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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

243 おたずね者

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 修理の音が止むのを待っていたかのように、大家よウールが差し入れを持って屋上にやって来る。
 それに気付いたレラは、とっさに修理した家の影に隠れる。

「お疲れさん。少しは住めるようになったかい?」

「ええ。なんとか」

「昼もまだなんだろ。これでも食べな。田舎から駆け落ちして出てきたんじゃ、金だって大してないんだろ」

「どうもすいません」

「あの…ありがとうございます。ウールさん」

「食器は後で持ってきてくれればいいから、二人でゆっくり食べるといい」

 肉と野菜の煮込みが入った鍋と、パンを差し入れていったウールは、階段を降りて自宅に戻った。

「見つからなかったか。レラ」

「急に来るなんてなんなの。あのウールってドワーフ」

「私達に、お昼ごはんを持ってきてくれたみたい。ウールさん…優しい」

「まっ、そういうことなら仕方ないわね」

「取り分けますね」

 置いていった食器に、肉と野菜の煮込みを取り分けるビワ。

「いただきッ」

 レラがパンにかぶり付き、肉と野菜の煮込みを口に運ぶ。

「ほのお肉柔らはい」

「頬張りながら喋るなよ。修理した家もなんとか住めるようになったし、これ食べ終わったら、ビワを王都まで送るよ」

「はい……」

 少し残念そうな顔をするビワ。

「プふぁ~、食った食った。ドワーフ料理も中々のもんね」

「いっちょ前に料理の評価なんかして。食べてすぐ横になってそんなこと言ってると、まるでおっさんみたいだぞ」

「満腹で言い返す気にもならない」

「私、片付けて食器を返してきます」

「俺も行くよ」

「そうそう。駆け落ちした二人で行ってらっしゃい。あちしは掃除した部屋で休んでるから」

「そう言って、ふらふらと勝手にどっかに行くなよ。すぐに戻るから」

 ルアとビワは歩いて三分程の場所にあるウールの家に行き、食事のお礼を言い食器を返す。
 するとビワが、お屋敷に戻る前にリアーデの街並みを見たいと言うので、ルアはレラを連れて中央広場へと向かった。
 物珍しそうに露店を見て回るビワが、壁に貼られた一枚の紙を見つけ目を疑う。

「どうしたのビワ」

「カ…ルアさん。これ……」

「!!」



 ≪ 十日程前のある建物にある一室 ≫


 カズがギルドマスター達から呼び出された後、第1から第3までのギルドマスター三人だけとなった部屋。

「今の話を聞いて、フリートはどう思う」

「説明にも嘘はないと思います。ただあれが演技なら大したものですよ。フローラさんはどう思ってるのですか? 彼が所属する第2ギルドの代表として」

「二人にも見せた資料の通り、彼が携わった依頼で、おかしなところはないはずよ。成果も上げてるし、素材もギルドに卸してくれてる」

「確かにな。資料の通りなら優秀な人材だ」

「ええ。うちの第3ギルドに欲しいくらいです。ただその功績を誰も覚えてないのが」

「それは私からも話した通り、マナの異常な変動が原因で…」

「分かっている。だが解せないのが、どうしてあのカズとかいう冒険者のことだけ、誰も覚えてないかだ。一緒に依頼を受けたはずのアイガーも覚えてはなかった。フローラは多少覚えているとの事だが、もしそれが魔法や何かのアイテムを使って、フローラを洗脳しているとしたらだ」

「それはない……とは言い切れません。ですので、重要機密保管所あるアーティファクト(遺物)を調べませんと。あそこにある物が勝手に使われたとしたら」

「王都のギルドマスターと言っても、王族や貴族でもないからな。オレ達は、おいそれと入れない。フリートなら別かも知れんが」

「ボクは今、第3ギルドのギルドマスターという立場です。貴族の特権を使えば、反発も起きましょう。ですのでフローラさんには、正式な手続きをして調べてもらった方が良いでしょうね」

「入るための申請をしてるのだけど、今回は中々許可が下りないのよ」

「王族を襲撃した、犯人かも知れない奴が所属しているギルドじゃあな。まぁ仕方ないだろ」

「彼にその動機はないわ」

「その証明はできないだろ」

「ぅ……フリートにアーティファクトを調べるのを頼めないかしら」

「ボクはそういった物に詳しくないので、調べるとしても、かなり時間が掛かるかと」

「それでも出来るならお願い。最近使われた形跡があれば、それがどんな物か」

「とりあえず、今日の話はここまでだ。奴にはこれからも監視を付けておく。いいなフローラ」

「ええ。私は他にも調べものがあるから、先に失礼させてもらうわ」

 フローラが部屋から出て行く。

「フローラにも監視を付ける。フリートは王族を襲撃した者を続き調べてくれ。貴族のお前なら動きやすいだろ」

「フローラさんには、貴族の特権を使わないと言った手前、少し気が引けますね」

「これは調べる場所が場所だからな。その点はフローラも分かってるさ。それでアーティファクトは調べるのか?」

「頼まれましたしね。一応、調べてはみます。すぐという訳にはいきませんが」

「これ以上面倒な事にならなければいいがな」

 それから数日後、王都中心部に近い、第1第2第3の冒険者ギルドのギルドマスターが再び集まっていた。

「面倒な事になったな。冒険者だけではなく、衛兵にまで危害を加えるとは。しかも貴族の使用人を拉致して逃げたそうじゃないか」

「フローラさん。流石にこれは、言い逃れはできませんよ」

「何か理由が…」

「ともかく、捕まえなければ理由も何も聞けない。奴のギルドカードは使用できないよう、一時的に無効にしてもらうぞ。いいなフローラ」

「分かったわ。バルフート」

「もし奴が来たら、気付かれないように連絡しろ。ギルドに登録されているステータスを見ると、捕らえるのにAランク数人は必要だからな。間違えても奴に手を貸そうとするな」

「……ええ」

「拉致された使用人を雇っていた貴族には、フリートから連絡してくれ。第2ギルドの者は、奴が捕まるまで、貴族区に入るのは禁止だ。反論はあるかフローラ」

「いいえ。それで良いわ。貴族を担当してる者には説明しておきます」

「騎士団(ロイヤルガード)からも要求がありまして、冒険者ギルドを通じて各村や街に通達するように、とのことです。なのでボクが第3ギルドから各ギルドに連絡しておきます」

「ああ。頼む」

 冒険者の歪曲した報告で、カズに拉致や窃盗などの罪が加えられていた。
 そのカズが所属していた第2ギルドにも、行動が制限されたのだった。
 バルフートは第1ギルドに戻りながら、ふと独り言を呟いた。

「怪鳥をテイムに謎のカード……それあの家の主か。はたしてAランク数人で奴を捕らえられるかだが。ステータスを偽ってるとしたら、場合に寄っては、オレ達マスターが出る事になるかもしれんな」



 ≪ 時は戻り、ここはリアーデの中央広場 ≫



 ビワが指差した所の壁に貼られた一枚の紙を見て、ルアことカズは固まった。


ーーーーーーーーーー


 【手配書】

 ≪容疑者≫ :『カズ』王都の冒険者第2ギルド所属Bランク冒険者。

 ≪罪名≫  :『王族への危害』『希少な保護対象の誘拐』『衛兵と冒険者への暴行』『貴族の使用人拉致』『ギルドカードの偽造疑い』『窃盗』『不法侵入』他多数。

 ≪懸賞金≫ : 懸賞金は生きている場合のみ。死んでいた場合は減額。
 ・発見し報告した者には最大金貨50枚。(500,000 GL)
 ・捕らえた者には白金貨10枚。(10,000,000 GL)


ーーーーーーーーーー


 俺の手配書!? 窃盗に不法侵入? 覚えのない事まで書かれてるし、王族への危害って、会った事なんて一度も……あった。

「ア…さん。ルアさん」

 ビワの呼び掛けで我に返ったルアは、ビワを連れて屋上の借家に急ぎ戻った。
 石の階段を上がり、屋上にある家に入る。
 するとレラが慌てた様子で、一枚の紙を二人に見せる。

「大変よカズ! これッこれッ。カズの手配書!」

「分かってる。今さっき俺達も見た。って一人で外に出たのか!」

「だって、すぐに戻るって言っておきながら、全然戻って来ないだもん」

「そうだったごめん。ちょっとビワと街を歩いてて。だからって昼間っから一人で出たらダメだろ!」

「見つかってないから大丈夫だもん。それよりどうするの」

「手配書は出回ってるけど、姿を変えて行動してたから、この街に居るとは気付かれてないはずだ。ただ問題はビワをどうするかだ」

「すぐにお屋敷に送った方が良いでしょ」

「それで事が済めば。そこに書いてある『貴族の使用人拉致』それ十中八九ビワのことでしょ」

「カズがビワを拉致? あのバカな冒険者達から助けたのに」

「あの時の冒険者や衛兵がどう伝えたかは知らないけど、俺が無理矢理ビワを連れて行ったって事になってるみたいだな」

「あいつら!」

 レラが一人で怒りだす。

「このままビワを送っても、しつこく俺のことを聞かれだろう」

「でもマーガレットが守ってくれるでしょ。貴族でも使用人のビワ達を大切にしてるんだから」

「ああ。ここに書いてある事がなければな」

「ここ?」

 カズは手配書の一ヶ所を指差し、レラの質問に答える。

 「『王族への危害』」

「それがまずいの? マーガレット達は親戚なんでしょ。だったら」

「いくら親戚といえども、使用人を守りきれると思うか。レラ」

「それは…」

「無理……だと思います。もし仮に奥様達が……いえ、私はおとなしく言うことを聞いて、事情を話します。お屋敷の皆には、迷惑を掛けたくありませんから」

「でもねビワ。もしそれで、あのバカな冒険者みたいな連中がしゃしゃり出てきたら」

「大丈夫です。私決して、お二人のことは話しませんから」
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