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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

253 火と鞭と変態

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 まばゆい閃光が辺りを照らし、その場に居る者達の視界を奪うと、カズはその隙に、この場から離れようとする。

「今の内に…」

 足音を立てず、そろりそろりと移動し始めると、ビュンと空気を切る音がし、カズの足元に鞭の先がかすめる。

「情報通り、目眩ましをして逃げるつもりだったようね。これを持ってきて正解だったようね」

「不意を突いたつもりだろうが、これでもギルドの代表をしとるんじゃ。そう簡単に逃げられると思うな」

 いつの間にかサングラスのような物を付けていたディルとタフは、フラッシュの影響を受けず、カズを視界から逃すことはなかった。

「そんな物どこから……なら〈ダークミスト〉」

「何よ黒い霧って!? っ視界が……」

「こやつ闇魔法まで使うのか!」

 黒く濃い霧で辺りを包み、その隙にギルドマスター二人からカズは逃げる。

「あらら、逃げられちゃったわね」

「なに、行き先は分かっとるわい。さらった二人の所に行ったんじゃろ」

「なら先回りしましょう」

「そうするか。お前達は目が見るようになったら、ギルドに戻って手配中のカズが現れたと、他のギルドに報告するように伝えるんじゃわい」

 その場に居た冒険者達はタフに言われ、視界が戻ると各々が所属するギルドに戻った。
 二人のギルドマスターは、カズが潜伏してた建物へと向かった。
 ディルとタフは離れた所から、使用してない小さな倉庫を見張っていた。
 するとそこにカズが姿を現し、倉庫に入るのを確かめた。
 ディルとタフの二人も後を追い、倉庫の中に入る。

「どぉ本当だったでしょう」

「さらった二人なら、もう安全な場所だわい」

「ここなら他に誰も居ないから、遠慮なく鞭を振るえるわね」

「この倉庫は解体する予定じゃから、壊れても構わないからの。わしも得物をぶん回せるわい」

「誰が二人を見つけ連れて行ったか、教えてもらえるかな? ギルドマスター様」

「そうねぇ……アタシらと同じギルドマスターとだけ言っておくわ。それ以上聞きたければ、アタシに一撃でも入れるのねッ!」

 ディルは喋り終わると同時に、カズに向かって鞭を振るう。

「おっと、そう簡単には当たらな……!?」

 鞭の異変に気付き、カズは間合いを広く取り、後方へと引いた。
 向かってくる鞭の先端は、バチバチと音を立てて、青白く光っていた。
 鞭が伸びきり先がバチンと音を立てると、電撃が放出され放射状に広がった。

「危ない危ない。鞭を避けるだけだったら、電撃をもろにくらってた」

「よそ見してる暇はないぞッ!」

 ディルの攻撃を避けた先に、タフのハンマーが迫る。

「〈アースウォール〉」

 カズとタフの間に、石壁が現れた。

「なんの。おりゃ!」

 タフがハンマーを振り下ろすと、石壁は粉々に砕かれ破壊された。
 飛び散る石を受けながら、カズは更に後方へと下がり二人から距離をとる。
 徐々に壁際まで追い詰められ始めるカズ。

「アタシの鞭を、二度三度と避けるなんて、これは楽しめそうだわ」

「とっとと捕まえるぞ。わしらだって、そうそう暇じゃないんだからの」

「ドワーフは年より臭くて嫌だわ。だったらアタシがやるから、タフはそこで見張ってて。その大きなハンマーでドカドカやられたら、倉庫がすぐに崩れちゃうから」

「どうせ解体するんだからいいじゃろ」

「崩れた拍子に逃げられたら、タフのせいよ」

「なら遊ばんことじゃわい」

「と言うことだから、あなたの相手はアタシ。今度はもう少し激しくいくわよッ!」

 ディルが再度鞭を振るうと、鞭の先が見えなくなる程の高速で動き回る。
 常人には音だけが聞こえるだけで、視界に捕らえるのは難しい。

「ほらどうしたの。あなたには見えないかしら? さぁこのまま近付いてくわよ」

「来なくて結構〈ファイヤーボール〉」

「残念でした。その程度の攻撃じゃ、この鞭の嵐を抜けられないわ。それにアタシは、火の属性も持ってるの。だから、こんなことも」

 カズか放ったファイヤーボールは、荒れ狂う鞭にかき消されると、今度はディルの鞭に火がまとわり、3m以上ある大きな火の玉が出現したようにも見える。
 高速で鞭が動き回る事で、大きな火の玉が乱回転して荒れ狂っていた。

「熱ッ」

「ほらほら。降参しないなら、このまま鞭の痛みと炎で大火傷よ!」

「とことんドSなギルマスだな〈ウォータージェット〉」

 ドバッと放出された大量の水は、鞭にまとわりつく火を消し、そのままディルをびしょびしょにした。
 全身ずぶ濡れになったディルはテンションが下がり、振り回していた鞭も止めていた。

「遊んどるから、そんな事になるんだわい」

「アタシをこんなにずぶ濡れにした男は、片手で数える程しか居ないわ。ますます苦痛に歪む顔が見たくなったわッ!」

 ディルの頬に赤みが差し、下がっていたテンション一気に上がり、高揚したディルは力強く踏み込むと、瞬時にカズとの間合いを詰め、左手で〈ファイヤーボム〉を放った。

「こんな近くで、自分もくらう気かよ」

「ええ。一緒に熱くなりましょうよ!」

「冗談じゃない〈ウォーター…」

「ダメよダメ!」

 右手に持っていた長い鞭を短い鞭(乗馬で使うような)に持ち変え、魔法を放とうとしたカズの腕を打つ。

「くッ!」

 カズが放とうした水魔法を阻止した直後、ディルが放ったファイヤーボムが爆発する。
 衣服が焦げて火傷をおったカズが壁際まで下がると、それを追いディルが攻め寄せる。

「あなたいいわネェ。この程度の攻撃じゃあ、苦痛と思わないよね」

「火傷もしてるし、鞭で叩かれた所も十分痛いっつーの。どうしたら俺が苦痛を感じてないと思うんだ。この独りSM変態女」

「そうそう。その強気な態度がたまらないわ!」

 壁際まで追い詰めたカズに、鞭を手放し強化した拳で殴りかかるディル。
 寸前のところで避けると、ディルの拳はカズの背後にある壁をぶち抜いた。
 タフの位置から二人を見ると、ディルがカズに壁ドンをしているかのようだった。

「なッ……俺を捕らえるって言っておきながら、この攻撃かよ!」

「この程度の攻撃で死ぬようなタマじゃないでしょ。アタシをもっと楽しませて!」

 にやりと口角を上げ、顔を近付けるディルを見て、カズは背筋がゾッとする。

「だから俺にそんな趣味はないっての!」

 カズは壁に突っ込んだディルの腕を掴み、捻りながら足をすくい、体制が崩れたところで投げ飛ばした。
 空中で体制を立て直し、難なく着地するディル。

「魔力だけじゃなくて、力もあるようね」

「もうディルだけに任せておけんわい」

「何よタフ。アタシ一人じゃ勝てないとでも言うの?」

「顔が笑っておるぞ。楽しんで逃げられては元も子もないわい」

「仕方ないわね。楽しみは、捕らえた後にしようかしら」

 カズを見て舌舐めずりするディル。

「そういうことだから、悪いが二人を相手にしてもらうわい」

「誇って良いわよ。王都のギルドマスター二人を相手にするんだから。がんばり次第で、アタシからの御褒美を割り増ししてあげるわ」

 ディルの言葉を聞いて、二度と関わりたくはないと思ったカズは、懐から取り出した小さな水晶に魔力を流して、込められてる魔法を発動する。

「何かのアイテム?」

「どうやら水晶のようじゃな」

 水晶が砕けると空間が歪み、カズの姿が空間へと消える。

「やられたわい」

「転移?」

「そのようじゃな」

「バルフートさんが危惧していたことは、どうやら本当のようね」

「さて、どこに転移したかじゃが」

「第2ギルドの近くの倉庫街にある、いわく付きの家に住んでたって情報があるから、王都の中央に向かったんじゃないかしら」

「そうじゃな。元々王都に住んでいたのであれば、あちこちに転移先を用意していても、おかしくはないわい」

「個人で転移を使うなんて、ダンジョンで遺物(アーティファクト)でも見つけたのかしら?」

「う~む。所属してるギルドに報告してなければ、持っていてもおかしくはないわい。あれだけの実力があれば」

「フローラちゃんは優しいから、ギルマスの権限で買い取るとか言って、無理に取り上げたりしないでしょうからね。アタシだったら……ウフフフ」

「その性格を直せとは言わんが、王族を襲ったであろう相手を逃がしたんじゃから、他の連中(ギルドマスター)から嫌味を言われること間違いないわい」

「アタシは気にしないわ」

「そんなこと言って、ディルから仕向けるでないぞ。マスター同士で戦闘など…」

「面倒になのるは分かってるわよ。だから他のマスターを相手にしないで、手配中の彼と本気でやり合いたいのよ」

「よく言うわい。ディルが遊んでおるから、逃げられたではないか。火傷までしておいて。最初から本気でやれば」

「んもぉう。それは言わないでよ。水晶を使って転移出来るって情報が入ったんだからいいでしょ」

「まぁそうじゃわいな」

「はぁ~ん。久々にゾクっとしたわ。彼の本気ってどんなのかしら? 見てみたいわぁ~」

「やれやれ。ほれ、お互い自分のギルドに戻るとするぞ」

 カズを逃がしてしまった事を、大して気に留める事もないディルと、他のギルドマスターから嫌味でも言われるのではないかと考えていたタフは、それぞれ自分のギルドへと戻って行った。
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