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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

242 借家探し

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 魔力を記録した数珠をビワに付けさせて、カズは付与した効果を説明した。

「念話……?」

「念話は魔力を使って、声を出さずに話せるスキル。離れた所からでも話すことが出来るし、秘密の話も出来るから便利だよ。ただ遠すぎると魔力を多く消費するから気を付けないと」

「遠く離れた……凄いですね」

「寝相の悪いのレラが起きたら、練習相手になってもらうと良い。レラも念話を使えるから」

「誰の寝相が悪いのよ」

「! 起きたのか」

「とっくに起きてたもん。二人が話をしてたから、邪魔しないであげたの。手なんか握っちゃって」

「違う違う。あれはビワの魔力を、数珠に記録してただけだから」

「じゅずぅ~? 何それ」

「これよ」

 ビワが手首に付いている数珠をレラに見せた。

「なぁ~んだ、ブレスレットか。じゅずぅなんて変な呼び方するらか」

「数珠は変か(まぁブレスレットでも良いんだけど)」

「わ…私は変じゃないと」

「いいよビワ。数珠ってのは、そういった小さな玉を繋げて、輪にした物のことだから。ブレスレットでもアクセサリーでも、好きなように呼んでくれて」

「あ…はい。ありがとう…大事にします」

「もう話は終わった? あちしお腹空いたから、朝ごはんにしてよ。プリンも付けて」

「レラは最近食べることばかりだな」

「だって、他にやることないんだもん」

「まぁいい。朝ごはん食べたら、リアーデに向かう馬車を探そう」

 レラとビワが食べてる間に、カズは〈メタモルフォーゼ〉で姿を変え、宿屋の主人にリアーデに向かう荷馬車が集まる所を聞いた。
 朝食を済ませた三人は、宿屋を出てリアーデに向かう荷馬車を探した。
 幸いリアーデから来ていた馬車が、今日リアーデに戻るために、乗せる客を探していた。
 ルア(カズ)は交渉をして料金を安くしてもらったので、その馬車に乗って行くことにした。
 リアーデに小麦を運ぶ荷馬車に乗せてもらうつもりだったので、出費はあったが早く向かうことができ、乗り心地も荷馬車よりはましなので良かった。
 途中休憩を取りながら、馬車は街道を進む。  
 荷馬車だとゆっくりなため、三日は掛かってしまうが、人を運ぶ馬車は乗客がルア(カズ)達だけだっために、走る速度は早く、一日でリアーデまで着くことができた。

 リアーデの門の近くで、三人は馬車を降りる。(レラは鞄の中)
 リアーデの街に住み、個人が所有する馬車ではないので、乗ったまま街には入れないのだ。(街に出入りする時は、衛兵が乗っている者の顔を一応は確認する)
 ルア(カズ)はギルドカードを〈フェイク〉で変え、ビワは身分証がないので、街に入るための税を支払い入る。(お金はカズが出した)
 既に日が暮れて暗く、街に明かりが灯っている。
 一先ず落ち着き休める所を探すため、東南側にある多種族が住む場所に向かい、そこで宿屋を探すことにした。
 ビワが居るため目立たないよう、多種族街を選んだつもりだったが、宿屋は中々見つからなかった。
 ようやく一軒見つけ、一部屋だけ借りことができた。
 一日馬車に乗りっぱなしだったので、この日もビワを送って行くことができなかった。
 ビワは大丈夫だと言い、もう一日だけ付き合ってくれることになった。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝宿屋を出たルア(カズ)は、ビワを送った後で、滞在する家を探すことにした。

「それじゃあ、ビワを送ってくよ。昨日は遅くなっちゃったから、もう一日付き合ってもらったけど。さすがにもうお屋敷に戻らないとまずいでしょう」

「そう…ですね……。あのぅ、この後カズさんは、どうするんです…か?」

「ビワを送ったら、この街で家を探すつもりだけど。あまり目立たないようにするには、宿屋より家を借りた方が良いかと思って」

「じゃ…じゃあその部屋探し、私も手伝います」

「でも」

「見るとこの場所は人族以外が暮らす所みたいですし、私が居た方が見つかると思います」

「それで良いんじゃんないのカズ。その方が怪しまれないし」

「そ…そうです。部屋が見つかった後で、私は付き添いだと言えば。私のような獣人がたまに訪ねて来るので、この場所で部屋を探してると言えば、きっと大丈夫です」

「今日のビワ、やる気満々ね。だったらあちしも」

「レラはおとなしく隠れてる」

「フンッだ。分かってるもん!」

「ビワ、本当に良いの?」

「はい。がんばります!」

 両手を胸の前に出し握り拳を作り、耳をピンと立てて気合いを入れるビワ。

「じゃあ頼むね(細い指だな)」

 多種族街を暫く歩き探していると、貸家と貼り紙がある建物を見つけた。
 書いてある内容を読むと、三階建ての屋上に建てられた小さな一軒家と表記されてる。
 貼り紙に書いてある場所に行くと、石で作られた頑丈な建物があった。
 建物の階段を上がり屋上に出ると、木造の一軒家がそこにはあった。
 一軒家とはよく言ったもので、ボロ小屋の間違いではとカズは思った。
 ボロ小屋の中に入り確かめると、多少修理をして掃除をすれば、一応住めそうではあった。
 人目につかなくてちょうどいいと思ったカズは、この小屋を借りることにして、貼り紙に書いてあった持ち主の所へ向かった。

 小屋の持ち主が住む建物に行くと、中からドワーフの女性が出てきた。
 石で作られた三階の建物は、ここに住むドワーフの夫婦が所有するものらしく、屋上の木造小屋だけが空いていたので、借り主を探していたと。
 石で作られた三階の建物は、一階と二階に同じ地方出身のドワーフが借りて住んで居るとのことだ。
 三階は一階と二階に住んで居るドワーフと、自分達が物置き場に使ってるらしい。
 屋上の木造小屋を借りた人は、三階の物置き場がない代わりに、屋上を好きに使って構わないとのことだ。
 木造小屋も古いので、好きに作り変えてくれても良いとのことだ。
 始めは少々不審に思っていたが、獣人のビワが一緒に居たことで、ドワーフの女性は何かを察したのだった。
 ドワーフの女性は『ウール』と名乗り、木造小屋と建物の屋上を二つ返事で貸してくれた。 
 カズは自分のことをルアと名乗り、一ヶ月分の借り賃を大家のウールに支払った。
 ウールは聞いては悪いと思いながらも、二人の関係についてと、つい口から出てしまったのだった。

「え、俺達の関係ですか? (そんな返し考えてない)」

 ルアが困っていると感じたビワが、とっさにウールの質問に答えた。

「か…駆け落ちして田舎から出て来たんです。で…ですから、出来るだけ目立たないように、二人で暮らそうと……だからあの」

「そうかいそうかい。やっぱり訳ありだったんだね。もし知らない奴に何か聞かれても、しらを切るから安心しな。いやぁ~若いって良いねぇ」

「あ、ありがとうございます。それじゃあ、借りた小…家の修理と掃除をしますから失礼します」

「あいよ。屋上は好きに使ってくれて良いから」

 ルアはビワの手を引き、ウールの住む家から離れる。

「ごめんなさいカズさん。兄妹って言うのも無理があるかと思って、つい駆け落ちしたって事に……」

「少しまずいなぁ」

「私とじゃ……いや…でしたか」

 ビワは顔を伏せ、耳と尻尾が垂れ下がる。

「そんなに落ち込まなくも、カズは満更でもないと思ってるわよ。そうでしょ。なのに何がまずいの」

 周りに人が居ないのを確かめ、レラが鞄から顔を出していた。

「何がって、これだと急にビワが居なくなって、俺一人であそこに住んでたら変でしょ」

「ビワにも少しの間、一緒に住んでもらえば良いじゃないの」

「そうもいかないだろ。もうお屋敷を出て三日目だぞ。休みをもらったって言っても、そろそろ戻らないと」

「ご…ごめんなさい。私ったら考えもなしに……」

「ちょっとカズ。ビワを泣かすんじゃないわよ!」

「え、あ、ごめん。ビワは悪くないから。とっさに俺をフォローしてくれて、あれは助かったよ」

 ビワの気持ちが落ち着くのを待ち、王都の屋敷まで送って行くことにした。

「じゃあそろそろ送ろう。もう三日目だし、昼前には戻った方が良いでしょ」

「せ…せめて、あのお家を直すお手伝いを。お屋敷に戻るのは、その後でも」

「遅くなると皆が心配するよ」

「日が暮れる前に戻れれば」

「ビワもそう言ってるんだから、良いんじゃないの。その間に別れた理由なんかを考えれば」

「……分かった。でも日が高いうちに送るから」

「分かりました」

「それじゃあ先ずは、修理用の木材を買いに行こう。レラは鞄の中(この街なら、リンドウさん所に行けば)」

「は~い」

 カズことルアとビワは、木材屋のリンドウの店に行き、持てる程度の材料を買って、屋上の木造小屋の戻った。
 変装してるとはいえ、正体がバレないとは限らないので、アイテムボックスは人前では使わないようにした。

「ねぇカズ。もっとまし所なかったの」

「贅沢言うなよ。ここなら目立たないから良いだろ。外から人にも見られることも少ないし」

「まぁそうだけど……やっぱりボロいわね。カズが来る前の家を思い出すわ」

「だったらレラは慣れたもんだろ」

「そんな訳ないでしょ。カズが来る前だって、あちしの周囲だけは片付けて掃除してたもん」

「あっそ。まぁこの小屋も屋上も、好きに使って良いって言われたから、住みやすいように変えれば良いだけのはなしさ」

「だったらドーンと立派な家を建てて」

「目立ったら意味ないだろ」

「……そうでした」

「うふふふ」

 カズとレラのやり取りを見ていたビワが、やっと笑顔を見せた。

「あ、ごめんなさい」

「なんで謝るの? あちし達が面白かったら笑って良いんだよ」

「そう。ビワは笑った方が、かわいいんだから」

「さらっと何言ってるの」

「イタっ」

 レラがカズの頭を叩きつっこむ。

「あちしが叩いたくらいじゃ痛くないでしょ!」

 再度レラはカズの頭を叩いきつっこむ。

「うふふ……あはははッ。こんなに笑ったの久しぶりです」

 先程まで悩んでる様子だったビワが、笑顔を見せたことで、カズとレラの気持ちも軽くなった。
 カズは屋根と壁の修理をし、ビワとレラは部屋の掃除に取り掛かった。
 掃除はカズが魔法で済まそうとしたら、ビワが屋敷の仕事をしてないから自分で掃除をしたいと言い、レラはビワの指示のもとで一緒に掃除を始めたのだった。
 壁と屋根の修理が終わり、部屋の片付いた頃には、すでにお昼を過ぎていた。
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