257 / 774
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
246 若い男の冒険者 と 始まる捜索
しおりを挟む
リアーデの街に戻った三人は、そのまま中央広場の露店へと買い物に向かった。(レラは鞄の中)
広場に近づくと、何やら聞き覚えのある声がしていた。
人々の間から声のする方を覗き込むと、一人の女性が三人の衛兵と口論していた。
それは紛れもなく、ココット亭の看板娘キッシュだった。
「何度も言うように、私はそんな人知りません」
「知らないと言っても、お前達の宿に泊まっていたと調べはついてるだ。我々に協力しないと、お前達親子も捕らえる事になるぞ」
「横暴です」
「なんだと。こいッ! 正直に話すまで、じっくりと聞いてやる」
衛兵の一人がキッシュの腕を掴む。
「いたッ」
「おいやめろ! キッシュに無理強いするな」
威勢よく若い男が飛び出し、衛兵とキッシュの間に入る。
「ちッ! またお前か。冒険者ギルドの、あのサブマスと親しいからって、いつまでも調子に乗るな。その女の所に宿泊したことは分かってるんだ。それを隠す奴は同じ罪人だ!」
「勝手なことを」
「邪魔するなら、お前も同じだ。引っ捕らえて牢にぶちこんでやる」
衛兵の二人が、若い男とキッシュを捕らえようとし、もう一人の衛兵は、仲間を呼びにその場を離れた。
キッシュを守りながら、若い男は衛兵と対峙する。
離れた所から見ていたルア(カズ)は、すぐ助けに入ろうとはせず、クリスパがこの騒ぎに気付き、来るのを待った。
しかし来たのはクリスパではなく、先程離れたの衛兵だった。
しかも数人の衛兵仲間を引き連れ、走って来ていた。
中央広場の衛兵は八人にまで増え、囲まれた若い男とキッシュは抵抗をやめ、衛兵に拘束された。
「そうやって始めからおとなしくして、言う事を聞いてればいいんだ」
「おい娘。お前、何を付けている? 見せろ」
「これはダメっ! 大事な物なの」
「言う事を聞かなかった罰だ」
「きゃッ」
衛兵の一人が、キッシュからネックレスを力ずくで取ろうとする。
「おいやめろッ! キッシュに手を出すな!」
「お前は黙ってろ!」
捕まっている若い男が、衛兵に殴られた。
「ぐッ……それでもこの国の衛兵か!」
「黙れッ! お前は衛兵の邪魔をしたんだ。暫く牢から出られると思うな」
再度若い男を殴る衛兵。
「やめてッ! ネックレスは渡すから、ロレーヌに乱暴しないで」
「だったら最初っから言うことを聞け。今すぐにお前の母親も、話を聞くため連行してやる」
「お母さんは関係ない!」
「罪人が泊まった宿なんだ。遅かれ話は聞くことになるさ。お前もその男と一緒に、おとなしくしてろ」
「痛いッ」
衛兵がキッシュに平手打ちをする。
それを鞄の中から見ていたレラは頭に血が上り、我慢に耐えかね飛び出していった。
そのままキッシュを叩いた衛兵の後頭部に蹴りを入れる。
突如として後頭部から衝撃を受けた衛兵は、前のめりになり倒れる。
「あちしの友達に何してんのよッ!」
「おいコイツ、王都で噂にあったフェアリーだぞ」
「ってことは、手配書の奴がこの近くに居るのか!」
レラを無視して、辺りを警戒する衛兵達。
ビワを先に借家に戻らせ、魔法の効果を解き、元の姿に戻ったカズはマントを羽織り、付いているフードを被って衛兵の前に出る。
「おい、そこのお前。顔を見せろ」
「……」
「おいッ。黙ってないでなんとか言え!」
衛兵の質問には答えず、カズは念話でレラに話し掛ける。
「『建物に隠れながら、急いで借家に戻れ。ビワは先に向かわせた。俺と同じマントを羽織って、フードを被ってる』」
「『分かった。ごめんカズ』」
「『仕方ないさ。レラが飛び出さなくても、俺が我慢できずに行ってた』」
「『キッシュをお願い』」
「『ああ』」
レラに蹴られ倒れていた衛兵が起き上がり、その場に居た衛兵達が装備している剣を抜き、フードとマントで姿を隠したカズを囲む。
「答えないってことは、貴様が手配書の冒険者だな」
「全員油断するな。報告ではBランクらしいぞ」
囲っていた衛兵が、フードとマントで姿を隠したカズに襲い掛かる。
カズは慌てる事なく迫る剣を避け、一人に触れては、威力を弱めた〈ライトニングショット〉を撃ち込み気絶させ、それを繰り返した。
全員を気絶させると、倒れた衛兵の一人からネックレスを取り返し、キッシュとロレーヌの拘束を解いた。
カズがキッシュにネックレスを渡そうとすると、ロレーヌがそれを静止させた。
「あ、ありがと」
「待ってキッシュ。もしこの人が手配されている人だとしたら、こうなった元凶だ。助けてくれたのは感謝するが、これ以上キッシュ達家族に近づかないでくれ」
「すまない」
一言謝罪すると、カズはネックレスをロレーヌに渡し、その場を去ろうとする。
「待って。貴方少し前にうちに来てくれた人? ネックレスを誉めて、料理を美味しいって」
クリスパが走って来るのに気付き、カズは黙ってその場を去った。
ロレーヌは渡されたネックレスを、キッシュに返した。
「はぁ、はぁ。大丈夫だったキッシュ。この衛兵は……ロレーヌがやったの?」
「いえ。ぼくではキッシュを守れなくて」
「ううん。ロレーヌは必死に守ってくれたよ」
「でもキッシュに怪我を」
「このくらい大丈夫。これ(ネックレス)を付けてれば、すぐに治るから」
キッシュがネックレスを付けると、叩かれて赤くなった頬の腫れが少しずつ引く。
「……すご」
ロレーヌはネックレスの効果を見て、驚きを隠せなかった。
「さぁ二人共、ギルドに行くわよ。話はそこで聞くわ。師匠も居るから安全よ」
クリスパはキッシュとロレーヌを連れて、ギルドへと戻った。
キッシュとロレーヌを二階の部屋に案内をして、クリスパはココットを連れてくるためギルドを出る。
キッシュはネックレスに付与されている魔法〈ヒーリング〉を使い、ロレーヌの傷を治した。
「キッシュは魔法が使えるんだ」
「このネックレスを付けてるときだけね」
「他にも何か?」
「クリーンて魔法が使えるよ。掃除するときは便利なんだ。でもお母さんには、魔法ばかりに頼るなって言われるけどね」
「魔力は大丈夫なの?」
「魔力は少しずつだけど回復してくれるから、続けて何度も使わなければ、魔力切れを起こすことないの。だから大丈夫」
「話には聞いてたけど、そんな高価な物をくれるなんて、きっと一流の冒険者なんだね」
「……たぶん。よく思いだせないの。ひどいよね私って」
「そんなことない。ココット亭にはいろんな人が泊まりに来るんだから、覚えてないのは仕方ないよ。しかもその人が来たの、何年も前なんでしょ」
「だと思う。お兄さんが居たら、こんなのかなって。優しい人だった……と思う」
「ぼくなんて、いつもキッシュに助けてもらってばかりで」
「初めて会ったとき、ロレーヌは私を助けてくれたじゃない。酔っ払った冒険者から」
「ぼく呆気なくやられて、気絶しちゃったけどね。クリスパさんが来てくれなかったら、キッシュに怪我させてたよ。今日だって」
「私は嬉しかったよ。初めて会ったときも、今日も庇ってくれたもの」
「何もできなくて、ぼくは本当に弱いよ」
「強くなるために、クリ姉に訓練してもらってるんでしょ。だったらそんな弱気にならないで、がんばってよ。また何かあったら、一番に私を助けて」
「キッシュ……うん。ぼく強くなって、いつでもキッシュを守れるようになるよ!」
「私期待してるわね」
突如として部屋の扉が開き、ココットが慌てて入ってきた。
「キッシュ大丈夫かい。怪我は?」
「大丈夫だよ。お母さん」
「良かった。ありがとうロレーヌ。キッシュを助けてくれたんだろ」
「ぼくは……何もできなくて」
「それならクリスパかい?」
「いいえ。私が行った時には、衛兵は皆気絶してたわ。とりあえず座って義母さん」
「ああ」
「じゃあ、最初から話を聞かせてくれるかしら」
キッシュが一部始終をクリスパに話した。
「あのとき宿に来たお客が、手配書の人物だったのね」
「あの人悪い感じはしなかったけど。レラさんだって、捕まってるようじゃなかったし」
「ロレーヌはどう感じたの?」
「ぼくは……フードで顔を隠して、よく見えませんでしたが、手配されてるんですから悪い人です。ただ」
「ただ?」
「キッシュのネックレスを衛兵から取り返して、ぼくが受け取ったんですけど、一言すまないって」
「凶悪犯だと聞いてるけど、随分と変わってるわね。そういえば以前にも、変わった新人冒険者が居たような……」
「それよりクリスパ。衛兵の人達おかしくないかい?」
「そうね。最近衛兵の人達ピリピリしてるのよ。噂だと上の方から結果をだせと、急かされてるみたいなの」
「あの手配書かい?」
「ええ。今日この街に現れたのが分かったから、少し物騒になるわよ。義母さんも店を暫く閉めた方が良いかも」
「毎回来てくれるお客さんだっているんだから、簡単には閉められないよ」
「だったら気を付けて。衛兵がまた無理強いするようであれば、すぐに私を呼んでね」
「あの、ぼくがココット亭を守る…ことは難しいですが、キッシュが出掛けるときの護衛をします。いざとなったら、キッシュがクリスパさんの所に行くまでの時間を稼ぎます」
「それじゃあ、ロレーヌが危ないよ」
「そうさせて。ぼくがキッシュを危険な目にあわさないよ」
「分かったわ。お願いねロレーヌ」
「任せてください」
ロレーヌがキッシュ達を守ると決意を固めた頃、中央広場を去ったカズはビワの後を追っていた。
「『カズ、カズ!』」
「『どうしたレラ?』」
「『衛兵がビワの後をつけてる』」
「『すぐに行く。レラは見つからないように隠れてろ』」
「『なんか変だよ。街の中の衛兵が、やけに多い』」
「『大人数で街中を一斉に探し始めたんだろ。マップで街全体を見たとき、人が門の近くに集まってたから、全ての門を閉じて、出入りできないようにしたに違いない』」
「『どうするの』」
「『話は後だ』」
「『あ! まずいよ。ビワの前からも衛兵』」
「『ビワに念話で教えてやってくれ』」
ビワは正面から衛兵が歩いて来るのに気付き、来た道を戻ろうとする。
「『後ろからも衛兵が来てるよビワ』」
「レラ!? あ! えっと確か……念話」
「『聞こえてるのビワ』」
「『き…聞こえてます』」
「『早くそこ曲がって』」
「『はい』」
レラの指示で、さらに細い道へと入るビワ。
後をつけていた衛兵が、正面から来た衛兵と合流し、走ってビワを追い掛ける。
ビワは追っての衛兵をまくために、細い道を曲がった。
「『ビワそっちはダメ!』」
「え?」
広場に近づくと、何やら聞き覚えのある声がしていた。
人々の間から声のする方を覗き込むと、一人の女性が三人の衛兵と口論していた。
それは紛れもなく、ココット亭の看板娘キッシュだった。
「何度も言うように、私はそんな人知りません」
「知らないと言っても、お前達の宿に泊まっていたと調べはついてるだ。我々に協力しないと、お前達親子も捕らえる事になるぞ」
「横暴です」
「なんだと。こいッ! 正直に話すまで、じっくりと聞いてやる」
衛兵の一人がキッシュの腕を掴む。
「いたッ」
「おいやめろ! キッシュに無理強いするな」
威勢よく若い男が飛び出し、衛兵とキッシュの間に入る。
「ちッ! またお前か。冒険者ギルドの、あのサブマスと親しいからって、いつまでも調子に乗るな。その女の所に宿泊したことは分かってるんだ。それを隠す奴は同じ罪人だ!」
「勝手なことを」
「邪魔するなら、お前も同じだ。引っ捕らえて牢にぶちこんでやる」
衛兵の二人が、若い男とキッシュを捕らえようとし、もう一人の衛兵は、仲間を呼びにその場を離れた。
キッシュを守りながら、若い男は衛兵と対峙する。
離れた所から見ていたルア(カズ)は、すぐ助けに入ろうとはせず、クリスパがこの騒ぎに気付き、来るのを待った。
しかし来たのはクリスパではなく、先程離れたの衛兵だった。
しかも数人の衛兵仲間を引き連れ、走って来ていた。
中央広場の衛兵は八人にまで増え、囲まれた若い男とキッシュは抵抗をやめ、衛兵に拘束された。
「そうやって始めからおとなしくして、言う事を聞いてればいいんだ」
「おい娘。お前、何を付けている? 見せろ」
「これはダメっ! 大事な物なの」
「言う事を聞かなかった罰だ」
「きゃッ」
衛兵の一人が、キッシュからネックレスを力ずくで取ろうとする。
「おいやめろッ! キッシュに手を出すな!」
「お前は黙ってろ!」
捕まっている若い男が、衛兵に殴られた。
「ぐッ……それでもこの国の衛兵か!」
「黙れッ! お前は衛兵の邪魔をしたんだ。暫く牢から出られると思うな」
再度若い男を殴る衛兵。
「やめてッ! ネックレスは渡すから、ロレーヌに乱暴しないで」
「だったら最初っから言うことを聞け。今すぐにお前の母親も、話を聞くため連行してやる」
「お母さんは関係ない!」
「罪人が泊まった宿なんだ。遅かれ話は聞くことになるさ。お前もその男と一緒に、おとなしくしてろ」
「痛いッ」
衛兵がキッシュに平手打ちをする。
それを鞄の中から見ていたレラは頭に血が上り、我慢に耐えかね飛び出していった。
そのままキッシュを叩いた衛兵の後頭部に蹴りを入れる。
突如として後頭部から衝撃を受けた衛兵は、前のめりになり倒れる。
「あちしの友達に何してんのよッ!」
「おいコイツ、王都で噂にあったフェアリーだぞ」
「ってことは、手配書の奴がこの近くに居るのか!」
レラを無視して、辺りを警戒する衛兵達。
ビワを先に借家に戻らせ、魔法の効果を解き、元の姿に戻ったカズはマントを羽織り、付いているフードを被って衛兵の前に出る。
「おい、そこのお前。顔を見せろ」
「……」
「おいッ。黙ってないでなんとか言え!」
衛兵の質問には答えず、カズは念話でレラに話し掛ける。
「『建物に隠れながら、急いで借家に戻れ。ビワは先に向かわせた。俺と同じマントを羽織って、フードを被ってる』」
「『分かった。ごめんカズ』」
「『仕方ないさ。レラが飛び出さなくても、俺が我慢できずに行ってた』」
「『キッシュをお願い』」
「『ああ』」
レラに蹴られ倒れていた衛兵が起き上がり、その場に居た衛兵達が装備している剣を抜き、フードとマントで姿を隠したカズを囲む。
「答えないってことは、貴様が手配書の冒険者だな」
「全員油断するな。報告ではBランクらしいぞ」
囲っていた衛兵が、フードとマントで姿を隠したカズに襲い掛かる。
カズは慌てる事なく迫る剣を避け、一人に触れては、威力を弱めた〈ライトニングショット〉を撃ち込み気絶させ、それを繰り返した。
全員を気絶させると、倒れた衛兵の一人からネックレスを取り返し、キッシュとロレーヌの拘束を解いた。
カズがキッシュにネックレスを渡そうとすると、ロレーヌがそれを静止させた。
「あ、ありがと」
「待ってキッシュ。もしこの人が手配されている人だとしたら、こうなった元凶だ。助けてくれたのは感謝するが、これ以上キッシュ達家族に近づかないでくれ」
「すまない」
一言謝罪すると、カズはネックレスをロレーヌに渡し、その場を去ろうとする。
「待って。貴方少し前にうちに来てくれた人? ネックレスを誉めて、料理を美味しいって」
クリスパが走って来るのに気付き、カズは黙ってその場を去った。
ロレーヌは渡されたネックレスを、キッシュに返した。
「はぁ、はぁ。大丈夫だったキッシュ。この衛兵は……ロレーヌがやったの?」
「いえ。ぼくではキッシュを守れなくて」
「ううん。ロレーヌは必死に守ってくれたよ」
「でもキッシュに怪我を」
「このくらい大丈夫。これ(ネックレス)を付けてれば、すぐに治るから」
キッシュがネックレスを付けると、叩かれて赤くなった頬の腫れが少しずつ引く。
「……すご」
ロレーヌはネックレスの効果を見て、驚きを隠せなかった。
「さぁ二人共、ギルドに行くわよ。話はそこで聞くわ。師匠も居るから安全よ」
クリスパはキッシュとロレーヌを連れて、ギルドへと戻った。
キッシュとロレーヌを二階の部屋に案内をして、クリスパはココットを連れてくるためギルドを出る。
キッシュはネックレスに付与されている魔法〈ヒーリング〉を使い、ロレーヌの傷を治した。
「キッシュは魔法が使えるんだ」
「このネックレスを付けてるときだけね」
「他にも何か?」
「クリーンて魔法が使えるよ。掃除するときは便利なんだ。でもお母さんには、魔法ばかりに頼るなって言われるけどね」
「魔力は大丈夫なの?」
「魔力は少しずつだけど回復してくれるから、続けて何度も使わなければ、魔力切れを起こすことないの。だから大丈夫」
「話には聞いてたけど、そんな高価な物をくれるなんて、きっと一流の冒険者なんだね」
「……たぶん。よく思いだせないの。ひどいよね私って」
「そんなことない。ココット亭にはいろんな人が泊まりに来るんだから、覚えてないのは仕方ないよ。しかもその人が来たの、何年も前なんでしょ」
「だと思う。お兄さんが居たら、こんなのかなって。優しい人だった……と思う」
「ぼくなんて、いつもキッシュに助けてもらってばかりで」
「初めて会ったとき、ロレーヌは私を助けてくれたじゃない。酔っ払った冒険者から」
「ぼく呆気なくやられて、気絶しちゃったけどね。クリスパさんが来てくれなかったら、キッシュに怪我させてたよ。今日だって」
「私は嬉しかったよ。初めて会ったときも、今日も庇ってくれたもの」
「何もできなくて、ぼくは本当に弱いよ」
「強くなるために、クリ姉に訓練してもらってるんでしょ。だったらそんな弱気にならないで、がんばってよ。また何かあったら、一番に私を助けて」
「キッシュ……うん。ぼく強くなって、いつでもキッシュを守れるようになるよ!」
「私期待してるわね」
突如として部屋の扉が開き、ココットが慌てて入ってきた。
「キッシュ大丈夫かい。怪我は?」
「大丈夫だよ。お母さん」
「良かった。ありがとうロレーヌ。キッシュを助けてくれたんだろ」
「ぼくは……何もできなくて」
「それならクリスパかい?」
「いいえ。私が行った時には、衛兵は皆気絶してたわ。とりあえず座って義母さん」
「ああ」
「じゃあ、最初から話を聞かせてくれるかしら」
キッシュが一部始終をクリスパに話した。
「あのとき宿に来たお客が、手配書の人物だったのね」
「あの人悪い感じはしなかったけど。レラさんだって、捕まってるようじゃなかったし」
「ロレーヌはどう感じたの?」
「ぼくは……フードで顔を隠して、よく見えませんでしたが、手配されてるんですから悪い人です。ただ」
「ただ?」
「キッシュのネックレスを衛兵から取り返して、ぼくが受け取ったんですけど、一言すまないって」
「凶悪犯だと聞いてるけど、随分と変わってるわね。そういえば以前にも、変わった新人冒険者が居たような……」
「それよりクリスパ。衛兵の人達おかしくないかい?」
「そうね。最近衛兵の人達ピリピリしてるのよ。噂だと上の方から結果をだせと、急かされてるみたいなの」
「あの手配書かい?」
「ええ。今日この街に現れたのが分かったから、少し物騒になるわよ。義母さんも店を暫く閉めた方が良いかも」
「毎回来てくれるお客さんだっているんだから、簡単には閉められないよ」
「だったら気を付けて。衛兵がまた無理強いするようであれば、すぐに私を呼んでね」
「あの、ぼくがココット亭を守る…ことは難しいですが、キッシュが出掛けるときの護衛をします。いざとなったら、キッシュがクリスパさんの所に行くまでの時間を稼ぎます」
「それじゃあ、ロレーヌが危ないよ」
「そうさせて。ぼくがキッシュを危険な目にあわさないよ」
「分かったわ。お願いねロレーヌ」
「任せてください」
ロレーヌがキッシュ達を守ると決意を固めた頃、中央広場を去ったカズはビワの後を追っていた。
「『カズ、カズ!』」
「『どうしたレラ?』」
「『衛兵がビワの後をつけてる』」
「『すぐに行く。レラは見つからないように隠れてろ』」
「『なんか変だよ。街の中の衛兵が、やけに多い』」
「『大人数で街中を一斉に探し始めたんだろ。マップで街全体を見たとき、人が門の近くに集まってたから、全ての門を閉じて、出入りできないようにしたに違いない』」
「『どうするの』」
「『話は後だ』」
「『あ! まずいよ。ビワの前からも衛兵』」
「『ビワに念話で教えてやってくれ』」
ビワは正面から衛兵が歩いて来るのに気付き、来た道を戻ろうとする。
「『後ろからも衛兵が来てるよビワ』」
「レラ!? あ! えっと確か……念話」
「『聞こえてるのビワ』」
「『き…聞こえてます』」
「『早くそこ曲がって』」
「『はい』」
レラの指示で、さらに細い道へと入るビワ。
後をつけていた衛兵が、正面から来た衛兵と合流し、走ってビワを追い掛ける。
ビワは追っての衛兵をまくために、細い道を曲がった。
「『ビワそっちはダメ!』」
「え?」
23
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる