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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

240 王都からの離脱

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 倉庫街から離れていった衛兵と冒険者を【マップ】を見て確認をしたカズは、ほっと一息ついた。


「行ったか」

「ぁ…カズ…さん」

 右腕を背中に左腕を膝の下にまわし、抱えたままの状態(お姫様だっこ)でいるビワは、顔を赤くして恥ずかしそうにする。

「いつまでそうしてるの。もうビワを降ろしてあげから」

「あ…ご、ごめんビワ」

 カズはビワをゆっくり降ろした。

「いえ…あの…助けてくれて、ありがとう…ございます」

「無事で良かった」

 ビワは周りを見て不思議に思った。

「ここは?」

「ここは、家の地下にある部屋だよ」

「でも…入口が?」

「ここは転移でしか入れないんだよ」

「てん…い、ですか?」

「そうよビワ。この家の所有者としか入れないの。だからここに居れば安全なの」

「そうとも限らない」

「どうしてカズ?」

「フローラさんがこの家の事を知ってたってことは、他のギルマスだって知ってると考えた方がいい」

「だとしたらここに居ても」

「いつかは見つかるだろうな。さっきはとっさだったからここに隠れたけど、冒険者や衛兵が誰かを連れて戻って来る前に、ここから離れた方がいいだろう」

「家を捨てるの? もう戻ってこれないの?」

「一時的に離れるだけだから、誤解が解ければすぐに戻れるさ」

「そうだよね。……あれ? そういえば、ビワはカズのこと忘れてないんだ」

 レラに言われ、カズをビワを見る。

「あ…はい。私は覚えてます」

「そう…なんだ(俺のこと忘れないでくれたんだ。でもどうしてだ?)」

「もしかしてキウイも!?」

「いえ…あの……」

「その話も聞きたいけど、後にしよう。先にここから移動しないと」

「どこに? あの白真ってのが居る雪山?」

「いや、それだと情報が入らないから、どこかの街に隠れて少しの間様子を見よう思う」

「アレナリアの居る街? それともキッシュ達の?」

「アヴァランチェは、アレナリアと鉢合わせする可能性が高いからなぁ。リアーデだったら、情報も入って良いかも」

「じゃあ、そこで決定?」

「もう少し考えるよ。その間に、持っていく物を準備しないと」

「ならあちし、すぐにかき集めるよ」

「十分くらいで支度して」

「分かった」

 カズはレラとビワに触れ、地下の部屋から一階へと転移した。
 レラはすぐに自分の部屋へと飛んでいった。
 ビワをリビングにある椅子に座らせ飲み物を出し待ってもらい、カズは自分の部屋でレラのベッドを【アイテムボックス】に入れて、ビワの元へと戻る。

「気分はどう? 少しは落ち着いた?」

「はい。大丈夫…です。……あの、なんでお屋敷の皆は、カズさんのことを忘れてしまったんでしょう?」

「それは俺にも分からない。でも原因は、ビワも感じたマナの揺らぎだと思う」

「マナ……あの…」

「カズぅー、支度できたから来てぇ」

「ごめんビワ。レラの荷物を取りに行くから、ちょっと待ってて」

「あ、はい」

 二階からレラの声が聞こえ、ビワを待たせてカズは部屋に向かう。
 レラの部屋に入ると、そこには大量の荷物が置いてあった。

「来た来た。これよろしくねカズ」

「……引っ越しじゃないんだから。それにこれだけの物が無くなったら、どう考えても怪しまれる。必要最低限だって言ったろ」

「でもでも、あちしの部屋にある物を、知らない連中にベタベタと触られたくないんだもん」

「それは分からなくもないけど、明らかに戻って来ないと思われたら」

「じゃあせめて半分だけ」

「ハァー、分かったから早く減らして、持っていかない物は元の場所に戻して。俺はもう一回地下の部屋で、家の設定を変えてくるから」

 レラはバタバタとかき集めた荷物を片付けだし、カズは地下の部屋で魔力吸収の設定を変更する。
 地下の部屋からレラの部屋に戻り、カズは着替えなどの必要な物だけを【アイテムボックス】に入れ、レラと共にビワの居る一階に戻った。

「お待たせビワ。一度王都を離れるけどいい?」

「はい。大丈夫…です」

「それで行く場所は決めたの?」

「リアーデにするよ。あそこなら人も多過ぎも少な過ぎもしないし、ちょうどいいから。でもその前に周辺の村に入って、そこから向かおうと思う」

「ビワはリアーデ周辺に知り合いは居る?」

「いいえ」

「なら大丈夫だろう。レラは一人で外に出るなよ」

「分かってるもん。カズはどうするの」

「まあ、そこは見てな」

 カズは〈メタモルフォーゼ〉を使用して姿を変えた。

「えぇー! 何よそれ」

 カズが茶髪で小太りの姿に変わった。

「これで一応は大丈夫でしょ。この姿の時は、ルアっことにしておいて」

「あ…はい」

「まったくの別人ね」

「前に依頼で変装したときの姿だから、バレないはずだ」

「なんか変な感じ。ビワもそう思うでしょ」

「はい…あ、いいえ」

「気を使わなくていいよ。あちし達だけの時は、元の姿で居てよ」

「分かった。じゃあ出発しよう〈ゲート〉そうだビワ、変装とかこの魔法のこと内緒でお願い」

「はい。分かりました」

「ほら立ってビワ。行くよ」

 レラはビワを引っ張りゲートを通り、カズもそれに続き転移した。
 三人が転移した場所は、リアーデの街から南に続く街道の先にある村の近く、広大な麦畑に三人は立っていた。

「ここは…麦畑?」

「転移先をどこにしたのカズ?」

「リアーデの街から南に数日歩いた所にある村近くだよ。俺も実際に村には行ったことないから、知り合いに会うことはないはずだ」

「なんでキッシュ達が居る街に行かないで、こんな離れた所に来たの?」

「王都から真逆の方向にある村を経由して、リアーデに行った方がいいかと思って」

「カムフラージュってことね」

「そんなとこ。とりあえず今日はあの村に泊まって、明日にでもリアーデで向かおう」

「そうね。それがいいかも」

「急に連れてきてごめん。ビワの話は、今日の宿を見つけたからで良いかな?」

「はい。私は…大丈夫です」

 麦畑を抜けてリアーデから南に位置する村に入り、宿屋を探し一晩の部屋を借りる。
 カズはギルドから拝借していた盗聴防止用のアイテムを使い、宿屋の部屋でビワに話を聞く。

「こんな所まで付き合ってもらってごめん。遅くなったけど、ビワの話を聞かせてもらって?」

「はい。あ…えーっと、どこから話せば」

「とりあえずビワが話せるところから。お願い」

「分かりました」

 話すのが苦手なビワだったが、波のようなマナの揺らぎが起きた日から、自分が感じた事をカズとレラに話す。

 いつものように朝食の準備をしている時に、深夜から明け方に感じた事を他のメイド達に話したが、特に気にはならなかったと言われたそうだ。
 ビワ自身も頭が痛くなったり、身体に異変はなかったので、あまり気にしなかったらしい。
 しかしそれから数日経つと、違和感を覚えたと。
 いつもならキウイやミカンがカズの話をするのだが、数日誰もカズのことを話題に上げなかったそうだ。
 ビワは気になり、キウイに今度いつカズの所に行くかと訪ねたが、返事は『誰それ?』と返ってきたとのことだ。
 ビワはアキレアやミカン、執事のジルバにも訪ねたが、返答は『誰?』『どちら様です?』とキウイと変わらなかったと。
 マーガレットにも聞いたが、返答は同じどころか『それビワが気になる人なの。それで誰? 私だけに教えて~』と、嬉しそうに聞いたそうだ。
 
「マーガレットは、その手の話し好きよねぇ。あちしも好きだけど」

「さすがはマーガレットさんだ。まったくぶれない。まぁ元気そうなら良かったよ」

「カズさんを忘れてしまったこと以外は、何も変わりませんでした。皆、元気です」

「そうか。おっと、話を遮ってごめん。続けて」

「はい。それで……」

 前日にビワはカズに会って確かめようと、マーガレットに外出の許可をもらいにいったら『ビワが一人で街に!?』と驚かれたそうだ。
 街に外出するときは、キウイやアキレアといつも一緒だったので、自分から言い出したビワ自身も驚いていたと。
 マーガレットは『気になる人に会いに行くの? 良いわよ! 仕事はお休みして行ってらっしゃい。帰ってきたらお話聞かせてね!』と、満面の笑みで休みをくれたそうだ。
 ビワは否定しようとしたのだけど、マーガレットの圧に負けて言い返すことができなかったそうだ。

「ああ……そういった話になると、マーガレットさんの圧はスゴいからね」

「……はい」

「モルトさんには会わなかった? ここ数日中に、お屋敷に行ったはずなんだけど」

「私は会ってませんが、来たと聞いてます」

「それでか」

「あのぅ…モルトさんが何か?」

「モルトさんに頼んで、お屋敷の皆が俺を覚えてるか確かめてもらったんだけど、皆忘れてるって聞いたから。ビワが会ってないなら、たぶんアキレアさんかジルバさんに聞いて確かめたんだろう」

「そうだと…思います。私も皆に合わせて、カズさんの話をしないようにしてました。……ごめんなさい」

「変に思われないようにするには賢明な判断だね。あッ、モルトさんも俺を覚えてなかったけど、話したらなんとか力になってくれたんだよ」

「そうなん…ですか」

「ああ。ただ不思議なのは、なんでビワは俺のこと忘れなかったのかだ?」

「私にもなんでかは……」

「そう。まぁ理由は分からなくても、忘れなでいてくれて俺は嬉しいよ」

「あ…はい。私もカズさんを忘れないで…良かったです」
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