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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

241 南の村

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 カズはビワが自分のことを忘れないでいた事に感謝した。

「……ねぇ」

「なにレラ?」

「あちしから見ると、カズがビワを口説いてように見えるんだけど」

「くど…私……」

 ビワは赤くなり顔を伏せる。

「こ、こんな時に口説くわけないじゃん。変なこと言うなよレラ」

「こんな時じゃなければ口説くの?」

 ビワの顔が真っ赤になり、今にも火が出そうだ。

「なッ! も、もうその話はいいから。これ以上掘り下げるなよ」

「にっちっち(おもしろ。このネタは使える。ビワもまんざらでもなさそうなのが、さらに良い)」

「レラが変なこと言うから、話が脱線したじゃないか」

「あちしのせい?」

「ごめんビワ。他に気になった事とかあったら聞かせて」

 赤面しながらも、ビワは頷き話を進める。

「あのぅ…実は、カズさんの夢を見ました。それで…そのぅ……会わなければ…と…」

「夢で俺を?」

「…はい」

「ビワがカズの夢をねぇ~」

「茶化すなよ。レラ」

「は~い」

 レラの発言で、戻り始めていたビワの顔がまた赤くなる。

「夢で見ただけで、俺に会おうと思ったの?」

「あの…夢の中でカズさんが『ビワのことは任せて……必ず連れて…』と、言ってたような」

「ビワを連れてくの? 俺が?」

「あまり覚えてなくて。でもカズさんに会わないと、と思って…それで……ご、ごめんなさい。私、変なこと言って」

「大丈夫だよビワ。何かの前触れかも知れないし。もし良ければ、ちょっとだけステータスを見させてもらっても良いかな?」

「ステータス…ですか。はい大丈夫です」

「じゃあちょっとだけ(魔力量も見ておこう)」

 カズはビワのステータスを確認した。


 名前 : ビワ
 年齢 : 19
 性別 : 女
 種族 : 獣人(狐の半妖)
 職業 : オリーブ・モチヅキ家のメイド
 性格 : 臆病で引っ込み思案。男性が少し苦手。
 状態 : 
 魔力 : 179


「ありがとう(何かが切っ掛けで、スキルでも得たのかと思ったけど違ったらしい。魔力も思ったよりあるな)」

「何か変なところでも……?」

「なんともないから大丈夫。俺の気のせいだったみたい(状態の表示があるのに、表記されてないのは気になるけど)」

「そう…ですか」

「ねぇねぇ」

「なんだよレラ。今はビワの話を聞いてるんだからさ」

 ぐぅ~とお腹の鳴る音がした。

「もうとっくお昼過ぎてるんだもん」

「色々あって忘れてた。もうそんな時間か」

 もう一度、ぐぅ~とお腹の鳴る音がした。
 音のした方を見ると、お腹が鳴ったのはビワだった。
 お腹を押さえたビワが、また顔を赤くする。

「ご、ごめんなさい」

「ほらビワだってお腹空いたって」

「ここは麦が名産だから、パンでも買いに行こうか。気付けなくてごめん。ビワ」

「いえ…私なら大丈夫…」

 ここで再び、レラとビワのお腹が鳴る。

「遠慮しなくていいから、好きなもの食べて。レラは鞄に」

「ハイハイ。分かってますよ」

 盗聴防止のアイテムを停止させて【アイテムボックス】に入れ、三人は宿屋を出て食料の買い出しに行く。
 ビワの格好は村だと目立ってしまうので、服屋を探しビワの服を買い、そのまま店の奥で着替えさせてもらった。
 食べ物は麦が名産だけあって、あちらこちらでパンやパスタを売る店が多かった。
 パンやクッキーを買って食べ歩き、三人は食料を買い揃える。
 カズはせっかく来たのだからと、小麦粉を多く買った。
 買い出しを終えた三人は、宿屋へと戻る。

「そろそろお屋敷に送ろうか」

「私なら…二、三日なら戻らなくても…大丈夫です。奥様には許可をもらっているので」

「そうなんだ。ビワが大丈夫なら、俺は構わないけど(休みは一日だけかと思った。キウイもそうだったし)」

「あちしも大丈夫だよ」

「ありがとう…ございます。服まで…買ってもらって」

「女性の服とよく分からないから、メイド服に似た感じのワンピースを選んだんだけど、ビワはそれで良かったの? 自分で好きなの選んでくれて良かったんだけど」

「私…これが気に入りましたから(カズさんが選んでくれたから)」

「そう。なら良いけど」

「ねぇカズ、ビワは今日どこで寝るの?」

「あ……俺もう一部屋借りてくるよ」

 カズは宿屋の主の元に向かったが、すぐに部屋に戻ってきた。

「ごめんビワ。満室で部屋空いてなかった。同じ部屋で悪いけど、ベッドはビワが使って。俺は椅子で寝るから」

「そんな…私が椅子で寝ます」

「ダメダメ。ビワを椅子なんかで寝かせられない。レラと一緒にベッド使って」

「あちしは自分のベッ…」

「レラ(分かるだろ)」

 申し訳なさそうにしているビワを見たレラは、カズの言いたいことを察した。

「カズはどこでも寝れるから大丈夫。ビワはあちしと一緒に寝よう」

「そういうことだから、レラと一緒に寝てやって」

「あの…はい。ありがとうございます」

「安心してビワ。カズが変なことしないように、あちしが見張っててあげるから」

「おいッ」

「カズさんは、そんなことしないですよ…ね」

「も、もちろん寝てる間に、変なことなんかしないよ」

「にっちっち。じゃあ起きてる時にするの」

 レラがにやつきながら、カズをからかう。

「レラお前なぁ。そういう冗談はキウイだけで十分だ」

「怒らない怒らない(こうでもしないと退屈なんだもん)」

「うふふふ」

「あ、ビワが笑った」

「ごめんなさい。なんか楽しそうで」

「ビワはもっと笑った方が良いよ。カズもそう思うでしょ」

「ああ。その方が良い」

「なんだ、結局ビワを口説くの」

「またその話かよッ!」

「うふふ…あはははッ」

 漫才をしているようなカズとレラを見て、ビワは笑顔になる。
 昼間にあった怖いことなど忘れたかのように、ビワはレラと一緒にベッドでぐっすりと寝た。
 カズは一人椅子に座り【アイテムボックス】から素材を取り出し、スキルを使ってビワの装備品を作製する。
 何種もの効果が付与されているアイテムは貴重で、危険が伴うかもしれないが、カズのことを覚えてるビワは既に危ういと思い、身を守るための物をカズは作ることにしたのだった。
 レラとフローラの装備品を作った時に余った魔鋼鉄を《錬金術》と《加工》で糸状にし、さらに12個の小さな水晶玉に糸を通す穴をあけて『数珠』の装備品を作った。
 強度的には魔鋼鉄だけを使ったブレットより低いが、小さいとはいえ水晶玉を多く使ったことにより、付与出来る数を上げたのだった。
 ビワに渡す数珠にスキルの『魔力自動回復(微量)』と『念話』魔法は『ヒーリング』を《付与》した。
 あとはビワの希望を聞いてからにすることにし、それまで付与されてない水晶は、魔力を貯蔵するためのものとした。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝最初に目を覚ましたのはビワだった。
 レラを起こさないようにして、ベッドから起き出した。
 ごそごそとした物音で、カズも目を覚ます。

「あ…起こしてしまいましたか」

「ビワ早いね。おはよう」

「おはようございます」

「もっとゆっくり寝ててもよかったのに」

「いえ…このくらいの時間になると、目が覚めてしまうので」

「そうか。メイドの仕事も朝は早いからね」

「はい。でも、もう慣れてますから」

「レラもまだ寝てるし、ちょうどいいや。ビワに渡したいものがあるんだ」

「なんですか?」

「じゃあそっちに座って」

 カズは小さなテーブルを挟んだ向かいの椅子にビワを座らせ、昨夜作っていた数珠を【アイテムボックス】から出してビワに見せた。

「これは……?」

「ビワ用に作った装備…じゃなくてアクセサリー」

「私用…ですか?」

「そう。この先、俺のことで迷惑を掛ける可能性があるから。それを使って身を守ってほしい。スキルや魔法を使えるようにしてあるから」

「迷惑だなんて、私は思ってません。それどころか急にカズさんに会いに行った事で、迷惑を掛けたのは……私ですし」

「俺だって迷惑だなんて思ってないよ。俺のこと忘れないでいてくれて、スゴく嬉しかったし」

「そんな……」

「だからこれ(数珠)受け取ってくれないかな」

「そんな高価なもの…とても」

「ビワ」

「……本当に私が頂いて良いんですか?」

「ビワのために作ったんだから。ただ残ってた材料で作ったから、こういう形になっちゃったけど。気に入らなかったかな?」

「そんなことないです。小さな玉が繋がってて、とてもかわいいです」

「喜んでもらえて良かった」

「でも私…魔力を使うの苦手で、魔法は殆ど」

「これはそんな難しいことないから。魔法は回復しか付与されてないから、他はビワの話を聞いてからにしようと思って」

「私は、皆の役に立つことが出来れば」

「それじゃあ、少し考えてからにしよう。ゆっくりでいいから。とりあえず他人には使えないようにはしておこう」

「そんなことが出来るんですか?」

「お屋敷の皆が使ってる空間魔法を付与してある手提げ袋でも、そうなってるんだよ」

「そうなんですか」

「それと同じ。とりあえずビワが両手でこれ持って。はい」

 ビワに数珠を両手で軽く握るように持たせ、カズはそこに手を載せて、ビワの魔力を数珠に記録させた。(残り付与出来る水晶玉の数8)
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