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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

257 これまでの五日間 3 投降 と 投獄

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 急な投降に驚いたアイガーとAランク二人は、一瞬気を抜いてしまったが、直ぐ様気を引き締めてカズの動きに警戒する。

「余裕に見えたが、急にどうした。オレ達を油断させ、隙を突いて水晶を使い転移して逃げるつもりか」

「それもバレてますか(さっきマップを見たとき、こちらに向かって高速で移動するマークがあったから、今投降しておかないと、バルフートさんと戦うことになりそうだからな)」

「以前に、第6第7ギルドマスターの前で使ったんだ、調べられるのは当然だ」

「こうも早く知られるとは」

「投降する気なら転移水晶出して下に置け」

「分かった」

 カズは懐から水晶を取り出し、ゆっくり足元に置いた。

「そのまま後ろに下がるんだ」

 カズはゆっくりと後退して、足元に置いた水晶から離れる。
 アイガーは警戒しつつカズの方に近づき、地面に投げ捨てられた剣と水晶を拾う。

「剣と転移水晶は確保した」

「よし」

「気を抜くな」

「分かってる」

「拘束するから手を前に出すんだ」

 アイガーの言うことに、カズは素直に従い両手を前に出す。

「あれを」

 Aランク冒険者の一人が拘束具を出し、カズの両腕にはめた。

「これは?」

「弱体化の効果がある枷だ。疲労してる今なら逃亡はできないだろ。増援が来たら、第1ギルドに連行するからな」

 カズを拘束したあと、アイガーが拾った剣がトレカへと姿を変えた。

「勝手にカードになったぞ」

「おい、なんだこれは?」

「二人共落ち着け。サシで勝ったわけじゃないが、話してもらえないか?」

「ただの魔力切れ」

「魔力切れ? 魔力を込めれば、剣に戻るのか」

「まぁそんなところかな」

「試したいが、今は魔力に余裕はないからな。転移水晶は他にあるのな」

「……」

「ありそうだな。今出すなら、よし。そうでなければ、マスターの相手をしてもらうことになるぞ」

「分かった。後ろのポケットに入ってる。この状態だと出せないから、そっちで取り出してくれ」

「いいだろ。念のために他も調べるぞ」

 アイガーがカズの服や懐をまさぐり、他に武器やアイテムを隠してないか調べる。

「転移水晶が二つだけか?」

「それで全部(作って転移水晶はだけどね)」

 カズを拘束してから数分程経つと、連絡を聞いた冒険者が数人と、第1ギルドマスターのバルフートが現場に到着した。

「なんだ終わっちまったのか」

「ええ。ついさっき投降したので、拘束しました」

「かなり苦労したようだな」

「オレ達はもう疲労困憊です。カズの連行は任せます」

「御苦労。おい」

 バルフートと共に来た冒険者達が指示をう受け、カズを第1ギルドに連行する準備をする。
 カズは抵抗することなく言うこと聞いた。

「どうだアイガー、動けそうか?」

「まぁなんとか」

「なら行くぞ」

「もう少し休ませてもらいたいもんです」

「ギルドに戻ったら、貴様にも話を聞きたいんだ。疲れてるとこ悪いが、一緒に来てもらうぞ」

「冒険者使いが荒いんですから」

「その程度でぶっ倒れるたまじゃないだろ」

「分かってます。行きますよ。それとこれ、カズの奴が使ってた剣です」

「ほほう。剣のカードか。どうやってカードに戻したんだ?」

「オレ達が知ってる武器のソーサリーカードと違って、勝手にカードに戻ったんですよ」

「ならこれが、奴だけが持つカードか!?」

「おそらく。威力はこの通り」

 アイガーはカズに斬られた鉤爪をバルフートに見せ、その時の状況をざっと説明した。

「スキルで強化した武器を切断されたかのか。よく本来の姿に戻らずに、奴を投降させたな」

「オレもそこは不思議に思ってます」

「ん? どういう事だ?」

「話はギルドに戻ってからにしましょう。隙を見せたら逃げられるかも知れないですよ」

「そうだな。今の状況でアイテムを使って転移出来るとも思えんが」

「油断してると、予想に反した行動をとりますぜ」

「ガハハハっ。随分と奴の肩を持つな」

「実際に戦ったオレ達の意見です」

「そうか分かった。報告はギルドに戻ってからにしよう。お前らギルドに戻るぞ!」


 ≪ そして時は戻り、カズが連行された二日後 ≫


 第1ギルド地下の懲罰牢に拘束されているカズを引き取りに、朝から衛兵本部の一等兵が五人来ていた。
 連絡のない訪問に、第1ギルドの受付は少々混乱していた。
 それはこの時、ギルドマスターのバルフートは不在だったからだ。
 強引な衛兵の行動を止めることのできる人物は、この時ギルドには居なかった。
 実力的にはギルドに居た冒険者で対処できたであろうが、衛兵は国に使える存在のため、力ずくで止めることはできなかった。
 街を巡回しているような四等兵以下の衛兵なら、力ずくで止めても大した問題にはならなかったであろう。
 しかしギルドに来たのは一等兵、下手に手を出せば衛兵本部と対立することになり、更に悪ければ第1ギルドが国から目を付けられることになる。
 それを分かっていたため、衛兵達もギルドマスターが不在の時を選んで来たのであろう。
 そして拘束された状態のカズを、一等兵五人が衛兵本部に連れて行った。
 衛兵本部で更なる枷を付けられたカズは、地下牢で鎖に繋がれ投獄された。

「暴れて手間をかけさせるな」

「魔力封じと弱体化の錠を付けて、鎖に繋いであるんだ。まともに動けるわけねぇさ」

「それもそうだな。一番下っぱの五等兵じゃなければ、何かあっても対処出来るだろ」

「それよりギルドマスターに断りなく連れて来たんだろ。あのバルフートさんが怒鳴り込んで来ねぇか心配だ」

「確かにな。司令は何を考えてるんだ」

「恐ろしくてバルフートさんの相手なんかしたくねぇぞ」

「同感だな。さぁもう昼だ、とっとと飯食いに行こうぜ」

 カズを連行してきた一等兵は、司令の愚痴を言いながら、地下牢から離れて行く。


 弱体化と魔力封じの枷を付けて鎖で拘束って、俺はモンスターかっての。
 この枷は前にネメシアに付けられた弱体化の腕輪より効果は高いみたいだし、衛兵が魔力封じと言っていた枷も調べるか、見張りも居ないようだから《鑑定》と《分析》で。



 【弱体化の拘束錠】『一級』
 ・装備者のステータス数値が20%減。(最大- 400)

 【魔力封じの枷】『特級』
 ・装備者の魔力を封じる。(最大800)
 ・装備者は魔力を使用することができない。(魔力が無くなるわけではない)



 弱体化の拘束錠はまだしも、魔力封じの枷は結構ヤバいな。
 同じ様な効果で、更に上位の物がある可能性は高いから、それには気を付けないと。
 今回はそこまで支障はないから、弱ったふりをしてれば予定通り情報収集が出来るだろう。
 ドッペルゲンガーを使えば、変わり身になるし、あとは抜け出すタイミングだな。

「誰も居ないじゃないか!」

「そのようです」

「最低一人は二等兵を見張りに付けておけと、司令から言われてたはずだが。手配してた奴を投獄したからといって、気を抜き過ぎだ」

「申し訳ありません」

「最後に奴を牢に入れ衛兵を、あとでわたしの所に連れてこい」

「了解しました」

「よし。とりあえず上に居る誰かに見張りをさせておけ」

「はい」

 カズが入れられた牢を見に来た衛兵が、誰一人見張りを付けていないことに腹を立てながら、地下を後にする。


 二等兵とか言ってたが、俺を連れてきた連中が一等兵だったよな。
 だとすると、怒ってたあの衛兵は一等兵の上か? あれが衛兵の階級ってことか。
 一番下がか五等兵で、そこから上がって一等兵まであると。
 一番上が司令で、一等兵と司令の間にまだ階級があるっぽいから、さっき怒ってたたのがそこに入る階級の衛兵だろうな。
 どうやら階級は、そんなに多くないみたいだ。
 あとは俺を投獄した衛兵が言ってたように、バルフートさんが衛兵本部に乗り込んで来るかどうかだ。
 行動に出るのは、それを確かめてからだ。
 また第1ギルドに拘束されたら、そっちの方が動きづらくて厄介だ。
 ん、見張りが来たのか。

「特等も急だよな。なんでおれ達が見張りなんか」

「文句言っても始まらねえ。指示してかなかった一等兵が戻ってくるまでだろ。せいぜい一、二時間程度だ」

「楽な仕事だが、ここは薄暗くから嫌いなんだよな」

「それはおれも同感だ」

「……特等? さっき怒ってた衛兵がそうで、一等兵の上の階級か?」

「コイツ今なんか言ったか?」

「気のせいだろ」

 危ない危ない声に出てたか、独り言には気を付けないと。
 しかし腹へったなぁ。
 第1ギルドに拘束されてるときは、多少なりとも食べ物をくれたけど、ここでは出してくれないのか?
 見張りが居なければ、アイテムボックスに入ってるパンでも食べるとこなんだけど。
 事情聴取をするときに、俺が反抗できないように弱らせるつもりでやってるのか? う~ん……衛兵の実力は、高くてもBランク程とフリートさんも言ってたから、ありうる。
 衛兵本部に連れてこられたばかりだから、数日はこのままで様子見るか。
 

 この日の夕方、衛兵本部にバルフート現れてた。
 司令と話をした結果、カズは衛兵本部で拘束することになったのだった。
 バルフートは衛兵本部を訪れてから、第1ギルドに戻っても不機嫌のままだった。
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