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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

254 捕まる決意

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 一方ギルドマスター二人から逃げおおせたカズは、今まで居た倉庫から少し離れた建物の屋根の上に移動していた。


 行ったようだな。
 これで俺の使う転移は、水晶を使うと思ってくれただろう。
 フリートさんがうまくやって、俺に連れさられたって事になってる二人を救出したと、情報を流してくれたようだしな。
 これでビワとレラの二人は、俺と関わりがないってフリートさんが証明してくれるはずだ。
 ギルマスで貴族のフリートさんの言葉なら信用されるだろうから、無理矢理に事情聴取を、なんてことはないだろう。
 王都に来るまでの間に、今回の主犯が特定できればよかったんだが……。


 ディルとタフのギルドマスターからの報告で、手配中のカズが水晶を使って転移したという情報と、捕まっていた貴族の使用人とフェアリーは、第3ギルドマスターのフリートによって助けられ保護されたと、即日王都中のギルドと衛兵に伝わった。
 そしてカズの探索が王都中の各地で、本格的に始まった。

 それから三日後、王都にある衛兵の本部から出る、第1ギルドマスターのバルフートと、第3ギルドマスターのフリートの姿があった。

「連れ去られた二人を無事救出したとは、お手柄だな」

「珍しい所で会いますね。バルフートさんも衛兵本部に?」

「ああ、ちょっとな。それより最近何やら調べ回ってると思ったら、奴の情報集めだったか」

「まぁそんなとこです」

「潜伏場所を見つけたのなら、奴を捕らえてくれば」

「連れ去られた二人を、人質として使われたら厄介ですし、転移できる可能性があると情報があったので、ボクは救出に専念して、彼に関してはディルさんとタフさんに任せたんですよ」

「そこらの冒険者に任せるよりはマシだったが、ディルの悪い癖が出たようだな」

「そうみたいですね。でもそのおかげで、水晶を使って転移すると、確証がとれたんですから」

「問題はどこに転移したかだ。フリートは奴のことを調べたんだろ。転移しそうな場所は分からんのか?」

「既に調べましたが、最近現れた形跡はなかったですね。あったのは、使用済みの砕けた水晶が見つかっただけでした」

「水晶を使って転移するのは確定したのはいいが、その水晶に転移の魔法を付与したのは誰かだ」

「そこまでは分かりかねます。何かのアーティファクトを使ったということも」

「可能性はあるが……まぁ奴を捕らえれば分かることか」

「そうですね」

「しかしあれから三日が経ってるのに、目撃情報がないってのは」

「王都から出てしまったんでしょうか? もう人質になる二人も居ないわけですし」

「そいつはどうかな。オレはあの建物に現れると踏んでるぞ」

「あの建物とは倉庫街にある」

「ああ。奴が住んでいたという家だ。魔力を吸収して、様々なことが出来るらしいからな。あそこに逃げ込まれたら、少し面倒になる」

「それでAランクとBランクだけでパーティーを組ませて、見張らせてるわけですか」

「五人パーティーなら、俺が行くまでの時間稼ぎはできるだろ」

「バルフートさんが行くんですか?」

「悪い癖が出たとはいえ、ディルの攻撃に耐え、二人のギルドマスターから逃げ出せたんだ。次はオレが捕まえに行ってやるさ」

「バルフートさんこそ、バトル癖がでなければ。ですがね」

「ハッハッは。カズがそこまでの奴ならな。一応、その忠告は聞いておく。それとこれはオレが得た情報だが、古株の貴族から目を付けられてそうじゃないか」

「よく御存知で」

「家柄が大事なら、踏み込まず切り捨ることも考えろ」

「……バルフートさんは、今回の事…」

「さぁな。オレはギルドマスターとして、一冒険者として、ギルドに来た依頼を遂行するだけだ(今はな)」

「王国一の実力者と言われている貴方が、たかだか一人の冒険者を気に掛けるなんて」

「本来なら衛兵だけで捕まえればだが、奴とのレベル差を考えれば、冒険者ギルドに話を持ってくるのは当然だろ」

「衛兵と言っても、強い人でBランク程度の実力しかありませんからね」

「平和ボケの証拠だな」

「平和なのは良いことじゃないですか。それにいざとなったら、王がロイヤルガードを動かしますよ」

「ロイヤルガードか。アイツらなら、相手がAランクでも渡り合えるだろ。一度くらいは手合わせしてみたいものだな」

「そんなことを言ってるから、先程からすれ違う衛兵達に怖がられるんですよ」

「衛兵というだけで問題が解決するほど、平和ではないだろ。鍛え方が足らぬひよっこ共だから、オレを見て臆するんだ」

「バルフートさんは強面なのが、原因の一つじゃないですか」

「貴族の小僧っ子が言う様になったな」

「ボクだってバルフートさんを初めて見たときは、とても怖かったですよ」

「オレを怖がってた小僧が、今や第3ギルドの代表だからな」

「貴族の振る舞いをするより、ボクはこっちの方が合ってただけです。ギルドマスターになって自信がついたお陰で、バルフートさんと向き合って、こうして話が出来るんですから」

「ハッハッは。自信もいいが、実力はどうだ。ロイヤルガードに居る兄には勝てるのか?」

「もう少し、といったところですかね」

「ほう。今度オレと模擬戦でもするか。どうだフリート」

「遠慮しておきます。今のボクでは、バルフートさんに本気を出させる事もできません」

「だったらもっと鍛えて、オレの相手を出来るようになれ。最近、体がなまってしょうがない」

「バルフートさんを相手に出来るのは、王都南にある、雪山に住むフロントドラゴンくらいですよ」

「白き災害なんて言われてたが、今は大人しくしてるらしいな」

「そうですね。討伐の依頼は解除されてなければ、気晴らしに行ってきたらどうですか?」

「これから冷えて、フロントドラゴンの力が増すのが分かっていて、わざわざ出向こうと思わん。それにここから、何日掛かると思ってる。オレはそれほど暇じゃないんだぞ」

「これは失礼しました。それではボクは、仕事ありますので」

「おう。仕事をするのはいいが、少しは休めよフリート。働き過ぎで回復薬頼みになったら、余計に腕が鈍るぞ」

「忠告感謝します(見た目とは違って、案外優しいんだよな)」

 バルフートと別れたフリートは、第3ギルドへは戻らずに自宅へ向かった。
 自宅へ戻ったフリートは、匿っているカズに聞いた情報を話していた。


「──考えた方がいいですね」

「ええ。それで他には何か、有益な情報はありせんでしたか?」

「先程も言ったように、衛兵本部で話を聞きいた限りでは、カズさんの手がかりすら掴めてませんでした」

「そうですか。王都で俺の探索が始まって三日、そろそろ頃合いかな」

「本当に良いのですか?」

「ええ。王都に来るまでの間に、特定できなかったら、そうすると」

「ボクの調査不足で、結局見つけられなくて」

「そんなことをないです。保管所から持ち出されたアーティファクトが、洗脳ではなく記憶に干渉する効果があると分かっただけでも十分です」

「ボクは持ち出された物が何か調べただけで、アーティファクトの効果については、フローラさんが」

「そうでしたか。フリートさんにはレラとビワのことや、転移のことで偽情報を流してもらって感謝してます(フローラさんに借りが増えたか)」

「結果ギルドマスターの二人を、カズさんにぶつける事になってしまいましたが」

「聞いていた以上の変態ぶりでした。まぁでも、大して戦いもせずに済みましたから」

「ディルさんとタフさんからはうまく逃げ出せたようですが、話しをした限りでは、バルフートさんも何かをつかんでいるようでした。それに倉庫街にある家を見張っていると」

「そうですか。このあと俺は捕まるつもりですから、手を貸しもらえるのもここまでに…」

「その心配には及びません。ボク自身の意思で動いてますから。それに遅かれ早かれ、多くの人々から記憶をけしたり、改竄するような物を使用した相手を、野放しにできませんから。だからその先は言わなくても」

「そうですか。ではもう少しの間お願いします」

「はい」


 フリートに匿ってもらってから二日後、倉庫街にある家に現れたカズを、アイガー含む五人の冒険者が捕らえたのだった。
 Aランク三人とBランク二人の五人パーティーが、苦戦して捕らえることが出来たカズを、Bランク程度の実力しかない衛兵本部の牢に閉じ込めるのは危険だと判断したバルフートは、第1ギルドの地下にある懲罰牢で拘束し管理する事にしたのだった。
 これによりギルドを通じて、手配犯カズの拘束が王国中に知れ渡った。
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