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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

234 失われてゆくもの

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 アヴァランチェの冒険者ギルドに入ったカズは、受付のスカレッタにアレナリアの居場所を聞いた。

「はッ? なんですか」

「アレナリアがどこに居るかと……」

「アレナ…サブ・ギルドマスターでしたら、今日はもう帰られましたが」

「そうですか。じゃあ家の方に行ってみます。あ、どうもルグルさんも久しぶりです」

「え、あ、はい……?」

 ルグルに軽く挨拶をしたカズは、ギルドを出てアレナリアの家へと戻って行く。

「あの受付の二人は、カズと顔見知りなんでしょ。なんかよそよそしくなかった?」

「冒険者が多かったから気を使ったんだよ。受付で急にサブマスの名前出したら、注目が集まると思ったんじゃないかな。俺アヴァランチェに来ても、ギルドにはたまにしか顔出さなかったから」

「ふ~ん。そんな感じはしなかったけど」

「気になるなら、アレナリアに会った時にでも聞けば良いさ」

「そうね」

「街で買い物してたら行き違いになったみたいだから、今度は寄り道せずアレナリアの家に戻ろう」

「着いたら呼んでね」

 レラは覗かせていた顔を引っ込めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー 


「ねぇルグル。あなたの知り合い? アレナ…サブマスと親しそうだったけど」

「さぁ? スカレッタ先輩にも顔見知りみたいに話し掛けてましたけど、ご存知ないんですか?」

「なんか会った事あるような気もするんだけど……とりあえずサブマスに報告しましょう」

「そうですね。サブマスの家に言ったみたいですし、本当に知り合いなら嘘を言ってしまった訳ですから」

「見ず知らずの人が急にサブマスの名前を出したら、警戒するのが当たり前よ」

 スカレッタは受付を一旦離れ、サブ・ギルドマスターのアレナリアが居る資料室へと行き、今あった出来事を伝えた。
 するとアレナリアは仕事を途中でやめて、一度自宅へと戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「アレナリア戻ってる?」

 アレナリアの家に入り声を掛けるが返事はない 。
 レラが肩掛けの鞄から飛び出し、部屋の中を探す。

「居ないわよ。って言うか、戻って来てないみたいだけど」

「どっか寄ってるのかなぁ?」

「さっきの受付が嘘ついたんじゃないの?」

「スカレッタさんが? なんでそんな事する意味があるの」

「う~ん……カズに会わせたくないとか」

「なんで急に?」

「なんとなん」

「適当だな」

 カズはアレナリアが買い物でもして、まだ戻って来てないと思い、以前自分が使っていた部屋で待つことにした。

「なぁレラ、鞄の中の居心地はどう?」

「クッションが欲しいわね。あと外を覗けるような穴も」

「クッションか。アレナリアが戻ってきたら買いに行くか」

「行こう行こう」

「覗き穴は適当に小さく開ければ…」

 カズは【アイテムボックス】から錐のような尖った道具を出し、鞄に小さな穴を数ヶ所開けた。

「外側からは目立たないし、穴はこんなもんで良いかな。とりあえず中にはタオルを敷いておくよ」

 レラが鞄に入り確かめる。

「うん。外が見えるから、穴はこれで良いよ。タオルはちょっとかさ張るけど、ないよりましね」

「今はそれで我慢して」

「仕方ないわね」

 バタバタと足音が聞こえ、突如部屋の扉が勢いよく開いた。
 そこには走ってきた様子のアレナリアが、息を切らして立っていた。

「やぁアレナ…」

「ちょっと何してるのよ?」

「何って、戻ってくるのを待ってたんだけど。前に来てから一ヶ月くらい経ってるから怒ってるの?」

「何を言ってるの? 人の家に勝手に入って、そのうえこの部屋に入るなんて……」

「そんなに怒るなんて、ごめんアレナリア」

「どこの誰だか知らないけど、人の名前を勝手に呼ばないで! ここは私の大切な人が使ってた部屋なのよ。それを……」

「スカレッタさんもそうだったけど、俺をからかってるの? 機嫌直してよ。ねぇアレナリア」

「気安く呼ばないでって言ってるでしょ! あんたなんか知らないわよ!」

 アレナリアが杖を構えて、うっすら涙を浮かべながらカズを睨み付ける。
 その光景を鞄から見ていたレラが、アレナリアの前に飛び出す。

「どうしたのアレナリア?」

「えッ……レラ? なんでここに居るの? あの人と一緒じゃあ?」

「あの人って、カズでしょ」

「カズ? 誰?」

「誰って、目の前に居る」

「え? カズ? あれ? レラはあの人が守る為に、いつも一緒のはず……」

 アレナリアが混乱してる隙に、カズはステータスを確認する。
 しかしおかしなことは表示されなかった。

「ねぇアレナリア大丈夫?」

「分かったわレラ。その男に脅されて連れてこられたのね。今助けてあげるから」

「違っ…あちしは」

「よくも私の友達誘拐して、それに私の大切な人が暮らした部屋を……ただじゃおかないわよ! 〈ウォーターショット〉」

 アレナリアがカズに向けて水の玉を放つ。

「ちょ、こんな所で使ったら。危なッ!」

 寸前のところで飛んできた水の玉をカズが交わすと、次の瞬間壁に当たり飛散する。

「あぁー! 何してんのよ! 避けるからあの人の匂いが染み付いたベッドが、水浸しになっちゃったじゃない」

「アレナリアが自分でやったんじゃないか」

「もう怒った!」

 ぼそぼそと詠唱を始めるアレナリア。

「ダメだこりゃ。行くぞレラ」

「え? キャ!」

 カズはレラを鞄に入れ、アレナリアの脇をすり抜けて、家の外に出ようと走り出す。

「ちょ、待ちなさい。詠唱中に逃げるなんてズルいわよ」

「ズルくない(それに詠唱なんかして魔法を使ったら、家がどうなるか分かるだろ)」

「もうッ! あの人の部屋が……あれ? あの人って誰だっけ……? そうだ! 今は先に、ギルドに戻って連絡しないと」

 アレナリアの家を飛び出たカズは、狭い路地裏に隠れる。
 鞄がモコモコと動き、レラが顔を出す。

「ぷはぁ。あちし荷物じゃないのよ!」

「ごめん。急だったから」

「アレナリア変だったよ。カズのこと知らないみたいだったけど、いったいどうしちゃったのかな?」

「分からない。冗談とも思えなかった。ステータスを確認したけど、異常はなかった(ただなんか……)」

「これからどうするの?」

「リアーデに行こうと思う」

「キッシュとクリスパも、カズのこと忘れてるのかな?」

「そうじゃなければ良いんだけど。レラは鞄から出ないようにしてて。もし二人がアレナリアと同じで、俺のことを忘れてたら」

「分かった。この中(鞄)から二人の様子を見てる」

「じゃあ行こう〈ゲート〉」

 リアーデ近くの茂みに転移したカズは、西の門から街へと入り、足早にココット亭に向かう。

「カズ」

「分かってる。レラは静かに」

 ココット亭の扉を開け、店の中に入る。

「いらっしゃいませ」

「キッ…」

「すみませんお客さん。今日は…」

「お客さんかい」

「お母さん」

「初顔だね。今日は珍しく満室で空いてないんだよ。すまないねぇ」

「あ、いえ。そうですか(二人もか)」

「部屋は空いてないけど、うちは食事だけでも出来るから。まぁ簡単なものだけど」

「お客さん、お腹空いてます?」

「まぁ少し」

「だったら食べていくかい? 安くしとくよ」

「あ、はい」

「こっちだよ。お客さん」

 キッシュに案内されて、食堂に入るカズ。

「おまかせで良いですか?」

「はい。お願いします」

 キッシュが厨房から、パンとスープとサラダを運んでくる。
 運ばれたパンを食べスープを飲んでいると、キッシュがカズに話し掛けてきた。

「お客さんはり旅の人?」

「まぁ。今は冒険者をしてるけどね(初めて会った頃も、こんな話をしたっけな)」

「その格好だけ見ると、冒険者に見えないね」

「よく言われるよ」

「リアーデは初めて?」

「前に少しだけね。キッシュさんだっけ、それキレイなネックレスだね」

「これはね、前にここに泊まってた冒険者のお兄さんから貰ったの。名前は……ど忘れしちゃった」

「そう大切にしてるんだ。似合ってるよ」

「ありがとう。これ私の宝物なんだ」

「そう……ごちそうさま(話してると、ちょっとキツいな。もう出よう)」

 カズは代金をテーブルに置き席を立つ。

「お客さん。これ多いよ」

「キッシュさんと話が出来て楽しい食事だったから、そのお礼」

「ありがとうお客さん。また来てね」

「ああ。また……」

 カズは女将のココットに会釈をして店を出る。
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