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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

255 これまでの五日間 1 フリートの元へ

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 ≪ 五日前の王都南部 ≫


 第6ギルドマスターのディルと第7ギルドマスターのタフから、水晶に付与された転移で逃げたカズは次の行動へと移していた。
 王都中央へと続く大通りを〈メタモルフォーゼ〉で様々な姿に変装し、カズは行き交う人込みに紛れ移動していた。
 キョロキョロと周りを見渡して、何かを探す素振りをする冒険者や衛兵と、カズは何度も擦れ違っていた。
 しかし変装に加え《隠蔽》スキルも使用していたため、誰もカズだと気付くことはなかった。
 この日宿屋に泊まり休んでいると、宿屋の主が衛兵を連れてカズの部屋にやって来た。
 変装を見抜かれたかと、一瞬ヒヤッとしたカズだったが、そうではなかった。
 宿屋の主に案内させていた衛兵は、全ての部屋を回り宿泊している者の顔を確認していた。


 ◇◆◇◆◇


 一夜明けて朝早くから宿屋を出たカズは、第3ギルドマスターのフリートと約束をした場所へと向かった。
 前日と同じく大通りには、冒険者と衛兵の姿が多くあった。
 冒険者は手配書に書かれた懸賞金目当て、衛兵は手柄を上げるために、我先にと手配中のカズを探していたのであった。
 道中行き交う人々の話に耳を向けていると、一攫千金を夢見て街人もカズを探しているのが分かった。
 カズは前日と同じく《隠蔽》のスキルを低効果の『1』に設定をし、発する魔力や気配を低ランク冒険者程度に抑え、 マントは外していた。 
 それはマントやフードを被る者は、必ずと言っていいほど、衛兵や冒険者に話し掛けられていたからだ。

 道中怪しまれる事なく大通りを進み、約束の時間に約束の場所へと到着した。
 そこは冒険者がよく集まる酒場通り、カズはその中にある、一件の店に入った。
 ジョッキをぶつけ合い、大声で騒ぐ冒険者が集うような店ではなく、どちらかというと静かに酒をたしなむ店だ。
 カズは少し場違いな気もしていたが、フリートが指定してきた場所なので、仕方なく店に入った。
 中に入ると既にフリートがカウンター前の席に座り、グラスを傾け蒸留酒を飲んでいた。
 カズに気付いたフリートは、自分が飲んでいたものと同じ蒸留酒を、隣の席のカウンターに静かに置く。

「思っていたよりも早かったですね。まだこれが一杯目なんですが」

「先に来てるとは思いませんでした」

「待ち合わせには早く行く主義でして。それにここはボクが指定した場所ですから」

「味わって飲んでるとこ悪いんですが」

「分かってます。でもせめてこの一杯を飲み終わるまで待ってください。貴方もどうぞ。ボクの奢りですから」

「俺は……いえ、せっかくだから頂きます(出してもらって飲まないのも、店の人に悪いか)」

 カズはフリートの隣の席に座り、置いてあるグラスを傾け蒸留酒を口内に流す。
 氷を入れてロックで飲む蒸留酒は、度数のかなりキツいものだった。
 互いに無言で飲み終わると、フリートは蒸留酒二杯分の代金とチップをカウンターに置いて店から出る。
 酒を呑み賑わう酒場通りを抜け、尾行がないのを確かめると、カズはフリートの自宅へと案内された。

「見事な変装です。魔法によるものですよね。それはフローラさんに?」

「ええまあ」

「ボクは明日、衛兵本部に行って来ます。捕まるにしても、それからで」

「そうですか、衛兵本部に……分かりました戻って来たら、話を聞かせてください」

「ええ、そのつもりです。それまでは、我が家でゆっくりと過ごしてください。一人暮らしで使用人などは雇っていませんから、家から出なければ見つかることはないでしょう」

「ありがとうございます。助かります」

 カズは軽く頭を下げる。

「フフ」

「何か?」

「ボクがカズさんの味方であると、確実に証明できたわけではないのに、頭を下げてお願いされるとは、変わった方だなぁと」

「今更ですか」

「フフフ。そうですね。今更ですね」

「なんかこのやり取りは、俺とフリートさんの、お決まりの挨拶みたいになってますね」

「アハハは。確かにそうですね。でもこういった状況ですから、お互い疑って慎重になった方が、最終的に良い結果が出るってもんだよ」

「そうなってくれれば、良いんですが」

「これでもボクは、運が良い方なんだ」

「なら期待します(俺の方が運の数値はいいんだけど……まぁどうでもいいか)」

「その期待に答えられるように頑張るとするよ。だから今夜は、安心してゆっくり休んでくれ」

「そうさせてもらます(一応アラームは使用するけど)」

 用意された部屋に行き、これから起きる事を書いた手紙をフローラ宛にして、いつものようにゲートを資料室に繋げて手紙を置いた。


 ◇◆◇◆◇


 警戒をしてアラームを使用したが、効果が発動することはなく朝を迎えた。


 念のためアラームを使ったけど、さすがに俺に気付いてる者がいたとしても、危険を犯してギルマスの家に侵入してくる者好きはいないか。


「おはようございます」

「おはよう。どうです眠れましたか?」

「ええ」

「ボクはギルドに顔を出してから、衛兵の本部に行って来る。遅くとも夕方には戻って来れると思うから、それまでここで寛いでると良い」

「そうさせてもらいます」

「ボクが戻るまで、くれぐれも…」

「分かってます」

「それじゃあ行ってきます。家の物は好きに使って構わないから」

 フリートは朝食も取らずに、出掛けていった。


 好きに使って良いと言われても……やっぱり悪いよな。
 フリートさんが戻るまで、これから必要になる物の準備をしておくか。
 とりあえず、転移を付与した使い捨ての水晶を2、3個作って、転移先はここに来るまでの間に見つけた廃屋や、人の殆ど通らない路地裏なんかにしてと。
 これを使って逃げようと行動に出たら、使わせないようにしてくるだろうから、ワザと落とすなり奪われるなりして、俺の逃げる手段がなくなると思ってくれれば、後は……。
 捕まるにしても、ある程度抵抗を見せないと、ギルマス二人から逃げたと情報は回ってるだらうかなら。
 あの独りSM変態マスターが、ここまで来なければいいんだけど。
 思い出しただけで、背筋がゾッとする。
 あんなのがギルマスをしてるギルドに、所属はしたくないな。
 フローラさんがギルマスをしてる、第2ギルドで拠点登録して良かった。
 あ、でも最初の頃は、ネメシアに目を付けられたっけ。
 その後はイキシアさんに……そういえば少し前から見かけなくなったなぁ。
 俺、嫌われてるみたいだし、避けられてるのか? まぁ絡まれるよりましだからいいけど。
 おっとそれより今は、捕まった後のことを考えて、色々と準備しておかないと。


 カズはあれこれと【アイテムボックス】から素材を出し、フリートが戻って来るまで、調合したり合成したり加工したりと、一度きりの簡易的な転移水晶以外にも、様々な物を作った。
 途中休憩を挟みながら黙々と作業をし、フリートが戻ってくる前に作業を止めて、出した物を【アイテムボックス】にしまう。
 片付けが終わり少しすると、フリートが家に戻ってきた。

「カズさん居ますか」

「居ます」

「ちゃんと居てくれましたか」

「約束ですから。それに衛兵本部で聞いたことを、話してくれると」

「衛兵本部で入った情報は、大したものはなかったですね。あれから目撃情報が入ってこないから、捜索範囲を王都中に広げると言っていたくらいです」

「まだ王都に居ると思わせるなら、一度くらい姿を見せた方が?」

「いえ、二人のギルドマスターから逃げる事が出来たのですから、衛兵が見つけられなくて当然です。衛兵の平均は、Cランクの冒険者程度ですから。強い方でも、Aランクには届かないでしょう」

「そんなものなんですか! よくそれで国を守れますね」

「この国は比較的平和ですから。それに有事の際は、我々冒険者が協力することになっているので。貴族区内では、王の命でロイヤルガードが動きますからね。ちなみにロイヤルガードは、Aランクやギルドマスターと近い実力を持つ人も居ます」

「王族を護衛するなら、それくらいの実力は……(ん? だったらなんで王族が乗った馬車が貴族区で襲撃されたんだ?)」

「どうかしました?」

「あ、いえ……フリートさん。王族が乗る馬車が襲われたんですよね。その時、ロイヤルガードは?」

「二人が護衛にあたっていたと聞いてます。なので襲った者は何もできずに、逃げたと聞きました。護衛の一人が追い掛けたらしいのですが、逃げられたと。囮(おとり)の可能性があったので、深追いはしなかったとか」

「Aランクと同等の実力があるロイヤルガードから逃げ出せるなら、襲撃した人物も相当な実力があるということですよね」

「そうなります。その時、貴族区に居たカズさんが怪しまれましたが、Bランクとギルドに登録されていたため、実力や襲撃する理由を考えても関係ないと初めは思われてました。受けた依頼や今までの経緯を調べると、実力が疑わしくなったため」

「フリートさん達ギルドマスターからの召集ですか」

「ええ。フローラさんは、カズさんは関係ないと言ってたんですが、バルフートさんが会って話を聞いて確かめればいいと」

「なるほど。それでフローラさんは、あの時黙ったままだったんですか」

「フローラさんの言ったように、カズさんは無関係かと思った矢先に、監視していた冒険者を攻撃して、たまたまその場に居た貴族の使用人を連れ去ったと報告が」

「というか、皆さんはあんな倉庫街に貴族の使用人が、一人でたまたま居ると信じたんですか?」

「これは痛いところを突きますね。確かに最初は上がってきた報告を鵜呑みにしてしまいそうになりました。なんせ目撃者が一人や二人ではありませんでしたから。カズさんやその場に居た使用人のビワさんの話が聞けたのなら、また違ったでしょうけど」

「無理ですね。明らかに敵意をもってる冒険者が居ましたから。あの場に留まることはできませんでした。今言ったところで、何も変わりませんが」

「そうですね。過ぎた事を言っても変わりません。これからどうするかを、考えた方がいいですね」

「ええ。それで他に何か、有益な情報──」

 この日フリートから話を聞いたカズは、どういったかたちで捕まるかを決めたのだった。
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