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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
245 逃亡中の安らぐ一時
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フリートは第3ギルドへと戻っている頃、リアーデではビワが屋敷に戻らないように、レラが説得していた。
「だからねビワ。カズもそう思うでしょ」
「そうだな……もしビワが良いと言うなら、このまま俺達と居ないか?」
「……カズぅ。そこは一緒に居よう! か、ここに居てくれ! でしょ」
「……(結婚を申し込んでるんじゃないんだから)」
「私が居たら迷惑では?」
「見ての通り、今の俺は凶悪な冒険者みたいだから。迷惑を掛けるとしたら俺の方だよ。だからここに残るか、お屋敷に戻るかは、ビワ自身に決めてほしい」
「……お屋敷に戻っても、奥様達に迷惑が掛かるなら、私このまま……カズさん達と居たいです。私なんて非力で役に立ちませんが」
「大丈夫だよビワ。あちしなんて、食べて寝るばかりなにの、カズは面倒見てくれてるんだから。ビワの方がよっぽど役に立つよ」
「なんだ食っちゃ寝のごく潰しは、自分のことがよく分かってたのか。俺はてっきり」
「てっきり何よ。どーせあちしは、食っちゃ寝のごく潰しだもん! フンっだ!」
「ありがとうレラさん。私あなたの分まで、カズに迷惑掛からないように、がんばって御奉仕します」
「ビワったらダメだよ。御奉仕なんて言ったら、カズはエロいこと考えるから」
「このッ! 変なこと言うな。この空飛ぶ肉だんご」
「なッ、誰が肉だんごよ!」
「最近は移動も鞄の中だから、全身が丸くなってきたんじゃないか
「そんなこと……」
レラは自分のお腹や二の腕、太ももを摘まんで言葉に詰まる。
「えーん。カズがいじめるよビワ」
ビワの胸に飛び込むレラ。
「レラさんは丸くなっても、かわいいですよ」
「ビワまでッ!」
「あ、ごめんなさい。これからはお家の中で、一緒にお掃除とかしましょう。そうすれば元の体型に戻りますよ」
「あちしがんばる。カズもこれで、ドワーフのおばさんに言い訳しなくてよくなったもんね」
「大家さんに? ああ、そうだった」
「これからここにいる間は、カズとビワは訳あり夫婦ってことで、うまくやらないと」
「あ…はい。そ…そうですね、よろしくお願いします。カズさん」
「それじゃダメだよビワ。間違えないように、常にルアって呼ばないと。あちしは人と会わないからカズって呼ぶけど」
「そうでした。ルアさん」
「夫婦なんだから、さんも付けなし。もしくは『あなた』って呼ばないと」
「あ…あな…た……」
ビワの顔がみるみる赤くなる。
「無茶振りするなよレラ。無理しなくても、ビワの呼びやすいようにしてくれて良いから」
「……はい。……あなた」
恥ずかしそうにするビワを見て、カズも顔を赤くする。
「その内に慣れるでしょ(見てるあちしは面白いけどね)」
「と、とりあえず、ここに住むために、必要な物を買い出しに行こう。ビワの服も買わないと」
「私、何も持たずにお屋敷を出てしまったので……」
「それは心配しなくてもいいから。俺達の設定からすれば、持ち物が少ないのは、辻褄があってちょうど良いから。それに少しの間暮らせるだけのお金は、なんとか持ってたって事にすれば」
「そう…ですね。……うん。私カズさんにご迷惑掛からないよう、立派な奥さんになります」
「無理しないでいいから。あと仮の夫婦だから」
「はい。……あ(私、立派な奥さんなんて)」
自分の発言に気付き、またもや顔を赤くするビワ。
「とりあえず、これから俺が働きに出ている間は、レラが勝手に行動しないように見張ってて。なるべく俺も近くで働くようにするから。何かおかしな感じがしたら、念話で連絡して。すぐに戻ってくるから。レラもビワのこと頼むぞ」
「あちしに任せなさい」
「よろしく。レラさん」
「レラさんじゃなくて、レラよ。レラ」
こうして種族違いの駆け落ちした二人という設定で、リアーデの街でドワーフが所有する三階建ての屋上にある木造の家で、生活する事になった。
カズはルアと名乗り魔法で姿を変え、ビワはルアの妻として、周囲の人達に怪しまれないようにして暮らのだった。
フェアリーのレラは、カズと会う前の時のように隠れ住み、外に出る時は人々が寝静まった真っ暗な深夜だけとなった。
最初は人と獣人の異種族夫婦だと悪目立ちもしたが、大家のウールがいつもビワの味方に付き助けてくれた。
ウールは裁縫が得意らしく、ビワに衣服などを作ってくれたりもし、慣れない土地での生活が大変だろうと、様々なことを手伝ってくれていた。
ひっそりと暮らそうとする三人には、お節介と思えるウールの行為だが、親切を無下にすることもできず、ボロが出ないように気を付けながら、近所付き合いをするのだった。
幸いウールとの付き合いでビワのぎこちなさも消えて、リアーデの暮らしにも慣れ、街に溶け込み始めていた。
ただここに来て、もっぱらの悩みのたねは、レラが毎日愚痴を言うようになったことだ。
『真っ暗な深夜しか出掛けられないなんて、あちしはコウモリか! たまには昼間の買い物にでも連れてけ!』と、毎日カズに文句を言う。
誰にも見つからずに、こそこそと隠れ住むレラだからこそ、その愚痴も仕方がない事だった。
そして偽装夫婦で暮らす日々は、怖いように何事もなく過ぎ去り、一ヶ月が経とうとしていたある日、事は急に起こった。
ルアはレラの不満を聞き、気晴らしにビワと三人で街の外に出ていた。
街を出る際の名目上は、ルアが冒険者ギルドで受けた、薬草採取の依頼に妻のビワが興味があり付いてきた、と言うことにしたのだった。
ルアは実際に、冒険者ギルドで薬草採取の依頼は受けているので、門番の衛兵に何か聞かれても、怪しまれることはなかった。
フェイクでギルドカードを誤魔化し、簡単な依頼を受けていたので、しっかりと調べられる事はなかった。
ただ一番の危険は、ギルドの受付でクリスパと会うことだった。
ルアはなるべく、他の受付と話をするようにして、クリスパをそれとなく避けていた。
もちろん何度が話し掛けられる事もあったが、怪しまれないように受け答えをして、なんとか乗り切っていた。
ルアは女の勘がいつ発動するかと、毎回ヒヤヒヤしていたのだった。
三人は少し足を延ばし、街から離れた林の近くまで出掛けた。
肩から下げた鞄の中には、もちろんレラが隠れている。
見える範囲に人が居ないのを確認すると、レラに合図をして鞄から出す。
「やっと明るい昼間に、思いっきり飛び回れる」
「常に【マップ】で確認をしておくけど、隠れる場所が少ない所に行くなよ」
「分かってるもん」
「街から結構歩いて来たから疲れたでしょ。ビワは木陰て休んで。俺は薬草を採取してるから」
「はい。少し休んだら、私も手伝うね」
「ねぇカズ。少しは情報集まったの? もうここに来てから一ヶ月は経つのよ」
「ギルドに来ている冒険者達の噂話しや、受付で話を聞いたりもしたけど、手配書に書かれたし情報以外は入ってこないんだ。門の衛兵にもそれとなく聞いたけど、やっぱり同じ」
「何度か王都に行って調べたんでしょ。それでもダメなの」
「懸賞金目当てで探してる連中はいるんだけど、そんな活発には動いてないみたいなんだ(やっぱりギルマスや衛兵の上層部が関わってるってことか。直接行って、貴族区でマナの揺らぎの発生源を探すしか。だとすると、レラとビワから離れないと)」
「じゃあどうやって真犯人を見つけるの?」
「どこかの貴族が動いてるとか、ギルマス達が行動してるとか、噂話でもあれば探れそうなんだけど(今話すことはできないな)」
「こっそりフローラの所に行ってみたら?」
「俺が第2ギルドを拠点としてるのが知られてるから、会いに行くのは難しいな。常に監視も居るだろうし(折を見て行ってみるつもりだけど)」
「転移して直接フローラの所に行けば良いじゃないの。そうすればきっと……あ!」
「どうしたレラ?」
「いやあのね。前にあちしがフローラの所に一人で行ったでしょ。ほら、カズと会わない訳を聞きに行ったとき」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「あの時カズが気に掛けると思って言わなかったんだけど、フローラにこそッと言われたの。自分も少しだけ、カズのこと忘れてるって」
「フローラさんが!?」
「少しだけよ」
「だから少し、よそよそしかったのか」
「黙っててごめん。落ち着いたら言おうと思ってたら、色々あって忘れちゃったの」
「いいよ。フローラさんに監視が付く理由も、それでなんなく分かったから(俺のことを庇ってくれたのかなぁ? やっぱり一度フローラさんと会って、話を聞いた方が良いか)」
「お話しは終わった? そろそろ私も手伝って良い?」
ビワが薬草採取を手伝うと言ってきた。
「ああ。これと同じのを摘んで」
「はい」
「あちしもやる」
ビワはレラと薬草の採取を始めた。
三人でやるとはかどり、小一時間程で目的の量を採取出来た。
「もういいの?」
「二人が手伝ってくれたから、早く終わったよ」
「時間もちょうどいいから、お昼にしましょう」
ビワが布を広げて、昼食の用意をする。
相も変わらず最初に料理を口に運んだのは、レラだった。
「ビワも料理が上手くなったね」
「うん。美味しいよビワ」
「ありがとう二人共。はいお茶よ。あなた」
「にっちっち。もう立派な人妻ねビワ。子供はいつ作るの? 三人くらいほしい?」
「んぅぐ! ごほッごほッ。レラ」
「三人なんて……一人でも…いい」
顔を赤らめ指を一本立てるビワ。
「ちょッ……ビワまで」
「うふふ。レラの話に合わせてみたの」
「やるわねビワ」
「私だって、いつもからかわれるばかりじゃないのよ(子供……)」
「にっちっち。あー面白い!」
「まったくもう。食べ終わったら街に戻るよ」
「えぇー。もうちょっと遊びたい」
「子供かッ!」
「あちしがカズとビワの子供? だったら甘やかして」
「良い子だから、お父さんの言うこと聞きなさ。じゃないとお母さん怒るわよ。レラ」
「はーい分かったよ。ビワお母さん」
「うん。レラは良い子ね」
「ねぇビワお母さん。あちし、弟か妹がほしい」
「それはお父さんと相談しないとね」
「はは…はぁ……(いつの間にか、レラのふりに付いていけるようになったんだなビワ。明るくなって嬉しいけど、少し複雑だ)」
カズは黙ってレラとビワのやり取りが終わるのを待った。
「ど…どうでした? こうすれば、カズさんが笑ってくれるって、レラが教えてくれて」
「あ……うん。とても良かったよビワ」
「あ…ありがとう」
久々に息抜きをした三人は、リアーデの街へと戻って行く。
「だからねビワ。カズもそう思うでしょ」
「そうだな……もしビワが良いと言うなら、このまま俺達と居ないか?」
「……カズぅ。そこは一緒に居よう! か、ここに居てくれ! でしょ」
「……(結婚を申し込んでるんじゃないんだから)」
「私が居たら迷惑では?」
「見ての通り、今の俺は凶悪な冒険者みたいだから。迷惑を掛けるとしたら俺の方だよ。だからここに残るか、お屋敷に戻るかは、ビワ自身に決めてほしい」
「……お屋敷に戻っても、奥様達に迷惑が掛かるなら、私このまま……カズさん達と居たいです。私なんて非力で役に立ちませんが」
「大丈夫だよビワ。あちしなんて、食べて寝るばかりなにの、カズは面倒見てくれてるんだから。ビワの方がよっぽど役に立つよ」
「なんだ食っちゃ寝のごく潰しは、自分のことがよく分かってたのか。俺はてっきり」
「てっきり何よ。どーせあちしは、食っちゃ寝のごく潰しだもん! フンっだ!」
「ありがとうレラさん。私あなたの分まで、カズに迷惑掛からないように、がんばって御奉仕します」
「ビワったらダメだよ。御奉仕なんて言ったら、カズはエロいこと考えるから」
「このッ! 変なこと言うな。この空飛ぶ肉だんご」
「なッ、誰が肉だんごよ!」
「最近は移動も鞄の中だから、全身が丸くなってきたんじゃないか
「そんなこと……」
レラは自分のお腹や二の腕、太ももを摘まんで言葉に詰まる。
「えーん。カズがいじめるよビワ」
ビワの胸に飛び込むレラ。
「レラさんは丸くなっても、かわいいですよ」
「ビワまでッ!」
「あ、ごめんなさい。これからはお家の中で、一緒にお掃除とかしましょう。そうすれば元の体型に戻りますよ」
「あちしがんばる。カズもこれで、ドワーフのおばさんに言い訳しなくてよくなったもんね」
「大家さんに? ああ、そうだった」
「これからここにいる間は、カズとビワは訳あり夫婦ってことで、うまくやらないと」
「あ…はい。そ…そうですね、よろしくお願いします。カズさん」
「それじゃダメだよビワ。間違えないように、常にルアって呼ばないと。あちしは人と会わないからカズって呼ぶけど」
「そうでした。ルアさん」
「夫婦なんだから、さんも付けなし。もしくは『あなた』って呼ばないと」
「あ…あな…た……」
ビワの顔がみるみる赤くなる。
「無茶振りするなよレラ。無理しなくても、ビワの呼びやすいようにしてくれて良いから」
「……はい。……あなた」
恥ずかしそうにするビワを見て、カズも顔を赤くする。
「その内に慣れるでしょ(見てるあちしは面白いけどね)」
「と、とりあえず、ここに住むために、必要な物を買い出しに行こう。ビワの服も買わないと」
「私、何も持たずにお屋敷を出てしまったので……」
「それは心配しなくてもいいから。俺達の設定からすれば、持ち物が少ないのは、辻褄があってちょうど良いから。それに少しの間暮らせるだけのお金は、なんとか持ってたって事にすれば」
「そう…ですね。……うん。私カズさんにご迷惑掛からないよう、立派な奥さんになります」
「無理しないでいいから。あと仮の夫婦だから」
「はい。……あ(私、立派な奥さんなんて)」
自分の発言に気付き、またもや顔を赤くするビワ。
「とりあえず、これから俺が働きに出ている間は、レラが勝手に行動しないように見張ってて。なるべく俺も近くで働くようにするから。何かおかしな感じがしたら、念話で連絡して。すぐに戻ってくるから。レラもビワのこと頼むぞ」
「あちしに任せなさい」
「よろしく。レラさん」
「レラさんじゃなくて、レラよ。レラ」
こうして種族違いの駆け落ちした二人という設定で、リアーデの街でドワーフが所有する三階建ての屋上にある木造の家で、生活する事になった。
カズはルアと名乗り魔法で姿を変え、ビワはルアの妻として、周囲の人達に怪しまれないようにして暮らのだった。
フェアリーのレラは、カズと会う前の時のように隠れ住み、外に出る時は人々が寝静まった真っ暗な深夜だけとなった。
最初は人と獣人の異種族夫婦だと悪目立ちもしたが、大家のウールがいつもビワの味方に付き助けてくれた。
ウールは裁縫が得意らしく、ビワに衣服などを作ってくれたりもし、慣れない土地での生活が大変だろうと、様々なことを手伝ってくれていた。
ひっそりと暮らそうとする三人には、お節介と思えるウールの行為だが、親切を無下にすることもできず、ボロが出ないように気を付けながら、近所付き合いをするのだった。
幸いウールとの付き合いでビワのぎこちなさも消えて、リアーデの暮らしにも慣れ、街に溶け込み始めていた。
ただここに来て、もっぱらの悩みのたねは、レラが毎日愚痴を言うようになったことだ。
『真っ暗な深夜しか出掛けられないなんて、あちしはコウモリか! たまには昼間の買い物にでも連れてけ!』と、毎日カズに文句を言う。
誰にも見つからずに、こそこそと隠れ住むレラだからこそ、その愚痴も仕方がない事だった。
そして偽装夫婦で暮らす日々は、怖いように何事もなく過ぎ去り、一ヶ月が経とうとしていたある日、事は急に起こった。
ルアはレラの不満を聞き、気晴らしにビワと三人で街の外に出ていた。
街を出る際の名目上は、ルアが冒険者ギルドで受けた、薬草採取の依頼に妻のビワが興味があり付いてきた、と言うことにしたのだった。
ルアは実際に、冒険者ギルドで薬草採取の依頼は受けているので、門番の衛兵に何か聞かれても、怪しまれることはなかった。
フェイクでギルドカードを誤魔化し、簡単な依頼を受けていたので、しっかりと調べられる事はなかった。
ただ一番の危険は、ギルドの受付でクリスパと会うことだった。
ルアはなるべく、他の受付と話をするようにして、クリスパをそれとなく避けていた。
もちろん何度が話し掛けられる事もあったが、怪しまれないように受け答えをして、なんとか乗り切っていた。
ルアは女の勘がいつ発動するかと、毎回ヒヤヒヤしていたのだった。
三人は少し足を延ばし、街から離れた林の近くまで出掛けた。
肩から下げた鞄の中には、もちろんレラが隠れている。
見える範囲に人が居ないのを確認すると、レラに合図をして鞄から出す。
「やっと明るい昼間に、思いっきり飛び回れる」
「常に【マップ】で確認をしておくけど、隠れる場所が少ない所に行くなよ」
「分かってるもん」
「街から結構歩いて来たから疲れたでしょ。ビワは木陰て休んで。俺は薬草を採取してるから」
「はい。少し休んだら、私も手伝うね」
「ねぇカズ。少しは情報集まったの? もうここに来てから一ヶ月は経つのよ」
「ギルドに来ている冒険者達の噂話しや、受付で話を聞いたりもしたけど、手配書に書かれたし情報以外は入ってこないんだ。門の衛兵にもそれとなく聞いたけど、やっぱり同じ」
「何度か王都に行って調べたんでしょ。それでもダメなの」
「懸賞金目当てで探してる連中はいるんだけど、そんな活発には動いてないみたいなんだ(やっぱりギルマスや衛兵の上層部が関わってるってことか。直接行って、貴族区でマナの揺らぎの発生源を探すしか。だとすると、レラとビワから離れないと)」
「じゃあどうやって真犯人を見つけるの?」
「どこかの貴族が動いてるとか、ギルマス達が行動してるとか、噂話でもあれば探れそうなんだけど(今話すことはできないな)」
「こっそりフローラの所に行ってみたら?」
「俺が第2ギルドを拠点としてるのが知られてるから、会いに行くのは難しいな。常に監視も居るだろうし(折を見て行ってみるつもりだけど)」
「転移して直接フローラの所に行けば良いじゃないの。そうすればきっと……あ!」
「どうしたレラ?」
「いやあのね。前にあちしがフローラの所に一人で行ったでしょ。ほら、カズと会わない訳を聞きに行ったとき」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「あの時カズが気に掛けると思って言わなかったんだけど、フローラにこそッと言われたの。自分も少しだけ、カズのこと忘れてるって」
「フローラさんが!?」
「少しだけよ」
「だから少し、よそよそしかったのか」
「黙っててごめん。落ち着いたら言おうと思ってたら、色々あって忘れちゃったの」
「いいよ。フローラさんに監視が付く理由も、それでなんなく分かったから(俺のことを庇ってくれたのかなぁ? やっぱり一度フローラさんと会って、話を聞いた方が良いか)」
「お話しは終わった? そろそろ私も手伝って良い?」
ビワが薬草採取を手伝うと言ってきた。
「ああ。これと同じのを摘んで」
「はい」
「あちしもやる」
ビワはレラと薬草の採取を始めた。
三人でやるとはかどり、小一時間程で目的の量を採取出来た。
「もういいの?」
「二人が手伝ってくれたから、早く終わったよ」
「時間もちょうどいいから、お昼にしましょう」
ビワが布を広げて、昼食の用意をする。
相も変わらず最初に料理を口に運んだのは、レラだった。
「ビワも料理が上手くなったね」
「うん。美味しいよビワ」
「ありがとう二人共。はいお茶よ。あなた」
「にっちっち。もう立派な人妻ねビワ。子供はいつ作るの? 三人くらいほしい?」
「んぅぐ! ごほッごほッ。レラ」
「三人なんて……一人でも…いい」
顔を赤らめ指を一本立てるビワ。
「ちょッ……ビワまで」
「うふふ。レラの話に合わせてみたの」
「やるわねビワ」
「私だって、いつもからかわれるばかりじゃないのよ(子供……)」
「にっちっち。あー面白い!」
「まったくもう。食べ終わったら街に戻るよ」
「えぇー。もうちょっと遊びたい」
「子供かッ!」
「あちしがカズとビワの子供? だったら甘やかして」
「良い子だから、お父さんの言うこと聞きなさ。じゃないとお母さん怒るわよ。レラ」
「はーい分かったよ。ビワお母さん」
「うん。レラは良い子ね」
「ねぇビワお母さん。あちし、弟か妹がほしい」
「それはお父さんと相談しないとね」
「はは…はぁ……(いつの間にか、レラのふりに付いていけるようになったんだなビワ。明るくなって嬉しいけど、少し複雑だ)」
カズは黙ってレラとビワのやり取りが終わるのを待った。
「ど…どうでした? こうすれば、カズさんが笑ってくれるって、レラが教えてくれて」
「あ……うん。とても良かったよビワ」
「あ…ありがとう」
久々に息抜きをした三人は、リアーデの街へと戻って行く。
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