないというだけで、自分で隠し持っている物を、こっそりと食べてるようでした」

「え、え? カズはずっと食事抜きなの? それにさっきマーガレットが拷問とか」

「え! それ本当なのレラ」

「ちょっと静かにしてビワ。聞こえないから」

「ご…ごめんなさい」

 レラとビワは、先程よりも強く耳を扉に押しつけた。

「ところでカズさんが投獄されてから、何か進展はありまして?」

「ええ。詳しくは言えませんが、とある貴族の名前が出てきました」

「それは誰かしら?」

「皆さんを危険な目に合わせる訳にはいかないので、それはちょっと」

「あらそうなの。何かお手伝いが出来ればと思ったんだけど」

「奥様ダメです。フリート様が言うように危険です」

「はいはい。分かりました」

「ボクも少し探りを入れますから、次からこちらに来ても、御屋敷には入らず入口で用を済ませようと思います。なので状況報告は、今まで通り手紙で」

「分かったわ」

「もし誰かが訪ねて来て、ボクのことを聞かれたら」

「訳あっていつも来ていた冒険者ギルドの使いが来れないから、今は代わりにフリートが来てるって話せばいいのよね」

「はい。そこは本当ですから、もし調べられても怪しまれることはないでしょう。それに先程話した貴族から、ボクも少し疑念を抱かれてるようなので。皆さんも何か違和感を覚えることがありましたら、ボクが来た時にそれとなく伝えてください」

「ええ。アキレアも分かったわね。今のことを皆にも伝えておいて」

「承知しました。奥様」

「フリートは、こちらのこと心配しないで大丈夫よ。夫とモルトがそろそろ戻る頃ですから」

「そういえばモルトさんは元冒険者でしたね」

「ええ。引退したとはいえ、そこらの冒険者や衛兵よりは強いわよ。さすがにフリートには敵わないけど」

「なら少しは安心できそうです。でももし心配事がありましたら、ボクの部下を警護によこしますので言ってください」

「ありがとう。その時はお願いするわ」

「はい。さて、もう話は終わったので、入ってもきてもいいですよ」
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