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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
235 現状の確認
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人から無視される事は昔何度もあったから、それで慣れていたつもりだったけど…これは……
ーーーーーーーーーーーーーーー
カズが街の西門から外に出る頃、ココット亭にはクリスパが昼食をとりに来ていた。
「母さんお腹空いた」
「今日は遅かったね。昼ごはんを食べに来ないかと思ったよ」
「急にアレナリアから連絡があって、それで遅くなっちゃったの」
「あれ、クリ姉」
「ねぇキッシュ、何かすぐに食べれる物ない?」
「パンとスープとサラダなら、すぐに出せるよ」
「それで良いわ。お願い」
「は~い」
クリスパは食堂に入り、椅子に座って食事が出るのを待つ。
「ねぇねぇクリ姉」
「ん? 嬉しそうだけど、良い事でもあったの?」
「さっき来たお客さんに、このネックレスを誉められたの。似合ってるって言われたんだ。それにお話ししたお礼にって、食事代多く貰っちゃった」
「それは良かったわね。それでそれを母さんに言ったの」
「言ったら取られちゃうよ。それにこれは私がお話したお礼にって貰ったんだから。このネックレスのお陰だね」
「私だって彼から指輪を貰ったんだから。……あれ、彼って誰だっけ?」
「クリ姉、忘れちゃったの?」
「そんなこと……今、思い出せないだけよ。それで彼は、なんて名前だったかしら?」
「う~んとね……私も、ど忘れしちゃった」
「キッシュだって人のこと言えないじゃないの」
「えへへへ」
「まったくもう(そういえばアレナリアも、名前は言ってなかったわね。確か肩から下げた鞄を持って、フェアリーのレラをその中に入れて誘拐したとか)」
「さっき来たお客さん冒険者って言ってたけど、クリ姉は会わなかった?」
「どんな人なの?」
「このくらいの肩から下げた鞄を持ってるだけで、冒険者には見えなかった。私、旅の人かと思っちゃったよ」
「肩から下げた鞄……(そんなわけない。アレナリアが会ってから、小一時間しか経ってないのよ。そんな短時間でここまで来るなんて無理よ)」
「どうしたのクリ姉?」
「ねぇキッシュ、その人どんな背格好してたか教えて?」
「良いけど、何かしたの? 悪い人には見えなかったけど」
「一応確認をね。別人だと思うけど」
キッシュはカズのことを話し、それを聞いたクリスパはギルドに戻り、すぐにアレナリアへと連絡をした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
一方でリアーデの街を出たカズは、マイヒメに《念話》で呼び掛ける。
が、一向に応答はなかった。
「次は白真の所に行ってみよう」
「白真って、カズがたまに話すフロントドラゴン?」
「ああ」
「大丈夫なの? 会ってすぐに、ぱくりなんて」
「レラはまだ会った事なかったか。心配なら、鞄に隠れてればいいよ。その中なら少しは暖かいだろうから。レラには寒冷耐性を持たすから寒くはないと思う(問題は白真が俺を覚えてるかどうかだが……)」
「そうする」
カズはレラに〈プロテクション〉を使い寒冷耐性を与え〈ゲート〉で白真の住む山に移動した。
アヴァランチェの北にそびえる雪山に空間転移(ゲート)で移動すると、そこには念話で呼び掛けても返事がなかったマイヒメが、フジと共に白真の所に居た。
「ん? カズではないか。連絡もせずに来るとは珍しい。今日はどうした?」
「まぁ、ちょっと。マイヒメはここに居たんだな。さっき連絡したんだけど(白真は忘れてなかったか)」
「『……』」
「『だぁ~れ?』」
「そやつらは主であるカズことを覚えておらん。我のことは覚えておるのだがな」
「マイヒメとフジもか……白真はマナの揺らぎで、何か影響を受けたりしなかったのか?」
「マナの揺らぎ? 王都の方から来た不快なあれか」
「白真には不快に感じたのか」
「うむ。昨夜のあれは、非常に不快だったぞ。それ以外は特に気にも留めんかったが」
「発生場所は、やっぱり王都か」
マイヒメはよそよそしくカズから距離をとり、白真に近付く。
しかし視線だけはカズが肩から下げた鞄に向ける。
「その中に何か居るのか?」
「前に話した妖精のレラ」
「ほぅ。フェアリーか。何故出てこぬのだ」
「それは……レラ」
鞄を胸の前で持ち、レラに顔を出すように促(うなが)す。
「顔を出したら、ぱくりとされないわよね」
「大丈夫。白真は俺のこと覚えてたから」
もぞもぞと鞄が動き、隙間から顔を出すレラ。
「小さくてよく見えんな」
「キャッ!」
「毎回顔を近付け過ぎなんだよ。レラ、そこから出て白真に姿を見せてやって」
「た、食べない?」
「お主など食うても、腹の足しにならん」
レラは鞄の中に急いで引っ込んだ。
「アホか! 言い方があるだろ。それじゃあ、食べられてもおかしくないと思うだろう!」
「う、うむ。決して食わぬから、姿を見せよ」
「レラ、大丈夫だから出てきて」
鞄から出たレラは、カズの後ろに隠れる。
「ふむ。小さくてもフェアリーか。魔力はあるようだな。先程は驚かせてすまなかった」
「た、食べない……よね」
「無論だ。カズと共に居る者に、嘘は言わぬ」
「だってさ」
レラはホッと胸を撫で下ろしカズの後ろから姿を現す。
すると離れた所で見ていたフジが、レラの元に駆け寄って来る。
「『レラだ! どうしてここに居るの?』」
「カズと一緒に来たの」
「『……?』」
フジは首を傾げる。
「あちしのことは覚えてるのに、カズのことはやっぱり忘れてるのね」
「『カズ……? 白真おじちゃんと話をしてた人?』」
「そうよ」
フジはカズをじっと見る。
「『僕、知らない。でも初めて会った気がしない』」
「フジよ。お前にその名を与えたのは、カズなのだぞ」
「『そうなのお母さん?』」
「『覚えてないわ。でも白真さんが嘘を言うとも思えない』」
「ふむ。その足に付けているそれ(バードリング)から、カズの魔力を感じるだろう」
「『ええ。あの人間が来てから不思議に思ってたわ。ワタシ達の付けているこれと、同じ魔力を感じたから』」
「それからは悪意を感じぬだろう」
「『……やっぱり、ワタシ達が忘れてるのね』」
「そういう事だ」
マイヒメがカズに近付く。
「『カズと言ったわね。どうして忘れてしまったのか分からないけど、白真さんが言うから信じるわ』」
「そうか」
「『これからワタシ達は、あなたのそばに仕えた方が?』」
「今まで通り自由にしてくれて構わない。それに……」
「『なに?』」
「いや(テイムされていたとはいえ、覚えてない相手に急に仕えろと言われても難しいだろう)」
「カズよ、これからどうするのだ?」
「とりあえず王都のギルドに戻って、もう一度フローラさんと話してみるよ」
「あの者は、カズのことを忘れてないのだな」
「今朝会った時は(トレニアさんは、もしかしたらだけど)」
「白真はマイヒメとフジのことを頼むよ。緊急時には、ここに集まるようにするつもりだから」
「了承した」
「レラ、家に戻るよ(おっとその前に、他に異常がないかステータスを確認しておこう)」
カズは白真、マイヒメ、フジのステータスを見た。
「分かった。またねフジ」
フジと別れを告げ、レラはカズの持つ鞄に入る。
カズは〈ゲート〉使用し、王都の家に戻った。
「ギルドに行ってくるから、レラはプリンでも食べて留守番してて」
「プリン……アレナリアと一緒に食べたかったんだけど」
「忘れたのは俺のことだけだから。レラのことは覚えてたでしょ」
「そうだけど……」
「きっとフローラさんが原因を突き止めてくれるよ」
「うん。そうだね」
「じゃあ行ってくる」
レラを家に一人残し、カズは家を出る。
行き交う人々のステータスを見て、何か他との違い、変わったことがないかを調べながら、カズはギルドへと足を進める。
ギルド着くと受付のトレニアに、フローラとの面会を取り付けにいく。
「どなたか知りませんが、いきなりギルドマスターとの面会はできません。地方から来た冒険者の方なら、先にギルドカードを提示してください」
「トレニ…」
「何か?」
「いえ(今朝までは覚えてたのに)」
カズはギルドカードをトレニアに渡した。
「Bランクの方でしたか。申し訳ありませんが、現在ギルドマスターは不在です。面会の手続きはしておきますので、また後日お越しください」
「分かりました。また来ます(このままラヴィオリ亭に。でもおそらく)」
ギルドを後にしたカズは、以前泊まっていた食堂兼宿屋のラヴィオリ亭に向かう。
店に着き中に入るが、やはり反応は完全に初対面だった。
カズは味の濃い料理を食べながら、以前泊まっていた時にあった出来事を、女将のラヴィオリや、店の手伝いをする子供達にそれとなく聞いた。
フリッジやスピラーレの相談に乗った事や、塞がれた煙突を直した事など。
しかしそういった出来事があったのを覚えていたにも関わらず、それをした人物がカズだということを忘れていた。
ラヴィオリ亭の四人は、前に宿泊していた冒険者がしてくれた事だとしか覚えていなかった。
話を聞き終えたカズは、ラヴィオリ亭を出てレラの待つ家に戻る。
「レラ……レラ……?」
「戻って来たのねカズ」
「あ、ああ(良かった。この少しの間に、レラまで忘れたのかと思った)」
「フローラはなんて言ってたの?」
「出掛けてて会えなかった。それにトレニアさんも俺のことを……」
「そうなんだ……大丈夫よ。カズも言ったでしょ。フローラがすぐに原因を見つけてくれるって。それまでの辛抱。あちしなんてカズと会うまで、何年も一人で暮らしてたんだから」
「そうだな。調べるのに、早くても数日は掛かるだろう(重要機密保管所へ入るのに、手続きが必要だと言ってたから)」
この後カズは部屋にこもり、アーティファクトの古書や元の世界から持ってきたトレカで、この問題を解決する方法がないか調べることにした。
カズが部屋でスキルを使い調べものをしていると、部屋の扉が少し開き、その隙間からレラが顔を出す。
「まだ起きて調べもの? もう真夜中よ」
「もうそんな時間。なら俺もそろそろ寝るか」
レラは開いている部屋の扉をそっと閉める。
「どうしたレラ? 自分の部屋に戻って寝ないのか?」
「あのね。昼間アレナリア達と会った後で、カズがどこか寂しそうに見えたもんだから。その、今日だけは一緒の部屋で寝てあげようかな~って」
レラは後ろを向き、赤くなった顔を見られないようにする。
「レラ……(俺、寂しそうな顔なんてしてたのか?)」
「べ、別に嫌ならいいのよ。あちしは一人で寝るから」
「じゃあ一緒寝てもらおうかな」
「し、仕方ないわね。そこまで言うなら。アレナリアには秘密よ。カズのこと思い出したら、怒りそうだもん」
「そうだな(思い出したら……か)」
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カズが街の西門から外に出る頃、ココット亭にはクリスパが昼食をとりに来ていた。
「母さんお腹空いた」
「今日は遅かったね。昼ごはんを食べに来ないかと思ったよ」
「急にアレナリアから連絡があって、それで遅くなっちゃったの」
「あれ、クリ姉」
「ねぇキッシュ、何かすぐに食べれる物ない?」
「パンとスープとサラダなら、すぐに出せるよ」
「それで良いわ。お願い」
「は~い」
クリスパは食堂に入り、椅子に座って食事が出るのを待つ。
「ねぇねぇクリ姉」
「ん? 嬉しそうだけど、良い事でもあったの?」
「さっき来たお客さんに、このネックレスを誉められたの。似合ってるって言われたんだ。それにお話ししたお礼にって、食事代多く貰っちゃった」
「それは良かったわね。それでそれを母さんに言ったの」
「言ったら取られちゃうよ。それにこれは私がお話したお礼にって貰ったんだから。このネックレスのお陰だね」
「私だって彼から指輪を貰ったんだから。……あれ、彼って誰だっけ?」
「クリ姉、忘れちゃったの?」
「そんなこと……今、思い出せないだけよ。それで彼は、なんて名前だったかしら?」
「う~んとね……私も、ど忘れしちゃった」
「キッシュだって人のこと言えないじゃないの」
「えへへへ」
「まったくもう(そういえばアレナリアも、名前は言ってなかったわね。確か肩から下げた鞄を持って、フェアリーのレラをその中に入れて誘拐したとか)」
「さっき来たお客さん冒険者って言ってたけど、クリ姉は会わなかった?」
「どんな人なの?」
「このくらいの肩から下げた鞄を持ってるだけで、冒険者には見えなかった。私、旅の人かと思っちゃったよ」
「肩から下げた鞄……(そんなわけない。アレナリアが会ってから、小一時間しか経ってないのよ。そんな短時間でここまで来るなんて無理よ)」
「どうしたのクリ姉?」
「ねぇキッシュ、その人どんな背格好してたか教えて?」
「良いけど、何かしたの? 悪い人には見えなかったけど」
「一応確認をね。別人だと思うけど」
キッシュはカズのことを話し、それを聞いたクリスパはギルドに戻り、すぐにアレナリアへと連絡をした。
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一方でリアーデの街を出たカズは、マイヒメに《念話》で呼び掛ける。
が、一向に応答はなかった。
「次は白真の所に行ってみよう」
「白真って、カズがたまに話すフロントドラゴン?」
「ああ」
「大丈夫なの? 会ってすぐに、ぱくりなんて」
「レラはまだ会った事なかったか。心配なら、鞄に隠れてればいいよ。その中なら少しは暖かいだろうから。レラには寒冷耐性を持たすから寒くはないと思う(問題は白真が俺を覚えてるかどうかだが……)」
「そうする」
カズはレラに〈プロテクション〉を使い寒冷耐性を与え〈ゲート〉で白真の住む山に移動した。
アヴァランチェの北にそびえる雪山に空間転移(ゲート)で移動すると、そこには念話で呼び掛けても返事がなかったマイヒメが、フジと共に白真の所に居た。
「ん? カズではないか。連絡もせずに来るとは珍しい。今日はどうした?」
「まぁ、ちょっと。マイヒメはここに居たんだな。さっき連絡したんだけど(白真は忘れてなかったか)」
「『……』」
「『だぁ~れ?』」
「そやつらは主であるカズことを覚えておらん。我のことは覚えておるのだがな」
「マイヒメとフジもか……白真はマナの揺らぎで、何か影響を受けたりしなかったのか?」
「マナの揺らぎ? 王都の方から来た不快なあれか」
「白真には不快に感じたのか」
「うむ。昨夜のあれは、非常に不快だったぞ。それ以外は特に気にも留めんかったが」
「発生場所は、やっぱり王都か」
マイヒメはよそよそしくカズから距離をとり、白真に近付く。
しかし視線だけはカズが肩から下げた鞄に向ける。
「その中に何か居るのか?」
「前に話した妖精のレラ」
「ほぅ。フェアリーか。何故出てこぬのだ」
「それは……レラ」
鞄を胸の前で持ち、レラに顔を出すように促(うなが)す。
「顔を出したら、ぱくりとされないわよね」
「大丈夫。白真は俺のこと覚えてたから」
もぞもぞと鞄が動き、隙間から顔を出すレラ。
「小さくてよく見えんな」
「キャッ!」
「毎回顔を近付け過ぎなんだよ。レラ、そこから出て白真に姿を見せてやって」
「た、食べない?」
「お主など食うても、腹の足しにならん」
レラは鞄の中に急いで引っ込んだ。
「アホか! 言い方があるだろ。それじゃあ、食べられてもおかしくないと思うだろう!」
「う、うむ。決して食わぬから、姿を見せよ」
「レラ、大丈夫だから出てきて」
鞄から出たレラは、カズの後ろに隠れる。
「ふむ。小さくてもフェアリーか。魔力はあるようだな。先程は驚かせてすまなかった」
「た、食べない……よね」
「無論だ。カズと共に居る者に、嘘は言わぬ」
「だってさ」
レラはホッと胸を撫で下ろしカズの後ろから姿を現す。
すると離れた所で見ていたフジが、レラの元に駆け寄って来る。
「『レラだ! どうしてここに居るの?』」
「カズと一緒に来たの」
「『……?』」
フジは首を傾げる。
「あちしのことは覚えてるのに、カズのことはやっぱり忘れてるのね」
「『カズ……? 白真おじちゃんと話をしてた人?』」
「そうよ」
フジはカズをじっと見る。
「『僕、知らない。でも初めて会った気がしない』」
「フジよ。お前にその名を与えたのは、カズなのだぞ」
「『そうなのお母さん?』」
「『覚えてないわ。でも白真さんが嘘を言うとも思えない』」
「ふむ。その足に付けているそれ(バードリング)から、カズの魔力を感じるだろう」
「『ええ。あの人間が来てから不思議に思ってたわ。ワタシ達の付けているこれと、同じ魔力を感じたから』」
「それからは悪意を感じぬだろう」
「『……やっぱり、ワタシ達が忘れてるのね』」
「そういう事だ」
マイヒメがカズに近付く。
「『カズと言ったわね。どうして忘れてしまったのか分からないけど、白真さんが言うから信じるわ』」
「そうか」
「『これからワタシ達は、あなたのそばに仕えた方が?』」
「今まで通り自由にしてくれて構わない。それに……」
「『なに?』」
「いや(テイムされていたとはいえ、覚えてない相手に急に仕えろと言われても難しいだろう)」
「カズよ、これからどうするのだ?」
「とりあえず王都のギルドに戻って、もう一度フローラさんと話してみるよ」
「あの者は、カズのことを忘れてないのだな」
「今朝会った時は(トレニアさんは、もしかしたらだけど)」
「白真はマイヒメとフジのことを頼むよ。緊急時には、ここに集まるようにするつもりだから」
「了承した」
「レラ、家に戻るよ(おっとその前に、他に異常がないかステータスを確認しておこう)」
カズは白真、マイヒメ、フジのステータスを見た。
「分かった。またねフジ」
フジと別れを告げ、レラはカズの持つ鞄に入る。
カズは〈ゲート〉使用し、王都の家に戻った。
「ギルドに行ってくるから、レラはプリンでも食べて留守番してて」
「プリン……アレナリアと一緒に食べたかったんだけど」
「忘れたのは俺のことだけだから。レラのことは覚えてたでしょ」
「そうだけど……」
「きっとフローラさんが原因を突き止めてくれるよ」
「うん。そうだね」
「じゃあ行ってくる」
レラを家に一人残し、カズは家を出る。
行き交う人々のステータスを見て、何か他との違い、変わったことがないかを調べながら、カズはギルドへと足を進める。
ギルド着くと受付のトレニアに、フローラとの面会を取り付けにいく。
「どなたか知りませんが、いきなりギルドマスターとの面会はできません。地方から来た冒険者の方なら、先にギルドカードを提示してください」
「トレニ…」
「何か?」
「いえ(今朝までは覚えてたのに)」
カズはギルドカードをトレニアに渡した。
「Bランクの方でしたか。申し訳ありませんが、現在ギルドマスターは不在です。面会の手続きはしておきますので、また後日お越しください」
「分かりました。また来ます(このままラヴィオリ亭に。でもおそらく)」
ギルドを後にしたカズは、以前泊まっていた食堂兼宿屋のラヴィオリ亭に向かう。
店に着き中に入るが、やはり反応は完全に初対面だった。
カズは味の濃い料理を食べながら、以前泊まっていた時にあった出来事を、女将のラヴィオリや、店の手伝いをする子供達にそれとなく聞いた。
フリッジやスピラーレの相談に乗った事や、塞がれた煙突を直した事など。
しかしそういった出来事があったのを覚えていたにも関わらず、それをした人物がカズだということを忘れていた。
ラヴィオリ亭の四人は、前に宿泊していた冒険者がしてくれた事だとしか覚えていなかった。
話を聞き終えたカズは、ラヴィオリ亭を出てレラの待つ家に戻る。
「レラ……レラ……?」
「戻って来たのねカズ」
「あ、ああ(良かった。この少しの間に、レラまで忘れたのかと思った)」
「フローラはなんて言ってたの?」
「出掛けてて会えなかった。それにトレニアさんも俺のことを……」
「そうなんだ……大丈夫よ。カズも言ったでしょ。フローラがすぐに原因を見つけてくれるって。それまでの辛抱。あちしなんてカズと会うまで、何年も一人で暮らしてたんだから」
「そうだな。調べるのに、早くても数日は掛かるだろう(重要機密保管所へ入るのに、手続きが必要だと言ってたから)」
この後カズは部屋にこもり、アーティファクトの古書や元の世界から持ってきたトレカで、この問題を解決する方法がないか調べることにした。
カズが部屋でスキルを使い調べものをしていると、部屋の扉が少し開き、その隙間からレラが顔を出す。
「まだ起きて調べもの? もう真夜中よ」
「もうそんな時間。なら俺もそろそろ寝るか」
レラは開いている部屋の扉をそっと閉める。
「どうしたレラ? 自分の部屋に戻って寝ないのか?」
「あのね。昼間アレナリア達と会った後で、カズがどこか寂しそうに見えたもんだから。その、今日だけは一緒の部屋で寝てあげようかな~って」
レラは後ろを向き、赤くなった顔を見られないようにする。
「レラ……(俺、寂しそうな顔なんてしてたのか?)」
「べ、別に嫌ならいいのよ。あちしは一人で寝るから」
「じゃあ一緒寝てもらおうかな」
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