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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

239 疑われし者

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 そこは前回モルトを手紙で呼び出した、白髪の年配店主がやっている小さな店だ。
 レラがもう一度この店のハーブティを飲みたいと言ったので、カズは連れてきたのだった。
 店の中に客が居ないのを確かめると、レラは鞄から出てくる。
 白髪の年配店主が出したハーブティを飲みながら、カズはこれからことを考える。
 レラは朝ごはんをまだ食べてなかったので、ついでにこの店で済ませることにして、自ら注文していた。
 レラが出された料理を食べていると、店の扉が開いた。
 カズはとっさにレラを隠そうと手を伸ばすが、入ってきた人物がモルトだと気付き、その手を引っ込めた。
 店に入ってきたモルトはカズを見て驚き、離れた席に座った。
 白髪の年配店主に何か渡すと、カズに一言も声を掛けることなく、モルトは店を出ていってしまった。
 カズは追いかけようと席を立とうする。
 そこに白髪の年配店主が、新しいハーブティを入れたカップをカズに出してきた。
 カズは断ろうとしたが、カップの下に一枚の小さな紙があったのに気付き、それを手に取り書いてあることを読む。


ーーーーーーーーーー


 事情があり直接話ができない為に、こういったかたちでお伝えします。
 オリーブ・モチヅキ家の方々は使用人を含め、カズ君のことを覚えてはないようでした。
 フローラ様の命で、これからはカズ君には接触できないと思われます。
 取り急ぎの用件は以上です。
 この手紙を読みましたら、完全に燃やしてください。
 それと困惑すると思われすが、一度王都を離れた方が良いかと。


ーーーーーーーーーー


 カズは読み終わった紙を、魔力変化で出した小さな火で燃やした。
 店には少し紙の焦げる臭いがしたが、それもすぐに消え、ハーブティの良い香り店内に広がる。
 レラを鞄に入るように言い、カズは出されたカップの下に一枚の金貨を置き、白髪の年配店主に黙って店を出て足早に家へと戻る。

「そんなに急いで、どうしたのカズ」

「モルトさんが、王都を離れた方がいいって」

「なんで!?」

「分からない。とりあえず急いで家に戻る」

 倉庫街に入り【マップ】で家の周囲を見ると、八人の人物が家の周りに居ることが確認できた。
 カズは見つからないように近付き、家の周りに居る者達を調べた。
 八人のうち六人は冒険者、二人は衛兵だ。
 六人の冒険者のうち二人はBランク、残りの四人はCランク冒険者。
 そのうち二人は、カズが威圧して気絶させた冒険者だった。
 衛兵二人とBランク冒険者二人が家の中に入っていった。

「勝手に人の家に入って、アイツら何してるの」

「俺達を探してるんじゃないか(なんで衛兵まで?)」

「どうするのカズ?」

「今出てくと面倒だ。外に今朝気絶させた二人の冒険者が居る」

「また気絶させてやれば」

「そうすれば楽だけど、今は少し様子を見よう」

 カズは【マップ】で冒険者と衛兵の様子を見ていると、一人の人物が家の方へと近付いて来るのが分かった。
 その人物が倉庫の角から姿を現すと、家の外で見張りをしているCランクの冒険者二人に見つかった。
 フード付きのマントで顔を隠しているため、発見した冒険者はもちろんだが、隠れて見ていたカズも誰かは分からなかった。
 ただ被っていたフード付のマントは、冒険者が使っているような雑な作りの物ではなく、とても上等そうな生地で作られてるように見えた。
 Cランク冒険者二人は、フード付きのマントを被る人物から無理矢理にマントを引き剥がした。
 姿が露になったその人物を、カズはよく知っていた。
 黄色の長い髪と、毛並みの良い尻尾がスカートの下から少し見え隠れし、メイド服を着た人物だ。

「ビワ!? なんでここに?」

「ビワ一人? キウイは居ないの?」

「ビワだけだ(よりによって絡んでるのが、今朝の二人かよ)」

 冒険者のうち一人がビワに詰め寄り、怒鳴り付けてカズの居る場所を聞き出そうとする。

「おい獣人の女。こんな所に来たってことは、お前アイツの仲間だろ。どこに居るか答えろ!」

「し、しら…ない」

「嘘をつくな!」

「きゃッ……」

 その行動に震え怖がり、その場でへたり込んでしまったビワの腕を掴み、無理矢理立たそうとさせる冒険者。

「何してる。立て! 獣臭せぇ獣人が」

「い、痛い。やめ…て……」

「言わないなら調べてやる。脱がせちまうぞ!」

「よしきた。あの野郎の仲間なら遠慮しねぇぜ。全身くまなく調べてやる」

 見ていたもう一人の冒険者と二人ががりで、ビワを倉庫の壁に押さえつけ、メイド服を剥ぎ取ろうとする。
 ビワのメイド服に手が掛かる寸前、二人の冒険者はビワの視界から消え、勢いよく吹っ飛んでいった。
 怒ったカズか見つかるのも気にせず飛び出し、二人の冒険者を蹴り飛ばしたのだった。
 ビワはへたり込み一点を見つめたまま震えていた。

「ビワ…ビワ」

「カズがカス二人を吹っ飛ばしたから、もう大丈夫よ。ビワ」

「カズ…さん……」

 優しく声をかけるカズとレラを見て、ビワは涙を流した。

「怖かった、怖かったです」

「もっと早く助けてれば。ごめんビワ」

「い、いいえ。来てくれただけで…嬉しいです」

「怪我は?」

「掴まれたとこが…少し」

「すぐに治すよ〈ヒーリング〉」

「ありが…とう」

「治って良かった(王都の冒険者の中にも、まだ差別するこんな連中が居るのか。やり方も盗賊と同じじゃないか)」

 怒鳴っていた冒険者の声が消え、何かがぶつかるような物音を聞き、家に入っていたBランクの冒険者と衛兵が外に出てきた。
 家の裏手を見張っていた他のCランク冒険者二人も、音のする方に走ってきた。
 倒れてる二人の冒険者を見て、家から出てきた衛兵が質問をした。

「お前がこの家の住人だな」

「そうですが」

「そこで倒れてる冒険者。お前がやったのか」

「ええ」

「テメぇよくも」

 家の裏手からきたCランクの冒険者二人がカズを睨み付け、腰にある剣に手をかける。

「やめろ! 剣を抜くな」

 衛兵の横に立つBランク冒険者の一人がそれを制止させた。

「お前達は倒れてる二人の手当てを。それで、どうしてこんな事をしたか説明してくれるか」

「その男二人が、俺の知り合いの女性に乱暴したから」

「本当かね?」

 衛兵の一人がビワに訪ねる。

「ほ…本当…です」

「そうか。ではひとつ聞きたい。なんでも今朝彼ら二人に、君は危害を加えたそうじゃないか」

「理由も説明せずに、力ずくでどこかへ連れていこうとすれば、抵抗はするでしょう。それに気絶させただけで、外傷を与えてはないです」

「だいたい分かった。あの二人は粗暴だと噂があったからな。それはギルド側の落ち度だろう」

「ならもういいですね」

「あの二人の事は、気が付いたら事情を聞くのでいい。君はカズでいいな」

「そうですが何か?」

 カズの名を確認すると、衛兵のもう一人が口を開いた。

「容疑者であるお前(カズ)を、拘束するよう指令が出た。おとなしく従え」

「容疑者!? なんのですか?」

「ある方々に危害を加えようとした。それと誘拐だ。そう言えば分かるだろ」

「ある方々? 誘拐? 身に覚えはありません」

「これはギルドも承知している。君の冒険者カードが偽造だと疑いもある」

「は?」

「汚たねぇことして、Bランクの冒険者カードを作ったんだろ。衛兵とギルドの命令には従えよ」

「お前は黙ってろ」

 気絶していた粗暴な冒険者が目を覚ますと、カズを見て罵(ののし)る。
 Bランク冒険者が黙らせようとするが、その汚い言葉は止まらない。

「おとなしく捕まれ。そこの獣人女だけは見逃してやる。もちろんテメぇにやられた傷を癒すのに、奉仕してもらうがな。気持ち良く泣かしてやるよ」

 ビワを差別し、いやらしい目で見る。
 とっさに粗暴な冒険者の視界に入らないように、カズがビワの前に立つ。

「おいッ! やめろと言っている」

 Bランク冒険者が再度黙らせようとするが、粗暴な冒険者は聞く耳を持たない。

「それで守ったつもりか? テメぇは獣人女と離されて連行されるんだ!」

 背中に隠れるビワの震えが、カズに伝わる。

「いい加減に…」

「やめ……ぐェ……」

 Bランク冒険者が粗暴な冒険者を力ずくで黙らせようとしたとき、怒ったカズが睨み《威圧》する。
 粗暴な冒険者は気を失い倒れた。
 やむを得ないと武器をとり、衛兵と冒険者達はカズを捕らえようとする。

「すまないが抵抗とみなして拘束する」

「こんな奴を連れてくる連中には従えない」

「これ以上抵抗すると、罪が重くなるぞ」

「なにさッ! あちし達が何したって言うの! 先に手を出したのはそっちでしょ!」

 カズが肩から下げてる鞄の中で、ずっと話を聞いていたレラが怒りながら出てきた。

「やはり情報通り、フェアリーを誘拐していたんだな」

「あちしを誘拐?」

「衛兵の我々が証拠を見たからには、言い逃れはできないぞ」

「なんだか知らないが、ここで捕まるわけにはいかない。レラ鞄に入れ逃げるぞ」

「分かった」

「逃げられるとでも思って…」

「逃げるさ〈フラッシュ〉」

 強い光で衛兵と冒険者達の視界を奪ったカズは、レラが鞄に入ったのを確認すると、ビワを抱き抱えてその場を立ち去る。
 視界を奪われ慌てる衛兵と冒険者だったが、数分で目が見えるようになってきた。
 視界が戻ると衛兵は詰所に行き、冒険者達はギルドへ報告に戻った。
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