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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

246 若い男の冒険者 と 始まる捜索

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 リアーデの街に戻った三人は、そのまま中央広場の露店へと買い物に向かった。(レラは鞄の中)
 広場に近づくと、何やら聞き覚えのある声がしていた。 
 人々の間から声のする方を覗き込むと、一人の女性が三人の衛兵と口論していた。
 それは紛れもなく、ココット亭の看板娘キッシュだった。

「何度も言うように、私はそんな人知りません」

「知らないと言っても、お前達の宿に泊まっていたと調べはついてるだ。我々に協力しないと、お前達親子も捕らえる事になるぞ」

「横暴です」

「なんだと。こいッ! 正直に話すまで、じっくりと聞いてやる」

 衛兵の一人がキッシュの腕を掴む。

「いたッ」

「おいやめろ! キッシュに無理強いするな」

 威勢よく若い男が飛び出し、衛兵とキッシュの間に入る。

「ちッ! またお前か。冒険者ギルドの、あのサブマスと親しいからって、いつまでも調子に乗るな。その女の所に宿泊したことは分かってるんだ。それを隠す奴は同じ罪人だ!」

「勝手なことを」

「邪魔するなら、お前も同じだ。引っ捕らえて牢にぶちこんでやる」

 衛兵の二人が、若い男とキッシュを捕らえようとし、もう一人の衛兵は、仲間を呼びにその場を離れた。
 キッシュを守りながら、若い男は衛兵と対峙する。
 離れた所から見ていたルア(カズ)は、すぐ助けに入ろうとはせず、クリスパがこの騒ぎに気付き、来るのを待った。
 しかし来たのはクリスパではなく、先程離れたの衛兵だった。
 しかも数人の衛兵仲間を引き連れ、走って来ていた。
 中央広場の衛兵は八人にまで増え、囲まれた若い男とキッシュは抵抗をやめ、衛兵に拘束された。

「そうやって始めからおとなしくして、言う事を聞いてればいいんだ」

「おい娘。お前、何を付けている? 見せろ」

「これはダメっ! 大事な物なの」

「言う事を聞かなかった罰だ」

「きゃッ」

 衛兵の一人が、キッシュからネックレスを力ずくで取ろうとする。

「おいやめろッ! キッシュに手を出すな!」

「お前は黙ってろ!」

 捕まっている若い男が、衛兵に殴られた。

「ぐッ……それでもこの国の衛兵か!」

「黙れッ! お前は衛兵の邪魔をしたんだ。暫く牢から出られると思うな」

 再度若い男を殴る衛兵。

「やめてッ! ネックレスこれは渡すから、ロレーヌに乱暴しないで」

「だったら最初っから言うことを聞け。今すぐにお前の母親も、話を聞くため連行してやる」

「お母さんは関係ない!」

「罪人が泊まった宿なんだ。遅かれ話は聞くことになるさ。お前もその男と一緒に、おとなしくしてろ」

「痛いッ」

 衛兵がキッシュに平手打ちをする。
 それを鞄の中から見ていたレラは頭に血が上り、我慢に耐えかね飛び出していった。
 そのままキッシュを叩いた衛兵の後頭部に蹴りを入れる。
 突如として後頭部から衝撃を受けた衛兵は、前のめりになり倒れる。

「あちしの友達に何してんのよッ!」

「おいコイツ、王都で噂にあったフェアリーだぞ」

「ってことは、手配書の奴がこの近くに居るのか!」

 レラを無視して、辺りを警戒する衛兵達。
 ビワを先に借家に戻らせ、魔法の効果を解き、元の姿に戻ったカズはマントを羽織り、付いているフードを被って衛兵の前に出る。

「おい、そこのお前。顔を見せろ」

「……」

「おいッ。黙ってないでなんとか言え!」

 衛兵の質問には答えず、カズは念話でレラに話し掛ける。

「『建物に隠れながら、急いで借家に戻れ。ビワは先に向かわせた。俺と同じマントを羽織って、フードを被ってる』」

「『分かった。ごめんカズ』」

「『仕方ないさ。レラが飛び出さなくても、俺が我慢できずに行ってた』」

「『キッシュをお願い』」

「『ああ』」

 レラに蹴られ倒れていた衛兵が起き上がり、その場に居た衛兵達が装備している剣を抜き、フードとマントで姿を隠したカズを囲む。

「答えないってことは、貴様が手配書の冒険者だな」

「全員油断するな。報告ではBランクらしいぞ」

 囲っていた衛兵が、フードとマントで姿を隠したカズに襲い掛かる。
 カズは慌てる事なく迫る剣を避け、一人に触れては、威力を弱めた〈ライトニングショット〉を撃ち込み気絶させ、それを繰り返した。
 全員を気絶させると、倒れた衛兵の一人からネックレスを取り返し、キッシュとロレーヌの拘束を解いた。

 カズがキッシュにネックレスを渡そうとすると、ロレーヌがそれを静止させた。

「あ、ありがと」

「待ってキッシュ。もしこの人が手配されている人だとしたら、こうなった元凶だ。助けてくれたのは感謝するが、これ以上キッシュ達家族に近づかないでくれ」

「すまない」

 一言謝罪すると、カズはネックレスをロレーヌに渡し、その場を去ろうとする。

「待って。貴方少し前にうちに来てくれた人? ネックレスを誉めて、料理を美味しいって」

 クリスパが走って来るのに気付き、カズは黙ってその場を去った。
 ロレーヌは渡されたネックレスを、キッシュに返した。

「はぁ、はぁ。大丈夫だったキッシュ。この衛兵は……ロレーヌがやったの?」

「いえ。ぼくではキッシュを守れなくて」

「ううん。ロレーヌは必死に守ってくれたよ」

「でもキッシュに怪我を」

「このくらい大丈夫。これ(ネックレス)を付けてれば、すぐに治るから」

 キッシュがネックレスを付けると、叩かれて赤くなった頬の腫れが少しずつ引く。

「……すご」

 ロレーヌはネックレスの効果を見て、驚きを隠せなかった。

「さぁ二人共、ギルドに行くわよ。話はそこで聞くわ。師匠も居るから安全よ」

 クリスパはキッシュとロレーヌを連れて、ギルドへと戻った。
 キッシュとロレーヌを二階の部屋に案内をして、クリスパはココットを連れてくるためギルドを出る。
 キッシュはネックレスに付与されている魔法〈ヒーリング〉を使い、ロレーヌの傷を治した。

「キッシュは魔法が使えるんだ」

「このネックレスを付けてるときだけね」

「他にも何か?」

「クリーンて魔法が使えるよ。掃除するときは便利なんだ。でもお母さんには、魔法ばかりに頼るなって言われるけどね」

「魔力は大丈夫なの?」

「魔力は少しずつだけど回復してくれるから、続けて何度も使わなければ、魔力切れを起こすことないの。だから大丈夫」

「話には聞いてたけど、そんな高価な物をくれるなんて、きっと一流の冒険者なんだね」

「……たぶん。よく思いだせないの。ひどいよね私って」

「そんなことない。ココット亭にはいろんな人が泊まりに来るんだから、覚えてないのは仕方ないよ。しかもその人が来たの、何年も前なんでしょ」

「だと思う。お兄さんが居たら、こんなのかなって。優しい人だった……と思う」

「ぼくなんて、いつもキッシュに助けてもらってばかりで」

「初めて会ったとき、ロレーヌは私を助けてくれたじゃない。酔っ払った冒険者から」

「ぼく呆気なくやられて、気絶しちゃったけどね。クリスパさんが来てくれなかったら、キッシュに怪我させてたよ。今日だって」

「私は嬉しかったよ。初めて会ったときも、今日も庇ってくれたもの」

「何もできなくて、ぼくは本当に弱いよ」

「強くなるために、クリ姉に訓練してもらってるんでしょ。だったらそんな弱気にならないで、がんばってよ。また何かあったら、一番に私を助けて」

「キッシュ……うん。ぼく強くなって、いつでもキッシュを守れるようになるよ!」

「私期待してるわね」

 突如として部屋の扉が開き、ココットが慌てて入ってきた。

「キッシュ大丈夫かい。怪我は?」

「大丈夫だよ。お母さん」

「良かった。ありがとうロレーヌ。キッシュを助けてくれたんだろ」

「ぼくは……何もできなくて」

「それならクリスパかい?」

「いいえ。私が行った時には、衛兵は皆気絶してたわ。とりあえず座って義母さん」

「ああ」

「じゃあ、最初から話を聞かせてくれるかしら」

 キッシュが一部始終をクリスパに話した。

「あのとき宿に来たお客が、手配書の人物だったのね」

「あの人悪い感じはしなかったけど。レラさんだって、捕まってるようじゃなかったし」

「ロレーヌはどう感じたの?」

「ぼくは……フードで顔を隠して、よく見えませんでしたが、手配されてるんですから悪い人です。ただ」

「ただ?」

「キッシュのネックレスを衛兵から取り返して、ぼくが受け取ったんですけど、一言すまないって」

「凶悪犯だと聞いてるけど、随分と変わってるわね。そういえば以前にも、変わった新人冒険者が居たような……」

「それよりクリスパ。衛兵の人達おかしくないかい?」

「そうね。最近衛兵の人達ピリピリしてるのよ。噂だと上の方から結果をだせと、急かされてるみたいなの」

「あの手配書かい?」

「ええ。今日この街に現れたのが分かったから、少し物騒になるわよ。義母さんも店を暫く閉めた方が良いかも」

「毎回来てくれるお客さんだっているんだから、簡単には閉められないよ」

「だったら気を付けて。衛兵がまた無理強いするようであれば、すぐに私を呼んでね」

「あの、ぼくがココット亭を守る…ことは難しいですが、キッシュが出掛けるときの護衛をします。いざとなったら、キッシュがクリスパさんの所に行くまでの時間を稼ぎます」

「それじゃあ、ロレーヌが危ないよ」

「そうさせて。ぼくがキッシュを危険な目にあわさないよ」

「分かったわ。お願いねロレーヌ」

「任せてください」

 ロレーヌがキッシュ達を守ると決意を固めた頃、中央広場を去ったカズはビワの後を追っていた。

「『カズ、カズ!』」

「『どうしたレラ?』」

「『衛兵がビワの後をつけてる』」

「『すぐに行く。レラは見つからないように隠れてろ』」

「『なんか変だよ。街の中の衛兵が、やけに多い』」

「『大人数で街中を一斉に探し始めたんだろ。マップで街全体を見たとき、人が門の近くに集まってたから、全ての門を閉じて、出入りできないようにしたに違いない』」

「『どうするの』」

「『話は後だ』」

「『あ! まずいよ。ビワの前からも衛兵』」

「『ビワに念話で教えてやってくれ』」

 ビワは正面から衛兵が歩いて来るのに気付き、来た道を戻ろうとする。

「『後ろからも衛兵が来てるよビワ』」

「レラ!? あ! えっと確か……念話」

「『聞こえてるのビワ』」

「『き…聞こえてます』」

「『早くそこ曲がって』」

「『はい』」

 レラの指示で、さらに細い道へと入るビワ。 
 後をつけていた衛兵が、正面から来た衛兵と合流し、走ってビワを追い掛ける。
 ビワは追っての衛兵をまくために、細い道を曲がった。

「『ビワそっちはダメ!』」

「え?」
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