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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

238 進展

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 レラが鞄の中に戻り、店内に静けさが戻った頃、扉が開きモルトが店に入ってきた。
 モルトと目があったカズは、軽く会釈をする。
 カズの向かいの席にモルトが座り、懐から手紙を出しテーブルに置いた。

「この手紙は貴方ですか?」

「はい。急な呼び出しですいません」

「この店を待ち合わせに場所に指定されていたので来てみたのですが、どこかでお会いしたことありましたか?」

「覚えてないですか? (やっぱりモルトさんもか)」

「申し訳ありません。いったいどちらで?」

「初めて会ったのは二年以上前なんですが。一応第2ギルドに登録してる冒険者です」

「そうでしたか。失礼なのですが、まったく覚えておらず」

「いえ、そんな大丈夫です(協力してくれるか話してみよう)」

 カズはモルトの案内でオリーブ・モチヅキ家に行ったなど、今まであった事をかいつまんで話した。

「そうですか。マーガレット様のご病気を貴方が。しかし誰も覚えていないとなると、その証拠が」

「フローラさん、ギルドマスターは覚えるはずなんですが、最近会うことができないらしく(あれを見せれば、しかし…どうするか)」

「フローラ様ですか。ここ暫く何か調べものをしていたようです。ですので忙しいかと」

「そうなんですか。……実はモルトさんに見てもらいたい物が(フローラさんが調べてるのは、マナの揺らぎの事だろう)」

「見せたい物ですか?」

 カズは懐から出すふりをして【アイテムボックス】から、オリーブ・モチヅキ家で渡された紋章入りのプレートをモルトに見せた。

「これは! 手に取って見ても?」

「どうぞ」

 カズはプレートをモルトに渡した。

「本物のようですね。これを誰から?」

「当主のルータさんから渡されたんですが、おそらく覚えてないかと」

「盗まれたとも聞いてませんし、ではやはり貴方が」

「信じてもらえますか?」

「完全にとは言えませんが、あな…カズ君が嘘を言ってるとも思えません。だとすると、皆の記憶からカズ君のことだけが消されたと」

「はい。ただフローラさんが覚えてるというのが不思議なのですが」

「あの方は魔法の知識に長けていますから、異変を感じた時に何かしら対処したのでしょう。とっさの事で、他の者達への対処ができなかったかと」

 モルトはプレートをカズに返した。

「誰か他にカズ君のことを覚えている者は居ないのですか?」

「他にですか(居るに居るけど、白真と……)

 カズは横に置いてある肩掛けの鞄の中のレラを思い浮かべる。

「居ないのですか?」

「残念ながら。頼りになるよう…」

「何が残念なのよ! あちしが居るもん」

 話を聞いていたレラが鞄から顔を出し、自分は忘れてないと主張する。

「これは!」

「またお前はッ! 勝手に出るなと言ったのに」

「話を聞いてたら、そのおじさんが味方になってくれるんでしょ。だったら別にいいじゃないの」

「……おじさん」

「すいませんモルトさん。お前はいい加減に」

「あちしのことはいいから、話を続けて」

「その方がフェアリーのレラさんですか」

「そうです。モルトさんはレラのこと知ってたんですか?」

「噂になったフェアリーのことは、少し前にフローラ様から聞きました。なんでもギルドの仕事をしながらでは、常に守ることができないので、自分が世話をしていた事を今まで誰にも話さなかったと。しかし信頼できる方が現れたので、そのフェアリーをことを任せたと。それがカズ君ですか」

「はい」

「そんな方のことを忘れてしまうなんて、なんと情けない。儂に何か出来ることがあれば力になりますので、どうぞおっしゃってください」

「そんな、ありがとうございます。正直来てもらえるかも心配で」

「カズ、カズ。そろそろ家に戻らないと、見張りに気付かれちゃうよ」

「そうだな。そろそろ戻ろう」

「見張りとはなんですか?」

 ギルドマスターに呼び出され、それから自分に監視が付いた事をモルトに話した。

「特にそういった人物は見かけませんでしたが。今も監視されて?」

「今は大丈夫です。見つからないように、朝早くからこっそりと家を出てきましたから。でもそろそろ戻らないと、家に居ないのがバレる頃かと」

「では、急いで戻られた方が良いでしょう。儂も少し調べてみるとします。何か分かり次第お知らせします」

「はい。でも、もしモルトさんにも監視が付くようでしたら、俺のことは関わらないようにしてください」

「お心遣い感謝します。そうならないように気を付けて行動します」

「では俺はここで。今日は突然すいませんでした」

 カズは白髪の年配店主に、レラが食べた料理とハーブティの代金を払い、フード付きのマントを被り《隠密》のスキルを使用し、倉庫街の家に戻って行く。

「あの方とお知り合いですか?」

「そのようで」

「?」

「こちらの事です。儂もギルドで仕事があるので、今日は失礼させてもらいます」

「そう…ですか。また時間が出来ましたら、ゆっくりしてってください」

「ええ。そうさせてもらいます」

 白髪の年配店主と挨拶を交わし、モルトは店を出てギルドへと戻る。
 足早に家へと戻ったカズは、こっそりと裏手から家に入り、今起きたかのように庭に出て、監視をする冒険者に姿を見せる。

「ちょっと寝過ぎたなぁ。ギルドに行っても、どうせギルマスとは会えないだろうし、今日やめておくか」

「『どうカズ。バレてない?』」

「『たぶん大丈夫』」

「『やっぱり念話って便利だよね。離れた所から話ができるんだから』」

「『便利だけど、魔力を使うんだから使用には気を付けろよ。今は近いから良いけど』」

「『分かってるもん』」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 場所は変わりここは第2ギルド。
 カズと別れたあと、モルトはギルドマスターの部屋に行き、フローラに頼み人払いをして話をする。

「お忙しいところ人払いまでしていただき、ありがとうございます」

「それで話とは?」

「つい先程、一人の冒険者に会ってきました」

「それで。その冒険者が何かしら?」

「フローラ様はカズという名の冒険者を御存知ですか」

「さぁ……知らないわね」

「本当にですか?」

「……」

「……」

「そうですか。では、あちらの方が何か勘違いをしたのでしょう、お忙しいところ時間を取らせて申し訳ありませんでした」

「悪質なイタズラもあるものね」

「そうですな。こんな簡単に騙されるとは、儂も年ですかな」

「これからは、その……なんとかっていう冒険者には注意することね」

「そういたします。それでは儂は、貴族様の所に御用聞きに行って参ります」

「ええ、お願い。お貴族様から依頼を出してもらわないと、最近うちのギルドも厳しいのよね」

「……それでは失礼します」

 フローラに愚痴を聞かされると思い、モルトは足早に部屋を出た。
 モルトは街と貴族区を隔てる壁の門を通って、オリーブ・モチヅキ家に向かう。
 監視を警戒したモルトは、貴族区に入り一人になると、先程フローラから黙って渡された手紙を見る。
 そこに書かれた内容を読み終えると、すぐに燃し無い物とした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 モルトからの連絡を期待して待ち、カズは怪しまれないように、毎日同じ行動をして過ごした。
 ギルドに行き依頼書を見て、受付でギルドマスター(フローラ)との面会を断られる。
 そういった日々が過ぎること数日……鞄に入ったレラを連れて、いつものように朝からギルドに向かおうと家を出るカズ。
 すると隠れて監視をしていた二人の冒険者が、カズの前に姿を現した。

「やっとこんなくだらねぇ仕事から解放されるぜ」

「だな。さて、お前を連れてくるように言われてる。おとなしく付いてこい」

「誰からですか(またギルマス達か?)」

「いいから黙って付いてこい!」

「お断りします(口が悪い奴の言うこと聞くと思うよか)」

「言うこと聞かねぇなら、力ずくで連れて行くぞ」

「おい大丈夫か。コイツBランクだって聞いてるぞ」

「どうせ汚ねぇことしてランクを上げたんだろ。いわく付きの家になんか住んでんのは、周りに強いと思わせたからに決まってる」

「でもアイガーが、手は出すなって言ってたよな」

「そのAランクのアイガーはここに居ないんだ。コイツが先に手を出した事にして、報告すりゃあいいんだよ」

 カズは無視して冒険者二人の横を通り過ぎる。

「テメぇ待ちやがれ!」

 暴言を吐く冒険者が、肩から下げたカズの鞄を掴もうと手を伸ばした。
 その行動に気付き半歩横に体をずらしたカズは、冒険者の手を払いのける。
 逆上した冒険者が、もう一人の冒険者にカズを捕らえるのを手伝えと苛立ちながら命令する。
 臨戦態勢をとる二人の冒険者相手に、カズは睨み付けて《威圧》を発動させた。
 いきり立つ冒険者の二人は、その場から動けず一瞬のうちに青ざめ、冷や汗を大量にかいて気を失った。
 カズは冒険者二人をそのまま放っておき、ギルドに向かった。
 やはりこの日もギルドマスター(フローラ)の面会をすることができなかった。
 なので今度は、モルトとの面会を受付の職員に頼んだ。
 しかしモルトはギルドに来ていないと言われ、会うことはできなかった。
 ギルドを後にしたカズは、その足で路地裏にある小さな店へと向かった。
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