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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

248 駆け落ち新婚生活

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 ◇◆◇◆◇


 ビワが屋敷に戻って、マーガレット達と再会した次の日。

「今日は一日、ビワとレラさんの話を聞かせて。えっと、リアーデの街で家を借りて住み始めたのよねぇ」

「そうだよ。ビワが駆け落ちしてきたって、大家のドワーフに言ったもんで、若夫婦として暮らし始める事になったんだよね。あと、あちしのことはレラでいいよ。マーガレットとは友達なんだから」

「あら、嬉しい。ありがとう。それでビワは、どうして駆け落ちなんて?」

「あの……急に大家さんが二人の関係を聞いてきて、とっさだったので……つい。兄妹だと変かなって。それで…前に奥様が読んでいた本の内容を、ミカンに話してるのを思い出して」

「駆け落ちの元は、マーガレットなの?」

「そういえば、駆け落ちする若い二人の本を読んでたことあったわ」

「それで、私…気付いたらもう……」

「一度でいいから私も。なんて考えちゃうわ『追われる若い二人の逃亡生活。互いの気持ちが引かれ、真実の愛生まれる』……いいわね! いいわねッ! じっくり聞かせてもらうわよ。さぁ話して。今日は始まったばかり、時間はたっぷりあるから!」

 生き生きとするマーガレットを見て、圧倒されるビワ。


ーーーーーーーーーーーーーーー

 ≪ 二十日程前のリアーデ。多種族が住む区画 ≫


 カズが魔法で変装して、ルアと名を変え、ビワとレラの三人での暮らしに慣れ始めていた頃。

「こんにちは。買い物かい?」

「あ…はい。こんにちは…大家さん」

「ウールでいいって。少しはここの暮らしに慣れたか?」

「あの…はい。まだ少し」

「そうかい。まぁ一部の連中が、嫌なことを言うかも知れないけど、気にしなさんな。すぐに飽きるだろうからさ」

「はい。あの……昨日は助けてくれて、ありがとう…ございました」

「なぁに、種族が違う夫婦だからって、ケチを付ける奴が気にいらなかっただけさ。またあんな連中がいたら、いつでも言いな。すぐに文句言ってやるから」

「喧嘩は…よくないです」

「あっはっはッ。あんたは優しいねぇ」

「いえ、そんな。私は……臆病なだけです」

「そんなところが良いのかねぇ?」

「え?」

「いや、こっちの話さ。旦那は仕事かい?」

「はい。お…夫は、木材所で」

「そうかい。お金は必要だろうけど、慣れない土地で無理しなさんな。なんかあればいつでも言いなよ。飯くらいならいつでも作ってやるから。田舎料理だがね」

「でも…ウールさんに迷惑が」

「二人分増えたからって、大したことないよ。いつも多目に作るから。だから二、三日は同じ飯なんだけどね。あっはっは」

「あのぅ…私そろそろ」

「ああ、内職があるんだったね。引き止めて悪かった」

「あ…ありがとうございます。お仕事まで紹介してもらって」

「裁縫は得意なんでね。そのつてさ。分からないことがあったら教えてやるから、いつでも聞きにおいで」

「は…はい。その時は…お願いします」

 ウールと別れたビワは、三階建ての屋上にある、木造の家に戻った。

「ただいま」

「おかえりビワ。たまご買えた?」

「うん。買えたよ」

「じゃあプリン作ってね。ここに来てから、一回も食べてないんだもん。ビワも食べたいでしょ」

「それはそうだけど。夫がいないと冷やせないから、戻ってきてからじゃないと作れないよ」

「にっちっち。やっと慣れてきたねビワ『夫』って、すんなり言えるんだから」

「ま、またそうやって……からかうんだから」

「赤くなったビワは、かわいいなぁ(次はカズの居る時に。そうすれば、にっちっち。殆ど外に出られなくても、少しは楽しめそう)」

 何かを企んでるそうな笑みを浮かべるレラを見て、それが自分をからかう事だとつゆ知らず、楽しそうで良かったと思い違いをするビワ。

「さてと、ウールさんに紹介してもらったお仕事、がんばってやらないと」

「また縫い物?」

「うん。今日は小物入れを作るの」

「ふ~ん。今度、あちし用のバッグ作ってよビワ」

「生地が余ったらね」

「よろしく~」

 ビワは露店で売られる小物入れを作り始めた。
 ちょうど15個目が出来たところで、ルアが仕事を終えて戻ってきた。

「ただいま」

「おかえりカズ」

「おかえりなさい。もうそんな時間?」

「今日は早く終わったから。まだ内職してても良いよ」

「そうなのね。でもそろそろ、お夕食の支度しないと」

「俺も手伝うよ」

「ありがとう。あなた」

「アツアツの新婚ですなぁ」

「レラったら」

「にっちっち。それよりカズが戻って来たんだから、プリン作って」

「プリン? ああ、ここに来てから、食べてないもんな」

「そうよ。ずっと我慢してたんだから、大量に作り置きしておいてよ」

「深夜のアツアツ行為は、それからにして」

「アツアツ行為なんてしてないだろッ!」

「あちしが深夜に出てる時に、すれば良いのに。新婚なんだから。にっちっち」

 顔を見合わせるルアとビワは、顔を真っ赤にする。

「バっ、そういうこと言うなら、プリンはまだ暫くお預けだぞ」

「えぇーなんでよッ! これをやめたら、あちしの楽しみがぁ」

「他の楽しみを探せ。それかビワの内職を手伝ってあげろよ」

「えぇーめんどくさいもん」

「この、ぐうたら者め(長い間甘やかし過ぎたな)」

「プリンプリンプリン!」

「やかましい。外まで聞こえる」

「だったら、プリンプリン!」

「分かった分かった」

「よしッ!」

 拳を振り上げ、勝利を喜ぶレラ。

「分かってると思うが、今から作っても、今日は食べられないぞ」

「分かってるって。明日が楽しみ。たまごはビワが買ってくれてあるよ」

「ハァー。レラのわがままを聞いてくれて、ありがとうビワ」

「いえ…私も食べたいと思ってたから」

「そう。じゃあ明日もたまご買ってきて、いっぱい作っておこうか」

「はい」

「あぁー。ビワにばっかり優しい。カズの差別ぅ~」

「ビワは色々やってくれてるんだから良いの。一人で買い物に行って変わった事はなかった?」

「特になかったです。あ、そうだ。ウールさんが、料理をたくさん作ったら、また持ってきてくれるって、言ってました」

「ウールさんて、結構世話焼きなんだ」

「はい。でも良い方ですよ」

「それじゃあ夕食の支度しようか。レラも手伝え」

「は~い」

「また明日も、昼間の話を聞かせてよ。ビワ」

「はい」


 ≪ それから数日後 ≫


 ビワが内職で作った物の代金と料理を持って、二人が住む借家にウールが来ていた。

「はいよ。これがこの前作った小物入れの代金と、こっちは料理だ。今日明日の二日くらいはもつだろうから、温めなおして食べてくれ」

「いつも…ありがとうございます」

「なぁに、気にしなさんな。好きでやってることだから。それより何人くらいほしいんだい?」

「え……?」

「え、じゃないよ。駆け落ちしてまで一緒になったんだから、子供の一人や二人。五人は作るんだろ」

 突如として子供の話を振るウールに、ビワは戸惑いを隠せなかった。

「ご、五人なんて……まだ早い…です」

「早くなんかないもんか。若い内にたくさん産んだ方が良いよ」

「そ…そうで…すね。二人くらいは(カズさんとの赤ちゃん……)」

「そうそう毎晩がんばりな。身籠ったら、家事は世話はしてやるからさ。安心しな」

「毎…晩……(恥ずかしい)」

 ビワの顔と耳が真っ赤になり、頭の上から湯気が出ているようにも見える。
 その様子見たウールは、ビワに助言をする。

「なんだい。ここに来て半月は経つのに、まだ一度もしてないのかい? 随分と奥手な旦那だねぇ」

「いえ…あの……はい(どう答えたら……)」

「だったらあんたの方から誘えば良いさ」

「……え(私…から?)」

「若い男なんて皆同じ。耳元で一言抱いてった言って、ちょっと身体を触らせれば、あとは本能の赴くまま」

「だ、だだ…抱いて、ですか(そ、そんなこと……)」

「そうだよ。あんた美人だし、尻尾の毛並みも良いんだから。本気になったら、あの旦那は朝まで寝かせてくれないよ」

「あ…ああ…朝まで(そんな。ダメですよカズさん。私、初めてなのに……)」

 ウールの話を聞いて勝手に妄想が広がり、フラフラと揺れだしたビワは、バタリと倒れた。

「ありゃりゃ。少し刺激が強すぎたかねぇ。まったく初(うぶ)な娘だ」

 ビワが目を覚ますと、額の上には冷したタオルが乗っていた。

「あれ、私……」

「大丈夫ビワ?」

「……あなた」

「疲れが出たんだって、ウールさんから聞いたよ。ごめん」

「疲れ……? その姿。それにウールさんは」

「俺が戻って来たから帰ったよ。ウールさんは、もう今日は来ないって言ってたから、元の姿にね」

「あ、ごめんなさい。すぐに夕食の支度を」

「いいからそのまま寝てて。夕食ならウールさんが持ってきてくれた料理があるから。今それを、温めなおしてるところだから。どう、食べれそう」

「はい。大丈夫です」

「ビワが倒れるくらい、疲れさせてたなんて。倒れた原因が、ビワに無理をさせてた俺だろうから、しっから看病しないと」

「いえ…そんな」

「夕食の後にでも、今日あった事はレラに聞くから、ビワはゆっくり休んで」

「今日の事……」

 昼間ウールと話していた事を思い出し、赤くなり熱が上がるビワ。

「顔赤いね。大丈夫?」

 カズはビワの額に手を当て、まだ熱があるかを確かめる。
 昼間の話しとカズの手の感触で、更に赤くなり熱が上がるビワ。

「やっぱり熱があるね。起き上がるのが大変なら、夕食はスープだけにしようか。ちゃんと飲ませてあげるから」

「だ、だだ…大丈夫です。一人で食べられます」

「そう? 無理は…」

「大丈夫!」

「……? じゃあもう少しで料理が温まっるから、それまで待ってて。レラ、代わるぞ。あとは俺が見てるから、ビワの側に居てやって」

「は~い」

 料理が入った鍋が、吹き零れないように見ていたレラが、カズと交代してビワの所に来る。

「大丈夫ビワ?」

「心配かけてごめんなさい。レラ」

「ごはん食べて元気にならないと」

「そうですね」

「なんせ今夜は、カズを誘うんだから」

「あ…あれはウールさんが勝手に」

「ビワも乗り気じゃなかったっけ? えっと確か、抱・い・て! だっけ」

「レラ、静かに。カズさんに聞こえちゃう」

「にっちっち。で、どうするの」

「どうするもなにも……私達は、本当の夫婦じゃないから」

「これを切っ掛けになっちゃえば」

「も…もうこの話しはやめて……(また熱が出ちゃう)」

「やっぱりこの手の話でからかうと、ビワはキャわいいわねぇ」

「もうッ。レラ嫌い」

「何してるの? またビワをからかってるのかレラ」

「なんのことかしらな~い」

「何か言われたのビワ? また顔赤いよ。熱が上がっちゃった」

「……な…なんでもありません(カズさんに言える訳ない)」

「にっちっち(昼間はウールが来てたから隠れてなきゃならなかったけど、その代わりいい話が聞けたから、今日のあちし満足!)」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「そ…その話しはしないでって言ったのに。レラのいじわる」

「今カズは居ないからいいでしょ。女三人だけなんだし」

「最高ッ! 話を聞いて恥ずかしがるビワを見てると、私若返るわ」

 心なしか、マーガレットの肌につやが出たように見えたのであった。

「さぁ続きを聞かせて。それからどうしたの?」

「…様、奥様。聞こえていますか?」
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