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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

252 現れる二人のギルドマスター

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 アレナリアと衛兵を振り切ったカズは、人目のない所で〈ゲート〉を使い、アヴァランチェを出た。(魔法で作り上げた偽のビワは、制限時間が過ぎたために、その姿は跡形もなく消えた)
 カズが向かった先は、アヴァランチェの北にそびえる雪山の山頂付近、フロストドラコンの白真が居る所だ。

「白真~居るかぁ~?」

「カズか。今日はどうした? あの者らの記憶を戻す方法でも分かったのか?」

「残念ながら、今のところはまだ。何人か協力してくれる人がいて、その元凶を調べてもらってるところ」

「今日はあの小さき者は、一緒ではないのか?」

「レラのことか? それなら信用できる人達に預けてきた。マイヒメとフジは最近どうしてる?」

「幾らか前に来たが、今どこに居るかは知らぬ。ここでは凍えると、他に移ったのでな」

「それはそうか(バードリングに、寒冷の耐性を付与しておけばよかったかな)」

「カズはあれからどうした?」

「そういえば言ってなかったな。少し前から国に手配されてるんだ。俺」

「なに!? 我と同じ様に、街でも破壊したか?」

「しねーよッ! あることないこと罪状を並べられて、罪人にされてるんだ。それで今は逃亡中って事になってる」

「追ってくる者など、返り討ちにしてやればよかろう」

「返り討ちにしたから、罪状が増えたんだよ」

「ほうほう。何人…」

「殺してないから」

「……ならばこれからどうするのだ? このまま逃げ回るのか?」

「もう暫くはな。俺に目が向いてる間に、さっき言った人達が調査してくれる手はずになってる。あと二十日くらい逃げ回って、時間を稼ぐつもりだ」

「もどかしい。力でねじ伏せれば容易であろう」

「俺に、この国の衛兵や冒険者達と、真っ向から戦えってか。それをやったら、今回の事は俺がやったと、認めてるってことじゃないか。協力してくれてる人達も、共犯扱いされし、何万なんて相手にしたくもない」

「国だとなんだと面倒だな」

「言っておくが、これまでの俺の経緯が知られたら、国が白真を討伐に来る可能性だってあるんだからな」

「なに! のんびりと暮らせるようになったというのに。いやしかし、それはそれで退屈せずに…」

「白真はこれから、好かれる様に過ごしてくって言ったろ」

「まぁそうだが」

「もし冒険者のギルドマスターや、国の実力者が攻めて来たら、俺に操られてたと言って降伏して、俺の敵になれよ」

「バカを言うでない。何百何千と攻めてこようと、カズを相手にする方が危険と我は知っておる」

「別に俺と戦えとは言ってない。ただでさえ恐れられてる白真が、俺側についたら、また数百年ひとりになんるだから、そんなのはダメだ」

「主……我はひとりにでも構わぬが、カズがそう言うのであれば。しかし本当に、カズと戦う事はないのだな」

「もしそうなったとしても、俺が降伏するようにするから(まあ、少しくらいは抵抗するけど)」

「ならば良し。荒れ狂う炎を、この身に受けたくはないのでな」

「ああ……それが本音か」

「当たり前だ!」

「まぁそんな感じだから。前にも言ったと思うが、誰か来ても問答無用で攻撃するなよ。先に攻撃されてもだぞ」

「なにッ! 先に攻撃されてもダメなのか?」

「ダ~メ。攻撃されたとしても、余程の事がない限り、大して傷つかないだろ」

「傷はつかぬが、腹は立つ」

「我慢してくれ。頼むよ」

「仕方がない。カズの頼みなら聞いてやろう」

「これはあくまで、もしもの時の話だからな」

「分かっておる」

「話したいことも、聞きたいことも済んだし、そろそろ」

「もう行ってしまうか。我はカズの最初の従魔なのだから、何があろうと裏切るようなことはせぬぞ」

「俺が敵になるのが怖くて、そう言ってるのか?」

「そんなんではない。我はただ…」

「冗談だ。次に会うときは、今回の事が良い方に解決してればと思うばかりだ」

「うむ。あの小さき者達にも、また会ってみたいからな」

「ふっ……あははッ」

「何を笑っておるか!」

「いや。白真はなんの影響も受けてなくて、良かったと思うよ」

「と、当然であろう。あの程度、我に斯程(かほど)の影響も与えぬ」

「最初の従魔か……これからの白真の行動を、俺は信じることにするよ」

「な、何を改まっておるか」

 こそばゆい発言に、照れてカズからその巨体を背ける白真。

「あ、そうだ。フローラさんやレラなど、緊急時に転移して来るから、その時は助けてやってくれ。頼むぞ」

「了承した」

 カズは〈フライ〉を使用し、雪山の麓へと飛んでいった。
 それから数日置きに、カズは王都に続く街道沿いにある、街や近隣の村近くでワザと衛兵や冒険者に姿を見せた。
 作戦通りに、少しずつ王都に向かっている、と思わせる行動に出ていた。
 時折入る情報を手紙に書き、それをフローラが使う資料室に置き、モルトつてでフリートに連絡してもらっていた。
 フリートからの情報は逆の方法で、モルトからフローラに渡された手紙を資料室に、それをカズが持っていき情報を得ると。

 そしてアヴァランチェでアレナリアと衛兵に姿を見せてから二十六日後、カズはついに王都へやって来ていた。
 王都の南東の端に冒険者第6ギルド、南西の端に冒険者第7ギルドがあり、その中間辺りの街にカズは潜み住む。
 王都の端にあるギルドには、地方からやって来た者が多い。
 場所にもよるが、拠点登録し所属している冒険者の二割から三割は、荒くれ者だったりもする。
 以前に問題となった第4ギルドでは、拠点登録してる冒険者の半数が荒くれ者だったため、冒険者崩れの盗賊を疑いもせず侵入させてしまっていた。
 以降は各ギルドのマスター達が自ら動き、達の悪い荒くれ冒険者を鎮圧するようになっていた。
 そのお陰で、ギルド内での乱闘などは減るようになっていた。
 詰まるところ、凶悪な手配犯であるカズの情報が入ると、ギルドマスター達が自ら動き確かめるようになっていた。
 カズはこの事を、フリートとフローラからの手紙で情報を得ていた。

 そして王都に潜んでから数日がたったある日、カズはマントを羽織りフードを被って大通りを歩いていると、背後から数人が付けて来ているのに気付き、入り組んだ路地裏に入りこもうとした。
 しかしそれを読まれ、カズは狭い路地で挟まれて追い詰められた。

「ここまでね。逃げ場はないわよ」

「誰だか知りませんが、人違いでは?」

「それはない。お前さんが手配されてるカズだということは、既に調べがついてる。マントで顔を隠そうがな」

「俺に手を出すと…」

「さらった二人なら、もうこちらが助けたわよ」

「ハッタリだ」

「信じてくれないても構わん。お前さんを取っ捕まえる事にかわりはない。おっと言い忘れたわい。わしはタフ。第7ギルドのマスター」

「アタシは第6ギルドマスターのディルよ。少しは抵抗して楽しませて。ふふふッ」

「やり過ぎるな」

「分かってるわよ」

「毎回思うが、痛がるのを見て喜ぶような者が、よくギルドマスターになれたもんだ」

「しばくのは、悪党だけなんだから良いでしょ。それにアタシにヤられた殆どの連中は、その後罪を犯さないようになってるのよ。まあ中には、アタシにしばかれたくて、罪を犯す者もいるけどね。でもその程度じゃ、しばいてあげないわ」

「ドSはゴメンだ。俺にそんな趣味はない」

「うふふッ。そういうこと言うと、ますますしばきたくなるわッ!」

 どこからか長い鞭を取り出し、カズに向けて勢いよく振るう。
 カズは後ろに下がり鞭の攻撃を避けると、すぐ目の前で鞭の先がバチンと大きな音を立てる。

「良い反応ね。Bランクってのは、嘘じゃなさそう。あなたフローラちゃんの第2ギルドに所属してたんでしょ。アタシの所に来るなら、罪を軽くしてもらうよう言ってあげても良いわよ」

「その性格で武器が鞭って、そっち系の変態かよ(フローラちゃん?)」

「変態ですって……ぅん~んッ。良いわねゾクゾクするわ。やっぱりあなた、アタシの所に来なさい。可愛いがってあげるわよ」

「ごめん。断る。願い下げ」

「確かに。わしもその意見には賛成だわい」

「アタシだって、タフみたいな髭もじゃのドワーフを側に置いて、しばきたいと思わないわよ」

「どれ、話はこのくらいにして、わしも参戦するとするか。周りの連中は手を出すな」

「タフも手を出さなくていいわよ」

「ディルに任せてると、楽しんで時間が掛かるかも知れんからな」

「だったら捕まえてから、引き渡すまでの間に、楽しもうかしら」

 タフが大きなハンマー構え、ディルは両手で持つ鞭を引っ張り、バチンと音を立ててカズを威嚇する。
 周りに居る冒険者達の位置を確認すると、カズは〈フラッシュ〉を使った。
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