259 / 784
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
248 駆け落ち新婚生活
しおりを挟む
◇◆◇◆◇
ビワが屋敷に戻って、マーガレット達と再会した次の日。
「今日は一日、ビワとレラさんの話を聞かせて。えっと、リアーデの街で家を借りて住み始めたのよねぇ」
「そうだよ。ビワが駆け落ちしてきたって、大家のドワーフに言ったもんで、若夫婦として暮らし始める事になったんだよね。あと、あちしのことはレラでいいよ。マーガレットとは友達なんだから」
「あら、嬉しい。ありがとう。それでビワは、どうして駆け落ちなんて?」
「あの……急に大家さんが二人の関係を聞いてきて、とっさだったので……つい。兄妹だと変かなって。それで…前に奥様が読んでいた本の内容を、ミカンに話してるのを思い出して」
「駆け落ちの元は、マーガレットなの?」
「そういえば、駆け落ちする若い二人の本を読んでたことあったわ」
「それで、私…気付いたらもう……」
「一度でいいから私も。なんて考えちゃうわ『追われる若い二人の逃亡生活。互いの気持ちが引かれ、真実の愛生まれる』……いいわね! いいわねッ! じっくり聞かせてもらうわよ。さぁ話して。今日は始まったばかり、時間はたっぷりあるから!」
生き生きとするマーガレットを見て、圧倒されるビワ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
≪ 二十日程前のリアーデ。多種族が住む区画 ≫
カズが魔法で変装して、ルアと名を変え、ビワとレラの三人での暮らしに慣れ始めていた頃。
「こんにちは。買い物かい?」
「あ…はい。こんにちは…大家さん」
「ウールでいいって。少しはここの暮らしに慣れたか?」
「あの…はい。まだ少し」
「そうかい。まぁ一部の連中が、嫌なことを言うかも知れないけど、気にしなさんな。すぐに飽きるだろうからさ」
「はい。あの……昨日は助けてくれて、ありがとう…ございました」
「なぁに、種族が違う夫婦だからって、ケチを付ける奴が気にいらなかっただけさ。またあんな連中がいたら、いつでも言いな。すぐに文句言ってやるから」
「喧嘩は…よくないです」
「あっはっはッ。あんたは優しいねぇ」
「いえ、そんな。私は……臆病なだけです」
「そんなところが良いのかねぇ?」
「え?」
「いや、こっちの話さ。旦那は仕事かい?」
「はい。お…夫は、木材所で」
「そうかい。お金は必要だろうけど、慣れない土地で無理しなさんな。なんかあればいつでも言いなよ。飯くらいならいつでも作ってやるから。田舎料理だがね」
「でも…ウールさんに迷惑が」
「二人分増えたからって、大したことないよ。いつも多目に作るから。だから二、三日は同じ飯なんだけどね。あっはっは」
「あのぅ…私そろそろ」
「ああ、内職があるんだったね。引き止めて悪かった」
「あ…ありがとうございます。お仕事まで紹介してもらって」
「裁縫は得意なんでね。そのつてさ。分からないことがあったら教えてやるから、いつでも聞きにおいで」
「は…はい。その時は…お願いします」
ウールと別れたビワは、三階建ての屋上にある、木造の家に戻った。
「ただいま」
「おかえりビワ。たまご買えた?」
「うん。買えたよ」
「じゃあプリン作ってね。ここに来てから、一回も食べてないんだもん。ビワも食べたいでしょ」
「それはそうだけど。夫がいないと冷やせないから、戻ってきてからじゃないと作れないよ」
「にっちっち。やっと慣れてきたねビワ『夫』って、すんなり言えるんだから」
「ま、またそうやって……からかうんだから」
「赤くなったビワは、かわいいなぁ(次はカズの居る時に。そうすれば、にっちっち。殆ど外に出られなくても、少しは楽しめそう)」
何かを企んでるそうな笑みを浮かべるレラを見て、それが自分をからかう事だとつゆ知らず、楽しそうで良かったと思い違いをするビワ。
「さてと、ウールさんに紹介してもらったお仕事、がんばってやらないと」
「また縫い物?」
「うん。今日は小物入れを作るの」
「ふ~ん。今度、あちし用のバッグ作ってよビワ」
「生地が余ったらね」
「よろしく~」
ビワは露店で売られる小物入れを作り始めた。
ちょうど15個目が出来たところで、ルアが仕事を終えて戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりカズ」
「おかえりなさい。もうそんな時間?」
「今日は早く終わったから。まだ内職してても良いよ」
「そうなのね。でもそろそろ、お夕食の支度しないと」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。あなた」
「アツアツの新婚ですなぁ」
「レラったら」
「にっちっち。それよりカズが戻って来たんだから、プリン作って」
「プリン? ああ、ここに来てから、食べてないもんな」
「そうよ。ずっと我慢してたんだから、大量に作り置きしておいてよ」
「深夜のアツアツ行為は、それからにして」
「アツアツ行為なんてしてないだろッ!」
「あちしが深夜に出てる時に、すれば良いのに。新婚なんだから。にっちっち」
顔を見合わせるルアとビワは、顔を真っ赤にする。
「バっ、そういうこと言うなら、プリンはまだ暫くお預けだぞ」
「えぇーなんでよッ! これをやめたら、あちしの楽しみがぁ」
「他の楽しみを探せ。それかビワの内職を手伝ってあげろよ」
「えぇーめんどくさいもん」
「この、ぐうたら者め(長い間甘やかし過ぎたな)」
「プリンプリンプリン!」
「やかましい。外まで聞こえる」
「だったら、プリンプリン!」
「分かった分かった」
「よしッ!」
拳を振り上げ、勝利を喜ぶレラ。
「分かってると思うが、今から作っても、今日は食べられないぞ」
「分かってるって。明日が楽しみ。たまごはビワが買ってくれてあるよ」
「ハァー。レラのわがままを聞いてくれて、ありがとうビワ」
「いえ…私も食べたいと思ってたから」
「そう。じゃあ明日もたまご買ってきて、いっぱい作っておこうか」
「はい」
「あぁー。ビワにばっかり優しい。カズの差別ぅ~」
「ビワは色々やってくれてるんだから良いの。一人で買い物に行って変わった事はなかった?」
「特になかったです。あ、そうだ。ウールさんが、料理をたくさん作ったら、また持ってきてくれるって、言ってました」
「ウールさんて、結構世話焼きなんだ」
「はい。でも良い方ですよ」
「それじゃあ夕食の支度しようか。レラも手伝え」
「は~い」
「また明日も、昼間の話を聞かせてよ。ビワ」
「はい」
≪ それから数日後 ≫
ビワが内職で作った物の代金と料理を持って、二人が住む借家にウールが来ていた。
「はいよ。これがこの前作った小物入れの代金と、こっちは料理だ。今日明日の二日くらいはもつだろうから、温めなおして食べてくれ」
「いつも…ありがとうございます」
「なぁに、気にしなさんな。好きでやってることだから。それより何人くらいほしいんだい?」
「え……?」
「え、じゃないよ。駆け落ちしてまで一緒になったんだから、子供の一人や二人。五人は作るんだろ」
突如として子供の話を振るウールに、ビワは戸惑いを隠せなかった。
「ご、五人なんて……まだ早い…です」
「早くなんかないもんか。若い内にたくさん産んだ方が良いよ」
「そ…そうで…すね。二人くらいは(カズさんとの赤ちゃん……)」
「そうそう毎晩がんばりな。身籠ったら、家事は世話はしてやるからさ。安心しな」
「毎…晩……(恥ずかしい)」
ビワの顔と耳が真っ赤になり、頭の上から湯気が出ているようにも見える。
その様子見たウールは、ビワに助言をする。
「なんだい。ここに来て半月は経つのに、まだ一度もしてないのかい? 随分と奥手な旦那だねぇ」
「いえ…あの……はい(どう答えたら……)」
「だったらあんたの方から誘えば良いさ」
「……え(私…から?)」
「若い男なんて皆同じ。耳元で一言抱いてった言って、ちょっと身体を触らせれば、あとは本能の赴くまま」
「だ、だだ…抱いて、ですか(そ、そんなこと……)」
「そうだよ。あんた美人だし、尻尾の毛並みも良いんだから。本気になったら、あの旦那は朝まで寝かせてくれないよ」
「あ…ああ…朝まで(そんな。ダメですよカズさん。私、初めてなのに……)」
ウールの話を聞いて勝手に妄想が広がり、フラフラと揺れだしたビワは、バタリと倒れた。
「ありゃりゃ。少し刺激が強すぎたかねぇ。まったく初(うぶ)な娘だ」
ビワが目を覚ますと、額の上には冷したタオルが乗っていた。
「あれ、私……」
「大丈夫ビワ?」
「……あなた」
「疲れが出たんだって、ウールさんから聞いたよ。ごめん」
「疲れ……? その姿。それにウールさんは」
「俺が戻って来たから帰ったよ。ウールさんは、もう今日は来ないって言ってたから、元の姿にね」
「あ、ごめんなさい。すぐに夕食の支度を」
「いいからそのまま寝てて。夕食ならウールさんが持ってきてくれた料理があるから。今それを、温めなおしてるところだから。どう、食べれそう」
「はい。大丈夫です」
「ビワが倒れるくらい、疲れさせてたなんて。倒れた原因が、ビワに無理をさせてた俺だろうから、しっから看病しないと」
「いえ…そんな」
「夕食の後にでも、今日あった事はレラに聞くから、ビワはゆっくり休んで」
「今日の事……」
昼間ウールと話していた事を思い出し、赤くなり熱が上がるビワ。
「顔赤いね。大丈夫?」
カズはビワの額に手を当て、まだ熱があるかを確かめる。
昼間の話しとカズの手の感触で、更に赤くなり熱が上がるビワ。
「やっぱり熱があるね。起き上がるのが大変なら、夕食はスープだけにしようか。ちゃんと飲ませてあげるから」
「だ、だだ…大丈夫です。一人で食べられます」
「そう? 無理は…」
「大丈夫!」
「……? じゃあもう少しで料理が温まっるから、それまで待ってて。レラ、代わるぞ。あとは俺が見てるから、ビワの側に居てやって」
「は~い」
料理が入った鍋が、吹き零れないように見ていたレラが、カズと交代してビワの所に来る。
「大丈夫ビワ?」
「心配かけてごめんなさい。レラ」
「ごはん食べて元気にならないと」
「そうですね」
「なんせ今夜は、カズを誘うんだから」
「あ…あれはウールさんが勝手に」
「ビワも乗り気じゃなかったっけ? えっと確か、抱・い・て! だっけ」
「レラ、静かに。カズさんに聞こえちゃう」
「にっちっち。で、どうするの」
「どうするもなにも……私達は、本当の夫婦じゃないから」
「これを切っ掛けになっちゃえば」
「も…もうこの話しはやめて……(また熱が出ちゃう)」
「やっぱりこの手の話でからかうと、ビワはキャわいいわねぇ」
「もうッ。レラ嫌い」
「何してるの? またビワをからかってるのかレラ」
「なんのことかしらな~い」
「何か言われたのビワ? また顔赤いよ。熱が上がっちゃった」
「……な…なんでもありません(カズさんに言える訳ない)」
「にっちっち(昼間はウールが来てたから隠れてなきゃならなかったけど、その代わりいい話が聞けたから、今日のあちし満足!)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そ…その話しはしないでって言ったのに。レラのいじわる」
「今カズは居ないからいいでしょ。女三人だけなんだし」
「最高ッ! 話を聞いて恥ずかしがるビワを見てると、私若返るわ」
心なしか、マーガレットの肌につやが出たように見えたのであった。
「さぁ続きを聞かせて。それからどうしたの?」
「…様、奥様。聞こえていますか?」
ビワが屋敷に戻って、マーガレット達と再会した次の日。
「今日は一日、ビワとレラさんの話を聞かせて。えっと、リアーデの街で家を借りて住み始めたのよねぇ」
「そうだよ。ビワが駆け落ちしてきたって、大家のドワーフに言ったもんで、若夫婦として暮らし始める事になったんだよね。あと、あちしのことはレラでいいよ。マーガレットとは友達なんだから」
「あら、嬉しい。ありがとう。それでビワは、どうして駆け落ちなんて?」
「あの……急に大家さんが二人の関係を聞いてきて、とっさだったので……つい。兄妹だと変かなって。それで…前に奥様が読んでいた本の内容を、ミカンに話してるのを思い出して」
「駆け落ちの元は、マーガレットなの?」
「そういえば、駆け落ちする若い二人の本を読んでたことあったわ」
「それで、私…気付いたらもう……」
「一度でいいから私も。なんて考えちゃうわ『追われる若い二人の逃亡生活。互いの気持ちが引かれ、真実の愛生まれる』……いいわね! いいわねッ! じっくり聞かせてもらうわよ。さぁ話して。今日は始まったばかり、時間はたっぷりあるから!」
生き生きとするマーガレットを見て、圧倒されるビワ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
≪ 二十日程前のリアーデ。多種族が住む区画 ≫
カズが魔法で変装して、ルアと名を変え、ビワとレラの三人での暮らしに慣れ始めていた頃。
「こんにちは。買い物かい?」
「あ…はい。こんにちは…大家さん」
「ウールでいいって。少しはここの暮らしに慣れたか?」
「あの…はい。まだ少し」
「そうかい。まぁ一部の連中が、嫌なことを言うかも知れないけど、気にしなさんな。すぐに飽きるだろうからさ」
「はい。あの……昨日は助けてくれて、ありがとう…ございました」
「なぁに、種族が違う夫婦だからって、ケチを付ける奴が気にいらなかっただけさ。またあんな連中がいたら、いつでも言いな。すぐに文句言ってやるから」
「喧嘩は…よくないです」
「あっはっはッ。あんたは優しいねぇ」
「いえ、そんな。私は……臆病なだけです」
「そんなところが良いのかねぇ?」
「え?」
「いや、こっちの話さ。旦那は仕事かい?」
「はい。お…夫は、木材所で」
「そうかい。お金は必要だろうけど、慣れない土地で無理しなさんな。なんかあればいつでも言いなよ。飯くらいならいつでも作ってやるから。田舎料理だがね」
「でも…ウールさんに迷惑が」
「二人分増えたからって、大したことないよ。いつも多目に作るから。だから二、三日は同じ飯なんだけどね。あっはっは」
「あのぅ…私そろそろ」
「ああ、内職があるんだったね。引き止めて悪かった」
「あ…ありがとうございます。お仕事まで紹介してもらって」
「裁縫は得意なんでね。そのつてさ。分からないことがあったら教えてやるから、いつでも聞きにおいで」
「は…はい。その時は…お願いします」
ウールと別れたビワは、三階建ての屋上にある、木造の家に戻った。
「ただいま」
「おかえりビワ。たまご買えた?」
「うん。買えたよ」
「じゃあプリン作ってね。ここに来てから、一回も食べてないんだもん。ビワも食べたいでしょ」
「それはそうだけど。夫がいないと冷やせないから、戻ってきてからじゃないと作れないよ」
「にっちっち。やっと慣れてきたねビワ『夫』って、すんなり言えるんだから」
「ま、またそうやって……からかうんだから」
「赤くなったビワは、かわいいなぁ(次はカズの居る時に。そうすれば、にっちっち。殆ど外に出られなくても、少しは楽しめそう)」
何かを企んでるそうな笑みを浮かべるレラを見て、それが自分をからかう事だとつゆ知らず、楽しそうで良かったと思い違いをするビワ。
「さてと、ウールさんに紹介してもらったお仕事、がんばってやらないと」
「また縫い物?」
「うん。今日は小物入れを作るの」
「ふ~ん。今度、あちし用のバッグ作ってよビワ」
「生地が余ったらね」
「よろしく~」
ビワは露店で売られる小物入れを作り始めた。
ちょうど15個目が出来たところで、ルアが仕事を終えて戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりカズ」
「おかえりなさい。もうそんな時間?」
「今日は早く終わったから。まだ内職してても良いよ」
「そうなのね。でもそろそろ、お夕食の支度しないと」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう。あなた」
「アツアツの新婚ですなぁ」
「レラったら」
「にっちっち。それよりカズが戻って来たんだから、プリン作って」
「プリン? ああ、ここに来てから、食べてないもんな」
「そうよ。ずっと我慢してたんだから、大量に作り置きしておいてよ」
「深夜のアツアツ行為は、それからにして」
「アツアツ行為なんてしてないだろッ!」
「あちしが深夜に出てる時に、すれば良いのに。新婚なんだから。にっちっち」
顔を見合わせるルアとビワは、顔を真っ赤にする。
「バっ、そういうこと言うなら、プリンはまだ暫くお預けだぞ」
「えぇーなんでよッ! これをやめたら、あちしの楽しみがぁ」
「他の楽しみを探せ。それかビワの内職を手伝ってあげろよ」
「えぇーめんどくさいもん」
「この、ぐうたら者め(長い間甘やかし過ぎたな)」
「プリンプリンプリン!」
「やかましい。外まで聞こえる」
「だったら、プリンプリン!」
「分かった分かった」
「よしッ!」
拳を振り上げ、勝利を喜ぶレラ。
「分かってると思うが、今から作っても、今日は食べられないぞ」
「分かってるって。明日が楽しみ。たまごはビワが買ってくれてあるよ」
「ハァー。レラのわがままを聞いてくれて、ありがとうビワ」
「いえ…私も食べたいと思ってたから」
「そう。じゃあ明日もたまご買ってきて、いっぱい作っておこうか」
「はい」
「あぁー。ビワにばっかり優しい。カズの差別ぅ~」
「ビワは色々やってくれてるんだから良いの。一人で買い物に行って変わった事はなかった?」
「特になかったです。あ、そうだ。ウールさんが、料理をたくさん作ったら、また持ってきてくれるって、言ってました」
「ウールさんて、結構世話焼きなんだ」
「はい。でも良い方ですよ」
「それじゃあ夕食の支度しようか。レラも手伝え」
「は~い」
「また明日も、昼間の話を聞かせてよ。ビワ」
「はい」
≪ それから数日後 ≫
ビワが内職で作った物の代金と料理を持って、二人が住む借家にウールが来ていた。
「はいよ。これがこの前作った小物入れの代金と、こっちは料理だ。今日明日の二日くらいはもつだろうから、温めなおして食べてくれ」
「いつも…ありがとうございます」
「なぁに、気にしなさんな。好きでやってることだから。それより何人くらいほしいんだい?」
「え……?」
「え、じゃないよ。駆け落ちしてまで一緒になったんだから、子供の一人や二人。五人は作るんだろ」
突如として子供の話を振るウールに、ビワは戸惑いを隠せなかった。
「ご、五人なんて……まだ早い…です」
「早くなんかないもんか。若い内にたくさん産んだ方が良いよ」
「そ…そうで…すね。二人くらいは(カズさんとの赤ちゃん……)」
「そうそう毎晩がんばりな。身籠ったら、家事は世話はしてやるからさ。安心しな」
「毎…晩……(恥ずかしい)」
ビワの顔と耳が真っ赤になり、頭の上から湯気が出ているようにも見える。
その様子見たウールは、ビワに助言をする。
「なんだい。ここに来て半月は経つのに、まだ一度もしてないのかい? 随分と奥手な旦那だねぇ」
「いえ…あの……はい(どう答えたら……)」
「だったらあんたの方から誘えば良いさ」
「……え(私…から?)」
「若い男なんて皆同じ。耳元で一言抱いてった言って、ちょっと身体を触らせれば、あとは本能の赴くまま」
「だ、だだ…抱いて、ですか(そ、そんなこと……)」
「そうだよ。あんた美人だし、尻尾の毛並みも良いんだから。本気になったら、あの旦那は朝まで寝かせてくれないよ」
「あ…ああ…朝まで(そんな。ダメですよカズさん。私、初めてなのに……)」
ウールの話を聞いて勝手に妄想が広がり、フラフラと揺れだしたビワは、バタリと倒れた。
「ありゃりゃ。少し刺激が強すぎたかねぇ。まったく初(うぶ)な娘だ」
ビワが目を覚ますと、額の上には冷したタオルが乗っていた。
「あれ、私……」
「大丈夫ビワ?」
「……あなた」
「疲れが出たんだって、ウールさんから聞いたよ。ごめん」
「疲れ……? その姿。それにウールさんは」
「俺が戻って来たから帰ったよ。ウールさんは、もう今日は来ないって言ってたから、元の姿にね」
「あ、ごめんなさい。すぐに夕食の支度を」
「いいからそのまま寝てて。夕食ならウールさんが持ってきてくれた料理があるから。今それを、温めなおしてるところだから。どう、食べれそう」
「はい。大丈夫です」
「ビワが倒れるくらい、疲れさせてたなんて。倒れた原因が、ビワに無理をさせてた俺だろうから、しっから看病しないと」
「いえ…そんな」
「夕食の後にでも、今日あった事はレラに聞くから、ビワはゆっくり休んで」
「今日の事……」
昼間ウールと話していた事を思い出し、赤くなり熱が上がるビワ。
「顔赤いね。大丈夫?」
カズはビワの額に手を当て、まだ熱があるかを確かめる。
昼間の話しとカズの手の感触で、更に赤くなり熱が上がるビワ。
「やっぱり熱があるね。起き上がるのが大変なら、夕食はスープだけにしようか。ちゃんと飲ませてあげるから」
「だ、だだ…大丈夫です。一人で食べられます」
「そう? 無理は…」
「大丈夫!」
「……? じゃあもう少しで料理が温まっるから、それまで待ってて。レラ、代わるぞ。あとは俺が見てるから、ビワの側に居てやって」
「は~い」
料理が入った鍋が、吹き零れないように見ていたレラが、カズと交代してビワの所に来る。
「大丈夫ビワ?」
「心配かけてごめんなさい。レラ」
「ごはん食べて元気にならないと」
「そうですね」
「なんせ今夜は、カズを誘うんだから」
「あ…あれはウールさんが勝手に」
「ビワも乗り気じゃなかったっけ? えっと確か、抱・い・て! だっけ」
「レラ、静かに。カズさんに聞こえちゃう」
「にっちっち。で、どうするの」
「どうするもなにも……私達は、本当の夫婦じゃないから」
「これを切っ掛けになっちゃえば」
「も…もうこの話しはやめて……(また熱が出ちゃう)」
「やっぱりこの手の話でからかうと、ビワはキャわいいわねぇ」
「もうッ。レラ嫌い」
「何してるの? またビワをからかってるのかレラ」
「なんのことかしらな~い」
「何か言われたのビワ? また顔赤いよ。熱が上がっちゃった」
「……な…なんでもありません(カズさんに言える訳ない)」
「にっちっち(昼間はウールが来てたから隠れてなきゃならなかったけど、その代わりいい話が聞けたから、今日のあちし満足!)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そ…その話しはしないでって言ったのに。レラのいじわる」
「今カズは居ないからいいでしょ。女三人だけなんだし」
「最高ッ! 話を聞いて恥ずかしがるビワを見てると、私若返るわ」
心なしか、マーガレットの肌につやが出たように見えたのであった。
「さぁ続きを聞かせて。それからどうしたの?」
「…様、奥様。聞こえていますか?」
24
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。
グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。
しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。
田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる